花が、香る。
──あなたに微笑む
コツ、と革靴特有の冷たい音が石段に当たって、一つ鳴いた。
態と、貴女に心配させたくて石段を一つ飛ばして足を着けた。
「翠星石」
名前を呼ばれた私は少し低い位置から彼女を見上げる。
「足元、気をつけて」
それに頷くことなく再び石段を一段、飛ばした。
それを見て彼女は呆れた息を少しだけ吐く。
「大丈夫、」
コツと足を鳴らす。
「ですよ」
もう十段程の高低差がある低いそこから彼女に振り向く。
彼女は立ち止まって、二、三度まばたきをしたが、再び階段を降り始めた。
私はその仕草をジッと見つめる。そして、お互いの視線の高さがあった時、自然と指を互いに絡ませた。
「じじ臭い趣味です」
「うるさいな」
花が、香る。
風に乗って、柔らかな甘い春の香。
「神社巡り、なんて。今時じじばばでもやらんです……と!」
すり減ったブーツの踵が少しだけ私の足元をふらつかせた。
「わ、大丈夫?」
蒼星石は絡めた指に力を入れて私を引き上げた。
「う、すまんです」
恥ずかしくて少しだけ俯いて、膝を払う。蒼星石は笑みを溢すと私の頭を撫でる。
態と、貴女に心配させたくて石段を一つ飛ばして足を着けた。
「翠星石」
名前を呼ばれた私は少し低い位置から彼女を見上げる。
「足元、気をつけて」
それに頷くことなく再び石段を一段、飛ばした。
それを見て彼女は呆れた息を少しだけ吐く。
「大丈夫、」
コツと足を鳴らす。
「ですよ」
もう十段程の高低差がある低いそこから彼女に振り向く。
彼女は立ち止まって、二、三度まばたきをしたが、再び階段を降り始めた。
私はその仕草をジッと見つめる。そして、お互いの視線の高さがあった時、自然と指を互いに絡ませた。
「じじ臭い趣味です」
「うるさいな」
花が、香る。
風に乗って、柔らかな甘い春の香。
「神社巡り、なんて。今時じじばばでもやらんです……と!」
すり減ったブーツの踵が少しだけ私の足元をふらつかせた。
「わ、大丈夫?」
蒼星石は絡めた指に力を入れて私を引き上げた。
「う、すまんです」
恥ずかしくて少しだけ俯いて、膝を払う。蒼星石は笑みを溢すと私の頭を撫でる。
「同じ、だね」
「へ?」
ヒラリ、と桜の花びらが一枚、私達の間を踊る。
「翠星石の頬っぺた、桜色だよ?」
私の頬のラインを蒼星石の指がなぞる。
「なっ……!」
「はは、桜より赤くなったよ」
そう言って彼女は何も言えずにいる私に気付かないフリをして先に足を着いた。
「っ、待つです」
慌てて私も石段を一つ、二つ降りる。
「私が、」
コツリ。
「先です、」
コツリ。
「よっ」
数段下から彼女を見上げ、ニッと微笑んでみせる。
「そうだね」
すると彼女も一緒に笑ってくれる。ヒラリ、とまた桜の花びらが踊る。
「珍しい」
広げた掌の上に一枚の花びらが舞い降りた。
「ヤマザクラ、ですよ」
「へぇ、見ただけじゃ僕は分かんないや」
「さっきプレート見ただけですけどね」
「あ、そう……」
呆れたように私を見る瞳に私が写る。イタズラっぽく笑みを浮かべれば、彼女も私に笑いかけてくれる。
「ねぇ、蒼星石。知ってますか?ヤマザクラの花言葉」
「ううん。知らない」
そう言った蒼星石の耳元に口を寄せて、内緒話のように小さな声で呟く。
あのですね、ヤマザクラの花言葉は──。
「へ?」
ヒラリ、と桜の花びらが一枚、私達の間を踊る。
「翠星石の頬っぺた、桜色だよ?」
私の頬のラインを蒼星石の指がなぞる。
「なっ……!」
「はは、桜より赤くなったよ」
そう言って彼女は何も言えずにいる私に気付かないフリをして先に足を着いた。
「っ、待つです」
慌てて私も石段を一つ、二つ降りる。
「私が、」
コツリ。
「先です、」
コツリ。
「よっ」
数段下から彼女を見上げ、ニッと微笑んでみせる。
「そうだね」
すると彼女も一緒に笑ってくれる。ヒラリ、とまた桜の花びらが踊る。
「珍しい」
広げた掌の上に一枚の花びらが舞い降りた。
「ヤマザクラ、ですよ」
「へぇ、見ただけじゃ僕は分かんないや」
「さっきプレート見ただけですけどね」
「あ、そう……」
呆れたように私を見る瞳に私が写る。イタズラっぽく笑みを浮かべれば、彼女も私に笑いかけてくれる。
「ねぇ、蒼星石。知ってますか?ヤマザクラの花言葉」
「ううん。知らない」
そう言った蒼星石の耳元に口を寄せて、内緒話のように小さな声で呟く。
あのですね、ヤマザクラの花言葉は──。
終わり
「全く今日という今日は本当に許さんですよ!」
そう言うと、君は頬を膨らませてプイッと横を向いた。
――これは本格的に怒らせちゃったかもしれないな…。
僕は彼女の横顔を見つめながら言葉を探す。
そう言うと、君は頬を膨らませてプイッと横を向いた。
――これは本格的に怒らせちゃったかもしれないな…。
僕は彼女の横顔を見つめながら言葉を探す。
今、彼女が怒っている原因の源は僕だ。
三日前、僕たちは放課後に一緒に映画を観に行く約束をした。
彼女はその映画をとても楽しみにしていたから、僕も是非一緒に行きたかったのだけれど、
部活や生徒会があったりして2回も約束を破ってしまったのだ。
三日前、僕たちは放課後に一緒に映画を観に行く約束をした。
彼女はその映画をとても楽しみにしていたから、僕も是非一緒に行きたかったのだけれど、
部活や生徒会があったりして2回も約束を破ってしまったのだ。
「ごめんね、翠星石。今日は何の予定もないから一緒に映画に行けるよ」
僕が話しかけても彼女は表情を崩さない。
「じゃあ、君の好きなチーズケーキも一緒に食べに行こう。それで許してくれるかな?」
「…翠星石は食べ物に釣られるような単純な人間じゃないですよ」
僕の方をチラッと見て彼女は言葉を続けた。
「部活や生徒会で蒼星石が忙しいのは知ってるですよ。翠星石も応援してあげたいと思ってますし、
お姉ちゃんとしてしっかりしなくちゃいけないっていうことも分かってるつもりです。
でも、翠星石だって淋しくなる時もあるんです…」
彼女の声は震え、瞳は心の内を物語るかのように潤んでいる。
「そんな顔しないで…」
僕は翠星石を抱き寄せて、その瞳から涙があふれないように彼女の瞼にそっとキスをした。
「いきなり何するですか!?」
「僕のキスじゃ不満なのかい?」
驚いて目を丸くする翠星石に尋ねると、彼女は「べ、別に不満はないですけど…」とまた頬を膨らませ、
「もう一度、翠星石をギュッってしてくれたら許してやらんこともないですよ」と小さな声で呟いた。
「淋しい想いをさせてごめんね、翠星石」
僕はもう一度、彼女を抱きしめる。
すると彼女は、「まぁ、今回はこれで大目に見てやるですぅ」と言うや否や、
僕の腕を擦り抜けて駆け出して行ってしまった。
僕が話しかけても彼女は表情を崩さない。
「じゃあ、君の好きなチーズケーキも一緒に食べに行こう。それで許してくれるかな?」
「…翠星石は食べ物に釣られるような単純な人間じゃないですよ」
僕の方をチラッと見て彼女は言葉を続けた。
「部活や生徒会で蒼星石が忙しいのは知ってるですよ。翠星石も応援してあげたいと思ってますし、
お姉ちゃんとしてしっかりしなくちゃいけないっていうことも分かってるつもりです。
でも、翠星石だって淋しくなる時もあるんです…」
彼女の声は震え、瞳は心の内を物語るかのように潤んでいる。
「そんな顔しないで…」
僕は翠星石を抱き寄せて、その瞳から涙があふれないように彼女の瞼にそっとキスをした。
「いきなり何するですか!?」
「僕のキスじゃ不満なのかい?」
驚いて目を丸くする翠星石に尋ねると、彼女は「べ、別に不満はないですけど…」とまた頬を膨らませ、
「もう一度、翠星石をギュッってしてくれたら許してやらんこともないですよ」と小さな声で呟いた。
「淋しい想いをさせてごめんね、翠星石」
僕はもう一度、彼女を抱きしめる。
すると彼女は、「まぁ、今回はこれで大目に見てやるですぅ」と言うや否や、
僕の腕を擦り抜けて駆け出して行ってしまった。
「ほらほら、蒼星石も早く来るですよ!急がないと映画が始まっちまうですぅ」
さっきまで泣きそうだった君が、今はもう笑顔で僕を手招きしている。
全く本当に子供みたいなんだから――。
「今すぐ行くから、ちょっと待ってて!」
僕は苦笑いをして走り出す。
さっきまで泣きそうだった君が、今はもう笑顔で僕を手招きしている。
全く本当に子供みたいなんだから――。
「今すぐ行くから、ちょっと待ってて!」
僕は苦笑いをして走り出す。
――ねぇ翠星石、僕が君のその笑顔をずっとずっと守るから、いつも僕の傍で笑っていてね。約束だよ?