BLAZBLUE ◆iDqvc5TpTI
▽
知らないはずの顔だった。
人づてに聞いた誰にさえ当てはまらない女性だった。
なのにどうしてだろう。
アシュレーは奇声を上げる異形から目が離せなかった。
そうだ、同じだ。
同じなのだ。
白き異形の女の顔。
頬の筋肉が固定されたかのように一切変わらず張り付いているその表情が。
鏡に映ったプロトブレイザーとしての自分の姿を初めて眼にし絶望した時のアシュレーと。
「まさ、かッ!」
『気付いたか、アシュレー・ウィンチェスター?
そうとも、奴もまた我のような存在に憑かれたのだろうなあ。
死んだのが憑かれた先か後かは知らんが。大方犯人はあの剣といったところか?
ほれ、覚えがあるのではないか? あの剣が発するおぞましい気配にッ!!』
分かる。
色も形も違うが今アシュレーが感じているのは紛れも無くあの時と同じ恐怖だった。
数時間前についぞ抜くことなく逃げるように置き去りにした魔剣。
やはり勘は正しかったのだ!
あれは、あの剣はロードブレイザーと同質の呪われた武器だったのだ!
『抜いてなくて助かったなあ、アシュレー。まあお前があの剣を放置したせいで他の誰かが生贄になったかもしれないのだがな』
魔神の皮肉に一気に心の臓が冷える。
そうだ、何故そのことを考えなかった!?
アシュレーが魔剣に感じた寒気は剣に降ろされたロードブレイザーのせいだけではなかった。
あの後誰かが剣を回収していたらその人に危機が及んでいることとなる。
最悪、アシュレー達の前に立ち塞がっている女性のように身体を乗っ取られている可能性もある。
どうする、どうすればいい?
我が身可愛さに逃げたツケを誰かに支払わせるわけにはいかない。
今から回収しに戻るか?
愚問だ。
気にかかるのは確かだがそれより先にしなければならないことがある。
死して尚恐らくは望まぬ戦いに駆り出された女性を止めねばならない。
「こ”お”お”わああしいいいてえええやああるうううう!!」
亡霊伐剣者から渦巻く暴風めいた魔力に飛ばされぬようアシュレーはディフェンダーを腰だめに構える。
『いいのか、我が力を使わないでも。手負いの獣は恐ろしいかもしれぬぞ?』
語りかけてくる魔神の声は無視。
吹きつけて来る風は目を開けることを阻むほどに強力だったが、
ロードブレイザーの言うとおりだったとしても、魔剣の犠牲者にこれ以上呪われた力を行使したくはなかった。
血と泥に塗れた足が踏み込んでくると共に碧の魔剣が叩きつけられる。
お世辞にも重いとは言えない一撃だった。
身体能力こそ魔力により強化されているが無理やり動かしている分、その力を上手く攻撃に転用する身のこなしが圧倒的に欠けていた。
よってアシュレーがたたらを踏んだのは剣撃自体にではない。
碧の魔剣をディフェンダーで受け流す刹那、いくつもの声が流れ込んできたからだ。
――ぎいやあぁぁぁっ!!
――いや……っ ひっ、あぁぁぁっ!!
――痛いぃぃっ!! し、死にたく……ながあぁぁぁっ!?
アシュレーが感じ取ってしまったのは魔剣の中核をなす亡者達の怨嗟の念だった。
剣の力に頼りすぎ剣の意識に飲み込まれつつある適格者にしか聞こえないはずのものだった。
ロードブレイザーだ。
負の感情を取り込み力に変える事ができるデミ・ガーディアンが魔剣に込められた憎悪を喰らいつつ、アシュレーへと内容を伝達しているのだ。
「くっ、これが、この人を飲み込んでしまった力なのかッ!?」
人間から取り込んだ負の念の総量だけなら魔剣はロードブレイザーには遠く及ばない。
島一つ分と星一つ分ではスケールが違いすぎる。
しかし一点のみ魔剣がロードブレイザーに勝っている部分があった。
魔剣は文字通り島の全ての痛み――山や木に川といった自然の痛みをも吸収していたのである。
ロードブレイザーから与えられたことの無い慣れぬ嘆きに動きを鈍らせるアシュレー。
亡霊伐剣者の肌の表層を這い回る碧の紋様が揺らめく。
刻一刻と形を変える光の刺青はどこか人間の表情のようで。
アシュレーには見下ろしてくる無数の顔が、お前も同じだ、仲間になれと叫んでいるような気がした。
その叫びを打ち消したのはそれ以上の怒号。
「ちっくっしょおおおおおおおおおおおおおおうッ!!!!」
体勢を崩しているアシュレーを尻目に
トッシュが迎撃に放たれた魔力波を受け流しつつ亡霊伐剣者へと切り込んでいた。
何の冗談かその背に光るデイバックから零れ出たのは亡霊が持つのとそっくりの剣。
アシュレーは反射的にその蒼き剣へと手を伸ばし、直後予期せぬ衝撃に打たれ意識を失った。
▽
亡霊伐剣者が死に逝く身体を無理やり引き摺り一目散にトッシュへと飛び掛る。
アシュレーを苦しめる亡霊伐剣者の姿がぶれ、知った誰かと重なっていく。
最初はモンジの顔だったそれが、次々と失ってしまった人々のものへと変わっていく。
もし、もしもだ。
ナナミが、リーザが、
エルクが……
シュウの野郎が親父やこいつみてえな形で姿を現したなら。
トッシュは想像してしまった。
殺人マシーンとしてでももう一度あいつらの顔を見ちまったのなら。
俺は――
きっと驚いて、
やっぱそう簡単にお前が死ぬわけねえよなって一瞬喜んじまって、
けれども一切迷うことなくぶった斬っるんだろうなぁ。
……ちきしょお。
ちきしょお、ちきしょお、ちきしょお。
ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、
「ちっくっしょおおおおおおおおおおおおおおうッ!!!!」
自分でも整理のつかない悔しさを怒号と化し、剣に乗せて渾身の一撃を叩き込む。
狙ったのは腹立たしいまでに目に付く気の集約点。
意識した上ではなかったが、その動作は彼が親父と慕っていたスメリア一の剣豪が編み出した奥義に似ていた。
――似ているだけで本物には届かない出来損ないの奥義だった
無意識のうちに繰り出したその技が、完成された形であったならば。
凝り固まっていた所を両断されたエネルギーは力を失い霧散したであろう。
そうはならなかった。
見ようとして見たのとひょんな弾みで見てしまったのでは気の流れを読む精度が違う。
しかもトッシュに流れを読むきっかけを与えたのは核識では無くロードブレイザーだ。
いくら性質が似通っているとはいえ、両者は別物。
事象平面に潜むロードブレイザーを見るつもりで境界から流れ込む核識の意思を視認しようにも正確に捉えられるはずも無く。
僅かに目測を誤った刃は気の集うところではなく、気が流れている経路の方を断ち切ってしまう。
途端膨大な力は行き場を無くし、送り込まれる勢いのままにゴーストの体外へと溢れ出し氾濫する。
制御を失った大量のエネルギーが城の隅々にまで浸透していく。
地下の閉じられた城内に充満した魔力が飽和状態に達するまでにそう時間はかからなかった。
▽
轟音と共に衝撃が走り天井が、壁が、床が、城のありとあらゆる部位が軋む。
揺さぶられたのはフィガロ城だけではない。
その中にいた人もまた等しく激しい振動に晒されることとなった。
ゴゴに頼まれリオウを弔おうとしていたトカもその一人だった。
制御室を漁って見つけてきた
ルッカが中身を持ち出したことで空になっていた予備動力炉を収めていた箱。
急造の棺代わりとしてそこに遺体を収めようとしていたトカは急な足場のぐらつきをもろに受け倒れてしまったのだ。
「な、何ですとー、この揺れは!?
まさかまさかの巨大ロボが地下より現れる前兆!?
であるなら我輩も呼ばねばなるまいッ! ブールーコーギードーンッ!
さあさ、みなさんごいっしょにッ! ブールーコーギードーンッ!!」
が、当然のことながら一緒に声を上げてくれる人もいなければ、返ってくる巨大ロボの駆動音も無い。
無人の制御室に一人寂しく延々と声が木霊するのみ。
まあ一人とはいえ十人分くらい騒ぎ立てているのだが。
「じ、地震だーーーーッ!!」
これはまずい。
非常にまずい。
地底で生き埋めになった日には二度とお日様を拝めないこと間違いないしだ。
しかも悪いことには常ならばコロコロとコミカルに転がっていたであろうその矮躯は、運び途中だった遺骸に押しつぶされていた。
リオウは決して大柄ではないとはいえ、人の子程度のサイズしかないトカからすれば全身を覆って余りある大きさだ。
鍛え上げられていることもあって中々重いリオウの身体をどかすのはインドア派のトカには手間取ること必須である。
「いよいよもって大自然の反乱ッ! こいつぁ、一級品のハードSFだトカ。
……おのれ、あじなマネを。だがしかしッ! 我輩達にはあるではないか、科学の力がッ!
そう、科学ッ! 科学が我輩を救うのだッ!!
ほら、ちょうどいい具合にあそこに緊急浮上レバーがあります。む、レバー?
何故かその単語を口にするだけでほのかな頭痛が。全身もこうぴくぴくと。
あれだトカ? 予知というものだですか?
否、そんな迷信に躊躇していては人類に進化はこーっず! それ、ぽちっと……ひゃい!?」
現状を打破しようと手短なスイッチに手を伸ばすも届かない。
というか手を伸ばす先にスイッチが無かったりする。
後ろだ。レバーはうつ伏せになったトカの後ろにあったのである。
人類からすれば打つ手なしの展開だった。
しかしトカはさっきまでとは打って変わって余裕綽々の笑顔だった。
彼は人間ではないからだ。
「ふっ、この程度の問題既に一度乗り越えておるわー!
さあ出番ですぜい、しなやかにして、たおやかな我輩のシッポ!
今度こそぽちっとな」
リザード星人特有のよくしなる長い尻尾を動かしてレバーを押す。
傷に響いて若干痛かったが、こんなもの、石像の口に尻尾を挟んで抜けなくなってしまった時に比べれば何とも無かった。
「ふう。これですこぶる良好ッ!
我輩のおしげもなくさらしたまばゆいばかりの智将っぷりに、亡きリオウくんもきっとご満悦の様子?
青春の虚像と我輩には、どこまで行っても追いつけぬものトカ。
地下の世界のセミ達よ、さなぎ時代最後の思い出に、去り行く我輩らの姿を節穴同然のドングリまなこに焼き付けたまえ。
アデュー、いつの日か星の海でッ!!」
程なくして鳴り響く駆動音を耳に、大したアクシデントも無くスイッチを入れられたという生涯でも数少ない功績に気をよくするトカ。
我が身に降りかかっていないだけで既に城内には問題人物だらけだということを彼は知る由も無い。
▽
いたる所で築き上げられた瓦礫の山が城が浮上する振動に揺れ、がらりがらりと音をたてる。
トッシュが頭を抑えつつ這い出てたのもそんな瓦礫の底からだった。
「っつう、いってえなあ」
飽和した魔力は爆発を起こしトッシュと伐剣ゴーストが居た位置を中心に周囲を球状にごっそりと破砕していた。
前後左右上下四方をだ。
その証拠に気配を感じ顔を上げてみれば呆れ顔で手を伸ばしてくる彼の仲間がいた。
「……随分と派手にやったものだな、トッシュ」
偶然にもトッシュ達はゴゴと
シャドウが戦っていた階下まで落ちてきてしまったのだ。
ゴゴの身体や衣服に見られる傷、そして口は動かしつつも気を張り詰めたままな様子から戦っている最中だったことを察しトッシュは謝る。
「へっ、わりぃな。邪魔をしちまったかい?」
「問題ない。むしろちょうどいいタイミングだった。言いたいことは言った。後はけじめを取らせるだけだ」
「おっしゃあ!! そいつあいいところに乱入できたぜ! リオウの仇、やっぱ俺もこの手でとらねえと気がすまなかったからな」
手を借りて立ち上がったトッシュが浮かべたのは怒りと笑み。
変なところで器用な男だとゴゴは感心する。
感情に正直すぎるとむしろこうなるのか。
早速得た新たな情報に更新してトッシュの物真似に移行する。
「分かっているさ。焚きつけたのは俺なんだしよっ! にしてもこの爆発、何したんだ、てめえ」
「ちいっとばっかし厄介な乱入者も現れちまってな。けっ、噂をすればなんとやら。おいでなすったか!」
不協和音を撒き散らしながら魔力の風が吹き荒れ、トッシュが埋まっていたのとは別の瓦礫の山が爆ぜる。
舞い散る粉塵をものともせずゆらりと立ち上がるのは言うまでも無く伐剣者の亡霊だ。
「てめえトッシュ、厄介なもん連れて来やがって!」
「うっせえ!そういうならお前の方こそもうちょいあいつに傷を負わせておけ!」
トッシュを助け起こす間もゴゴが警戒していた方角。
二人を挟んで亡霊とは逆方向にシャドウは姿を現していた。
このままでは挟み撃ちにされてしまう。
素早く背中を合わせ、両者に剣を向けるトッシュとゴゴ。
されどことは単にシャドウに挟撃できる位置を取られただけでは済まなかった。
「おい、何かやばそうなもん構えてやがるぞ! あいつ投擲の腕はどうなんだ!?」
「必殺必中だ!!」
「めちゃくちゃまずいじゃねえかあああ!」
ゴゴ同様ゴーストをゾンビと捉えたシャドウの判断は早かった。
敵二人に、敵も味方も無いアンデッドが一匹。
道を塞がれる形で逃げること叶わず、実質3人を相手にしなければならなくなったシャドウは遂にカードを切ったのだ。
クレッセントファング。
それこそが
エイラから奪い取った最後の支給品にしてシャドウにとっては最強の支給品。
奇しくもある世界において修羅の道を歩んだ処刑人が使っていた武器と同じ名を冠した投擲具。
ただでさえ強力な月狼の牙を投擲のスペシャリストたるシャドウの腕で使用すれば、
かの一兆度の炎を操る百魔獣の王さえも半殺しにするは容易い。
ただ、抜け道もある。
「……幸いなことにあいつの投擲は精度を重視しているがために一人相手に使うのが前提だ」
「ああん? 何が言いたいんだ、てめえ」
「二手に分かれれば確実に一人は助かるはずだ。俺がつけた分の傷もある。もう一方を追おうとはしないだろう」
最善の結果を得れはしないが、確実に一人は生き残れる寸法だ。
そしてその一人とは恐らくゴゴではなくトッシュだ。
暗殺者が己が手の内を知り尽くしている輩を逃すはずも無い。
ゴゴとてそのことは承知の上だ。
分かっていて物真似を解いてまで提案したのだ。
だけどトッシュはふてぶてしい笑みを浮かべて申し出を一掃した。
「おい、ゴゴ。馬鹿言ってんじゃねえ。てめえ今俺の真似してんだろ? だったら俺がどういう奴か分かってんだろ」
さっき出会ったばかりで。
守りたかった人の敵の仲間でもある相手を。
トッシュは犠牲にすることを良しとしなかった。
面白い男だとゴゴは思った。
もっともっと真似してみたいと。
こいつの真似をし続ければ何だか炎の物まねをするのがより上手になりそうだとも。
「すまない。……いや、すまねえ。どうやら俺も焼きが回ったみてえだ!」
途中で物真似を再開して答える。
炎のように獰猛でけれどどこか清清しい笑い方は真似してみて気持ちいいものだった。
「へっ、わかりゃあいいんだよ。……てめえがどうしてんなことを言ったのかくれえは分かるつもりだ。
だがよお、死んじまったらこれ以上誰も守れはしねえんだ」
「ああ。要するに選ぶべき道は一つだけってことだなッ!!」
合わせていた背を離し、二人は並び立つ。
目指すは前。死人が手招く後ろにではなく、生者が立ち塞がる前へと進め。
「「避けられないなら正面から斬り捨てるまでッ!!」」
異口同音。
重なるは心、重ねるは刃。
剣の柄に手をやり二人ともが生き延びる最高の未来を目指してシャドウの方へと疾駆する。
ここが勝負どころなのはシャドウも変わらなかった。
シャドウにのみ狙いを絞ったことで、トッシュとゴゴは一時的にとはいえ二対一の形に持ち込めるようになる。
対してこのまま二人の接近を許せば彼らを背後から追いすがる亡霊伐剣者も含めた三人をシャドウは一度に相手しなければならなくなってしまう。
それだけは防がねばならない。
「シィィィィィイイイイイイイ……」
暗殺者らしからぬ雄叫びを上げ身体を引き絞る。
乾坤一擲。近づかれるより先に確実に仕留めなければ活路が無い以上、少しでも威力が上がるなら気合を入れることさえも怠れなかった。
イメージする。
この身は弓、我が心は弦。
放ち穿つは必殺の――駄目だ。
足りない、ただの弓矢のイメージでは足り無すぎるっ!!
もっとだ、もっと強い武器を。
暗示しなおせ。お前は知っているはずだ、複数体の的を一斉に射抜く機械の弓をっ!!
強敵が握っていたそれをっ!!
「ャャャャャヤヤヤヤヤヤヤアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
この身は弩弓、我が心は撃鉄。
オートボウガンをイメージに添えクレッセントファングが撃ち出される。
高速回転する人が手にした最も古い狩猟用兵器は数多もの残像を巻き起こし軌道を決して読ませない。
必要ない。
トッシュとゴゴに元より避けるための軌道計算なんて不要だ。
望むは直線。
シャドウを切り伏せられる最短距離。
その射程上さえ開いていればそれでいい!
「「真空斬――」」
トッシュが走る動きさながらに剣を抜く。
軽さと鋭さを重視した細身の剣では受け止めるのは不利。
なればこそその軽さと鋭さが生きる神速の抜刀により生じる大気の刃にて切り裂くことこそ漢は選ぶ。
ゴゴもまた壊れた誓いの剣にてオリジナルと寸分のずれも無い動作で技を為す。
どころかリオウやルッカの物真似をして得た他人と合わせる呼吸を活かし、即興で連携技を成立させる!
「「――双牙っっっ!!!!」」
生じた衝撃波が重なり巨大な一つの刃となる。
一太刀でさえ大樹を容易く切断する真空の刃を二つ束ねたのだ。
並みの武具や防具では受け止めようにも持ち主ごと切断していたであろう。
だが真空斬・双牙が撃ち落さんとするのもまた一級品の上を行く超級の代物だった。
月狼牙の名に恥じぬ白銀色をした巨大な飛去来器が空を舞い逝く。
直進するのみの真空斬・双牙とは異なり三日月の刃は円形の軌跡を描き回転しながら飛翔する。
その姿は三日月ならぬ満月の如し。
そしてその一撃が満月であろうものなら衝撃波如きが抗えるはずは無い!
どれだけ勢いがあろうとも、花鳥風月と並び証されようとも所詮は風。
夜天に一際映える真円の星を揺るがすには至らない。
そもそも月とは真空状態の宇宙において浮かんでいるものなのだ。
突発的な真空波など敵ではない。
豪ッ!!
真空斬が、引きちぎられた。
無残に、それでいて綺麗に。
双牙の名を冠された技は更に鋭き牙に食い殺された。
もう月狼の歩みを止めるものは居ない。
もうトッシュとゴゴに死から逃れる術は無い。
飛来するブーメランが二人の視界を埋め尽くす。
直感が無駄だと叫ぶのを無視して、希望を掴み取る為に二人は振り抜いたばかりの刃を引き戻す。
その背後からもう一つの脅威が迫り来る。
亡霊伐剣者。
消え逝く蝋燭の最後の輝きさながらに威力を増した暴風を纏って、死者が魔剣を振り上げる。
トッシュとゴゴにその剣に応戦する余裕は無い。
二人がかりで挑んで尚勝ち目の薄い戦いを挑む彼らは眼前のクレッセントファングに集中するしかなかった。
たとえ必殺を防いだところで無防備な背を亡霊に晒すのは致命的過ぎた。
なのに
二人は諦めることをよしとはしなかった。
最後まで剣と己と仲間に賭けた。
目を閉じることなく勝負の行方を追い続けた。
だから
彼らは見た。
挟撃されんとするまさにその時に飛び込んできた一筋の光を。
蒼い魔剣を掲げたヒーローの姿をッ!!
「うおおおおおおおおおおおおおおッ!!アクセスッ!!!」
▽
それはいつかの光景の再演だった。
極光に彩られた意識と無意識の狭間。
光の中に浮かぶ一人の女性。
彼女が口を開き、僕が今まで何度も何度も投げかけられた問いかけを口にする。
「あなたはもう知ってますよね。あなたが望んでいたもの。本当に守りたいものがなんなのかって」
「僕が望むのは平和な日常……。みんなの笑顔を、マリナの笑顔を、僕は守りたい」
僕はずっとその答えを抱いて生きてきた。
絶え間のない変化に触れて移ろい行くことはあったけど、それは僕の願いが僕と共に明日を歩み続けているということなんだ。
二十年間生きてきて、やっぱり僕は他に命をかけられるものを知らない。
――わたしにとって、アシュレーはアシュレーなんだから、ね……
だい、じょうぶだよ ふたり、どんなに、離れていても
アシュレーを見失ったりしないよ
だから……アシュレーも、見失わないで……自分の、帰る、場所を……
だったらその日常に、マリナの為に命を賭けるのが僕だ。
魔神に再び蝕まれようと、この手に聖剣がなかろうと、その想いを抱いている限り僕はアシュレー・ウィンチェスターだッ!
「その通りです。あなたのそれは正しい答えじゃないのかもしれない。
独りよがりのわがままと何も変わらないのかもしれない……。
だけどそれがあなたなんです。
その答えはあなたにとっては満点です」
女の人が手を伸ばす中、宙にあの蒼い魔剣が現れる。
極光の世界を優しく包み込んでいく蒼い光に照らされた顔には憂いを浮べていたアナスタシアとは違い温かい笑みがあった。
「ウィスタリアス、私だけの剣。
適格者であったとしても多分わたし以外には使えません。
今覚醒できているのも、もう一人の私とこの剣の前身が近くにあるからこそです」
もう一人の私とこの剣の前身。
その言葉の意味に気がつきはっとなる。
剣の類似性にばかり気を取られていたけれど、確かに光の中の女性の顔立ちは魔剣の犠牲者のものとそっくりだった。
「ごめんなさい。あの子のことは本当は私が、私の持ち主であるあの子とは別世界のアティが眠らせてあげないといけないのは分かってます。
けれど魔剣と引き離されたアティは異常に気付くことはできても、何が起きているのかさえ知りえません」
アティ。
その名前には覚えがあった。
カノンの名が最初に呼ばれた放送の最後の最後で告げられた名前だった。
そして同時にそれはこの人の名前でもあるということ。
「だからお願いです。みんなの笑顔を絶やすこの殺し合いを止めてください。
私も力を貸します。戦う力にはなれないけれど、ハイネルさんが私にしてくれたように、私があなたの心を魔神から守ります。
もしもあなたが私を信じてくれるなら。私に力を貸してくれるなら。
剣を、果てしなき蒼(ウィスタリアス)を手にして……」
僕は、迷わなかった。
迷わずに握りしめた。
光の中の女性の右手を。
「え……?」
「力は貸したり借りたりするものじゃない。合わせるものだッ!!
君が僕を守ってくれるというなら、今から僕達は仲間だ。一緒に、戦おうッ!」
彼女は笑った。笑って頷いてくれた。
そして僕達は剣を抜く。合わせたままの二人の手で。
「「アクセスッ!!!」」
▽
変身を遂げたアシュレーにシャドウとゴゴはその姿に一人の少女のことを重ねていた。
人と幻獣の間に生まれ、人形として扱われ、それでも最後には人としての心を得た少女のことを。
あの少女のように男もまた人ならざる身でありながらも人としての道を選んだのか。
修羅の道を歩む暗殺者と正体不明の物真似師は人としての心の輝きを眩しげに仰ぎ見る。
トッシュは仇に成り下がった親父から生前に託された大切な言葉を思い出していた。
『この世界には、こんな俺達にしか守れない者が、大勢いる。そいつを守っていく為に、お前は生きろ』
あんたもそうなのか? そんな邪悪なものに取り憑かれたあんたでしか守れないものの為に戦っているのか?
目に映る今のアシュレーの気の集中点には流れ込む黒い力も霞む程に煌く光が灯っていた。
ロードブレイザーは驚愕していた。
ありえない、何なのだこの姿は!?
変身したアシュレーの姿は魔神の知るどの形態にも当てはまらなかった。
姿だけならナイトブレイザーのそれだが、彩色は本来あるべき黒と赤とは真逆のものだった。
即ち白と蒼。
全てを飲み込む絶望の闇の如く黒かった装甲は青みのかかった白に染まり、
万物を焼き払う赤き炎を模していたマントやゴーグルといった細部パーツは母なる海の蒼を思わせる色に輝いている。
まるで手にした魔剣の色を写し取ったかのように。
新生したナイトブレイザーはどこか優しい
名づけるのならば――蒼炎。
“蒼炎のナイトブレイザー!!”
その背部装甲は大きく切り裂かれていた。
亡霊の凶刃からトッシュやゴゴを我が身一つで庇った代償だった。
決して軽くはないはずの傷だ。
纏っていたマフラーの半分は千切れとび、白かった装甲には真紅が滴っている。
そんな状態で蒼炎のナイトブレイザーはトッシュとゴゴの二人の間に立ち、二本の剣で共にクレッセントファングを受け止めていた。
右腕に握られしは使い慣れた破壊剣ナイトフェンサー。
そして左腕にあるのは蒼い、蒼い綺麗な刀身。
全てを包み込む母なる海のような暖かさすら感じさせる果てしなき蒼の色。
破壊の力で亡霊伐剣者を葬送することを拒んだアシュレーが創造した新しい剣。
ウィスタリアスを模したこの剣は、アシュレーとアティの絆の証だった。
「ウィスタリアスセイバーッ!!」
“救い切り開く蒼き剣”
蒼炎の騎士が声高らかに宣名するのを待っていたかのように、アシュレー達三人の背後で何かが崩れる音がした。
それは屍が屍に返る音。
ナイトブレイザーを斬りつけた碧の賢帝は、直後生成された救い切り開く蒼き剣によるカウンターで両断されていたのだ。
果たして冠した名前通りにアシュレーの一撃が魔剣に翻弄され続けた女性の魂にとって救いになったのかは分からない。
ただ、数多の呪いを発していた彼女の口は今際の際には一切の断末魔も漏らすことなく静かに閉じられたままだった。
アシュレーは振り返らなかった。
悲しみと悔しさを蒼炎の仮面で覆い隠し前を見据えていた。
「二人とも、伏せろッ!!」
蒼炎のナイトブレイザーの胸部装甲が展開される。
そこから溢れ出す光は魔剣から発する蒼き光とは違いただ敵を焼き尽くす為だけの禍々しきもの。
アシュレーの号令にトッシュとゴゴは一瞬顔を見合わせる。
クレッセントファングの勢いは死んではいない。
三人がかりで受け止めて尚、じわりじわりと剣の刃に食い込んできている。
伏せるのであれば二人分受け止めている牙城が緩むこととなる。
自殺行為も甚だしい。
構わない。
悩むまでも無かった。迷う必要もなかった。
トッシュはアシュレーを信じることにした。
ゴゴはそんなトッシュの真似をすることを選んだ。
「「後で話くらい聞かせろよ!」」
二人は同時に素早く身を伏せる。
その上を極太の光の矢が貫いていく。
黒騎士ナイトブレイザーに内蔵された決戦兵器にして蒼炎の騎士にも受け継がれた必殺の一撃。
人ならぬ魔神の論理によって実現した荷電粒子砲。
名を
「バニシングゥゥゥウ・バスタアアアアアアアアアアアアッッッ!!」
トッシュ達の命を刈り取る寸前だったクレッセントファングは光の奔流に打たれ押し戻されていく。
自らを投げ放った主、シャドウの方へと。
しかしブーメランが主の手に戻ることは無かった。
シャドウが手に取り盾として使うよりも早く、白き闇に呑まれて消し飛んだ。
もっともたとえ無事シャドウのもとへと辿り着いていたところで結果に変わりは無かっただろう。
クレッセントファングが光に消えた刹那の後に、暗殺者も滅びの焔の洗礼を受けたのだから。
爆発。いっそう眩い閃光。
世界が色を取り戻し、トッシュとゴゴが立ち上がった時。
そこには暗殺者の姿も白騎士の姿も無く、粒子加速砲が空けた大穴より差し込む陽光に照らされた一人の青年が立っているだけだった。
【G-3 砂漠に移動してきたフィガロ城 一日目 日中】
【アシュレー・ウィンチェスター@
WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(中)、右肩から左腰にかけての刀傷
[装備]:果てしなき蒼@サモンナイト3、ディフェンダー@アーク・ザ・ラッドⅡ
[道具]:天罰の杖@DQ4、ランダム支給品0~1個(確認済み)、基本支給品一式×2、
焼け焦げたリルカの首輪、レインボーパラソル@WA2
[思考]
基本:主催者の打倒。戦える力のある者とは共に戦い、無い者は守る。
1:トッシュ達ときちんと話がしたい
2:ブラッド、ケフカら仲間や他参加者の捜索
3:
アリーナを殺した者を倒す
※参戦時期は本編終了後です。
※島に怪獣がいると思っています。
※セッツァーと情報交換をしました。一部嘘が混じっています。
エドガー、シャドウを危険人物だと、マッシュを善人だと思い込んでいます。
ケフカへの猜疑心が和らぎ、扱いにくいが善人だと思っています。
※蒼炎のナイトブレイザーに変身可能になりました。
白を基調に蒼で彩られたナイトブレイザーです。
アシュレーは適格者でない為、ウィスタリアス型のウィスタリアスセイバーが使用できること以外、能力に変化はありません。
ただし魔剣にロードブレイザーを分割封印したことと、魔剣内のアティの意思により、
現段階ではアシュレーの負担は減り、ロードブレイザーからの一方的な強制干渉も不可能になりました。
【ゴゴ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:トッシュの物真似中、ダメージ(小)、疲労(中)、全身に軽い切り傷
[装備]:花の首飾り、ティナの魔石、壊れた誓いの剣@サモンナイト3
[道具]:基本支給品一式 、点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ
ナナミのデイパック(スケベぼんデラックス@WILD ARMS 2nd IGNITION、基本支給品一式)
[思考]
基本:数々の出会いと別れの中で、物真似をし尽くす。
1:アシュレーの話しを聞く。
2:後に制御室へ戻り、トカと行動を共にする。
3:
ビッキーたちは何故帰ってこないんだ?
4:トカの物まねをし足りない
5:人や物を探索したい。
[備考]
※参戦時期はパーティメンバー加入後です。詳細はお任せします。
※基本的には、『その場にいない人物』の真似はしません。
【トッシュ@
アークザラッドⅡ】
[状態]:疲労(中)、全身に軽い打ち身
[装備]:ほそみの剣@
ファイアーエムブレム 烈火の剣
[道具]:不明支給品0~1個(確認済)、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いを止め、オディオを倒す。
1:話くらいは聞いてやっかな
2:リオウに免じて、トカゲも許してやろうか……?
3:必ずしも一緒に行動する必要はないが仲間とは一度会いたい。
4:ルカを倒す。
5:第三回放送の頃に、A-07座礁船まで戻る。
6:基本的に女子供とは戦わない。
[備考]:
※参戦時期はパレンシアタワー最上階でのモンジとの一騎打ちの最中。
※紋次斬りは未完成です。
※ナナミとシュウが知り合いだと思ってます。
※セッツァーと情報交換をしました。
ヘクトルと同様に、一部嘘が混じっています。
エドガー、シャドウを危険人物だと、マッシュ、ケフカを対主催側の人物だと思い込んでいます。
【G-3 フィガロ城城制御室 一日目 日中】
【トカ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(中)、尻尾にダメージ小
[装備]:エアガン@クロノトリガー 、魔導アーマー(大破。一応少しずつ回復中?)@ファイナルファンタジーⅥ
[道具]:クレストカプセル×5@WILD ARMS 2nd IGNITION(4つ空)
天命牙双(右)@幻想水滸伝Ⅱ、魔石『マディン』@ファイナルファンタジーⅥ、
閃光の戦槍@サモンナイト3、基本支給品一式×2
[思考]
基本:リザード星へ帰る。
1:とりあえず制御室で待ちつつリオウの遺体の下から抜け出る。
2:金髪キザ野朗(エドガー)や野蛮な赤毛男(トッシュ)を含む参加者と協力し、故郷へ帰る手段を探す。
3:もしも参加者の力では故郷に帰れないなら皆殺しにし、魔王の手で故郷に帰してもらう。
[備考]:
※参戦時期はヘイムダル・ガッツォークリア後から、科学大迫力研究所クリア前です。
※クレストカプセルに入っている魔法については、後の書き手さんにお任せします。
※魔導アーマーのバイオブラスター、コンフューザー、デジュネーター、魔導ミサイルは使用するのに高い魔力が必要です。
※制御室に、蒼流凶星@幻想水滸伝Ⅱがいくつか落ちています。
※フィガロ城はあちこち損傷しています。
時系列順で読む
投下順で読む
最終更新:2015年12月02日 23:41