第556話:ノイズ 作:◆xSp2cIn2/A
「なぁおねーさん、そいつは本当なのか?」
濃い霧の中、革ジャンにタイトなパンツを穿いた少女――の身体を持つ少年、匂宮出夢が問う。
「事実。今まで気付けなかったが、D-2に存在する学校を中心に、涼宮ハルヒによって作られたと思われる異相空間――彼が『閉鎖空間』と呼ぶ空間に近いものが発生している」
答えるのは色素の薄い髪に能面のように無表情な顔を持つセーラー服の少女、長門有希だ。
彼らはだんだん晴れていく霧の中を(主に出夢が)しゃべりながら進んでいた。
現在彼女等はD-2の学校へと向かっている。
彼女等が元居たE-4からD-2まで向かおうとすると、二つの禁止エリアにはさまれたブロックを通らねばならないのだが、そこは殺し屋と宇宙人。方位を間違えたりして禁止エリアに突っ込むヘマはしない。
まぁE-3を通り抜けるとき、濃い霧のせいでかの撲殺天使には気付かなかったのだが。
「涼宮ってのは、おねーさんの仲間……だったよな?」
無神経な発言の多い彼だが、今回は少々気遣った声音でそう尋ねる。
なぜか。その人物、涼宮ハルヒはこのゲーム内において、既に死亡しているからだ。
いくら殺し屋でも、それくらいは弁えている。普段の彼からは考えられないが。
「……そう」
長門が短く返答した。
返答するまでの僅かな間、彼女は死した仲間たちのことを思っていたのだろうか。
おそらく、そうだろう。と、彼、匂宮出夢はなんとなく思った。あくまでなんとなく、だが。
彼女はきっと、その間すらもノイズというのだろう。
彼はきっとそれすらも弱さというのだろう。
まぁそんなことは、どうでもいい戯言なのだが。
「で、なんでそこに行こうってんだ? もしかしてその……へいさくうかん? に閉じこもってゲームが終わるのを待とうってのかい? 古泉探しはどうすんだよ」
理解できない単語の出現により、若干怪訝な色を含む声音で彼は再び問う。
「今のわたしでは閉鎖空間に介入するのは不可能」
「あ?」
「しかし、彼ならば可能かもしれない」
「彼ってぇと――」
濃い霧の中、革ジャンにタイトなパンツを穿いた少女――の身体を持つ少年、匂宮出夢が問う。
「事実。今まで気付けなかったが、D-2に存在する学校を中心に、涼宮ハルヒによって作られたと思われる異相空間――彼が『閉鎖空間』と呼ぶ空間に近いものが発生している」
答えるのは色素の薄い髪に能面のように無表情な顔を持つセーラー服の少女、長門有希だ。
彼らはだんだん晴れていく霧の中を(主に出夢が)しゃべりながら進んでいた。
現在彼女等はD-2の学校へと向かっている。
彼女等が元居たE-4からD-2まで向かおうとすると、二つの禁止エリアにはさまれたブロックを通らねばならないのだが、そこは殺し屋と宇宙人。方位を間違えたりして禁止エリアに突っ込むヘマはしない。
まぁE-3を通り抜けるとき、濃い霧のせいでかの撲殺天使には気付かなかったのだが。
「涼宮ってのは、おねーさんの仲間……だったよな?」
無神経な発言の多い彼だが、今回は少々気遣った声音でそう尋ねる。
なぜか。その人物、涼宮ハルヒはこのゲーム内において、既に死亡しているからだ。
いくら殺し屋でも、それくらいは弁えている。普段の彼からは考えられないが。
「……そう」
長門が短く返答した。
返答するまでの僅かな間、彼女は死した仲間たちのことを思っていたのだろうか。
おそらく、そうだろう。と、彼、匂宮出夢はなんとなく思った。あくまでなんとなく、だが。
彼女はきっと、その間すらもノイズというのだろう。
彼はきっとそれすらも弱さというのだろう。
まぁそんなことは、どうでもいい戯言なのだが。
「で、なんでそこに行こうってんだ? もしかしてその……へいさくうかん? に閉じこもってゲームが終わるのを待とうってのかい? 古泉探しはどうすんだよ」
理解できない単語の出現により、若干怪訝な色を含む声音で彼は再び問う。
「今のわたしでは閉鎖空間に介入するのは不可能」
「あ?」
「しかし、彼ならば可能かもしれない」
「彼ってぇと――」
「古泉一樹」
「この空間の存在に、彼ならば気付くはず。ならば闇雲に動き回るより、この学校を拠点に行動した方が良い」
長門はその薄い唇から吐息のように言葉を吐き出した。
「なるほどね、オレにはその『なんたら空間』ってのはよくわかんねぇけどそこにいれば古泉は自分からやってくるってかぁ? ぎゃはは! まるでゴキブリホイホイだな!」
「そう」
長門が短く返し、その会話は打ち切られる。
それからは特に会話もなく、二人は黙々と歩を進めるのみだった。
どのくらいの時間がたっただろう。
それは、辺りが暗くなり始めたころだった。
「ついた」
ソレは薄闇の中、確かに彼らの前に存在していた。
人気の無い夜の学校。
さながらホラー映画のワンシーンである。
しかし、何度もいうが彼らは殺し屋と宇宙人。当然の如くそんなものには臆しない。
長門と出夢は校門をくぐり、ところどころ戦闘の痕跡が見られる校内を特に探索するでもなく、昇降口から最も近い教室に這い入った。
出夢は教卓に「よっ」と座ると、壁にかけられた時計を覗き見る。
「19時ちょい過ぎ、か……。 外も暗くなってきたし、今日はここで休むか。いいよな、おねーさん」
出夢の問いかけに、長門は注視しなければ分からないほどの角度で首を振った。
「よっしゃ、じゃぁ晩御飯とでも洒落込もうぜ。なぁに、こう見えても俺は殺し屋だ、自分がいる建物の中にいるのが死人か生人かくらいわかるさ。ここにゃ生きてる人間はいねーよ」
長門は「知ってる」と一言言うと、教室の最後方、窓際の席に座りデイパックを漁り始めた。
出夢も教卓から降りると、長門が座ったその前の席に座り自分もパンと水を取り出す。
それを豪快に齧りつつ、小動物のようにパンをちまちま頬張る長門に、出夢は言う。
「しかし、本当に古泉は来るのかい? ここじゃ特殊な能力はおねーさんみたいに制限されちまうんだろう? だったら気付かない可能性だってあるんじゃねぇか?」
「そう、だからこれは賭け。だけどわたしは思っている、彼ならばかならずこの空間の存在に気付き、やってくると。
これも恐らく、ノイズによる影響。でもわたしは、そのノイズに逆らうことができない」
バカヤロウ、そいつはノイズなんかじゃねぇよ、もちろん弱さでもねぇ。
そいつは――信頼さ。
出夢は思った。
出夢は今少し、ほんの少しだが、理澄と長門を重ねている。
というより、これまで妹が肩代わりしていた弱さを、一身に背負わなくてはいけなくなった所為で生まれた、そう、彼女風に言うならノイズが、彼女の面倒を見させ、あまつさえ仲間などという単語を述べてしまったのだ。
しかし彼はそれを心地よいと思う。少なくとも、不快だとは、思わない。
そう思った。
しかしソレは、ノイズなんかではない。それは、やさしさだ。
やさしい殺し屋、匂宮出夢。
まぁそんなことは、どうでもいい戯言なのだが。
そしてその、まるで戯言のようなつかの間の平和は、長門有希がもそもそとパンを食べ終わるまで続いたのだった。
長門はその薄い唇から吐息のように言葉を吐き出した。
「なるほどね、オレにはその『なんたら空間』ってのはよくわかんねぇけどそこにいれば古泉は自分からやってくるってかぁ? ぎゃはは! まるでゴキブリホイホイだな!」
「そう」
長門が短く返し、その会話は打ち切られる。
それからは特に会話もなく、二人は黙々と歩を進めるのみだった。
どのくらいの時間がたっただろう。
それは、辺りが暗くなり始めたころだった。
「ついた」
ソレは薄闇の中、確かに彼らの前に存在していた。
人気の無い夜の学校。
さながらホラー映画のワンシーンである。
しかし、何度もいうが彼らは殺し屋と宇宙人。当然の如くそんなものには臆しない。
長門と出夢は校門をくぐり、ところどころ戦闘の痕跡が見られる校内を特に探索するでもなく、昇降口から最も近い教室に這い入った。
出夢は教卓に「よっ」と座ると、壁にかけられた時計を覗き見る。
「19時ちょい過ぎ、か……。 外も暗くなってきたし、今日はここで休むか。いいよな、おねーさん」
出夢の問いかけに、長門は注視しなければ分からないほどの角度で首を振った。
「よっしゃ、じゃぁ晩御飯とでも洒落込もうぜ。なぁに、こう見えても俺は殺し屋だ、自分がいる建物の中にいるのが死人か生人かくらいわかるさ。ここにゃ生きてる人間はいねーよ」
長門は「知ってる」と一言言うと、教室の最後方、窓際の席に座りデイパックを漁り始めた。
出夢も教卓から降りると、長門が座ったその前の席に座り自分もパンと水を取り出す。
それを豪快に齧りつつ、小動物のようにパンをちまちま頬張る長門に、出夢は言う。
「しかし、本当に古泉は来るのかい? ここじゃ特殊な能力はおねーさんみたいに制限されちまうんだろう? だったら気付かない可能性だってあるんじゃねぇか?」
「そう、だからこれは賭け。だけどわたしは思っている、彼ならばかならずこの空間の存在に気付き、やってくると。
これも恐らく、ノイズによる影響。でもわたしは、そのノイズに逆らうことができない」
バカヤロウ、そいつはノイズなんかじゃねぇよ、もちろん弱さでもねぇ。
そいつは――信頼さ。
出夢は思った。
出夢は今少し、ほんの少しだが、理澄と長門を重ねている。
というより、これまで妹が肩代わりしていた弱さを、一身に背負わなくてはいけなくなった所為で生まれた、そう、彼女風に言うならノイズが、彼女の面倒を見させ、あまつさえ仲間などという単語を述べてしまったのだ。
しかし彼はそれを心地よいと思う。少なくとも、不快だとは、思わない。
そう思った。
しかしソレは、ノイズなんかではない。それは、やさしさだ。
やさしい殺し屋、匂宮出夢。
まぁそんなことは、どうでもいい戯言なのだが。
そしてその、まるで戯言のようなつかの間の平和は、長門有希がもそもそとパンを食べ終わるまで続いたのだった。
【D-2/学校内入り口に最も近い教室/1日目・19:30】
『生き残りコンビ』
【匂宮出夢】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(パン3食分:水1250ml)
[思考]:長門と共に古泉の捜索。多少強引にでもついていく。
生き残る。あまり殺したくは無いが、長門が敵討ちするつもりなら協力してもいい
『生き残りコンビ』
【匂宮出夢】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(パン3食分:水1250ml)
[思考]:長門と共に古泉の捜索。多少強引にでもついていく。
生き残る。あまり殺したくは無いが、長門が敵討ちするつもりなら協力してもいい
【長門有希】
[状態]:健康
思考に激しいノイズ(何かのきっかけで暴走する可能性あり)。僅かに感情らしきモノが芽生える
[装備]:なし
[道具]:デイパック(パン4食分:水1000ml)、ライター、バニースーツ一式
[思考]:出夢と共に古泉の捜索及び情報収集。
仲間を殺した者に対しての復讐?(積極的に捜そうとはしていない
[状態]:健康
思考に激しいノイズ(何かのきっかけで暴走する可能性あり)。僅かに感情らしきモノが芽生える
[装備]:なし
[道具]:デイパック(パン4食分:水1000ml)、ライター、バニースーツ一式
[思考]:出夢と共に古泉の捜索及び情報収集。
仲間を殺した者に対しての復讐?(積極的に捜そうとはしていない
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