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ゆっくりでいい、君の隣にいていいのなら

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rozen-yuri

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だれでも歓迎! 編集



 その場所は昔と全く変わっていなかった。それは僕に一抹の安心を与えた。
 何も変わっていないのは僕だけではないんだ、と。
 しかし同時に、変わっていないのは僕だけなのでは、という不安も生まれた。
 いつから僕は変化を怖れるようになったのだろう。昔は違ったはずだ。いつも何かの変化を追い求めていた。
 そう、あの時も変化を求めた。
 それ以来だろうか。僕に変な恐怖心が付いたのは。
 安定志向、そう言えば聞こえはいい。しかし僕の場合、外へ出ることを怖れる引きこもりとなんら変わらない。
 隣を歩く片割れの表情をチラリとバレないように覗き見る。
 期待と緊張。他にも色々と混ざったその表情から彼女の真理は解けなかった。
 最も、たった一人の真理でさえ、解くことは不可能である。
 来てしまった以上仕方がない。
 むしろ、この場所で不安と恐怖に駆られる自分の方が滑稽なのだ。


 ──ゆっくりでいい、君の隣にいていいのなら。


 危険立入禁止。目立つように禍々しい赤の太い文字を彼女には見えてないようだ。
 申し訳程度に作られた柵は僕の腰の高さにも満たない。
 これで、もし万一誰かに何か遭っても『看板も柵も合った』と言って責任を逃れるのだろう。ひどい話だ。
 彼女に何か遭っては困るので一応声をかけてみる。
「危険立入禁止は『危険な人は立ち入るな』ということです」
 ほほぅ、一理あるかもしれない。
「関係者以外立入禁止とは『関係者以外の人は立ち入るな』ということですよ?」
 君には一生叶うことはないかもしれないね。まぁ、勝とうとも思わないけどね。
 独自のルールで我が道を行く彼女はハードルを越えるように柵を楽に越えた。
 少しくらい躊躇う気持ちがあってもいいんじゃないだろうか。蚊でさえ人の血を吸うのに躊躇うだろうに。
 とは言ってもここまで来といて引き返す気はない。
 ごめんなさい。そう心で呟くともなく呟いて、柵を跨いだ。
 鬱蒼と木々が生い茂っている。僕の血を拝借しようとした不届き者を掌で殺害。
 前言撤回。君達も躊躇う気持ちを持ちなさい。
「確か、もうちょっと…あ、っ」
 異瞳の片割れが息を飲んだ。目的の地に着いたのだ
 今までの萌えすぎた草木とはうって変わって、視界が一気に開けた。

「あ、あったですよ!」
 片割れが指す方向にあったのは二本のまだ木と呼ぶには未熟な芽。
 しかし、まだ数センチという小ささながらもきちんと葉を出している。
「良かったですね」
 姉はその芽の近くにしゃがみこむと愛しそうに眺めた。
 僕達がまだ幼かった頃。ここを見つけて二人だけの基地にしようと笑いあってた頃。
「懐かしいですね」
 数年前。
 この場所で耐えきれなくなった彼女への想いをぐちゃぐちゃに投げ掛けた。
 嫌われても良かった。それでも、もう何も知らない双子の姉妹でいることはできなかった。
 変わりたかった。嫌われても良かったから、この想いを知って欲しかった。
 感情に任せてぶつけた言葉は彼女を驚かせたが、やがて彼女にゆっくりと受け入れられた。
 その直後だった。二人でこの地に木を植えたのは。
 あれから数年。木は未熟ながらもこうやって成長していた。
 僕も彼女の隣に座り込んだ。
「ちょっと小さいですかね?」
 でも確実に成長してるよ。
 バカでも良い、逞しく育ってくれれば。と子供の誕生を待つ父親のような言葉を投げ掛ける。
「ふふ、それじゃあこの子達は私達の子供ですね」
 自分の手を彼女の手に重ねる。自然と彼女は僕の肩に頭を置いた。

「私がママで、蒼星石がパパです」
 ねぇ、あの頃と変わってないのは僕だけ?ずっとこのままでいたいと思ってるのは。
 喉まで出かかっているその疑問を無理やり飲み込み、頭に頭を重ねる。
 この木のように成長しているのは君だけな気がするよ。
 僕は立ち止まったままだ。あの日から、僕と君の関係が恋人に変わった日から、僕は成長していない。
 ──………………っ。
 一番伝えたい言葉が喉をヒリヒリと熱く焦がす。針でも刺さったように痛む。
 ふわり、と鼻腔を甘いシャンプーの香りが擽る。同じものを使っているのに、こうも変わるものだろうか。
「ずっと一緒ですよ?」
 片割れはポツリと呟いた。
 僕もそうしたい。そうしてもいいのなら、ずっと、ずっと、君の隣で。
 でも、僕にその資格はありますか?君の隣を独占する権利はありますか?
 こんなことでグダグダ悩んでることを知ったら嫌いになりませんか?
 愚問が頭の中をぐるぐると支配する。その問いかけが口から吐き出されそうになったとき。
「もう、パパ。子供達が見てますよ?」
 君の唇ですべてを封じ込めた。


終わり
 

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