かのダニエル・ハスキルがイザークへ内密に連絡を取っていた時刻から少し経った頃、別の場所でも状況に急速な変化があった。
それは遠征軍副指令ジアード少将の座乗艦の中で起こる。
それは遠征軍副指令ジアード少将の座乗艦の中で起こる。
カリム・ジアード少将はオーブ系武将としては珍しいコーディネイター出身の武人である。
元々はザフトからの亡命武将で長年の勤勉が認められ近年、ようやっと将官の地位を得た臥薪嘗胆の人物だ。
今度の地熱プラント防衛作戦は彼にとって初めて与えられた大掛かりな任務であり、生粋のオーブ軍人でないカリムにとってはなんとしてもここで武勲を挙げ、オーブへの忠誠と自身の才覚をアピールしたいという思いがある。
そして今回の統一連合遠征軍総司令であり大西洋連邦軍人代表でもあるマルセイユとは自国オーブの代表として功績を争う立場にあり、オーブ軍の面子にかけてマルセイユに劣る働きはできないのである。
それ故にカリムは歯がゆい。
横柄な態度を取り続けるマルセイユ、詳細な地図をまともに用意できないダニエル、青二才の分際で反抗的なイザークとディアッカ。
「どいつもこいつも役立たずばかりだ、まともな武人はこの軍には一人もおらんのか?」
つい先日も東ユーラシア秘蔵のMAを擁する精鋭部隊が噂の未確認ガンダムに敗れたと聞いた。
「それ見たことか!東ユーラシア軍人の錬度など所詮その程度であろ、やはりオーブの武人こそが合戦を指揮せねばならぬ。」
オーブの兵こそ精強にして無敵、それをこそカリムは証明したい。
そのためには地図だ、ある程度ゲリラの位置を把握できる地形データさえあれば己自ら指揮を取り、すぐにでもゲリラ共を一網打尽にしてみせる自信はあった。
「兵糧類の備蓄も既に余裕がない、やはり例の女と接触してみるしかないか。」
カリム・ジアードとて馬鹿ではない、オーブ政府経由で地図の入手が出来ないか既に各方面へ働きかけはしてある。
そして今朝早く、カリムの部隊へ内密な接触を求めてきたグループがあった。
遠征軍よりずっと前に東ユーラシア入りしていた軍事組織「治安警察」である。
元々はザフトからの亡命武将で長年の勤勉が認められ近年、ようやっと将官の地位を得た臥薪嘗胆の人物だ。
今度の地熱プラント防衛作戦は彼にとって初めて与えられた大掛かりな任務であり、生粋のオーブ軍人でないカリムにとってはなんとしてもここで武勲を挙げ、オーブへの忠誠と自身の才覚をアピールしたいという思いがある。
そして今回の統一連合遠征軍総司令であり大西洋連邦軍人代表でもあるマルセイユとは自国オーブの代表として功績を争う立場にあり、オーブ軍の面子にかけてマルセイユに劣る働きはできないのである。
それ故にカリムは歯がゆい。
横柄な態度を取り続けるマルセイユ、詳細な地図をまともに用意できないダニエル、青二才の分際で反抗的なイザークとディアッカ。
「どいつもこいつも役立たずばかりだ、まともな武人はこの軍には一人もおらんのか?」
つい先日も東ユーラシア秘蔵のMAを擁する精鋭部隊が噂の未確認ガンダムに敗れたと聞いた。
「それ見たことか!東ユーラシア軍人の錬度など所詮その程度であろ、やはりオーブの武人こそが合戦を指揮せねばならぬ。」
オーブの兵こそ精強にして無敵、それをこそカリムは証明したい。
そのためには地図だ、ある程度ゲリラの位置を把握できる地形データさえあれば己自ら指揮を取り、すぐにでもゲリラ共を一網打尽にしてみせる自信はあった。
「兵糧類の備蓄も既に余裕がない、やはり例の女と接触してみるしかないか。」
カリム・ジアードとて馬鹿ではない、オーブ政府経由で地図の入手が出来ないか既に各方面へ働きかけはしてある。
そして今朝早く、カリムの部隊へ内密な接触を求めてきたグループがあった。
遠征軍よりずっと前に東ユーラシア入りしていた軍事組織「治安警察」である。
「貴重な時間を割いていただき感謝いたしますわ、カリム・ジアード少将。私は治安警察保安部長メイリン・ザラと申します。」
カリム座乗艦客室に用意された上等なソファーから優雅な動作で立ち上がり、赤髪の女将校ザラ中佐は微笑を浮かべてそう言った。
「こちらは我が配下で保安部所属のライヒ少佐。」
「こんにちは。」
紹介された金髪碧眼の少女将校は無表情にそう言い、ペコリと頭を下げる。
「ザラ殿、ライヒ殿、そうかしこまる必要は無い。それよりも貴公らはガルナハン近辺の地図なるものを所有しているそうだな?」
カリムは挨拶の時間すら惜しい心情らしく、性急な態度で本題に入ろうとした。
早速来たわね、というにんまりとした表情でメイリンは鷹揚に頷いてみせる。
「我々の所有する地形データは未完成の物ではありますが。」
メイリンは背後のエルスティンに目配せをする、それに応じ彼女の副官は持っていた黒色のアタッシュケースを開き、中にある光学ディスクをカリムに公開した。
「前保安部長の所有していた地形データに治安警察独自のコネクションから入手した地形データを組み合わせて完成させたものですわ、未完成とはいえ十分お役に立つはずです。」
メイリンは魅惑的な表情を作り、そう説明する。
無論、元来治安警察が所持していたデータだけでは詳細なガルナハン地図を作るにはとても足りないはずで、東ユーラシア政府の内部から違法な情報リークがあったことをカリムに推測させた。
「さすがは噂に名高い魔女殿といったところか。」
メイリン・ザラが戦術において魔女とも揶揄される逸材であることはカリムも風の噂に聞くところである。
「だが良いのか?総司令のマルセイユ殿でなく副指令である私にこんなものを渡して。」
「あら、売り物はより高く買っていただける方にお売りするものでしょう、閣下?」
メイリンは意味ありげに問いかけた。
「ふむ・・・・・・というと貴公の求める代価はなんだ?」
「大したことではありません、今後閣下に治安警察とオーブ正規軍の友好の橋渡しになっていただければ幸い、ただそれだけですわ」
(治安警察か・・・・ここで彼奴らとのパイプを作っておくことは我が将来にとっても損は無いかも知れぬ。)
カリムとてメイリンと同じくコーディネイターの外来武将、オーブ軍内における立場はそう強くない。後ろ盾になってくれる組織があれば利用価値はあろう。
カリムは心の内でそう打算する。
「あいわかった、今後そちらになにか不測の事態あらばこのカリム・ジアード少将を頼りにするが良い。」
「ご快諾有り難うございます閣下、あなたこそ真のサムライですわ。」
治安警察メイリン・ザラとオーブ正規軍カリム・ジアード、両者の利害はここに一致をした。
カリム座乗艦客室に用意された上等なソファーから優雅な動作で立ち上がり、赤髪の女将校ザラ中佐は微笑を浮かべてそう言った。
「こちらは我が配下で保安部所属のライヒ少佐。」
「こんにちは。」
紹介された金髪碧眼の少女将校は無表情にそう言い、ペコリと頭を下げる。
「ザラ殿、ライヒ殿、そうかしこまる必要は無い。それよりも貴公らはガルナハン近辺の地図なるものを所有しているそうだな?」
カリムは挨拶の時間すら惜しい心情らしく、性急な態度で本題に入ろうとした。
早速来たわね、というにんまりとした表情でメイリンは鷹揚に頷いてみせる。
「我々の所有する地形データは未完成の物ではありますが。」
メイリンは背後のエルスティンに目配せをする、それに応じ彼女の副官は持っていた黒色のアタッシュケースを開き、中にある光学ディスクをカリムに公開した。
「前保安部長の所有していた地形データに治安警察独自のコネクションから入手した地形データを組み合わせて完成させたものですわ、未完成とはいえ十分お役に立つはずです。」
メイリンは魅惑的な表情を作り、そう説明する。
無論、元来治安警察が所持していたデータだけでは詳細なガルナハン地図を作るにはとても足りないはずで、東ユーラシア政府の内部から違法な情報リークがあったことをカリムに推測させた。
「さすがは噂に名高い魔女殿といったところか。」
メイリン・ザラが戦術において魔女とも揶揄される逸材であることはカリムも風の噂に聞くところである。
「だが良いのか?総司令のマルセイユ殿でなく副指令である私にこんなものを渡して。」
「あら、売り物はより高く買っていただける方にお売りするものでしょう、閣下?」
メイリンは意味ありげに問いかけた。
「ふむ・・・・・・というと貴公の求める代価はなんだ?」
「大したことではありません、今後閣下に治安警察とオーブ正規軍の友好の橋渡しになっていただければ幸い、ただそれだけですわ」
(治安警察か・・・・ここで彼奴らとのパイプを作っておくことは我が将来にとっても損は無いかも知れぬ。)
カリムとてメイリンと同じくコーディネイターの外来武将、オーブ軍内における立場はそう強くない。後ろ盾になってくれる組織があれば利用価値はあろう。
カリムは心の内でそう打算する。
「あいわかった、今後そちらになにか不測の事態あらばこのカリム・ジアード少将を頼りにするが良い。」
「ご快諾有り難うございます閣下、あなたこそ真のサムライですわ。」
治安警察メイリン・ザラとオーブ正規軍カリム・ジアード、両者の利害はここに一致をした。
メイリン達が立ち去るやいなや、カリムはすぐに行動を開始する。
「私の子飼いの部隊のみに招集をかけろ、直ちに不埒なゲリラ共を一掃する。」
「マルセイユ総司令には伝えなくて宜しいので?」
「たかが十や二十のMS部隊など我が艦の戦力のみで十分に叩けるわ。むしろマルセイユに参戦を許す暇を与えるな、電撃作戦で一気にカタをつけるのだ。」
カリムにはオーブの正規軍こそ世界最強の軍隊であるという確かな自負があるのだ。
それをマルセイユやイザーク達に見せ付けてやるつもりであった。
「今作戦はこのカリム・ジアード自ら指揮を取る。大空のサムライと恐れられた我が手並み、ガルナハンの野猿共に思い知らせてくれるわ!オーブ本国から届いた例の機体をすぐに用意させよ!!」
「私の子飼いの部隊のみに招集をかけろ、直ちに不埒なゲリラ共を一掃する。」
「マルセイユ総司令には伝えなくて宜しいので?」
「たかが十や二十のMS部隊など我が艦の戦力のみで十分に叩けるわ。むしろマルセイユに参戦を許す暇を与えるな、電撃作戦で一気にカタをつけるのだ。」
カリムにはオーブの正規軍こそ世界最強の軍隊であるという確かな自負があるのだ。
それをマルセイユやイザーク達に見せ付けてやるつもりであった。
「今作戦はこのカリム・ジアード自ら指揮を取る。大空のサムライと恐れられた我が手並み、ガルナハンの野猿共に思い知らせてくれるわ!オーブ本国から届いた例の機体をすぐに用意させよ!!」
ちゃぷんっ
「ふぅぅ・・・・・・仕事の後のお風呂って、やっぱ格別よね!」
隠密行動の内にガルナハンのホテルへと帰ってきたメイリンはすぐさま浴槽へと駆け込んだ。戦場の匂いを落としたいというよりも根っから風呂好きなのであろう。
「ジアード少将は独力でガルナハン攻撃を画策すると思われます。」
「でしょうね。」
外で報告書をまとめているエルスティンと風呂場から会話を行う。
「カテゴリーSは強敵です、下手をするとジアード隊の方が返り討ちに遭うかもしれません。」
「ま、そーなったらなったでしょーがないわよね、所詮ジアード殿もその程度の武将だったってことよ。」
「そうですか。」
「それならそれでシン・アスカの株がさらに上がるわ、このあたしが討って踏み台にするに丁度いい獲物となる。逆にシンがジアード殿に倒されたとしても治安警察の謀略は大成功よ、どっちに転んだって損はしないから安心しなさい。」
メイリンは見事な脚線美を浴槽の中で躍らせながら、そう解説する。
「そうですか。」
エルスティンの返事はいつも通りそっけないものだ。
「あたしね、いっとくけど治安警察の保安部長ぐらいで満足する気はサラサラないの。」
メイリンはここから、やや雄弁になる。
「いずれは統一連合で覇を唱える地位にまで上り詰めるつもりよ。」
このところのメイリンは以前と変わってきたといえる、彼女は元々出世欲などとはおよそ縁の無いタイプの女性であった。それがドーベルマンの死によって治安警察の最高幹部にいきなり抜擢されたのだ。人の上に立つということに免疫のなかったメイリンにとってそれは禁断の果実の味そのもの。故国と家族を裏切り、カガリ主席とアスラン将軍の仲を裂いた女などと世間から叩かれ、あげくその夫アスランとの不仲で酒に溺れ一時はどん底にまで堕ちたメイリンが 初めて知った支配者の味。権力という力はいまだ内に大きな不安を抱える彼女には全ての問題を解決する鍵に見えたのかもしれなかった。
「あたしは必ず野望を叶えて見せるわ。覇道、そうこれは覇道なのよ。」
「覇道・・・ですか・・・・・・・」
「エルスティン、あなた随分腕が立つからあたしの副官にしてあげる。いずれは城の一つも与えてあげるからあたしの野望に力を貸しなさいよね。」
「・・・・・・拝命しました。」
その返答はいつもの無愛想な口調となんら変わりは無かったのだが。
「これからメイリン・ザラの時代がやって来るわよ、あたしはもっともっと上に進むんだから!」
メイリンは強い口調でそう言って、ザブンと浴槽に端正な顔をくぐらせた。
長い赤髪がお湯を一面に撥ね飛ばし、それは艶やかな色気を醸し出す。
「ふぅぅ・・・・・・仕事の後のお風呂って、やっぱ格別よね!」
隠密行動の内にガルナハンのホテルへと帰ってきたメイリンはすぐさま浴槽へと駆け込んだ。戦場の匂いを落としたいというよりも根っから風呂好きなのであろう。
「ジアード少将は独力でガルナハン攻撃を画策すると思われます。」
「でしょうね。」
外で報告書をまとめているエルスティンと風呂場から会話を行う。
「カテゴリーSは強敵です、下手をするとジアード隊の方が返り討ちに遭うかもしれません。」
「ま、そーなったらなったでしょーがないわよね、所詮ジアード殿もその程度の武将だったってことよ。」
「そうですか。」
「それならそれでシン・アスカの株がさらに上がるわ、このあたしが討って踏み台にするに丁度いい獲物となる。逆にシンがジアード殿に倒されたとしても治安警察の謀略は大成功よ、どっちに転んだって損はしないから安心しなさい。」
メイリンは見事な脚線美を浴槽の中で躍らせながら、そう解説する。
「そうですか。」
エルスティンの返事はいつも通りそっけないものだ。
「あたしね、いっとくけど治安警察の保安部長ぐらいで満足する気はサラサラないの。」
メイリンはここから、やや雄弁になる。
「いずれは統一連合で覇を唱える地位にまで上り詰めるつもりよ。」
このところのメイリンは以前と変わってきたといえる、彼女は元々出世欲などとはおよそ縁の無いタイプの女性であった。それがドーベルマンの死によって治安警察の最高幹部にいきなり抜擢されたのだ。人の上に立つということに免疫のなかったメイリンにとってそれは禁断の果実の味そのもの。故国と家族を裏切り、カガリ主席とアスラン将軍の仲を裂いた女などと世間から叩かれ、あげくその夫アスランとの不仲で酒に溺れ一時はどん底にまで堕ちたメイリンが 初めて知った支配者の味。権力という力はいまだ内に大きな不安を抱える彼女には全ての問題を解決する鍵に見えたのかもしれなかった。
「あたしは必ず野望を叶えて見せるわ。覇道、そうこれは覇道なのよ。」
「覇道・・・ですか・・・・・・・」
「エルスティン、あなた随分腕が立つからあたしの副官にしてあげる。いずれは城の一つも与えてあげるからあたしの野望に力を貸しなさいよね。」
「・・・・・・拝命しました。」
その返答はいつもの無愛想な口調となんら変わりは無かったのだが。
「これからメイリン・ザラの時代がやって来るわよ、あたしはもっともっと上に進むんだから!」
メイリンは強い口調でそう言って、ザブンと浴槽に端正な顔をくぐらせた。
長い赤髪がお湯を一面に撥ね飛ばし、それは艶やかな色気を醸し出す。