【名前】サイタマ
【出典】ワンパンマン
【性別】男
【名ゼリフ】
「そうだ……俺はこれを望んでいたんだ!」
「なんだ、いつの間にか怪人になってたんじゃねえか」

【本ロワでの動向】
正義を志してトレーニングした結果、ハゲるとともにあまりに強くなりすぎて、どんな相手でも一撃(ワンパン)で倒してしまうようになった、最強のヒーロー。
原作四話、「地底人と地底王」の夢を見て、久々に戦いの昂揚感を思い出した直後の時点から参戦。
OPにてバトルロワイアルの説明を受け、「いやふざけんな」と一言呟いた彼は、スーパーの特売日が近いこともあり、この催しの破壊を志す。

しかし、その一方で、サイタマには奇妙な記憶があった。この世界で目覚めるまでの間、流れてゆく空白の時間の中で聞いた――「夢の続きを見せてあげよう」という、誰かの囁き声。何気なく拳を握りしめると、地底人たちとやりあった時の鼓動、胸の高鳴り、緊張が、いやに生々しくそこに残っている気がして、サイタマは、あの昂揚感を渇望し始めている自分に気がついた。

そんな中で最初に出会ったのは、ロワ撲滅のために動き出した上条当麻。本来なら対主催同士のところを、地底人戦を回想しながらのジェスチャーと独り言をブツブツつぶやいていたサイタマを上条さんがマーダーと勘違いし、勝負を挑む。と言って、種も仕掛けもなしな最強の肉体を持つサイタマに、幻想殺し以外はそうまでスペックのぶっ飛んでもいない上条さんがかなうはずもない。そのあまりの弱さに呆れたサイタマは適当な顔をしつつ軽くあしらっていたが、戦いのさなか、諦めない上条さんの執念がサイタマの頬に右手の一撃をぶち当てた。限界を超えて崩れ落ちる上条さんに対し、サイタマは、「お前、かっこ良かったぜ」と一言残して、その場を去る。ヒーローを志した頃の自分と重なるものを上条さんの姿に感じていたようだが、その後、夜刀との顛末のせいで、上条さんとは共闘するようなこともなく、むしろ「怪人ハゲマント」として悪評を広められることになる。

混沌の空の下、拳の中に疼く何かを感じながら放浪する道中で、アーカードを驚愕させ、遭遇したブレドランをワンパン(※ただし撃退された後もお約束のように死なず別バージョン化していたが)するなど、ブレないそのチートスペックぶりを見せつける。なお、この過程で八雲紫とも会っているが、直前のブレドランワンパンの場面を目撃されていたため、土下座して逃げられている(追わなかった)。
そして中盤、同様にその強さを目撃していた神州王によって、対主催同士を潰し合わせるための駒として目をつけられる。

「比肩できるもののない、孤独にして無敵のヒーロー、サイタマ君」
「……君の『敵』に成り得る悪鬼が――君と互角に戦い得る“怪人”が、いる」

常のサイタマならば、「は?なんだお前」→ワンパンで済ませそうなところであったが、吹きこまれた言葉と、確かに感じる強者のオーラに、拳の中の感覚が疼いた。夢の中で相対した地底王の姿、胸の高鳴り、そこへ割り込む耳障りな目覚ましの音。もう、邪魔はされたくない。その感覚と渇きに導かれるまま、ついにサイタマは、くだんの相手――――天魔・夜刀を発見し、襲撃。夜刀の展開した、時間停止の世界の中で戦闘に至る。
無敵のヒーローと、夜都賀波岐の主柱、最強の拳と、最強の盾。チートVSチートのぶつかり合いは、実際の時間でこそ一瞬の決着であったが、時間停止の中では体感時間約一年というとんでもない尺で繰り広げられ、中盤戦闘のくせに「二人で最終決戦」と称されるほどの大激戦であった。そしてそれゆえに、これが、このロワにおけるサイタマの運命を決定的に変えてしまう契機となる。

サイタマ「そうだ……俺はこれを望んでいたんだ!」
夜刀「飽いていれば良い、飢えていれば良い、あんたみたいなやつ、俺もかつて戦ったよ」
サイタマ「御託はいい。お前もマジで来い!」

本気の夜刀相手に、必殺の“マジシリーズ”を惜しみなく連発するサイタマ。ワンパンを受けきり、渇望に答え得る相手と空間と時間を得てしまった無敵の男は、「あの夢の続き」にただ純粋に歓喜し、吠えた。恐怖、怒り、焦り……失ったはずの戦いの感覚が蘇り、星雲の如くに胸の中に渦巻く。神州王に吹きこまれた誤解はすでに途中で解けていたが、そんなことはもはやどうでもよかった。戦える。全力で、「戦っている」ことを感じられる。そのことが、サイタマの心に火をつけてしまった。夜刀はそんなサイタマにラインハルト・ハイドリヒの姿を重ねる。

そして、決着はついた。時間停止の失われた世界で立っていたのはサイタマで、倒れていたのは夜刀であった。紅蓮の傷を全身に負って一人立つサイタマの胸に、もはやこのロワイアルの破壊という観念はなかった。――――ここは「夢」、それも、自分が夢見てやまなかった「醒めない夢」だ。
紅い拳に、何かが満ち満ちる。

夜刀を葬り、歩きだす様子を、直前まで夜刀と戦っていながら彼に庇われた上条さんに目撃されていたこと、彼が義憤から「怪人ハゲマント」の悪評を広めたこと、さらにまた、夜刀が多くの対主催とかかわっていたこともあり、サイタマは孤立した。夜刀の仇を討つために現れたデモンベインを一撃で叩き潰し、進む先にある参加者を無為に蹴散らし、強敵を求めて放浪する。真っ赤な拳の向かう先を求めて歩く。それでも、「弱い者」に手をかけなかったのは、無意識のうちに残っていたヒーローとしての矜持か。
ところが、夜刀との戦いで味わったような感覚は、二度と彼の前に現れることはなく、それどころか、何かが心の中で、どんどん薄れて行き、出会った相手から、怒りや悲しみの言葉が浴びせかけられるだけだった。それも、ただの野次や利己的な非難ではない、「まっすぐな目」をした者たちの叫び。
夜刀の血が乾いて黒くなった拳をグーパーと握り開きしながら、その中に満ちていたものもまた、薄れ消えてしまっていることに、サイタマは気付く。そして、いつの間にか、対主催の参加者たちによって、自分が追い詰められつつあることも。

皮肉にも、サイタマが最後に「戦った」のは、精神的超人であるクライムファイター・ロールシャッハであった。他の対主催の作る隙を利用し、サイタマに奇襲をかけるロールシャッハ。なりふり構わない無茶苦茶な戦法に少しく翻弄されつつもそれを押さえつけ、身体的には常人のロールシャッハに、サイタマは「弱い」と言い放つ。「あんた、それでなぜヒーローやってる?」

「打ち捨てられたパンチング・マシンに話しかけるのはイカれたドランカーだけだ」

ロールシャッハの台詞に、サイタマは拳を止めた。

「どういう意味だ」
「スーパーマンの書き割りに小便をひっかけるのは、とでも言い換えるか?……俺は硬貨やビールが投げ込まれる舞台じゃなく、客席に紛れこむ屑どもを掃除するのに忙しいんだ」

そして、手元のがれきの破片を投げつけ、避けようともしないサイタマの視界を一瞬奪って、ロールシャッハは跳び退る。その手にはこれも血のこびりついた鉈。しかし、その黒い血痕は、自分の黒い拳とは別の何かの模様を表しているような気がした。

――――残酷で容赦のない、汚い戦い方。
――――こいつだって、ヒーローではない。

そう思いながら、しかし、まるで揺らがないロールシャッハの姿を前にするサイタマの胸に、恐怖に似た、奇妙な感覚が去来する。
諦めなかった上条当麻のワンパンにかつての自分を重ね、また、原作で、C級ヒーロー「無免ライダー」の捨て身の奮闘を讃えたサイタマの姿は、もはやすでにそこにはなかった。
そして、動きの止まった体に、小さな衝撃が走る。振り返ると、最強の筈のサイタマの身体に、あまりにあっさりと、少年・潮田渚の持つ、一本のナイフがつき立っていた。
よくも夜刀さんを、許さない、と、いう渚の言葉を聞きながら、サイタマは、空っぽの拳から、最後の何かが抜け出して行くのを感じていた。

「なんだ、いつの間にか怪人になってたんじゃねえか」

そう呟くと、最強無敵の筈のワンパンヒーローは、黒い、乾いた拳を広げたまま、あっけなく赤い血だまりに沈んだ。自らの生んだ、新たな、底なしの紅蓮の海へ。


……このロワにおけるサイタマは、軌跡を追ってみればわかる通り、原作とは別人と言ってもよいほどの凋落ぶりを見せている。本来の彼は、強さへの空しさを抱えながらも自分の思うヒーロー像を貫き通す意志の強さを持ちあわせており、けして簡単に道を踏み外してしまうキャラクターではない。しかし、今回は、「地底王の夢を見た直後」という参戦時期が問題であった。鮮烈な夢の余韻を引きずったまま、よりによって夜刀という存在と引き会わされ、「夢のような」戦いで、決定的にタガを喪失してしまったと言える。
また、ジェノスやキングといった仲間たちと関わった上で「自分を貫き通す」姿を見せている原作のサイタマに対し、このサイタマは、キングも知らず、ジェノスを弟子入りさせる前、たった一人で「趣味のヒーロー」をやっている時のサイタマである。原作では、仲間たちに感化されているというよりむしろ自身の姿で周囲の人間を感化しているサイタマだが、これは、「たった一人」でも精神的に強い筈のサイタマが、あのまま本当に「たった一人」で居続けた場合、もしかしたらこうなっていたのでは、という二次創作ならではのIFの提示であったとも見られるかもしれない。

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最終更新:2014年02月01日 01:29