『そうはならなかった』お話 ◆SERENA/7ps
(エリウッド……約束守れなかった。 すまねぇ……)
ドクン!
心臓が胸骨を突き破らんとばかりに大きく鼓動する。
<承知>
そして、その瞬間にオスティア候
ヘクトルの精神は消えてなくなった。
後に残ったのはアルマーズという名の狂戦士のみ。
伏せられたはずのヘクトルの左目の瞼が開いた。
血まみれで、リンと同じように見えないはずの目。
しかし、血まみれの眼球が右目に呼応して動くのが、セッツァーと
ピサロの目にも見えた。
痛覚すら消えてなくなったのか、ヘクトルの目はギョロギョロと遠慮なしに動く。
そして、獲物を二人捉えたヘクトルは口元を歪ませると、天に顔を向けて吼える。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
生前のヘクトルなら、到底ありえない行為をし始めた。
島内すべてに響くかのような大音量で、ヘクトルは叫ぶ。
近くにいたセッツァーとピサロは慌てて耳を塞いだ。
そのままでは鼓膜が破れるか、難聴にでもなりそうなほどの声の大きさであった。
狂戦士の咆哮である。
雄叫びとは自分を奮い立たせるため、相手を威嚇するためなど、様々な意味がある。
しかし、ヘクトルの発した咆哮はそのどちらの意味でもない。
それは自分の中にある、抑えきれないほどの破壊の衝動を声という形にして発散させているのだ。
戦いを求め、戦いに死ぬ狂戦士の【時の声】である。
百獣の王ですらこの声を聞いてしまえば、千里を駆けるほどの勢いで退散していくに違いない。
況や、人の身では恐怖のまま失神すらしかねない。
しかし、ギャンブラーとして数多の死線を潜り抜けたセッツァーと、魔族の王のピサロには通じなかった。
「なるほどな……これがお前の切り札、<ジョーカー>って訳か。 なあ、ヘクトル」
ヘクトルの明らかな変調に動じることもなく、セッツァーはまずサンダラの魔法を放つ。
天より来る雷は蛇のようにのたくった軌跡を描きながらも、狙い過たず目標に命中した。
セッツァーは純粋な魔法使いのティナやセリスなどと違って、魔力は決して高くはない。
しかし、対策もなしにまともにくらえば無視することはできないダメージにはなるはずだ。
セッツァーの様子見で放たれたサンダラは完全にヘクトルに直撃した。
この反応で、ヘクトルの奥の手の危険度を見極める。
「我が……」
だがしかし、相性が悪すぎた。
アルマーズの別名は天雷の斧。
ヘクトルの体内を駆け巡る電流は、アルマーズにさらなる力を与えているかのように見える。
まして痛覚すら失ったヘクトルにはもはやサンダラなどは児戯にも等しい行為だ。
「名は……」
ヘクトルの声を使って、ヘクトルではないナニカの声が響く。
左目と左手の負傷で、戦力の半減したはずのヘクトルだが、そんな様子は完全に消えていた。
左目は赤い筋を垂らしながらも、敵の存在をはっきりと知覚している。
左手しか動かせなくたって構わない。
ヘクトルは通常の斧はおろか、アルマーズでさえ片手で扱えるのだから。
「アルマーズ……!」
もはやアルマーズそのものになったヘクトルは天の雷を受けた天雷の斧を構え、二人に襲い掛かる。
「ふ、ははは……ははは……ハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
傲岸で、不遜な笑い声が木霊する。
あまりにもヘクトルの姿が可笑しすぎて、セッツァーは哄笑を抑えることができなかった。
目の前にいる男はヘクトルであってヘクトルでないことも、易々と看破する。
「これがお前の奥の手か!? 何をしてくれるかと期待してたら、よりにもよってこれか!?」
こんなものを切り札としていたヘクトルの痛快さに、セッツァー完全にヘクトルを見下していた。
ヘクトルの隠していたジョーカーは確かに強力だった。
サンダラを物ともしないことから、予想の遥か上をいっていたことも認めよう。
だが、その使いどころを完璧に、完全無欠に間違っていた。
最初からそんなことができるのなら、もっと多くの人を救えたはずだ。
なのに、ようやくその切り札を見せたのが、守るべきものが皆死に絶えた後なのだ。
勝負をひっくり返す究極の切り札を持っていたのに、それを使わなかった大馬鹿野郎。
ここが勝負時ではない、今はまだ待つ時期だと言い聞かせ、切り札の使い時と勝機を逃す典型的な負け犬の思考回路。
最後は自棄になった挙句の暴走ともいえるカードの切り方。
これを極上の道化と言わずしてなんという。
「やっぱお前、ヒヨコの王様だよ。 ああ、帰ったらいい笑い話にはなるくらいにはな」
そんな男の操る力など、いくら強力でも恐れるに値しない。
ピサロに切りかかるヘクトルの通り過ぎた後。
そこには例外なく凄惨な破壊の跡が刻まれている。
しかし、その絶大な力も使い手があれでは猫に小判も同然だ。
生きる意志を捨てた男の一撃など、蟷螂の斧のごとく脆弱なものだ。
何よりも生きることを目的としているセッツァーにとって、捨石になっての特攻は論外なのだから。
「戦わせろ。 我を戦わせろ……」
竜でなくてば、人でも魔族でもいい。
そう言いたげにヘクトルは絶大な力を振るい、その破壊の衝動を撒き散らしていく。
援護もなしに哄笑するだけのセッツァーに対して、そろそろピサロも怒りの眼差しを向け始めた。
その抗議の視線を受けて、セッツァーも加勢に入る。
見事運を引き寄せ、
ジャファルとヘクトルの心の傷を抉り出したセッツァーに負ける要素はない。
言葉一つで人を殺すことなど、赤子の手を捻るようなものだ。
貫きの槍を持って、最後まで相容れなかった男の人生に終止符を打つ。
「いいだろうヘクトル。 お前の見果てぬ夢、俺が終わらせてやる」
ここから先は予定調和にも等しき、同じ行為の反復に終始する。
ヘクトルが攻撃し、ピサロとセッツァーは回避や回復しながらの攻撃。
アルマーズ化することによって、物理的な攻撃に対する耐性も高まったことを察したピサロの提案によって、魔法攻撃主体に切り替えられた。
遠巻きに眺めながらの魔法を浴びせ続け、ついにアルマーズそのものになったヘクトルは打倒された。
アルマーズの加護を得ていたとはいえ、ヘクトル本人が元々半死半生だったのだから。
敢えて言おう。
もしも、ヘクトルに後を託せると見込んだ人物が生きていれば、もっと早くにヘクトルはアルマーズと同化していただろう。
もしも、ジャファルが冷酷な暗殺者のままでいたら、セッツァーの詐術にも惑わされなかったであろう。
もしも、アトスの予言を聞かないでいれば、ヘクトルもこんなに迷うことはなかっただろう。
もしも、ジャファルとヘクトルが全力を出して戦うことができたのなら、負けることはなかっただろう。
ああそうだ、すべて『もしも』の話だ。
歴史に『もしも』は付き物なれど、実現しない仮定に意味はない。
あの時ああすれば、こうすれば、もっといいい結果が待っていたかもしれない。
だけど、そうはならなかった。 ならなかったのだ。
いつでも最善の選択を取れるほど、人は万能ではない。
いつでも最良の結果を得られるほど、人の世は簡単には回っていない。
だから、この話はここで終わり。
事情があって全力を出せずに死んでしまった。
そして、ジャファルとヘクトルはそのミスを取り戻す機会を永遠に失ってしまった。
持つ者は須らく死ぬアルマーズ。 今回もその予言は成就された。
そして、リキアに訪れる戦乱も確定してしまった。
そう、これは『そうはならなかったお話』。
ベストを尽くすことのできなかったお話。
ただそれだけのことだ。
【ヘクトル@ファイアーエムブレム 烈火の剣 死亡】
【残り10人】
【ファイアーエムブレム 烈火の剣 全滅】
◆ ◆ ◆
「お前の最大のミステイクは、国の未来を理想で語ってしまったことだよ」
現実に沿った流れに従って少しずつ変えようとせずに、ヘクトルは急激な変化をもたらそうとした。
そんな強引なやり方では、救済されるべきである民衆にすら拒否反応が出てもおかしくはない。
市民とはいつだって保守的なものだ。
変革を望みつつも、いざそれが達成されるとなるとしかめっ面をする。
英雄を望みつつも、英雄が本当に現れると疎んじることすらある。
弱者は弱者だから不平不満を述べるのではない。
不満を言いたいがために弱者であろうとするものだ。
「言うほど楽に倒せるほど、簡単な敵ではなかったぞ?」
「ああそうさ。 旦那の魔法がなかったらこっちも危なかったぜ。 何せ俺は魔法がからっきしでな。
やっぱり持つべきものは有能な仲間ってことさ」
仲間、という空々しい響きを持った単語にピサロは鼻を鳴らす。
その仲間の縁がいつ切れるかも分からないほど脆いものであることを自覚しているからだ。
魔族を総べる王ピサロとしては、ヘクトルの主張も分からないでもない。
ロザリーヒルの村を多くの種族が暮らす理想郷としていたのも、他種族との共存の道を模索していたからだ。
だが、もはや魔族の王としてではなく、
ロザリーのために動く一人の青年に戻ったピサロには、共感はできても共存の道はとれなかった。
ピサロにとってはこの身も、この思いも、すべてはロザリーのためにある。
そして、もう少しでその手が届くとこまで来ているのだ。
あと9人殺しつくすまで、ピサロはその歩みを止めることはない。
随分と北の方まで押し出されたが、向こうの戦闘の様子は視認できない。
しかし、天から降る流星のおかげで戦闘が依然継続していることは間違いないと見ていい。
「さて、どうしたもんかね。 あっちの魔王様は何人か仕留めてくれてるといいんだが」
「高みの見物をするにしろ、戦うにしろ、どっちにせよ近くまでは行くぞ」
「勿論さ。 ククッ、ルーキーを冷やかしに行くのも悪くないな……」
「あの物真似男はどうなのだ?」
「……あのな旦那、俺にも触れられたくないことの一つや二つあるんだぜ?」
「分かっている。 だから言ったのだ」
剣呑な雰囲気を纏わせながらも、二人は更なる戦場へと歩いていく。
もはや先ほど自分が殺した男のことなど忘れているかのように、セッツァーとピサロは振り返ることはなかった。
すでに持ち物の物色も、いらない物の破棄も終了しているのだから。
荒れた大地に仰向けになって倒れたヘクトル。
その胸には墓標のように貫きの槍が突き刺さっている。
セッツァーは知らないだろうが、貫きの槍は対重騎士戦を想定されて作られたものだ。
数々の相手を殺害した貫きの槍は意図せずしてその本懐を果たし、最後に墓標代わりになった。
槍は予備にとっておいたフレイムトライデントがあるので、問題は全くない。
分水領は中央? 本当にそうなのか?
膠着状態の北の戦線は完全に終結した。
ならば、戦力のバランスは完全に崩れ去る。
北の戦闘を終わらせたセッツァーとピサロが中央に介入し、さらに中央も終わらせ余勢を駆って南方戦線すら終わらせる。
そうならないとは言い切れないか。
どちらにせよ、この戦いの本当の分岐点は未だ見えない。
しかし、一つだけ分かることがあるとすれば、死者はまだ増えるだろうということだけだ。
世界最後の陽はまだ昇ったばかりなのだから。
【C-7 二日目 朝】
【セッツァー=ギャッビアーニ@FFVI】
[状態]:魔力消費(大) ファルコンを穢されたことに対する怒り
[装備]:デスイリュージョン@
アークザラッドⅡ、シロウのチンチロリンセット(サイコロ破損)@幻想水滸伝2
[道具]:基本支給品、拡声器(現実) フレイムトライデント@アーク・ザ・ラッドⅡ ゴゴの首輪
天使ロティエル@サモンナイト3、壊れた蛮勇の武具@サモンナイト3
小さな花の栞@RPGロワ 日記のようなもの@??? ウィンチェスターの心臓@RPGロワ
[思考]
基本:夢を取り戻す為にゲームに乗る
1:南下して魔王、ピサロと連携し、残る参加者を倒す
2:ゴゴに警戒。
※参戦時期は魔大陸崩壊後~セリス達と合流する前です
※ヘクトル、
トッシュ、アシュレー、ジャファルと情報交換をしました。
※ジョウイからマリアベル達の現在の状況を知りました。その他の情報については不明です。
【ピサロ@ドラゴンクエストIV】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、魔力消費(大)、ミナデインの光に激しい怒り ニノへの感謝
ロザリーへの愛(人間に対する憎悪、自身に対する激しい苛立ち、絶望感は消えたわけではありません)
[装備]:ヨシユキ@
LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WA2、クレストグラフ(5枚)@WA2
[道具]:基本支給品、データタブレット@WA2、双眼鏡@現実 点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ、解体された首輪(感応石)、 バヨネット
天罰の杖@DQ4、小さな花の栞×数個@RPGロワ メイメイさんの支給品(仮名)×1
[思考]
基本:ロザリーを想う。優勝し、魔王オディオと接触。世界樹の花、あるいはそれに準ずる力でロザリーを蘇らせる
1:セッツァー・魔王と一時的に協力し、ゴゴ達を撃破しつつ南へ進撃する
2:可能であれば、マリアベルとニノも蘇らせる
[参戦時期]:5章最終決戦直後
[備考]:クレストグラフの魔法は、下記の5種です。
ヴォルテック、クイック、ゼーバー、ハイ・ヴォルテック、ハイパーウェポン。
※バヨネット(パラソル+ディフェンダーには魔導アーマーのパーツが流用されており魔導ビームを撃てます)
【メイメイさんの支給品(仮名)×1】
メイメイさんのルーレットダーツ3等賞。メイメイさんが見つくろった『ピサロにとって役に立つ物』。
あくまでもメイメイさんのチョイスであるため、それがピサロが役に立つと思う物とは限らない。
※ジャファルとヘクトルの支給品の配分は次の方に任せます。
アルマーズ@FE烈火の剣、ビー玉@
サモンナイト3、マーニ・カティ@FE烈火の剣、ラグナロク@FFVI、バイオレットレーサー@アーク・ザ・ラッドⅡ
聖なるナイフ@DQ4、毒蛾のナイフ@DQ4、潜水ヘルメット@FFVI、影縫い@FFVI、アサシンダガー@FFVI
基本支給品は食料などの必要なもの以外は廃棄しました。
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最終更新:2012年01月31日 23:03