「まだ……眠れないの?」
なんとなく寝付けないで窓の外を見ていたときだった。ふと視線を横に落とすと、コニールさんがこっちを見ていた。
「……なんとなく目がさえちゃって……」
昼間見た、捕虜になった人たちを見たからかもしれない。自分でも何がどうなっているのか、わからなくなってきていた。
正しいってことが何なのか……。
「仕方ないなぁ……じゃあ、子守唄でも歌ってあげようか?」
「子守唄?」
ちょっと意外だった。何が意外だったのか、自分でも良くわからないけど、意外だった。
「なんだい? 子守唄なんてゲリラが歌うのはおかしいかい?」
「ううん、ちょっと」
「あはは、正直なこったねぇ」
コニールさんは笑ってこう続けた。
「愛しいわが子よ
静かな夕べ
聞こえて来るのは水音ばかり
いつかその内
兵隊さんになって
あなたのママから離れて行くの
今はお眠り
お眠りなさいね
花のようなわたしの坊や」
アルトでちょっとハスキーな声が部屋に染み渡るように流れた。なんだかとても不思議な感じ。こんなはるかかなたの土地に来て、オーブで聞きたくても聞けなかった子守唄まで聞けるなんて……
「でも、コニールさん。それ男の子向けの子守唄でしょ?」
「いいんだよ、そんなの。子供は愛されなきゃいけないんだから」
そう、子供は愛されなきゃいけない。その愛される子供達も、いつか母親の元を離れ、兵隊になり、戦場に赴く。
同じように愛された子供達が敵として待つ戦場に。
「……その歌……ご両親に歌ってもらってたんですか?」
「うん?……あ、いや。私、親のことは知らないんだ」
「……え?」
そういえば、コニールさんのお父さんやお母さんって知らない。というか、私は今までそんなことも気づけずにいたことに、少し驚いた。
「まあ、この辺じゃ珍しくも無いさ。シゲトだってそうだし。シンだって……」
「シンさん?」
「……ああ、あんまり、あいつ話したがらないけどさ。あいつオーブ生まれでさ、オーブが戦火に巻き込まれたときに、家族を全員亡くしているんだよ」
「シンさん、オーブの人だったんですか?」
本当に私、何も知らないんだ。シンさんがオーブの人だったなんて……。オーブに住んでいたのに、なんでこんなところに来てまで戦ってるんだろう?
「……なんで、ガルナハンで戦ってるんだろう……」
「そうだねぇ……きっと我慢なら無いんだろうさ」
「我慢できないって……?」
「正義で人が死ぬことがさ」
正義で人が死ぬ。正義ってなんだろう? ラクス様は正義? ラクス様の正義……。
「あたし達のやってることは正義なんてもんじゃない。どっちかって言えば悪だろうと思うよ。だけどあたし達のやってることを悪だからって駄目だってんなら、あたし達は生きていることも許されない」
「……なんで……」
「まあ、人が多すぎるんだね。みんなが幸せになるには、この地球は狭すぎるのさ。まともに作物が育つ土地や、そのまま飲める真水もね」
確かにここにきてから一番感じたのが食べ物と水だった。オーブでは蛇口をひねれば出てきた水も、冷蔵庫をあければあった食材もここには無かった。
「……無いものを、みんなで奪い合う……」
「そうだね、きっと小難しい理屈抜きで考えれば、戦争なんてみんなそんなモンかもしれないね」
「でも、水だったらあんなに大きなカスピ海があるのに……」
「カスピ海は半分が塩湖だからねぇ。そのおかげで作物もガルナハンじゃ育ちにくいんだよ。唯一のお宝の火力プラントはほとんど東ユーラシア政府に上がりを持ってかれちまってる」
「生きなきゃいけないから戦う……。戦うと人が死ぬ。人が死ぬと……」
昼間の捕虜達が思い浮かんだ。あの人たち、どうなってしまうんだろう?
「死んだ人を愛している人たちが、殺した人を憎むだろうね。そうした憎しみの連鎖が戦争を引き起こしている……。そういう意見もあるみたいだね」
コニールさんはこっちに向き直って座った。暗闇で瞳が月明かりに照らされて光っていた。
「でもね、戦争は相手がにくいからするんじゃないんだ。シンを見ていて、それがなんとなくわかったんだよ」
「シンさんを……」
「あいつは敵が憎いだけで戦ってるんだったら、こんなところにい続ける奴じゃないからね」
「……?」
「さ、もう寝よう。明日だって早いんだ」
「……うん……」
私、もっと知りたい。
この世界を。
この苦しみにあふれた世界を。
そう思って、私は眠りについた。
なんとなく寝付けないで窓の外を見ていたときだった。ふと視線を横に落とすと、コニールさんがこっちを見ていた。
「……なんとなく目がさえちゃって……」
昼間見た、捕虜になった人たちを見たからかもしれない。自分でも何がどうなっているのか、わからなくなってきていた。
正しいってことが何なのか……。
「仕方ないなぁ……じゃあ、子守唄でも歌ってあげようか?」
「子守唄?」
ちょっと意外だった。何が意外だったのか、自分でも良くわからないけど、意外だった。
「なんだい? 子守唄なんてゲリラが歌うのはおかしいかい?」
「ううん、ちょっと」
「あはは、正直なこったねぇ」
コニールさんは笑ってこう続けた。
「愛しいわが子よ
静かな夕べ
聞こえて来るのは水音ばかり
いつかその内
兵隊さんになって
あなたのママから離れて行くの
今はお眠り
お眠りなさいね
花のようなわたしの坊や」
アルトでちょっとハスキーな声が部屋に染み渡るように流れた。なんだかとても不思議な感じ。こんなはるかかなたの土地に来て、オーブで聞きたくても聞けなかった子守唄まで聞けるなんて……
「でも、コニールさん。それ男の子向けの子守唄でしょ?」
「いいんだよ、そんなの。子供は愛されなきゃいけないんだから」
そう、子供は愛されなきゃいけない。その愛される子供達も、いつか母親の元を離れ、兵隊になり、戦場に赴く。
同じように愛された子供達が敵として待つ戦場に。
「……その歌……ご両親に歌ってもらってたんですか?」
「うん?……あ、いや。私、親のことは知らないんだ」
「……え?」
そういえば、コニールさんのお父さんやお母さんって知らない。というか、私は今までそんなことも気づけずにいたことに、少し驚いた。
「まあ、この辺じゃ珍しくも無いさ。シゲトだってそうだし。シンだって……」
「シンさん?」
「……ああ、あんまり、あいつ話したがらないけどさ。あいつオーブ生まれでさ、オーブが戦火に巻き込まれたときに、家族を全員亡くしているんだよ」
「シンさん、オーブの人だったんですか?」
本当に私、何も知らないんだ。シンさんがオーブの人だったなんて……。オーブに住んでいたのに、なんでこんなところに来てまで戦ってるんだろう?
「……なんで、ガルナハンで戦ってるんだろう……」
「そうだねぇ……きっと我慢なら無いんだろうさ」
「我慢できないって……?」
「正義で人が死ぬことがさ」
正義で人が死ぬ。正義ってなんだろう? ラクス様は正義? ラクス様の正義……。
「あたし達のやってることは正義なんてもんじゃない。どっちかって言えば悪だろうと思うよ。だけどあたし達のやってることを悪だからって駄目だってんなら、あたし達は生きていることも許されない」
「……なんで……」
「まあ、人が多すぎるんだね。みんなが幸せになるには、この地球は狭すぎるのさ。まともに作物が育つ土地や、そのまま飲める真水もね」
確かにここにきてから一番感じたのが食べ物と水だった。オーブでは蛇口をひねれば出てきた水も、冷蔵庫をあければあった食材もここには無かった。
「……無いものを、みんなで奪い合う……」
「そうだね、きっと小難しい理屈抜きで考えれば、戦争なんてみんなそんなモンかもしれないね」
「でも、水だったらあんなに大きなカスピ海があるのに……」
「カスピ海は半分が塩湖だからねぇ。そのおかげで作物もガルナハンじゃ育ちにくいんだよ。唯一のお宝の火力プラントはほとんど東ユーラシア政府に上がりを持ってかれちまってる」
「生きなきゃいけないから戦う……。戦うと人が死ぬ。人が死ぬと……」
昼間の捕虜達が思い浮かんだ。あの人たち、どうなってしまうんだろう?
「死んだ人を愛している人たちが、殺した人を憎むだろうね。そうした憎しみの連鎖が戦争を引き起こしている……。そういう意見もあるみたいだね」
コニールさんはこっちに向き直って座った。暗闇で瞳が月明かりに照らされて光っていた。
「でもね、戦争は相手がにくいからするんじゃないんだ。シンを見ていて、それがなんとなくわかったんだよ」
「シンさんを……」
「あいつは敵が憎いだけで戦ってるんだったら、こんなところにい続ける奴じゃないからね」
「……?」
「さ、もう寝よう。明日だって早いんだ」
「……うん……」
私、もっと知りたい。
この世界を。
この苦しみにあふれた世界を。
そう思って、私は眠りについた。
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- ご意見よろしくお願いします -- 香坂 (2005-12-01 07:03:36)