その空間には無数の黒いオブシェが林立していた。恰も、墓所の様に。
「量子コンピュータ?・・・何の為に?」
黒い墓石に見えた物。それは全てフル規格の量子コンピュータだった。
この空間を埋め尽すかのように量子コンピュータが設置されていた。
この空間を埋め尽すかのように量子コンピュータが設置されていた。
『ジェス、ここらの一台に俺を繋いでみるか?』
そうハチに言われるがジェスは逡巡する。いくらハチのアーキテクトが既存の物と全く異なるとは言え、処理能力の差で侵入される危険性は0では無いのだ。
が、そのジェスの迷いは無駄となった。
が、そのジェスの迷いは無駄となった。
『ああ、迂闊に触れないでくれないか?2、3台壊れたとしても機能が損なわれる訳では無いが、それでも気持ちの良いものでは無いからね』
墓標の群の中に男の声が響く。シンにとって、決して忘れることのできない男の声が。
(そんな・・・そんな馬鹿な!)
無数の黒い柩の間をすり抜ける様に、シンが走る。慌てて後を追う一同。
そして。
シンの前にありえない現実が。
悪夢とも言える現実が。
そして。
シンの前にありえない現実が。
悪夢とも言える現実が。
ギルバート・デュランダル。
かつて、プラントを統べ、人々に人類救済の手段としてデスティニープランを提唱し、そして、「英雄」達に殺された男。
かつて、プラントを統べ、人々に人類救済の手段としてデスティニープランを提唱し、そして、「英雄」達に殺された男。
「な・・・んで・・・だって、アンタはあの時に・・・」
シンが搾り出す様に声を漏らす。
『正確に言えば「初めまして」なのだがね。敢えて言わせてもらおう。「久しぶりだね」シン・アスカ』
そう言うとシンが知る柔和な微笑みを向けてくる「デュランダル」に対し、シンのパニックは限界を越えた。
「俺を!俺を!俺を謀るのも大概にしろ!」
そう怒声を上げると拳銃を引き抜き、抜き打ちで眼前の「デュランダル」目掛けて撃ち込む。
そして、乾いた金属音が弾倉が空になったことを告げてもなお、シンはトリガーを絞り続けた。
まるでそうすればこの亡霊が消え去るかのように。
そして、乾いた金属音が弾倉が空になったことを告げてもなお、シンはトリガーを絞り続けた。
まるでそうすればこの亡霊が消え去るかのように。
『そう驚かないで欲しい物だが。私は幽霊では無いのだよ?』
シンが撃ちぬいた姿は立体映像だった。
『今の私は、ギルバート・デュランダルが築いたAIなのだ。デスティニープランの遂行の為のね』
「デスティニープランの為・・・?」
誰かの掠れたような声がする。
『その通りだ。デスティニープランの目的の一つに「遺伝的特性に応じた社会的役割を割り振る」と言う物があったのは知っているね?』
「・・・そうだったな」
シンがぼそりと呟く。
『遺伝的特性に応じた社会的役割を割り振り、それに適応する為の教育などの支援を行う。それぞれの「得意分野」を延ばす訳だが、ここで問題がある』
「どんな問題が?」
ジェスが前に出てきて問う。
『ジェス・リブル。君は「野次馬」なる渾名が付けられるほど真実を知る事に貪欲だね?』
「ああ。コレでもジャーナリストの端くれのつもりだ」
『では聞こう。君はジャーナリストと言う職業に望んで付いたのかね?それとも幾つかの偶然の結果?』
「望んでついた積もりだ。誰かに強制された訳じゃない!」
『そこで、こう考えたことはないかな?「俺はジャーナリスト向きじゃない」と?』
「やはりソレか・・・」
『そう。デスティニープランによって判定された「社会的役割」が、必ずしも本人の望むソレではない事が往々にして有り得るだろう。だが、デスティニープランでは特性の無い者がその社会的地位に就こうとする場合、特性の有る者が就く場合に比べると極めてハードルが高くなる』
「だが、ソレは今の世代の話だろう?もしデスティニープランが成立していたなら、コレから先産まれて来る者に対しては出生と同時にプランの「特性を伸ばす」というプログラムが適用される筈だ。つまり」
『最初から遺伝的特性の合致する社会的地位に就くことを望む。ソレはその通りだ。だか、ソレでも、プラン適用前の世代が生存している限り、何らかの影響を受け特性の無い社会的地位を望むかもしれない』
「ソレだけじゃない。アンタの言うのが本当にデスティニープランの本質だとしたら。プランが完成し軌道に乗るまでに数世代を要するはずだ。「デスティニープランが存在している事が当たり前」社会がそうなるまでにはな」
『そう、ソレまでは一定以上の割合で「本来の自分では無い自分」を演じなければならない人々が発生してしまう。ならば、その人々はどうやって救済するか?』
「無理だろう。コレばかりは解消できない」
『いや、存外簡単だ。「自分が望む社会的地位」に就けば良い』
「矛盾しているだろう?!」
『実際の世界では不可能だが、もう一つの世界ならば可能だ』
「まさか・・・」
『そう。ネットワーク上に「当人にとって都合の良い社会」を構築し、其処で「自分の望んだ自分」を演じるのだ』
「正気か!ただの現実逃避じゃないか!」
『とはいえ、電脳社会で「生活」していては実生活に支障が出かね無い。だからこそ私のような量子虚体が開発されたのだ』
「どう言う意味だ!」
『当人の望む社会的地位に就いた量子虚体の体験を、睡眠時に無意識レベルで転写する。当然、当人にとっては「夢の中の出来事」に過ぎないが、それでも「自分の有るべき姿」を実感できる筈だ』
「ふざけるな!そんなの、単なる作り話じゃないか!」
ジェスと「デュランダル」の会話にシンが割り込む。
『「我思う。故に我有り」AIとしての私は厳然としてここに居るぞ?』
「哲学で誤魔化すな!」
『電子情報のみの我々と、実体を持つ君達。何処に差が有るのかね?実体の有無以外に区別を付けようが無い筈だ』
「アンタはもう死んだんだ!今更亡霊が顔を出すな!」
『私はAIだと言ったはずだ。私の原型であるデュランダルと私はもはや関連性は無い』
「只のプログラムの癖に!」
『ふむ。ならば君の知っているAI、レイ・ザ・バレルも只のプログラムだと?』
その名前を聞いたシンが凍りつく。
「どうしてその名前を?!」
『君は勘違いしているようだが、別に情報収集を怠ってきた訳では無い。むしろ我々は、オリジナルから『株分け』されてからずっと、君達をよく観察してきたのだよ』
「我々?」
『久しぶりだな、シン』
「デュランダル」の傍らに、新たな人影が投影され、結象する。
其処には、ダスト諸共に破壊された筈のレイの姿があった。
其処には、ダスト諸共に破壊された筈のレイの姿があった。
「レ・・・イ?」
『騙した積もりは無かった。俺もあのケースが本体だとダストが破壊されるまで思い込んでいたんだ。俺と「デュランダル」は、ギルが残した最後の遺産だったんだよ』