そして僕にできること ◆b1F.xBfpx2
暗い礼拝堂の中で、月の光に照らされて七色に輝くステンドグラスが眩しい…
僕は備え付けられた椅子にもたれかかりながら、ステンドグラスに描かれた女神を眺めていた。
女神は生きとし生けるもの全てに安らぎを与えるような微笑を浮かべている。でも、僕はその微笑を見ても別に安らぎはしなかった。
それは僕が一度死んで再び蘇った存在だからでも、元いた世界に神が存在せず、何かを崇めるような習慣がなかったからでもない。
微笑みを見ても何も感じない…ただそれだけだった。
「殺し合い、ねぇ……」
何気なく横に置いたデイバックから地図を取り出し、だらだらと端から端まで流し見た。
地図の端に教会という文字を見つけ、現在位置がF-1である事を知る。
口から出てくるのは溜め息ばかり。当然だ、僕にはそんなことに付き合う気も起きなかったのだから…。
僕はあの島でアティや姉さん達と対立し、最後まで共に歩む事を拒絶した。それは、僕の存在が皆を苦しめる事になると思っていたから。
小さい頃に無色の派閥によって一生病魔に苛まれる呪いを受け、家族から必要のない…邪魔な存在となった。
表面上は皆僕に優しく接してくれていたが、裏で厄介者扱いしていることはよくわかっていた。でも僕はそれを憎んだりはしなかった。
…むしろ悲しかった。悔しかった。周囲を苦しめてしまう自分が嫌だった。姉さんを軍人にしてしまう自分が憎くて仕方なかった…。
そこで僕は、自分の命を絶つ方法を探した。呪いの効果で自殺もできないこの命を絶つ方法を探し、そして見つけた。
二本の封印の魔剣の適格者となり、その魔剣の適格者同士ならば、お互いを殺す事ができるのだと。資格を持っていた自分は封印の魔剣を手に入れ、適格者となった。
魔剣の力で呪詛を抑えこむ事もできたので、更に行動範囲は増えた。後はもう一人の適格者を見つけて、自分を殺させるだけだった。
でも、僕を殺す事ができるもう一人の適格者のアティは、とんでもないお人よしだった。僕は彼女に僕を殺させようと何度も挑発して襲った。
だが、どれだけやっても彼女は僕を殺さなかった。僕が死んだ時に悲しまないようにと、姉さんの前でも卑劣な弟を演じて嫌われようとしたがだめだった。
結局、無色の派閥によって抑え込んでいた呪詛を解かれ、その反動によって死ぬという自分の計画を何一つ達成できない結末を迎えた。
しかし、僕は確かに生きている…と言えるのだろうか?正確には、死んだのを無理矢理蘇らせられただけだ。あのオディオと名乗る魔王の手によって。
それにしても何故僕のような人間をわざわざ蘇らせて、こんな馬鹿げたことをさせるのやら。はっきり言って迷惑だった。
生きているだけで邪魔な存在だった自分が嫌で死んだというのに、今更呪いの解かれた状態で蘇ったところでどうなる?
姉さんやアティ達に会わせる顔があるわけがないじゃないか。第一何処とも知れない場所で、殺し合いに参加している時点で会えるわけがない。
じゃあどうすればいいのか……そんな事どうだっていい。僕が蘇っていることなんて姉さんが知るわけないんだし、死んでもいいかもしれない…
でも未だ誰も自分を殺しにやってこない。それじゃあ自殺でもしようかと思っても、不思議とやる気になれない。
「…名簿でも見てみるか」
それでもふと、他に誰が参加しているのか少し気になった。こんな馬鹿げたことに知り合いがいるとは思わなかったけど、
とりあえず名前だけでも知っておこうかと思った。
しかしそんな気持ちは、取り出した
参加者名簿に目を通した時に変化することになる。
「……なんで姉さんの名前が?」
最初は見間違いかと思った。でも自分と同じ性も記載されていて、自分の名前のすぐ近くに書かれていたのだ。
更に近くにアティや
アリーゼなど知っている名前もあった。これで別人だと思う方がおかしい。
何故だか知らないが、姉さん達もこの殺し合いの参加者であることは事実なのだ。
「とにかく姉さん達の……」
と言いかけたところで、僕は動きを止めた。
…僕は今何を言いかけた?
(姉さん達のところに行かなきゃ…と)
誰が誰のところに行くって?
(僕が…姉さん達の……)
さっき自分で言ったじゃないか。自分には会う資格なんてないってさ…。
(それじゃあ姉さん達を見殺しにするのか?)
それは……
(なら行けばいいじゃないか…)
だから会うことなんて…
(なら今自分にできることはなんだ…)
「……僕にできること」
そう呟いて、僕は暫く動かなかったが、やがて僕の中であることが決まった。
僕にできること…それは誰とも共に行動せず、誰にも見られずにこの殺し合いを破壊する事。
首輪を解除し、ここから脱出してあの魔王を倒して姉さん達を解放する事。
その途中、危険分子…例えば殺し合いに乗った奴を見つけたら、排除する事。
これなら姉さん達に会わずに助けることができる。勿論絶対とは言えないが。
何にせよ、僕が姉さん達の前に現れない方がいいのは確かなんだ。
僕は早速荷物の整理と確認を行う事にした。そこ先ほどまでの無気力な自分は見当たらなかった。
まずは武器がなくては話にならない。そう思い、自分に支給された品を確認する。
支給された武器は剣だった。禍々しくもどこか美しい輝きを放つ片刃の剣…紅の暴君キルスレスに似ている気がした。
他の支給品も確認したが、別に今必要とすることはないだろう。
そういえば、まだ何処に行くのかも決めてない。魔王を倒す前にこの島からの脱出方法を探す必要があり、
脱出方法を探す前に首輪の解除方法を探す必要がある。
僕は改めて地図を開いた。
現在位置はF-1の教会。首輪を解除するのに必要なのは機械弄りに使う工具類やラトリクスのような機械設備の整った施設だ。
しかし、地図に記入された施設を見ても、そのどちらかでも置いてありそうな場所が見当たらない。
強いて手がかりがありそうなのは、F-7の遺跡と、D-1の港町、そしてI-1の灯台ぐらいだろうか…
その中で、港町は誰かと接触する可能性が一番高い。遺跡は砂漠と川を越える必要がある。移動だけでもかなりの時間がかかりそうだ。
「……となると、まずは灯台かな」
目的地は決まった。もうここに留まる必要はない。女神は相変わらず微笑みを浮かべていたが、僕は振り返ることもなく、教会を後にした。
ごめんね、姉さん…
僕は姉さんに会うことはできないけれど…
僕は僕にできることをして…
姉さん達をこの殺し合いから解放してみせるよ…
【F-1 教会 一日目 深夜】
【
イスラ・レヴィノス@サモンナイト3 】
[状態]:健康。
[装備]:魔界の剣@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち
[道具]:不明支給品1~2個(本人確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:首輪解除と脱出を行い、魔王オディオを倒してアズリア達を解放する。
1:首輪を解除する為に必要な道具または施設を求めてI-1へ向かう。
2:途中危険分子(マーダー等)を見かけたら排除する。
3:極力誰とも会いたくない(特にアズリア達)
[備考]:
※参戦時期は16話死亡直後。そのため、病魔の呪いから解かれています。
※名簿は確認済みです。
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最終更新:2010年06月19日 22:50