「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

ケモノの咆哮

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匿名ユーザー

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 必要最低限の広さしかない「ダスト」のコクピットを警告灯の紅い光が断続的に染める。
「姿勢制御装置過負荷」「敵機照準レーザー探知」「ブースター過熱」「機関過負荷」……
 複数灯かりがともれば、次の瞬間には恐らく、死。
 ひとつの危険状態を次の危険状態で打ち消し、どん詰まりの先の死と紙一重の生、そのぎりぎりの線上を俺は駆ける。
 その先に居るのが、その先で戦っているのがあいつなら、どんなことだって出来る。
 機体性能の限界の半歩先の領域で、「ダスト」が、俺が、吼えた。

「シン・アスカ。ザフトレッドで元・ミネルバのトップエースにしてデスティニーのパイロット……ね?」
「……知ってるのか」
「ええ。『メサイアを守れなかった、エースのなれの果て』」
 ときどき思い出す、初対面のときのあいつの言葉。
 久々に明確な怒りが鎌首をもたげるのが自分でもわかった。
 自分がフリーダムに敗れたことは、まだ非難されても許せる。だが、メサイアを守れなかったことをあげつらわれるのは
 最後までザフトの兵として戦い続けたミネルバの皆の奮戦を愚弄されるかのようで許せなかったのだ。
 目の色が変わった俺を一瞥し、女は言う。
「私だって似たようなものよ。『元・ジュール隊』。これだけ言えば充分でしょ?」
「……」
 たしかに、その一言は俺の胸中に湧き上がった怒りを静めるに充分なだけの罵倒の言葉だった。

 イザーク・ジュール。最高評議会議員まで上り詰めた母を持ち、白服まで上り詰めたエースパイロットかつ優秀な軍人。
 何事もなければ、次代のZAFTを担う逸材として、そしていずれは国防委員長へ、との噂もたつほどの
 エリート中のエリート、だった。
 あのメサイア攻防戦のさなか、突如副官と共にオーブ軍に寝返り、という理不尽な行動をするまでは。
 自分もミネルバの問題児だと影で囁かれていたのは知っている、ときに軍命にそむくこともあった。
 だが、その後でつい先ごろまで味方だった人間に銃を向けた経験はさすがに無い。
 奴はそれをやったのだ。
 そして、彼が率いていた「ヴォルテール」のクルーとジュール隊の人間は、この後すぐに反乱幇助容疑で拘束。
 イザーク・ジュールの寝返りが戦いの帰趨を大きく左右したことが明らかになるにつれ、それを許した部下たちにその
怒りの矛先が向いたのは、いちがいに八つ当たりともいえなくはないだろう。

 だが、事態は「クライン派」を名乗る者たちのクーデターによって大きく変動する。
 クーデターを受け入れぬZAFT高官は次々と追放され、クーデター政権に従う者たちだけがZAFTに残った。
 ジュール隊の面々は「人類のための崇高な献身的行為」を悪行だといいがかりをつける者たちによって不当に拘束され
ていただけということになり、その手首から拘束具は外された。
 だが、どんな理由をつけられようと、どんな美辞麗句で飾ろうと、一瞬前まで味方だと自他共に信じていたはずの人間を
一瞬で裏切り、その手にかけた「元隊長」の行為とそれへの疑問が消えることはない。
 旧ジュール隊の面々にとっては、その意味を探ることが戦後の世界を生きる最初の目的であったことは、言うまでもないだろう。


 出会いがどうであれ、お互いの関係そのものを左右はしない。
 自虐的な言葉を吐きつつも笑顔で差し出されたその手を握ったときから、この不思議な女は俺の中で独特の立ち位置を
占め続けている。
 元科学者らしい理詰めの議論、そんなイメージをふわりと崩す頬のあどけなさ。
 戦場での、そして作業中の厳しい瞳、それが突如遠くに吸い込まれるかのようなものに変わる。
 ザフトレッドの名に恥じない、軍人らしい几帳面さと軍人らしからぬ意外な素顔。
 言うと怒るのであえて知らないふりをしているが、ごくたまにあるあいた時間に町に甘味を求めてうろつきまわる姿は
行きあてなくさまよっていた俺の視界のはじっこに、確かに捉え続けられていたから。
 気になり、話せる機会を心待ちにする自分に気づき、相手を異性と意識してしまえば後は覚悟次第。
 ふっと彼女が見せる遠い視線、その先に何があるかを気づけない自分が悔しく、
 ただただすべてを知りたいがために、それを知る権利を彼女にこいねがって。


 身体をつなげる関係になってから、胸中のわだかまりを一度だけ吐き出してくれた彼女。
 彼女の見せる遠い瞳の先にいるのは、理由なく彼女たちに銃を向けたかつての上官。
「好き、とかそういうんじゃないの、そういう存在として見られてはなかったの、自分でも判るから。
 でも、やっぱりわからないのよ。忘れてしまえれば楽なのにね……」
 同じシーツの反対側の端にその白い裸身をくるみながらつぶやいた言葉が、俺を嫉妬まじりの抱擁へ走らせる。
 第三者に自分の想いを決め付けられることほど気に触ることはそうはない、それを知っている俺は何もいえないままに。
 いえないままに、ただただ細い体を抱いた。熱く口づけ、身体に自分の痕を刻もうとした。
 その先に、彼女のこころに「奴」と同じくらいの痕を刻めれば、と念じながら。

 勝利者などどこにも居ない、ただただ彼女という絶対の裁定者によって裁かれるのみの、男の嫉妬の戦い。
 意味がない? そんなことは判ってる。 ただ、もうどうにもしようがないんだ。
 その声に、その姿に、心奪われた者の逃げられぬ戦い。
「死なないでとは言えない、裏切るなんて思ってない、
 でも、私を切り捨てるときはひとこと先に告げて。今度こそはきちんとさよならを言いたいから」
 そんな言葉が俺をさらに猛らせる。

 側に居たい。我が物にしたい。……いや、我が物とされたい。そばに居られたい。
 イザーク・ジュール、貴様は彼女にそれだけの魅力があることに気づかなかった。
「ヤキン・ドゥーエの生き残り」の技量に目を奪われたのも今は昔。
 こんな大事なことに気づかないままにこの輝きを手放した貴様には、もはや遅れを取る気などこれっぽっちもしない。

 この先でシホが待っている。作戦通りに俺が来ることを疑いもせず、戦いながら待っている。
 そう思うだけで、心はますます高ぶる。装甲板の向こうの風すら感じるほどに研ぎ澄まされる神経。
「ダスト」が幾たび目かに岩山を蹴る。大空に飛び上がる機体の先に、あいつが、待っている。 



  • 戦場に咲く恋! ってやるならこの二人でしょ。
    嫉妬の力もプラスに変えて突き進め若者よ。 -- 書いた奴 (2005-11-01 02:30:51)
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