邪推SS/エンデミオン&ランデミオン(SC86~SC142)
SC86年2月、ハーゲンにて誕生。
覇王アドルセムにとっては初の子供であり、また妻のシズエが比較的高齢出産だった事もあってか、
両者はこの双子を文字通り『目の中に入れても痛くない』ほど溺愛したという。
もっとも、元々肥沃な国土を有しており武装中立という立場上出費も少なく、また重臣オーガスらの
尽力もあって、トップが半ば国務を放棄した状態でも直ちに国が傾くような事態は生じなかった。
だが、仮にも覇王という立場にあるまじき周囲の状況への無関心さは、時局の趨勢に通じていた一部家臣の
離心を招いてしまう(前述のギマSS参照)。
覇王アドルセムにとっては初の子供であり、また妻のシズエが比較的高齢出産だった事もあってか、
両者はこの双子を文字通り『目の中に入れても痛くない』ほど溺愛したという。
もっとも、元々肥沃な国土を有しており武装中立という立場上出費も少なく、また重臣オーガスらの
尽力もあって、トップが半ば国務を放棄した状態でも直ちに国が傾くような事態は生じなかった。
だが、仮にも覇王という立場にあるまじき周囲の状況への無関心さは、時局の趨勢に通じていた一部家臣の
離心を招いてしまう(前述のギマSS参照)。
なお、この頃、母シズエは夫の竹を割ったような気質・悪く言えば騙されやすい性格が息子達に悪い形で
受け継がれるのを防ぐためか、一個人の予算としてはかなりの額を費やしてDHAサプリの補充を行なっている。
また、興味深いことに、長女サツラが誕生した時期になると、彼女は周囲を取り巻く危機的状況をようやく
理解し始めたのか、娘に幼少から格闘センスを身に付けさせるべく、エアロビDVDを用いた英才教育を施そうとした
形跡が伺える。
だが、結局のところ、肥沃な惑星という『目を付けられやすい』環境だった点を鑑みなかった夫婦のツケは
あまりにも大きかったといえよう。
受け継がれるのを防ぐためか、一個人の予算としてはかなりの額を費やしてDHAサプリの補充を行なっている。
また、興味深いことに、長女サツラが誕生した時期になると、彼女は周囲を取り巻く危機的状況をようやく
理解し始めたのか、娘に幼少から格闘センスを身に付けさせるべく、エアロビDVDを用いた英才教育を施そうとした
形跡が伺える。
だが、結局のところ、肥沃な惑星という『目を付けられやすい』環境だった点を鑑みなかった夫婦のツケは
あまりにも大きかったといえよう。
セントラル統一に向けて動き出したアキの軍隊が迫る中、アドルセムはようやく重い腰を上げる。
恐らくは、配備されたばかりのコロニーレーザーと自身の操艦技術をもってすれば、外敵を蹴散らす事など容易いと
踏んでいたと思われる。
そんな夫に一抹の不安を覚えたシズエだったが、乳飲み子を抱えた彼女には夫と共に前線に赴くといった選択肢は
与えられる筈もなく、また他の子供らも父親の勝利を信じて疑わなかった。
恐らくは、配備されたばかりのコロニーレーザーと自身の操艦技術をもってすれば、外敵を蹴散らす事など容易いと
踏んでいたと思われる。
そんな夫に一抹の不安を覚えたシズエだったが、乳飲み子を抱えた彼女には夫と共に前線に赴くといった選択肢は
与えられる筈もなく、また他の子供らも父親の勝利を信じて疑わなかった。
だが、知将ラーの陽動作戦にまんまと嵌り、得意としていたはずの艦隊戦でまさかの大敗北を喫した末、
覇王アドルセムは捕縛・処刑されてしまう(人質となるのを良しとせず、自害したとの説もある)。
覇王アドルセムは捕縛・処刑されてしまう(人質となるのを良しとせず、自害したとの説もある)。
生き延びた部下から夫の悲報を受けたシズエは、まだ父の死を知らぬ子供らの行く末を案じ、一つの賭けに出た。
DHAサプリと同じ入手ルートを通して予め用意していた睡眠薬を使って、なんと彼女は、民間輸送業者の仲立ちで
意識を失った息子達を“積荷”として密出国させるという荒業をやってのけたのである。
DHAサプリと同じ入手ルートを通して予め用意していた睡眠薬を使って、なんと彼女は、民間輸送業者の仲立ちで
意識を失った息子達を“積荷”として密出国させるという荒業をやってのけたのである。
残念ながら、情に厚い覇王アキの器を見誤ったことを考えれば、シズエの判断は軽率だったと言わざるを得ない。
(敵方の情報が0に近かった状況を察するに、彼女だけを責めるのは些か酷ではないかという見方もある)
ともあれ、結果的に第一皇子エンデミオンと第二皇子ランデミオンは『父と共に従軍、敗北時に死亡』と判断され、
特に居場所を追及されることも無く、それぞれ別天地へと旅立っていった。
(敵方の情報が0に近かった状況を察するに、彼女だけを責めるのは些か酷ではないかという見方もある)
ともあれ、結果的に第一皇子エンデミオンと第二皇子ランデミオンは『父と共に従軍、敗北時に死亡』と判断され、
特に居場所を追及されることも無く、それぞれ別天地へと旅立っていった。
意識を取り戻した彼らを待っていたのは、見知らぬ土地での『密入国者』という肩書きであった。
戦時下において似たような境遇の若者は比較的多いとはいえ、彼らは腐っても元・皇子。
恐らく、職を求めて転々とする毎日は、精神的にも肉体的にも相当な心労を招いたと思われる。
また、世間知らずの若者は往々にして本人の自覚なしに様々なトラブルを招くものであり、それが彼らの不満に
拍車をかけたであろう事は想像に難くない。
戦時下において似たような境遇の若者は比較的多いとはいえ、彼らは腐っても元・皇子。
恐らく、職を求めて転々とする毎日は、精神的にも肉体的にも相当な心労を招いたと思われる。
また、世間知らずの若者は往々にして本人の自覚なしに様々なトラブルを招くものであり、それが彼らの不満に
拍車をかけたであろう事は想像に難くない。
母から見捨てられ、見知らぬ地で苦労を余儀なくされ、人間関係での軋轢も後を絶たない――そんな鬱屈した感情は、
暮らす土地こそ違えど似たような環境で育ったであろう二人から、徐々に笑顔を奪っていった。
暮らす土地こそ違えど似たような環境で育ったであろう二人から、徐々に笑顔を奪っていった。
だが、数年後、二人の若者はそれぞれ違った形で転機を迎える事となる。
「……ほぉ、中々の面構えだな」
激戦区・ラバウルにほど近い惑星ウイバンの老将ヤマムラの一言が、整備士見習いとして働いていた少年の運命を変えた
激戦区・ラバウルにほど近い惑星ウイバンの老将ヤマムラの一言が、整備士見習いとして働いていた少年の運命を変えた
。
幼い頃、故郷ハーゲンの軍部に出入りする傍ら毎日のように利用していたシミュレータで培った操縦技術が功を奏し、
新米パイロットとして前線に加わるや否や、メキメキと頭角を現す。
優秀な軍人は野に埋もれた逸材を見出すのも巧みなものよ、と覇王バンはヤマムラの功績を称えると共に、彼を
自ら率いる主力艦隊の航空機編隊副将として抜擢。
元・ハーゲン覇王アドルセムの第一子、エンデミオン・ヘイゲル。この時、18歳であった。
幼い頃、故郷ハーゲンの軍部に出入りする傍ら毎日のように利用していたシミュレータで培った操縦技術が功を奏し、
新米パイロットとして前線に加わるや否や、メキメキと頭角を現す。
優秀な軍人は野に埋もれた逸材を見出すのも巧みなものよ、と覇王バンはヤマムラの功績を称えると共に、彼を
自ら率いる主力艦隊の航空機編隊副将として抜擢。
元・ハーゲン覇王アドルセムの第一子、エンデミオン・ヘイゲル。この時、18歳であった。
ラバウル前線から離れた、サウス地方西域に位置する惑星マレング。
子宝に恵まれなかった反動か、人材教育に熱心だった覇王ロゴ(口癖:ワシが育てた)の政策の一環として設けられた、
言わば『士官養成専門』の星である。
食い扶持を得るため、という動機から駄目元で志願した少年を待っていたのは、現役仕官の徹底した指導だった。
後に部下から『鬼教官』とあだ名された名将キリと、彼の片腕ながら人当たりの良さで人気を得たゴマを中心とした
実践教育は、多くの同僚が脱落していく中、着実に少年の潜在能力を磨き上げていく。
士官学校を卒業する頃には、同期No.1として、幼少時とは全く違った形で周囲の期待と羨望の眼差しを受けた若者が
誕生していた。
元・ハーゲン覇王アドルセムの第二子、ランデミオン・ヘイゲル。兄と同じく、この時18歳。
子宝に恵まれなかった反動か、人材教育に熱心だった覇王ロゴ(口癖:ワシが育てた)の政策の一環として設けられた、
言わば『士官養成専門』の星である。
食い扶持を得るため、という動機から駄目元で志願した少年を待っていたのは、現役仕官の徹底した指導だった。
後に部下から『鬼教官』とあだ名された名将キリと、彼の片腕ながら人当たりの良さで人気を得たゴマを中心とした
実践教育は、多くの同僚が脱落していく中、着実に少年の潜在能力を磨き上げていく。
士官学校を卒業する頃には、同期No.1として、幼少時とは全く違った形で周囲の期待と羨望の眼差しを受けた若者が
誕生していた。
元・ハーゲン覇王アドルセムの第二子、ランデミオン・ヘイゲル。兄と同じく、この時18歳。
こうして歴史の表舞台に返り咲いた二人だったが、時代の潮流は、思わぬ形で両者を引き寄せる。
バンの客将・ミディアの死に伴う常勝将軍トットンの反乱は、西域の雄・バンの戦死という一大事件に発展した。
この時、編隊長だったエンデミオンは鬼神の如き抵抗を見せたものの、奮戦空しくロゴ軍の捕虜となる。
本国ラエへ送られた彼を待っていたのは、生き別れた双子の弟・ランデミオンであった。
周辺地域でも指折りの実力者を腐らせる手は無い、と踏んだ覇王ロゴの要請もあって、半年がかりの説得の後、ようやく
エンデミオンはロゴ軍配下の士官となる。
手始めにとアベル軍討伐隊に名を連ねる事になった彼は、瞬く間に敵軍包囲網を突破し旗艦に壊滅的ダメージを
与えるという神がかり的な活躍を見せ、その功績もあってか、僅か2年後には、弟に次ぐ位を与えられるようになった。
(功績に対して位が若干低いのは、出世に伴う対人関係の更なる悪化を懸念したゴマの口添えがあったとされている)
この時、編隊長だったエンデミオンは鬼神の如き抵抗を見せたものの、奮戦空しくロゴ軍の捕虜となる。
本国ラエへ送られた彼を待っていたのは、生き別れた双子の弟・ランデミオンであった。
周辺地域でも指折りの実力者を腐らせる手は無い、と踏んだ覇王ロゴの要請もあって、半年がかりの説得の後、ようやく
エンデミオンはロゴ軍配下の士官となる。
手始めにとアベル軍討伐隊に名を連ねる事になった彼は、瞬く間に敵軍包囲網を突破し旗艦に壊滅的ダメージを
与えるという神がかり的な活躍を見せ、その功績もあってか、僅か2年後には、弟に次ぐ位を与えられるようになった。
(功績に対して位が若干低いのは、出世に伴う対人関係の更なる悪化を懸念したゴマの口添えがあったとされている)
浮いた噂も立てず、ただ黙々と仕事をこなす彼らを、部下達は不思議に思っていたようだ。
「――あの方(ひと)は、多分、愛情に飢えていたんだと思います」
家族は居るのか、との問いに黙って首を振り、肉親が見つかった後もやはり「家族は居ない」と言い切った
若き日の弟・ランデミオンを、士官学校の同期で、後に部下となった女性士官はこう振り返っている。
また、事実かどうかは定かではないが、兄・エンデミオンの元で働いていた別の女性士官も、似たような台詞を
聞いたという。
実際、軍部内で彼ら兄弟が公式に会話を交わした記録は、兄が捕虜だった時に弟と面会した時以来残っていない。
家族は居るのか、との問いに黙って首を振り、肉親が見つかった後もやはり「家族は居ない」と言い切った
若き日の弟・ランデミオンを、士官学校の同期で、後に部下となった女性士官はこう振り返っている。
また、事実かどうかは定かではないが、兄・エンデミオンの元で働いていた別の女性士官も、似たような台詞を
聞いたという。
実際、軍部内で彼ら兄弟が公式に会話を交わした記録は、兄が捕虜だった時に弟と面会した時以来残っていない。
彼らの“家族”に対する関心の薄さは、後に母・シズエが命がけで亡命させた妹のサツラ、弟のアドルセンが
ロゴ領に送り込まれた時も変わらなかった。
(余談だが、もしも彼ら兄弟がバン・ロゴ陣営限定ではなくアキ陣営相手に活躍していたら、シズエの命は
なかったであろうと思われる)
実際、涙ながらに母の気持ちを代弁しようとする妹を半ば無視する形で二人は距離を置き、軍務に励んだという
記録が残っている。
ただ、一族があえて同じ惑星に留まろうとしなかった事で、密かに反旗を翻す好機を伺っているのではないかという
覇王の疑念が晴れた事を考えると、彼ら兄弟の取った行動は、必ずしも本意では無かったのではないかという
見方も近年浮上しているようだ。
そんな説を裏付けるかのように、傾国の美女・パメラの傀儡と化した覇王ロゴがセントラル進出を明言した際、
二人はすぐさま最前線への転属を希望している。
ロゴ領に送り込まれた時も変わらなかった。
(余談だが、もしも彼ら兄弟がバン・ロゴ陣営限定ではなくアキ陣営相手に活躍していたら、シズエの命は
なかったであろうと思われる)
実際、涙ながらに母の気持ちを代弁しようとする妹を半ば無視する形で二人は距離を置き、軍務に励んだという
記録が残っている。
ただ、一族があえて同じ惑星に留まろうとしなかった事で、密かに反旗を翻す好機を伺っているのではないかという
覇王の疑念が晴れた事を考えると、彼ら兄弟の取った行動は、必ずしも本意では無かったのではないかという
見方も近年浮上しているようだ。
そんな説を裏付けるかのように、傾国の美女・パメラの傀儡と化した覇王ロゴがセントラル進出を明言した際、
二人はすぐさま最前線への転属を希望している。
敵地に身を寄せていた母の身を案じたのか、父の仇の下でのうのうと暮らす母へ恨み言を伝える機会と思ったかは
定かではない。
だが、真意がどうであれ、彼らの望みが叶うことは無かった。
商業惑星化したゼファーに設置されたガイア要塞の攻略もままならないうちに、パメラとバニアウを巡る争いの
煽りを受ける形でロゴ帝国は崩壊。
またもや拠り所を失ったエンデ・ランデ兄弟は、以後、傭兵的な役回りで各地を転々としたが、その間に母シズエは
ひっそりとザクソンで息を引き取っている。
最期を看取った同僚によると、彼女は何度も「ごめんなさい、ごめんなさい」とうわ言を繰り返していたという。
己の浅はかさを呪い、今更息子達に合わせる顔が無いと思いつつも、心の底では諦め切れなかったのだろうか。
定かではない。
だが、真意がどうであれ、彼らの望みが叶うことは無かった。
商業惑星化したゼファーに設置されたガイア要塞の攻略もままならないうちに、パメラとバニアウを巡る争いの
煽りを受ける形でロゴ帝国は崩壊。
またもや拠り所を失ったエンデ・ランデ兄弟は、以後、傭兵的な役回りで各地を転々としたが、その間に母シズエは
ひっそりとザクソンで息を引き取っている。
最期を看取った同僚によると、彼女は何度も「ごめんなさい、ごめんなさい」とうわ言を繰り返していたという。
己の浅はかさを呪い、今更息子達に合わせる顔が無いと思いつつも、心の底では諦め切れなかったのだろうか。
シズエ亡き後、アドルセム一家が再び集結したのは、銀河を巡る戦乱が集結したSC141年半ば。
家族が離散してから実に40年以上の時を経て、彼らは復興著しいハーゲンで再会を果たした。
再開の場となった父・アドルセムと母・シズエの墓は、民の要望に応えた覇王ラーが後に設けた記念碑と共に、
かつての戦乱の最中にも傷一つ付かなかったと伝えられる。
家族が離散してから実に40年以上の時を経て、彼らは復興著しいハーゲンで再会を果たした。
再開の場となった父・アドルセムと母・シズエの墓は、民の要望に応えた覇王ラーが後に設けた記念碑と共に、
かつての戦乱の最中にも傷一つ付かなかったと伝えられる。
穏やかな笑顔で『ただいま』と墓前に語りかけたエンデミオンの姿は、その場に居合わせた親戚一同の涙を誘った。
その後程なくして病を得たエンデ・ランデ兄弟は、妹・弟らの子孫に囲まれながら息を引き取る。
享年56歳。
その後程なくして病を得たエンデ・ランデ兄弟は、妹・弟らの子孫に囲まれながら息を引き取る。
享年56歳。
民衆に愛された覇王の跡継ぎとして同じ日に生まれ、父アドルセムが『二人で力を合わせて生きてくれ』と願った兄弟。
彼らが激動の人生に幕を降ろしたのは、奇しくも同じ日だったという。
彼らが激動の人生に幕を降ろしたのは、奇しくも同じ日だったという。