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番外編『七夕番外編』

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番外編『七夕番外編』 ◆OQfaQnysJI


七月七日は、天気が悪いことが多いと聞く。
そんな日を一年に一度の逢瀬の日に指定されるなんて、織姫と彦星はそんなに嫌われていたんだろうか。
あるいは、悲恋を演出して後世の人の同情を買うためか。
こんなことを考えてしまう自分は、間違いなくひねくれている。
だけど、そういう性分に生まれてしまったのだから仕方がない。
そんな自分も、それはそれで好きだった。変わるつもりなんてさらさらなかった。
あり得ないくらいにまっすぐな、あの人と出会うまでは。


『七月七日、雨』


今年の七月七日は、午後から見事なまでのどしゃ降りだった。
バケツをひっくり返したような雨というのはこういうことを言うのだろうな、などと、窓の外を眺めながらフラグビルドは思う。
これを七夕に引っかけるとしたら、彦星が他に女を作って修羅場になり、それを下界に隠すためにこれだけの雨を降らせているとかだろうか。
そんなことを考えていたら、無意識のうちにクラスメイトの言葉のことを見ていた。
何だかすごく失礼なことをした気がして、フラグビルドはすぐに視線を移動させた。


◇ ◇ ◇


時は流れ、放課後。

「あれ?」

帰路につこうとしていたフラグビルドは、昇降口の前で困り顔を浮かべながら空を見上げる青年を見つけた。
もう七月だというのにしっかり着込んだ学生服が妙に似合うその青年は、名を静かなる~Chain-情~という。
そして彼は、フラグビルドが一途にその想いを寄せる相手でもあった。

「Chain-情さん、どうしたんですか?」
「あ、フラグビルドさん」

駆け寄ってくるフラグビルドに気づいたChain-情は、その若干地味だが整った顔つきに柔和な笑みを浮かべる。

「いや、たいしたことじゃないんです。ただ、この雨の中どうやって帰ろうかなって」
「え? でも……」

フラグビルドは、脳内で今朝の登校風景を思い出す。

「Chain-情さん、今朝ちゃんと傘持ってましたよね?」
「ええ、持ってきてはいたんですが……。さっき、ウッカリデスさんが目の前でうっかり自分の傘を壊してしまって……。
 どうにもかわいそうだったんで、僕の傘を貸してしまったんです」
「…………」

何というお人好し。そんな感想を抱きながら、フラグビルドは溜め息をつきたくなるのを必死に押さえていた。

「人情家とは子供の頃教わったことをかたくなに守っている人のことだ、とは誰の言葉でしたかねえ……」
「はい?」
「いえ、こっちの話です。しかしChain-情さん、あなたがとても優しい人だというのはわかっていますが、自分を犠牲にしてまで他人に親切にしちゃいけませんよ」
「他の人からも、よく言われます。けど、これは生まれ持った性分ですから。そう簡単には変えられませんよ」
「そんなこと無いと思いますけど。現に……あ、やっぱり何でもないです」
「?」

不自然に言葉を切ったフラグビルドに対し、Chain-情は怪訝そうに首をかしげる。

(現に私は、あなたと出会って変わりましたから……。声に出して言っちゃえば、それなりにポイントを稼げるんでしょうけど……。
 打算より恥ずかしさの方が上回っちゃいましたねえ……。まあ、これこそが私の変化そのものなんですけど)

「あのフラグビルドさん……どうかしました? 急にどこか痛くなったとか?」
「え、あ、いや、何でもないです! 大丈夫ですから、心配しないでください」
「そうですか。それならいいんですが」

そう言いながら、Chain-情はさわやかな笑顔を浮かべる。

(ああもう、そんないい笑顔で私を見ないでくださいよ……。ますます好きになっちゃうじゃないですか……。
 って、浸ってる場合じゃないのです。よく考えたら、一大イベントのチャンスじゃないですか!)

ふと我に返ると、フラグビルドは慌ただしい手つきで自分のカバンから折りたたみ傘を取り出した。

「あの……Chain-情さん。私たち、帰る方向一緒ですし……。よかったら、一緒に帰りませんか?」
「え?」

フラグビルドの言わんとすることを理解し、Chain-情はとたんに顔を赤く染める。

「いや、でも、それは……」
「駄目ですか?」

ためらうChain-情に、フラグビルドは必殺の「雨に濡れた子犬のような表情」でたたみかける。
純情でバカ正直なChain-情に、この攻撃は効果抜群であった。

「駄目だなんて、そんなことないです! ここは、フラグビルドさんの好意に素直に甘えさせてもらいます!」
(やったああああああ!! これで相合傘で帰れる!)

おのれの野望が達成された喜びに、フラグビルドは心の中でガッツポーズを取る。
だが、彼女はあまりに浮かれすぎた。そのために、周りがちゃんと見えていなかった。

「フラグビルドさん、危ない!」
「はい?」

Chain-情の叫びで我に返った時には、時すでに遅し。彼女の目前には、人相の悪い青年が猛スピードで迫ってきていた。

「ほぎゃん!」

間抜けな声と共に、フラグビルドの小さな体は大きく吹き飛ばされる。

「シンヤァァァァァ!! 俺の傘を隠すなんて小学生レベルの嫌がらせはやめろ!
 しかも、他の生徒まで巻き込んで!」
「兄さんがまともに勝負してくれないのが悪いのさ! それに、他のやつがどうなろうと知ったことじゃないね!」

Dボゥイとシンヤの兄弟は、嵐の如く去っていく。そしてあとには、またフラグビルドとChain-情の二人だけが残された。

「ふ、フラグビルドさん! 大丈夫ですか?」

血相を変えて、Chain-情はフラグビルドに駆け寄る。

「何とか大丈夫みたい……って、あー!!」

Chain-情に答えようとして、その途中でフラグビルドは叫び声をあげる。
身体に異常があったわけではない。彼女の折りたたみ傘が、踏みつぶされて見事に壊れていたのだ。

「あのバカ兄弟……。なんてことしてくれるんですかーっ!」
「フラグビルドさん、気持ちはわかりますけど少し落ち着いて……」
「だって、せっかくChain-情さんと相合傘で帰れると思ったのにぃ……」

まるで世界の終わりのような表情で呟くフラグビルド。
それを見たChain-情は、おもむろに学生服の上を脱ぎ始める。

「……Chain-情さん?」

戸惑うフラビルドに対し、Chain-情は脱いだ学生服を彼女の頭からかぶせた。

「傘の代わりにはならないでしょうけど、何もないよりはましだと思いますので。
 それじゃあ、急いで帰りましょう。あなたが風邪でもひいたら大変です」

笑顔で告げると、Chain-情はフラグビルドの腕をつかむ。そしてそのまま、土砂降りの雨の中へ駆けだした。
彼に引きずられて走る格好になったフラグビルドは、激しい雨の音にかき消されないように大声で叫ぶ。

「だから、なんであなたはそうやって自分を犠牲にするんですかー!」
「そういう性分なんだから仕方ないじゃないですかー!」
「見てるこっちが心配になるんですよ! 風邪をひかれて困るのは私だって同じです!
 今日は私の家に寄っていってもらいますよ! 風邪をひかないよう、温かい飲み物でもごちそうしてあげます!」
「え、いや、そこまでしてもらわなくても!」
「いつも人に親切を分け与えてるんですから、たまにはこっちからの親切を受け取ってくれたっていいじゃないですかー!」
「まあ、そう言うんでしたら……。わかりました、ごちそうになります!」


雨の中を、一組の男女が走っていく。全身ずぶ濡れだというのに、二人は妙に楽しそうだった。


◇ ◇ ◇


雨の中傘を差さずに踊る人間がいてもいいとは、誰の言葉だったか。
まあ、そんなことはどうでもいい。
今年の七夕は、天気は最悪だけど私にとってはこれまでで最高になるかもしれない。

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