「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

狭間に立つ

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「……ああ、終わらせよう」

通信機から聞こえた最後の言葉はそれだけだった。


「待って!アスランさん!!」

既に切られてしまった通信機に向かってソラが思わず叫ぶ。
そして、次の瞬間、低い爆音と共に地鳴りのような振動が響いた。

「……そんな……」

言葉を失い、呆然とするソラを見つめるジェス。さしもの8も黙り込む。

思わずソラはその場にへたり込んでしまった。
そして、虚ろに言葉を紡ぐ。

「セシルさん………」

つい半日前まで、こんな事態になるとソラに夢想できただろうか?
シノもカシムも、そしてセシルも。
ほんの数時間前まで、ともに言葉を交わした人々が、ソラの目の前で生命を散らしていく。
シノの、セシルへの淡い想いは、罰せられるほど罪深かったのか?
カシムの、病んだ身体でももっと生きたいという想いは、罰せられるほど罪深かったのか?
其処には悪意は存在せず、ただただ純粋な想いが有っただけだ。
(何処かで何かが致命的にズレたんだ)
ジェスは歯噛みする。
ソレをジェスの無力さから来たと責めるのはお門違いというものだろう。
だが、それでもジェスは思うのだ。『きっと他の道を見落としていたのだ』と。
虚ろな瞳で虚空の一点を見つめるソラ。
多くの、無辜の命が自分達の眼前をすり抜けて行ったのだ。
それは、戦場ジャーナリストとして数多の戦場で無数の死を目撃してきたジェスにすら、やりきれない想いが有る。
(16歳の少女に耐えられるようなシロモノじゃないよな…)
だが、コレが今の『世界の真の姿』であり、この結果が『16歳の少女達が「精一杯の想い」で出来た事』なのだ。
この『絶望と暴力に満ちた煉獄』こそが。

「……なんで………なんで、アスランさんは………なんで……」

見かねたジェスがソラの肩に手を置くと、ビクリと体を震わせて、ソラはジェスに向き直った。

ソラの、虚ろな瞳を見つめ返す。
まるで魂が抜け落ちたかのような、無気力なソラに何か声を掛けようとした瞬間。
ジェスがたじろぐほどの勢いでソラが思いの丈をぶちまけた。

「なんで、アスランさんはセシルさんを助けてくれなかったの!?」

ジェスに当たっても何の意味も無いことは当人が良くわかっている事は、ジェスも理解していた。
同時に、ソレでも誰かに吐き出さなければソラの心が砕けてしまう事も。
せめて、一番近くにいる自分がソラの言葉を全て受け止める事しかジェスには出来なかった。

「なんで、セシルさんは戦いをやめなかったの!? シノやカシム君がどんな思いでいたのか分かっていたのに!」

殆ど絶叫に近いソラの言葉を黙って受け止めるジェスに対し、ソラはかまわず言葉をジェスにぶつけ続ける。

「なんで! なんでよ!! なんでセシルさんが殺されなきゃいけないの!!」

『殺される』その言葉に黙っていたジェスが重い口を開いて答えた。

「それは、セシルが『あちら側』の人間だからだ」

「……『あちら側』?」

一つ一つ。言葉を選びながら。ゆっくりとソラに染み渡るように。

「そう。セシルはシノやカシムやソラとは違う。 ……アスランやシンと同じ『あちら側』の人間。 戦う側の人間だからだ」

「そんな! 誰もセシルさんに戦うことなんて望んでない!!」

ヒステリックに叫ぶソラの瞳を見つめながら、ジェスは言葉を紡ぐ。

「それでもだ。それでも…もしかすると、セシルにはもっと他の生き方も出来たかもしれない。…それでも、セシルはそれを選ばなかった」

ジェスは勤めて静かにソラに語りかけた。それはソラに対する最低限の礼儀のようにジェスには感じられたからだ。
この、暴力でしか判りあうことの出来ない世界にい続けなければならない、この当たり前の少女に対する。

「何故……選ばなかったのか。本当のところはセシル本人に聞かなきゃ判りはしないが、それでも俺は思う。セシルはシノやカシムを守ることは出来ても、シノやカシムの思いを受け止めるやり方は知らなかったんだろう」

「……ジェスさん、何を言っているのか判らない……」

いや、ソラにとって、ソレは「判らない」のでは無く、「判りたく無い」事柄なのだろう。
だが、ジェスはそのまま言葉を繋ぐ。

「セシルは人を愛することは出来ても、愛されることは出来なかった。 それも当たり前だ。セシルはまだ少年と言ってもいいくらいの年だろう。 それでもセシルは生きていかなきゃならない。 この意味は分かるな?」

ソラはジェスの腕をつかんでいた手を離す。そして、ゆっくりとおろされた腕は、所在なさげにソラの胸元に収まった。

「セシルさんは……この戦争の中を……たった一人でカシムを守っていた……ってこと……です」

必死になってソラは言葉を搾り出した。。
自分のその言葉がどんな意味を持っているか想像できたから。

「そう、そのためにどれだけのものを犠牲にしたのか想像もできない。それでもセシルは生きていかなきゃならなかった。 それは、何のためだ? カシムを守るためだ」

そう言われ、ソラの顔が強張る。
『カシムの死』
自分の告げたその言葉が、何を引き起こしたかを悟って。

「……セシルはセシルとして生きる意味を失ってしまったんだ。 それでも、セシルが『こちら側』の人間なら、シノやカシムの思いを受け止めて、自分の生を全うしようとも思えたかもしれん。 が、セシルは『あちら側』の人間……戦士だったんだ」

「戦士……。戦うことしか出来ない……?」


ジェスは黙って頷いた。


「そんな! そんなこと……」

全身でソラはその言葉を否定する。
だが、その言葉は空しく部屋に木霊しただけだ。

「そして、俺たち『こちら側』の人間は『あちら側』の人間の死の上に生きている。 それはガルナハンでいくらでも見てきただろう?」

もはや、ソラの中に紡ぐべき言葉は無かった。

「……俺たちは『こちら側』の人間だ。だが、だからこそ出来ることがある。俺たちは世界から目を背けちゃいけない。俺たちのために散っていった命のためにも……」

黙って自分の言葉に耳を傾けているソラを見つめるジェス。

自分達に何が出来るのか。

(よーく考えろ、ジェス・リブル!この子に言った言葉は、全部自分自身にも言えるんだからな!)

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