「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

第15話「激動の世界」Aパート

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
 オーブ、オノゴロ島。統一地球圏連合の中枢中の中枢、“統一地球圏連合国家群による総括議会”――通称“統一議会”。その席上である一つの重要法案が、今正に可決されようとしていた。

 カンカンカン……
 「皆様、静粛に。それでは民主主義の原則に則り、多数決にて裁可を取りたいと考えます。……賛成の方々はご起立下さい」
 ガタガタガタン、と音がしてかなりの数の議員達が立ち上がる。それは、予めの予定調和の様な光景で、度重なる議会工作の成果の表れでもあった。その様子を、議会工作の輪から外された“あぶれ議員”達が苦々しく見つめる。
 「……賛成多数と、判断致します。これにて『コーカサス州における統一地球圏連合による平和維持活動』の行使は採択されました。皆様、お座り下さい……」
 その様子を、カガリ=ユラ=アスハの名代として議会に来ていたレドニル=キサカは満足げに頷いていた。


 その議会の採択を受けて、オーブ最大の軍事基地オロファトにて、カガリ=ユラ=アスハ首席代表による演説が行われた。

 「――皆も知っての通り、『コーカサス州における統一地球圏連合による平和維持活動』は統一議会によって、採択された。
 これは、どういう事か?
 簡単な事だ。世界の人々は、『平和の世界』を造り出す為に、努力を厭わないという事だ。
 ならば、我々が行うべき事は何だ?
 ならば、我々が成すべき事は何か?
 ……決まっている。『平和な世界』――主権返上を旨とする、世界規模の統一政府を創り上げる事だ!
 平和の為に――未来の為に――人々の為に!
 我々は、誰かの為に歩んでいくのだ! 胸を張れ、面を上げろ!
 統一地球圏連合の誇りを胸に、コーカサス州に恒久平和を築くのだ!
 我らが勇敢なる、統一地球圏連合の兵士諸君! 未来は君達の双肩に掛かっているのだ!
 いざ、立ち上がれ諸君! 光ある未来の為に!」

 兵士達が、爆発する。――それは、予定通りに。
 「うおおおおっ!」
 「『光ある未来の為に!』『光ある未来の為に!』」
 「この一命を賭して! 世界の平和の為に!」
 「オーブ万歳! 統一地球圏連合万歳!」
 ……それは、壮大な学芸会であったのかもしれない。しかし、それでも国家とはこうした式典は必要なのである。
 この時点を持って統一地球圏連合はコーカサス州に事実上の宣戦布告を行った。それは、更なる戦禍の拡大を予見させるものだった。


 そのようなカガリの演説の、テレビ中継を見ながらソラは呆然と考えていた。
 (……もう、オーブに帰ってきて一月も経っちゃったんだ……)
 オーブに帰ってきてからの日々は、ソラにとって激動の日々以外の何者でもなかった。マスコミに追い回され、或いは追い立てられ。生中継の席で大暴言を発して以来、それは趣向や方向性を変え、いよいよソラ自身を攻め立てる者達まで続出。もはやソラのストレスは限界に達したと判断したジェスとカイトは、オーブは人里を大きく外れたサナトリウムにソラを移動させた。
 ……それは、実際助かったと思う。暴漢騒ぎで、ソラの心情は既に折れかけていた事もある。マスコミのやってこないこのサナトリウムでの日々は、ソラにとって『ようやくオーブに帰って来れた』と思わせるに十分なものだった。
 ふわりと、白いカーテンが舞い上がる。山の中腹に立てられているこのサナトリウムは、山間の風が吹き抜けていくので心地良い。青い空も、白い雲も、そして鬱蒼と生い茂る木々も――全てがソラを癒してくれていた。
 ジェスもカイトもハチも、二日と開けず会いに来てくれていた。ジェスは、『編集部に行くと、編集長の逆鱗に触れちまうからな。こっちの方が安心だよ』と茶化して言ってくれた。
 (本当は、私よりずっと大変な筈なのに……)
 ジェスやカイトは、ソラの代わりにマスコミの矢面に立ってくれている。他のマスコミとぶつかるのも、一度や二度では無いはずだ。――なのに、その事はソラの前ではおくびにも出さない。
 (私、甘えてばかりだね……リヴァイブでも、オーブに帰ってきても……)
 どうしても、落ち込んでしまう。それは、オーブからの疎外感も手伝ってるだろう。今やソラにとってオーブは“安心出来る場所”では無くなっていた。
 だが、そんなソラを慰めるのはジェス達だけではない。
 《ドウシタ? ソラ。ゲンキダセー》
 ぴょん、ぴょんとはね回りつつ、奇妙な丸い物体がソラを慰めてくれる。
 「……ハロ。もう充電は良いの?」
 ハロ用の充電ベッド――ソラお手製の小さな布団もある――から転がり出てきた物体は“ハロ”と呼ばれる愛玩用ロボットだ。民間人でも簡単に創り出せる程度の技術だが、なかなかどうして賢しいものである。
 《充電オッケー、元気モオッケー。ソラハ元気? ……元気ジャナケレバハロオドル。ヨサコイヨサコイ、コッポラコッポラ……》
 なんだか良く解らないビープ音と共に、ハロが踊り出す。そのあまりの珍妙っぷりに、ソラトしても苦笑を禁じ得ない。
 ハロは、“あの人”が置いていってくれた。――あの日以来、何度か見舞いに来てくれている人が。あの日あの時、助けてくれた人が。
 《創造主ガ来ルト、ソラハ元気ガ出ル。ソラハ創造主ガ好キダカラ――♪》
 ……顔が、ボッと赤くなった。カッとしてソラは、ハロを押さえ込みに掛かる。素早く逃げ回るハロ。
 《暴力反対、非暴力非服従!》
 「少しは黙りなさい、もうっ!」
 どたばたと、ハロとソラが跳ね回る。……自然にソラにも笑顔が生まれているのは、紛れもなくソラを取り巻く人々の手柄であった。


 「カガリ様、見事な演説でしたぞ!」
 「さすがアスハ代表。感涙が止まりませんでした!」
 ……通り一遍の美辞麗句が、所構わず投げかけられる。つい先程、勇ましく演説をしたカガリは未だその熱も冷めやらないので、それぞれに笑顔で対応出来た。
 「ありがとう、皆のお陰だ!」
 そう熱っぽく返すカガリ。それが、廊下のあちこちで繰り広げられた。何度かの美辞麗句を切り抜けて、控え室に帰ってくるとポンッという小気味の良い音がカガリを出迎える。シャンパンの栓の音だと、直ぐに気が付いた。……カガリが頼んだのだ。帰ってきた時に、そうやって出迎えてくれと。
 「お疲れ、カガリ。――見事な演説だったぞ」
 そう、アスランは微笑みながらシャンパンをグラスに注ぐ。紅潮したまま、アスランの向かいのソファーに座るカガリ。
 「もう大変だったんだぞ、心臓バクバク言って! あんな高い所で演説するなんて聞いて無かったから……!」
 「演説って言うのは、皆に見える所でやるものだろう。少々高い所になると言わなかったか?」
 身振りを交えつつ、カガリ。その様子にアスランは苦笑しながら言う。
 「あれは“少々”なんて場所じゃないだろう!」
 顔を真っ赤にしつつ、カガリ。尤も、顔は笑ってるのだが。
 くすくすと笑いながら、アスランは無言でグラスを持ち上げる。慌てて、カガリもグラスを持ち、二人は乾杯した。チインと、澄んだ音が響き渡る。
 「お疲れ様」
 「……サンキュ……」
 二人は、シャンパンを一気に飲み干した。冷たいシャンパンが、とても心地良かった。


 「……そう言えば、“あの子”はその後どうなんだ?」
 暫く雑談していた後、カガリがそう言い出した。
 「ソラ=ヒダカの事か? あの子ならまだ静養中だ。大分良くなってきたとは思うが……」
 アスランが顔を曇らせる。助けた当初の混乱ぶりを知る者として、痛ましい事だったと思わざるを得ない。
 「苦労を乗り越えて折角オーブに帰ってきた途端にこんな事態では……私は、まだまだ為政者失格だな……」
 俯いて、カガリ。確かにこの様な小規模犯罪は元首であるカガリの責任では無いのだが、カガリの性格として許せない事ではある。
 「カガリ……」
 そこまで背負うな、と言おうとして――止めた。それは、カガリの良い所でもあると思えるからだ。しかし、次にカガリが紡いだ言葉――これは止めようと思った。
 「なあ、私もソラに会ってみたいんだが良いか?」
 「はあっ!?」
 何を藪から棒に、と言う間もなくカガリが続ける。
「だって私はまだソラに会った事が無いんだぞ! キラだってラクスだって会ってるのに!」
 ……理屈になってない。完全に子供の理屈である。
 「あのなぁ、ソラは……」
 単なる一般人だぞ――そう言いかけて、止めた。これだけ連日マスコミに付け狙われて、日々の生活も出来なくなる“一般人”が何処にいる。……そして、カガリの思考回路も長い付き合いだから判る。要するに気分転換したいのだろう。
 (……ここ数日、かつかつのスケジュールだったからな……)
 それはそうだろう。世界最強最大のオーブ軍を含む、統一地球圏連合国家群の合同軍の編成である。立場上はその両方の盟主を兼ねるカガリが暇な訳が無い。それこそ寝る間も惜しんで邁進しなければならなかったのである。
 「この式典が終わったから、私は暫く休めるし。良いだろう?」
 「……まあ確かに、そういう予定だったがな……」
 これは単純に“もしも式典が上手く行かなかった場合”の為に予定を開けておいたと言う事だ。どうせ予定は直ぐに目白押しになるので、休める時に強引に休むのも必要な事ではある。
 暫く考えて、アスランは決断した。
 「わかった。……今度はカガリも連れて行くよ」
 「本当だな!? 約束したぞ!」
 ――何だか、休みの日に遊びに連れて行けと言う子供と親の会話のようである。子供のようにはしゃぎ回るカガリを見ながら、そっとアスランは嘆息した。


 「大本営発表によると、統一軍総指揮官はイエール=R=マルセイユ陸軍中将。……とはいえ、実質的な指揮官は幕僚の中にいるイザーク=ジュール准将でしょうね。モビルスーツ部隊の指揮を執るのは、イザーク准将を於いて他に居ないもの。実働経験からみても、イエール中将はお飾りってところじゃないかしら」
 ジェスの前に座る女、ベルデナット=ルルーはオレンジジュースを啜りつつ言う。
 ジェスはあの一件以来、編集長からも疎遠だった。というより、疎遠に成らざるを得なかった。……下手に編集部に近づけば、編集部にも被害が及ぶ可能性があったからだ。
 「助かるよルルー。情報が入らなくて困っていたんだ」
 「どう致しまして。……私は、貴方と会っていた所が見られても困る事は無いもの。元から『野次馬』一党と見なされているから、ね。だから、大した情報は私の方にも入ってこないけど……」
 何処か朗らかに、ルルー。その顔は楽しんでいる様な風情である。
 「それにしても、あの放送は楽しかったわ。ううん、スカッとしたわよ。あのディレクター、気に入らなかったもの。……是非とも、またやって欲しいわね」
 「勘弁してくれよ……」
 苦笑しつつ、ジェス。だが、これが世論なのだと思える。抑圧された世界で、ジャーナリズムの正道に燃える人達は確かにいる。その人達はジェスの味方なのだと。
 「それにしても、この世界はどうなっていくのかしら。……戦火は鳴りやまず、平和とは統制社会と同義の世の中……。この世界、ううん私達は……」
 ルルーは、何処か遠くを見ているようだった。その視点は、ジャーナリスト達が感じる“火種”を見据えているのだろうか――。
 「ああ、俺もそれが知りたいんだ……」
 そうジェスは言った。


 ――それから、数日後。
 「何でこんな事になったんだ……」
 運転席に座るアスラン=ザラは何度目かの深い深い溜息を漏らした。ナビシートに座る妻、メイリンは呆れかえったように言う。
 「……あなたが事の発端でしょう? もう諦めた方が良いわよ」
 メイリンは既に状況を諦めているようだ。達観していると言うべきか。
 アスランが深い苦悩に捕らわれる状況――後ろのシートに座る超重要人物達がアスランの腹痛を更に抉るかのように脳天気に言う。
 「いやだって、行くなら皆一緒の方が楽しいだろう?」
 「そうですわね、私もなかなかこの様に遠出は出来ないものですわ」
 「……旅行にもそうそう行けないしね。良いんじゃない?」
 カガリ、ラクス=クライン――あげくの果てにキラ=ヤマト。現統一地球圏連合の最重要人物達が同じ車に乗るという事態だけで、アスランには一杯一杯である。
 (車に爆弾でも仕掛けられていたらどうするんだ……)
 この辺は護衛として確かな研鑽を積んだアスランの心配である。……とはいえ、後ろの三人はアスランの事など全くお構い無しで和気藹々と喋っている。
 解らないでもない。彼等の年齢から言えば、まだまだ遊びたい盛りに間違い無い。それが要職とはいえ、がんじがらめになっていてはストレスもたまるだろう。しかし、だからと言って……。
 (ソラ君、また失神しなきゃ良いが……)
 事の発端?となってしまったアスランは密かに苦悩していた……。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー