「ワルプルギスの夜」




「マミさん、どこいくの?」
「ちょっとね」
「こんな嵐だよ?避難警報も出ているのに外に出ちゃダメだよ!」
「いいえ、私が行かなきゃ…鹿目さんはおとなしくしていてよね!」
「あ、待って…!」


これは見滝原の体育館での少女の会話
見滝原は嵐に包まれ、見滝原の住人達は避難警報が出て体育館に避難していた。
巴マミ鹿目まどかの忠告を無視し、外へ出て行った。


「あんな命知らずなんてほっときなさいよ」
「仁美ちゃん!」
「あの先輩、巴さんだっけ?いきなり三日間いなくなったと思ったら当たり前のように復学しているし…」
「うん…確かほむらちゃんも同じ時期にいなくなっちゃったんだよね」
「暁美さんのほうはまだ戻ってきてなくて、巴さんが警察に疑われてるのよね」


二人の会話の通り巴マミと暁美ほむらは数週間前、三日間突如消失した。
当然、捜索願いが出され警察が出動した。しかし、結局三日間の間で発見される事は無かった。
だが消失から四日目の早朝、消失した二人のうちの一人巴マミが帰ってきた。
警察やマスコミに三日間どこにいたのか、暁美ほむらはどこなのか問われたが
巴マミは"殺し合いに参加させられた""暁美ほむらは既に誰かに殺されている"と答えることは無かった。

その後警察の捜索の甲斐なく、暁美ほむらは行方不明のままだった。
真っ先に暁美ほむらの消失の犯人として疑われたのは同時期に消失した巴マミだったが、
幼年期に交通事故で親を亡くした巴マミ、心臓の病気で長期間入院していた暁美ほむら。
この二人に共通点もあるはずがなく、動機もわからず、事件は迷宮入りのままだった。

しかし巴マミは美樹さやかと鹿目まどかだけには事実を話した。
三日間殺し合いに巻き込まれたこと、そこで出会った人たち、戦ってきたこと、すべてを話した。
美樹さやかと鹿目まどかは巴マミの話は信じたが、暁美ほむらの死だけは信じられなかった。



◆◆



「ごめんなさい、待たせたかしら?」
「おせーぞ、マミ!」
「そこまで怒らなくたっていいじゃないか、杏子」

待ち合わせの場所はある廃ビルの屋上。
そこには赤髪の魔法少女の佐倉杏子と白い猫のような動物のキュゥべえがいた。

「しかし二人であんなデカい魔女を倒せるのか?」
「マミと杏子の力じゃ殆ど不可能だろうね」

相手はワルプルギスの夜。これまでの魔女とは比較にならないほど強力で巨大な魔女である。
普通の杏子とマミの力では到底倒すことは不可能なほどの力を持った魔女であった。
しかし、これは『普通』の杏子とマミの力でだったらの話だ。

巴マミは、三日間の間に様々な力を貰った。

「佐倉さん、心配はいらないわ」
「はあ?」
「大層な自信だね、マミ」

「でもこれだけは言っておこう、マミの力じゃあの魔女は絶対倒せないよ」
「せめて、まどかの力がないと」

「ロッソファンタズマ!!」
マミの目が赤く光り、マミの体が輝き、そして、




巴マミは、分裂した。




出現したマミはマミと平手打ちをし、ワルプルギスの方に立ち向かっていった。
その光景を見た赤髪の魔女は驚き、ネコのような動物はあっけにとられた。


「マミ?そんな技使えない筈だよ?」
「仮に使ったとしても一瞬でソウルジェムが濁ってしまう」


しかし、巴マミのソウルジェムは濁っていなかった。
むしろ、今まで見てきたソウルジェムの中で最も輝いていた。

猫のような動物は硬直していた。
因果を越えた、意味の分からない現実から逃避するように、固まっていた。
そんな間にもマミは分裂をしてはワルプルギスに立ち向かっていく。
分裂したマミの動きは以前のマミと全然違い、熟練された戦い方をしていた。

二人が四人、四人が八人と増えていくのを、赤髪の魔法少女はただ見ていた。

巴マミは三日間の間に、魔女のこと、戦い方のことを学んだ。
マミは杏子に向かって手を差し出し、こう言った。

「私は金嬢やるから杏子さんは紅嬢ね!」



「なにいってんだこいつ」

杏子は思わず突っ込んだ。
今はラスボス戦の最中で明らかに場違いなのだが、突っ込まざるを得なかった。

すると、7人のマミの相手をしているワルプルギスから一つの光線が襲いかかってきた。
黒く濁っている光線が、マミのソウルジェムを撃ち抜きそれと同時にマミは倒れた。
杏子は飛び出しマミを起こすと、それを見ていたキュゥべえは言った。

「ソウルジェムがやられたんじゃあお終いだね、マミ」
「何言ってんだ、おめぇ!!」
「何って当然じゃないか、聞かれていないんだから」
「君達魔法使いの契約をする時、君達の魂を抜き取りソウルジェムに収めるのさ」
「…っ!?」
「つまり、マミは魂を撃ち抜かれた」
「これであいつを倒す手立てはまどかの契約しかないね」
「テメ…!外道な!」

「心配しないで」


声がした。杏子は声のしたほうに目を向けるとそこにはマミが立っていた。
自動再生したのかソウルジェムの損傷も無くなっていた。

しかも巴マミは10人になっていた。



「訳がわからないよ」

キュゥべえは思わず突っ込んだ。
今はラスボス戦の最中で明らかに場違いなのだが、突っ込まざるを得なかった。
よもやそれが黄金練成によるものとは、神ならぬインキューベーターには理解できなかった。

10人のマミはワルプルギスに向かって飛んで行った。
「ま、待てよ!アンタどうやって倒すつもりなんだよ!?」
赤髪の魔法少女は尋ねた。マミは攻撃をしながら答えた。
「魔女も魔法少女しながら百合百合しているところもあるのよ」
「すまん、意味がわからん」
「とにかく私が指示するから、それに従ってて!」
「お、おう」



◆◆



マミの指示は的確だった。

攻撃してくる時の隙を突き、防御してくる時の空きを突き、逃げれば先回りをし、
途中でツヴァイフローレンごっこもしつつ、確実にダメージを与えていった。
ワルプルギスはいつの間にか上下を入れ替えていたが、やられっぱなしだった。
この巴マミの鍛練された動きはまるでワルプルギスのような敵と戦ったような動きであった。
それもその通り、実際あの三日間にワルプルギスと同格あるいはその上をいく敵と戦ったのだ。
更にある少年から魔女の戦い方を学んだマミには、下手に強大な力を持っていた分真っ当な戦闘経験の薄かったワルプルギスは敵わなかった。

そしてついに杏子の攻撃でワルプルギスは悲鳴をあげた。
ワルプルギスは既にボロボロで、いつしか街を包んでいた嵐は弱くなっていた。
対する魔法少女達はほぼ無傷であった。もう勝敗は目に見えて明らかであった。


「そろそろね、トドメよ!」
「あぁ!」


マミがそう言うと10人いたマミは6人、4人、2人と融合していった。
遂に一人に戻ったのと同時にマミは大きなマスケット銃を取り出した。
マミはそのマスケット銃を握り、狙い、構えた。
「魔女よ、あなたの呪われた死の舞台もここで幕を下ろすわ……私の手でね!」

マミは大声で言った。

「喰らいなさい!これがティロ・フィナーレを超えた真のティロ・フィナーレ!」

「轟天破万連砲・エンドブレイク・ティロ・フィナーレェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!」



「なげえよバカ!」


杏子は吠えた。

銃口からは一矢の白く長い光が飛び出す。
その光は全てを貫き、ワルプルギスに直撃し、お腹に大きな穴をあけていった。

「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

ワルプルギスは叫んだ。
その叫びは見滝原中に響いた。
それと同時に雲が晴れ、光が街中に差し込んだ。


それを見ていた赤い魔法少女の佐倉杏子は呟いた。
凄い、と。

感情の無いキュゥべえは驚いていた

「まさか、因果から抜け出すとは…」


鹿目まどかに集中していた因果は巴マミの手によって分散させ、
暁美ほむらの成し遂げられなかった因果の檻の脱出を巴マミは成し遂げたのだ。


「さあ──帰りましょう!みんなが心配しているわ!」

「アタシ、帰るとこねーけどな」

「うちにこない?一人暮らしだから構わないわよ?」


少しの沈黙が流れる。
しばらくするとはっとしたような顔をした後、二人の顔がほてり始めた。

そして、その後満足した顔になった。

「いくわよ、杏子さん!」
巴マミは見滝原中学校の方に走り出した。





その日、巴マミには友達が出来たとさ。





【厨二ロワ 巴マミ 完】




256:Over the Fourteen -Final Game 8- 巴マミ

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最終更新:2012年11月23日 19:20