信じるモノ
放送が終わり、道路を駆ける一台のバイクが居た。
カブトエクステンダーに跨る葦原涼だった。
フルフェイスのヘルメットをかぶり赤と白のライダーグローブをはめている。
(あすか…)
この眼で死を確認した命の恩人である女性。
その名が放送で告げられた。
更に本郷という2つの同じ名前…。
自分と拳を交えた男がどちらの本郷だったかはわからないが、彼もまた命を終えたということだろう。
あの戦いが死に至らしめたとは思えない。おそらくはその後で事が起こったのだろう。
(もしかすると四号か…)
仲間と共にあすかを殺した第四号、人類のために戦ったはずの者、それが実は戦闘狂だという事実を見出した。ならば本郷も四号の手にかかった可能性も考えられる。
未確認生命体第四号…見つけ次第問いただすか、この手で葬るか…。
今は唯、“一発殴りたい”という感情だけが渦巻いていた。
そうして悲しみの思いを胸にバイクを走らせる葦原。
すると前方に巨大な施設が見えてきた。
『動物園』と書かれた看板を眼にしながら静かにバイクを止める。
フルフェイスのヘルメットを脱ぎ、入り口から園全体を見渡す。
どうやら動物は一匹もおらず、何も捕らえていない檻だけが置かれていた。
と、その時入り口付近のベンチに座り込む1人の青年を見つけた。
気になった葦原はヘルメットをハンドルに預けエンジンを切ると、警戒の眼差しで青年へと歩み寄った。
※※※
「おい 大丈夫か?」
葦原は座ったまま俯く青年の肩に手を当てて声を掛けた。
しかし青年は気付かないのか、何かをうわ言の様に呟いている。
「海堂…なんで君が…」
生気を失ったような眼で俯いたまま呟く青年、木場勇治は絶望していた。
同じオルフェノクであり、友であった海堂が死んだ。
共に暮らし共に戦い続けてきた仲だった。
偶然にもオルフェノクになったとはいえその運命に流されずに生きていた。
彼は『正しく』生きていたはずだった。それなのに…死んだ。
正しく生きる者が死に、戦いに乗るような悪しき者が生き残っている。
唯の弱肉強食と言えばそれまでだが。それだけで言い切れないものも感じる。
正しいから死んだのか?
生き残った方は悪なのか?
そらなら生き残っている自分は…。
(教えてくれ海堂…)
赤い化け物との戦いでファイズギアを預け戦闘を任せてきた。
あの時自分が残っていれば良かったのだろうか。
しかしあの時は、ああするのが最善だった。
まさかあの怪物にやられたのだろうか…だとすれば戦わせずに一緒に逃げれば良かった。
戦わせた事によって命を落としたのならば、彼の殺したのは自分だ。
やはり自分は…オルフェノクは悪なのか…。
そして木場の脳裏に2人の人間が思い浮かぶ。
桜井侑斗と香川という人物。
桜井侑斗は自分を「化物」と呼び罵った。それが彼の人間としての本心であったのだろう。
所詮は彼らにとっては化物という認識にしかない、人よりも下の存在と考えているのだろう。
そして香川。
彼は人間でありながら殺し合いに乗っていた。持っていたライフルに発砲した跡が残っていたのが証拠だ。それに桜井郁斗をも狙っていた。
それを防ぐために香川を追い払ったのに、桜井には罵られた。
なんとも言いがたい心情である。
今回の放送で香川の名が呼ばれなかったのは、幸か不幸かわからない。
言えるのは、海堂の名を呼ばれたのは不幸だと言うことだけだった。
※ ※※
「おい!!」
「え…?」
そこへ、葦原の大きな声が響いた。
考え込んでいて気がつかなかった木場もやっと顔を上げた。
「………知った名前が呼ばれたのか?」
葦原は木場の呟きと表情から、ある程度のことは察知した。
おそらく知り合いが死んだことに落胆しているのだろうと。
「…海堂…大事な仲間でした…」
一度は葦原を見た木場の瞳は、空ろな目をして再び地面へと視線を移した。
するとそれを見た葦原は少しだけ沈黙して、無言のまま木場の横へと腰掛けた。
「俺は葦原涼…あんたは?」
沈みきった表情の木場に問いかける葦原。
「木場…勇治…」
そうして木場は小さな声で名乗った。
「木場か…あんたは戦いに乗っているのか?」
「…そんなこと…!…俺は戦いを止めたいと思ってる!」
葦原の突然の問に声を荒げて反論する木場。
「…だったらなぜ、こんな所でいじけている?」
「いじけているわけじゃ…唯、わからなくなったんだ…人間を信じていいのか…」
その応えに葦原は一度大きく瞬きをするとスクッと立ち上がり、木場の正面へと回った。
「………俺を信用できると思うか?」
葦原は自分の顔が見えるように立って問いかける。
それに眉をしかめながら無言で見つめる木場。
「…人であれ、なんであれ完全に信用できる奴なんて居ない」
何かを思い返しながら葦原は言葉を続ける。
「俺も信じ続けて何度も失い、裏切られてきた…」
悲しみ暮れた瞳が木場に何かを訴えかけているようだった。
「…それなら何を信じれば…?誰を信じれば…」
「自分だ」
動揺したような声で言う木場に葦原は一言で返した。
「…自分?でもそれは人間を信じるのと同じじゃ……」
「…………そう、思うか?」
木場の言葉に静かに応えた葦原は、おもむろに手にはめたグローブを外し始めた。
そうして木場の眼前に素手を晒した。
※ ※※
「…それは?!」
木場は目を見開いて驚愕した。
目の前に見える葦原の手は奇妙にも『老化』していた。
何故このようなことになっているのかわかない。
それでもこの様な病気なんか、聞いたことも無い。
だとすれば彼も自分と同じような…。
「………俺はもう人でもない、唯の怪物だ」
そう言いながら葦原は再びグローブをはめる。
「それでも俺は自分を信じる。たとえどれだけ裏切られ、絶望し、地獄を見たって」
グローブをはめた拳が強く握り締められる。
木場はその言葉に心が揺れていた。
葦原涼…彼は「人では無い」ことを明かした。
それがどういう行為か、身を持ってわかっている。
オルフェノクという正体を明かせば普通の人ならば恐れ慄いていく。
化物、怪物と罵られ、さげずまれる。
元恋人であってもそれは同じことだった。
だが彼は、そんなことを恐れる様子も無く、手に残る「証拠」を見せた。
口ぶりからすれば、自分と同じような目にあって来たのかも知れない。
それを踏まえてなお正体を明かしたと言うのなら、自分が惨めに見える。
できる限りはオルフェノクの姿は見せようとはしなかった。
それが相手のためであり、自分のためだと考えていた。
敵対する者にはしかたないとしても、味方や事情を知らない者には脅威になるだけだ。
だが彼は、脅威を隠そうとはしない。むしろ誇りにしているようにも見える。
どういった経緯で、彼が人でなくなったかはわからない。
それでも自分と同じく、化物、怪物に「なってしまった者」だろう。
同じ境遇の者として、自分は酷く惨めだ。
人でなくなっても、彼は人以上に人の心を持っている。
それが羨ましく思え、惹かれた。
自分にそのような強い心を持てるだろうか?
香川や桜井……人間を信じられなくなっていた。
もし彼なら信じただろうか…。おそらく信じただろう。
その瞳が、握られた拳が物語っているようだった。
そして感じる…姿や性格、まるで正反対だが、心は海堂に通ずるものがある、と。
この葦原という男は信用できる…いや、それではいつもと同じ。
そうやってすぐに信用してしまうのが、自分の悪い癖なのかもしれない。
彼の言うとおり、完全に信用できるものなどいない。
だったら自分を信じる…『葦原は信用できる』という自分を信じる。
「葦原さん…俺も信じます…自分を…」
すると木場は葦原を見据えて呟いた。
そして次の瞬間、顔に不気味な黒い影を現した。
「……あんたもか」
葦原は、その影に別段驚きもせず、少しだけ鼻で笑った。
「…後悔するなよ」
影を潜めた木場に向かって、芦原の瞳は力強さを増す。
目の前の男、木場勇治、先程まで全てに失望したような目をしていた。
なのに今はもう真逆の表情を見せている。自分の言葉に励まされる事でもあったのだろうか。特に励ますような事を言ったつもりはなかった。ただ記憶を振り返り、質問に答えただけだ。
それが木場の瞳から失望を取り除く結果になったということだろう。
改めて見る木場の目は真っ直ぐ前を見据えて居る。
しかし、どこか真っ直ぐ過ぎる気も否めない。
「…けれど、あんたの行動が間違いだと感じたら、俺は容赦なくあんたを止める」
そして一言忠告のように言った。その真っ直ぐな瞳が逆に心配になったからだ。
戦いに乗っていないと言うのは真実だろう。実際、自分を襲ってはこない。
しかし自分を信じた結果だけが正しいとも限らない。その判別が木場にできるのか。
真っ直ぐな瞳の奥底が、揺らいでいるようにも見えた。
「……はい」
葦原の真剣な眼差しに凄みを感じて、少し言葉が詰まってしまう木場。
これは自分に釘を刺しているのだろうか…。木場はそう考えてしまう。
もし、自分が戦いに乗るようなことになったら止めるということだろう。
そんなことには絶対にならないと思いつつも、まだ心のどこかで人間を良くは思えないところがある。しかし人間が憎いのと、殺し合いに乗るのは話が別だ。
自分が人間なのか化物なのか、それは葦原にも課せられていることだろう。
しかし彼はそんなことを、物ともしていないように見える。
その心の強さが何なのかを知りたいのかもしれない…。
※ ※※
「…さて 俺はもう行くが あんたはどうする?」
葦原はカブトエクステンダーに跨り、ヘルメットを手に取って問いかけた。
「…俺も行きます…連れてってください…話をしたい人がいるんです」
木場は拳を強く握り締めて応えた。
桜井侑斗、香川、彼らにもう一度会って話し合いたい。
桜井はまだ化物と呼ぶだろうか、香川は妨害してきた自分をどう見るだろうか。
その結果はわからない。
結果によって自分さえ信じることが、できなくなってしまうかもしれない。
だがそれでも会って話し合いたい、それだけが強く心に浮かんだ。
葦原のような強き心を持って人間の真意を見極めたい。
しかしそれでも裏切られてしまった時は…。
今は答えを出せない。
その時、その場の、自分を信じるしかない。
「…いいけど俺も探している奴が居る、そっちを優先するぞ」
「構いません」
決意のこもった返事を聞いた葦原は、ヘルメットを木場へと投げ渡した。
それを両手で上手くキャッチした木場は、微笑みながら葦原の後部シートへと跨った。
「…四号…それから風見志郎ってのを知らないか?」
葦原はバイクのエンジンを掛けながら後部に座る木場へと尋ねる。
「よんごう?…いやどちらも聞いたこと無いです」
そう応えながらヘルメットを被る木場。
「……そうか、まぁ他にも聞きたいことがある。走りながら聞こう」
そう呟くと同時に葦原はハンドルを回し、カブトエクステンダーを発進させた。
情報交換する2人を乗せた赤いバイクは動物園を後にして島を南下していく。
2つのデイパックに潜むベルト達も唯静かにその時を待っていた…。
状態表
【葦原涼@仮面ライダーアギト】
【1日目 日中】
【現在地:E-6 動物園手前】
[時間軸]:第27話死亡後
[状態]:全身負傷(中)、疲労(大)、30分間変身不可(ギルス)
腕部に小程度の裂傷、変身の後遺症、仇を討てなかった自分への苛立ち
[装備]:フルフェイスのヘルメット、カブトエクステンダー@仮面ライダーカブト
[道具]:支給品一式(二人分)、ホッパーゼクターのベルト、デルタギア
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには加担しない。脱出方法を探る。
1:立花を殺した白い怪物(風のエル)、あすかを殺した白いライダー(ファム)未確認生命体4号(クウガ)に怒り。必ず探し出して倒す。
2:立花藤兵衛の最後の言葉どおり、風見の面倒を見る?
3:自分に再び与えられた命で、救える者を救う。戦おうとする参加者には容赦しない。
4:黒いライダー(カイザ)を探してみる。
6:五代雄介の話を聞き、異なる時間軸から連れて来られた可能性を知る。
白い怪物(ダグバ、ジョーカー)を倒す。
7:木場が間違いを犯した場合全力で止める。
8:デルタギアを誰か、はっきりとこの殺し合いに反抗する者に託す。(今の所木場が有力
※五代の話を聞き、時間軸のずれを知りました(あくまで五代の仮説としての認識です)。
※剣崎一真の死、ダグバの存在、ジョーカーの存在などの情報を五代から得ました。
※ホッパーゼクターが涼を認めました。(資格者にはすぐにでも成り得ます)また、デイバックの中に隠れています
※カブトエクステンダーはキャストオフできないため武装のほとんどを使えません。
今の所、『カブトの資格者』のみがキャストオフできます。
※五代(クウガ)は殺し合いに乗ったと勘違いしています。
※勿論、デルタギア装着によるデモンズストレートによる凶暴化などは知りません。(デルタギアの使い方は知っています)
【木場勇治@仮面ライダー555】
【1日目 現時刻:日中】
【現在地:E-6・動物園手前】
【時間軸】:39話・巧捜索前
【状態】:全身に中程度の打撲。他人への不信感。全身に疲労大、背中等に軽い火傷。1時間半変身不可(ホースオルフェノク)
【装備】:なし
【道具】:基本支給品×1、Lサイズの写真(香川の発砲シーン)、サイガギア、トンファーエッジ
【思考・状況】
基本行動方針:???
1:香川と侑斗と話し合う。その上で人間の真意を見極める。
2:葦原に憧れに近いものがある。
3:死神博士、ゴルゴス、牙王、風のエル(名前は知らない)、東條を警戒。影山はできれば助けたい。
4:事情を知らない者の前ではできるだけオルフェノク化を使いたくない。
【備考】
※香川から東條との確執を知り、侑斗から電王世界のおおまかな知識を得ました。(赤カードの影響で東條だけの情報が残っています。)
また、第一回放送の内容も二人から知りました。
※香川を赤カードの影響で危険人物として認識したままです。
※自分を信じるが、自分さえも信じられなくなったらその時は…?
090:[[肯定/否定――my answer]] | 投下順 | 092:[[鬼³]] |
090:[[肯定/否定――my answer]] | 時系列順 | 092:[[鬼³]] |
[[葦原涼]] | ||
[[木場勇治]] |