「始めてーのーちゅうー」
「それじゃ水銀燈、帰りましょうか」
「あ、はぁい」
初めてのちゅう
空が青くて眩しい、夏真っ盛りの日。水銀燈と真紅は、帰り道を歩いていた。
事情を知らない人から見れば、二人を親友のように思うかもしれない。しかし、二人の手は絡まる形で繋がっており、まるでそれが自然のようだ。
「もうすぐ夏休みねぇ、真紅は何処か行きたい所とかあるぅ?」
「そうね…水銀燈と一緒なら、何処でも構わないわ」
みるみるうちに水銀燈のほほが染まってゆく。真紅はその反応を楽しんでいるようで、恥じらう水銀燈を見ながらクスクスと笑っている。
「お、おばかさぁん!」
真紅を見つめていた水銀燈は、耐えられなくなったのか、ふいと顔をそらす。そんな姿も可愛らしく映っているようで、真紅は未だ笑っていた。
「そういえば、水銀燈」
「なぁにぃ?」
まだ少し拗ねているような目をして真紅の方に向き合う水銀燈。よっぽど恥ずかしかったのか、頬はまだ紅く染まったままだ。
「あなた、さっき何か歌っていたわよね?私が迎えに行ったとき…」
「あぁ、あの歌?昨日ねぇ…」
水銀燈は昨日子供の頃好きだったアニメの再放送があっていたこと、久しぶりに聞いたら耳から離れなくなった主題歌の事を楽しそうに話し始める。
「それで、その歌がさっき歌ってたやつなのぉ」
「成程ね。ねぇ、もう一度歌ってほしいわ」
「…?いいわよぉ?」
すっと息を吸うと、リズムに乗りながら歌を口ずさむ。初めてのキスを歌った、少し切なくて幸せな歌。
「っと。うん、やっぱ好きだわぁ」
歌い終わると、笑顔を浮かべてまた真紅の方を見る水銀燈。しかし、真紅はなぜか俯いていた。
「真紅ぅ?どおしたのぉ?はっ、まさか私の歌が子守唄に…!?真紅、道端で寝ちゃダメよぉ!」
変な勘違いをし、真紅の肩を持ち揺さぶる。すると、真紅が口を開いた。
「…水銀燈」
「よかった、起きてたのねぇ、真紅」
「貴女と私、キスしたことないわね」
――へ?
いきなりの予想外な言葉に、きょとんとする水銀燈を後目に、真紅は続けた。
「…キス、してみましょうか」
またもや一瞬で顔をりんごのようにした水銀燈が、慌てて真紅に訪ねる。
「えぇ!?そのぉ、いきなりっていうかぁ、唐突っていうか心の準備がそのぉ!」
「…したく、ないの?」
真紅から投げ掛けられた質問。あまりに直球だったが、水銀燈は、素直に言うことができた。
「…真紅と、だったら…」
「いい子ね、水銀燈」
そう言うと、水銀燈の後ろにあった塀に、とん、と寄りかからせた。
水銀燈は既に硬く目を閉じており、これからの事に胸を高鳴らせていた。
それを見てまた微笑むと、ゆっくり手を水銀燈の頬に触れさせた。
「ふふ…目を硬く瞑りすぎて、口まで瞑ってしまっているわよ?ほら、力を抜いて…」
頬に届いたいきなりの刺激に体を震えさせながらも、強張っていた肩が、すとんと下がった。
「ふふ…んっ」
そして、唇が重なった。
初めてのキス。柔らかくて、熱くて、優しいキス。
水銀燈は幸せを感じながら、真紅の首に腕を回し、ぎゅっと抱き締めた。
「…ぷはっ」
「水銀燈ったら、もしかして息を止めていたの?」
「うっ…だ、だって何だかよく解らなくてぇ…」
肩を上下させながら、潤んだ瞳で真紅を見つめる。
「…あぁもう、本当に貴女って可愛いわね」
「…!!し、真紅は随分と手慣れていたみたいだけどぉ…?」
仕返しと言わんばかりに、横目で問いただす。
「だっていつか、水銀燈としたいと思っていたんだもの」
――ああもう、完敗だわぁ…
初々しい反応をする水銀燈に向かい、割と落ち着いた様子の真紅。だが、二人の頬は同じくらい紅く染まっている。
「ねぇ、真紅…?」
「何かしら?」
「あのね、大好きよぉ」
「ええ、水銀燈…私、今、とっても幸せだわ」
end