「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

薔薇の意志

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「ようやく・・・・・・ようやく、ここまで来たぞ、アルベルト」
独り言は静かに響いた。
外の活気と比べると、ミハエル=ペッテンコーファーの部屋は、喪に服しているかのようにひっそりとしている。
死者に語りかけるなど、自分らしくもない。
自嘲しながら、どこか冷めている己の気持ちに気がついた。
本来ならばもっと興奮してもいいはずだ。ユーラシアに散らばるレジスタンスが決起し、統一地球圏連合打倒の旗印を掲げる。このガルナハンで雌雄を決するのだ。
いや、そもそも我ながら冷めた性格であることは承知している。
部下や他のレジスタンスが猛り、気勢を上げている傍で、ミハエルはじっと彼らの心の内を観察していた。
ロマ=ギリアムという得体の知れぬ男に連れられてここまで来た。
今、最も名を上げているレジスタンスのリーダーなだけあって、頭は切れる。目の前の戦いだけでなく、かなり先まで読んで行動しているようにも見えた。
仮面で顔を隠しているため、幹部たちは彼を信用していない。ちょっと智恵が回り、口が達者なだけの、怪しい男だと思われている。だが、ミハエルは少し違った。全幅の信頼をおいているわけではないが、彼の言うことには嘘はないと考えていた。
部下にできるなら欲しいが、まあ、無理だろう。リヴァイブの結束は固かった。それなら、後々邪魔な存在となる前に消してしまった方がいいかもしれない、とミハエルは考え始めていた。

こういうとき、あなたならどうするだろうか。
一人の男の顔を思い浮かべた。
アルベルト=ウルド=メルダース。冗長な名前がここまでしっくりくる人物はなかなかいないだろう。
あの日、翌日にもオーブ軍が侵攻してくるという状況で、二人は別れた。
既に主力部隊は撤退をすませ、ミハエルたち幹部も脱出を図るに際して、アルベルトは独りモスクワに残ると告げたのである。
責任をとる、と彼は言った。
リーダーならば、無関係な人々を巻き込んだ責任、敗北した責任を、とらなければならない、と。
責任は後でとればいい。犠牲には勝利で報いればいい。ミハエルは説得した。けれども、アルベルトは頑として譲らなかった。普段は優柔不断なくせに、妙に頑固なところがあるのだ。
彼の最期の言葉はまだ耳に残っている。
『我々は、あの無責任な東ユーラシア政府の連中と同じになってはならない。この戦は負けだ。しかし終わりじゃない。敗戦の責は全て僕が負う。ローゼンクロイツが負わなければいけないのはユーラシアの人々の思いなのだから。
―――さて、ミハエル。リーダーとして最後の命令を下す。残存部隊を率いてシベリアまで撤退。そこで体勢を立て直しつつ、時機を待て。いいね』
大企業のボンボンで、世間知らずのろくでなし。だが、自分にはない、包み込むような温かさをもった人だった。彼がいるならば何を敵に回しても勝てそうな気がした。他の者たちにとっても同じだったろう。
シベリアで、ミハエルは自分がリーダーに向いていないことに気づかされた。


「失礼します。セーヴァです」
「ああ、入れ」
静寂を破って部屋に入ってきたのは若い男だった。
セーヴァは90日革命の後から入隊した者であるが、有能で、ミハエルの片腕となっていた。
といっても、ほとんどのことが一人で出来てしまうミハエルには、秘書兼相談相手、といったところだろうか。
「ギリアム氏がそろそろ作戦会議を行いたいと」
「・・・・・・・・・そうか」
ミハエル=ペッテンコーファーは頭を切り替えた。
死者は何も為さない。彼の頭に浮かぶのはこれからのことだけだ。
「セーヴァ、君は我々が統一連合軍に勝てると思うかね」
「当然です。こちらは士気高く、地の利もあります」
「そうだろうか。正直な意見を聞かせて欲しいのだ、私は」
じろりとミハエルはセーヴァに目を向けた。
「・・・・・・わかりました。兵数・武装の差は絶対的です。そう簡単に覆せるものではありません。幸い、統一連合軍でまともに戦意があるのはモビルスーツ隊だけのようですから、戦力の集中はしやすいでしょう。緒戦で勢いをつけられると厄介なことになると愚考いたします」
「なるほど・・・ね」
ほぼ彼が考えていたことと同じだ。
問題は、敵の指揮官がどう動くか。大軍の利を生かしてじりじり締め上げてくるか、遮二無二攻め込んでくるのか。ミハエルにとっては前者の方が都合が良い。モビルスーツ隊を指揮するジュール准将は何事にも手を抜かない軍人だと聞いている。しかし、彼の上官たちはどうだろうか。
「うちの軍についてはどうかな。何か気になることはあるかね」
「・・・・・・・・・リヴァイブのモビルスーツ部隊は精強ですね」
そうだ。
少数であるが、リヴァイブのモビルスーツ部隊は他のレジスタンスと比べて図抜けていた。
この戦いの要がモビルスーツとなることは間違いない。
できることなら、引き抜いてローゼンクロイツの直属にしてしまいたいくらいだ。
シン=アスカには会ったか?」
「いえ・・・一度見かけはしましたが。それほど、どうということも」
あのキラ=ヤマトを正面から打ち破った唯一の男。
しかし、その後アスラン=ザラに敗れている。ミハエルは風評が誇張されすぎていると感じていたが、第三特務部隊をたった一人で倒した腕前は並ではない。
戦略は、彼を中核として考えるべきだろうか。
どちらにしろ、手駒として、一度は見ておく必要がある、とミハエルは考えた。


「ところで、セーヴァ。ギリアム氏はまだ考えを変えるつもりはないのだろうか」
「どうやらそのようです」
ミハエルが言ったのは、戦後処理についてのことだった。
彼とロマ=ギリアムは戦勝後の方針について意見を対立させていたのだ。
「まったく馬鹿げていると思わないかね。東ユーラシア政府とコーカサス州独立を話し合うなど、成功するはずがない。彼らがどれだけ狡猾で薄汚いペテン師か、私はよく知っている」
ロマは、統一連合軍との戦いに勝利した後、占拠した地熱プラントを交渉材料として、東ユーラシア政府にコーカサス州独立を要請するつもりでいる。
レジスタンスに占領された地域を抱え込むより、切り捨てて独立させてやった方が得だ。政府がそう考え始めているだろうことを根拠としていた。
一方のミハエルの考えは、勝利の余勢にかってユーラシア全土を席巻し、西ユーラシアまで併合。ユーラシアを手に入れたら統一地球圏連合と講和し、それぞれの地域に高度自治を保障した、ゆるやかな連邦体制を敷く、というものだった。もし、統一連合が和平に応じなければ、世界各地のレジスタンスに呼びかけて、統一連合との全面戦争も辞さない構えである。
ロマはこれに対し、戦火を広げすぎる・戦線が伸びきって崩壊する可能性が高いと、反対していた。


「仕方ないな。これはまた後でじっくり話し合う必要がある。まずは、目の前の戦いからだ」
ミハエル=ペッテンコーファーは立ち上がった。
そうだ。
とにかく、この戦いに勝たなければ何も始まらない。
ふと、彼の目に、夕陽の射光が反射した。
銀製の懐中時計だった。蓋には十字架を背にした薔薇が刻まれている。
ローゼンクロイツが発足したとき、といってもまだ30名ほどであったが、アルベルトがメンバーに贈ったものであった。
あれはいつのことだったろうか。
それほど経っていないはずなのに、随分昔のことのように感じてしまう。
しかし、あの男と語り合った志は、今も何ら変わらない。アルベルトは、自分の胸のうちに生きている。同じ夢を分かち合った友には別れなどないのだ。

「征ってくる」
もう一度だけ、亡き友の笑顔を思い浮かべ、彼は部屋を出た。

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