「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

始めの一歩

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私は何故ここに居るのだろう。何でこんな事になったのだろう。
彼等は何者なんだろう。そして、私はどうなるんだろう。
部屋のベッドの端に座り込みながら、ずっとそんな事を考えている。
怖い。嫌な想像ばかりが浮かんでくる。私は視線を左腕へと落とす。
常に付けている様にと言われた、風変わりな腕時計。
コレは発信機になっていて、私の居場所が常に相手に判るようになっている。
私は見張られている。この時計が有る限り、彼等全員から。
憂鬱な気持ちだけが膨らんでいって、私を押し潰していく。
そんな時、不意にノックの音が鳴る。少しして、柔らかな女性の声が部屋に響く。
「御免なさい。今、お暇かしら。」
ドアが開けられ、眼鏡を掛けた女性が顔を覗かせる。『センセイ』と呼ばれている人だ。
「…ええ、どのような御用でしょうか?」
どうしても声が硬くなってしまう。だけど彼女は気にした素振りも無く、言葉を続ける。
「良かった。大事な仕事があるの。もし良ければ協力して貰えないかしら?」
「手伝い、ですか?…別に構いませんけど、何で私が?」
何を考えているのだろう?訝しげに感じつつも、彼女と共に部屋を出る。

シャリシャリ…シャリシャリ…。狭い部屋の一角に、静かな音が響く。
『あの…大事な仕事って、この事ですか?』
『ええ、生きていくには食べないと。当たり前の、でもとても大切な事よ。』
そんなやり取りの後、私とセンセイは芋の皮剥きに没頭している。
一つ一つ芽を取り、丁寧に皮を剥いていく。
施設の台所に立っていた時の事を思い出す。
「少し、休憩しましょうか。」
その言葉と共に、私は我に帰る。気が付かないうちに、大分熱中していた様だ。
「有り難う、助かるわ。…少しは気が紛れたかしら?」
そういえば、いつの間にか焦燥感は消えていた。作業に熱中していたからかもしれない。
「ええ、何となく、ですけど…結構楽しかったですし」
私を誘った目的はコレだったのかも知れないな。ふと、そんな事を考える。
「…御免なさいね。こんな事になってしまって。本当に…御免なさい」
「いえ、今言っても仕方ない事ですし…」
真剣な顔で謝罪を始めたセンセイに、私は慌てて答える。
本当は、仕方が無かったなんて思えない。でも。
この人も、私を連れて来た二人も、私の事を本当に案じてくれている事は判る。
そう思うと、張り詰めていた気がほんの少し楽になった気がした。

作業を進めながら、私は少しずつセンセイと話すようになった。
自分の事。学校の事。施設の事。家族の事。些細な日々の生活の事を。
センセイはコーディネーターらしい。プラントから降りてきて、
ここのNGOに医者として参加していたそうだ。
そんな人が何故…私はここに来てからずっと抱いていた疑問を口にする。
「貴方は、貴方達はなんでこんな事をしているんですか?」
センセイは少し困った顔をした後、微笑んでゆっくりと口を開いた。
「…そうね、この状況を何とかしたい、と考えたから、かしらね。
ソラさん、貴方はここの食事を作ってみて、どう思う?」
言われて思い出す。芋と豆のスープ。私達が作っているのはそれだけだ。
「この地域は貧しいの。日々の食事にさえ事欠く有様なのよ。」
「どうして、ですか?」
ガルナハンは火力プラントを有していて、電力供給に大きく貢献しているの。
その利益はけして少なくは無い筈なのに、その利益が民に還元される事は殆ど無いわ。
多くの人が利益還元の正常化を訴えたけど、政府がそれに答えることは無かったの。
だから、それを正さなくちゃいけないの。…コレが私達の戦う理由、かしらね。」
「それが貴方達の、戦う理由、ですか…。」
富の正常な分配。生きる糧を、皆が手にする事の出来る明日を作るための戦い。
…正直、私には実感が湧かなかった。想像も付かなかった。
だから、言ってしまった。
「でも、戦争するなんて…人を殺すなんて、おかしいですよ…」
口に出した途端、後悔の情が押し寄せてくる。センセイの目が、そっと伏せられる。
「…そうね。私もそう思うわ。誰も、戦争なんか嫌ですものね。」
「あの…スミマセンでした。生意気、言っちゃって、その…」
「良いわよ、貴方も正しいもの。さあ、早くやらないと、間に合わなくなっちゃうわよ」
そう言って、センセイは笑って調理に戻っていった。
私も慌てて後を追い、料理を再会する。芋と豆だけの、質素なスープの。

夕食の時間になり、私はセンセイに勧められて、初めて大部屋を訪れた。
今までは誰かの顔を見る気にもなれず、部屋で食事を取っていたのだ。
部屋に入った私に、一斉に視線が向けられる。興味深げに、無遠慮に。
一瞬、背筋がすくんだ。緊張で鼓動が早鐘のように響いてくる。
─この人たちは戦争を、人殺しをしているんだ─
先程まで忘れていたその認識が、首をもたげて来る。怖い。
立ち尽くしたままの私を、センセイが手招きする。
私が隣に腰を下ろすと、センセイは部屋の皆にこう宣言した。
「皆さん。今日の夕飯は私の他に、ここに居るソラさんに作って頂きました。
ソラさんが居なかったら、とても夕食は用意できなかったわ。
ちゃんと彼女に感謝する事。出ないと食べさせませんよ?」
─…え?─
あっけに取られる私に向かって、周囲の人達が次々と声を掛けてくる。
「済まないな、嬢ちゃん。助かるよ」
「美味そうだな。料理は結構得意なのか?」
「ここにはトンデモない食事を作る大尉さんが居るからな。お陰で安心したよ」
それは何処にでも居る、極ありふれた人の顔。
オーブに居た私の友人達と、変わらない笑顔。
─この人達も、皆同じなんだ─
戦争をしている人達。何処にでも居る、極普通の人達。
私の中で、相反していたイメージが、一つに重なっていく。
「いえ、そんな。大袈裟ですよ、私は別に…」
いつの間にか、私は笑顔で彼等と話していた。先程までの緊張は消えていた。
「ゴメンね、手伝わせちゃったりしてさ。こんな事、頼めた義理じゃないのに」
「…美味そうだな。有りがたく頂くよ」
コニールさんとシンさんが、お皿を持って隣に移って来ていた。
一緒に食事を取る。芋と豆だけの、質素なスープ。それなのに。
何故だか、部屋で食べるより美味しかった。

コレが、私の小さな最初の一歩だった。

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