これが僕の望む道 ◆iDqvc5TpTI
潮風が、長く伸ばした髪を弄ぶ。
僕自身がどれだけ他人に見つからぬよう、気配を消し、身を低くして歩いても、自然達はお構いなしだ。
潮騒が響く中、穏やかな風は気ままに吹き付けてくる。
参加者が風邪や凍傷で倒れてしまっては、下らない催しを楽しもうとしているオディオの思惑からは外れてしまうからか。
時は丑の刻の過ぎ、寅の刻へと近づいているのにも関わらず、不思議と寒いとは思わなかった。
――あるいは、自分の心が常には無かった感情に満ち溢れているからかもしれない。
手を伸ばし、首へと持って行く。
感じるのは硬質的な冷たい感触。
一切の違和感なく、肉体に合致している異物――首輪。
この殺し合いを成り立たせる舞台道具の一つにして、皆の行動を縛る拘束具。
ある者には命を握られていることに対する恐怖を、またある者には屈辱に対する怒りを、
更にある者には無力感を湧きあがらせるはずの物。
なのにどうしたことだろうか?
そんな爆弾を首に付けられ、殺戮遊戯の舞台の場に放り出された自分が抱いている感情は、只一つ。
――自由
それ以外の何物でもなかった。
「あははははっ! あっはははははは!!」
不用意で不謹慎だと思いつつも、漏れ出る笑みが止まらない。
逆らえば死ぬ。外そうとすれば死ぬ。禁止エリアに入れば死ぬ。二十四時間誰も死ななかった場合死ぬ。
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
死ぬ。
――死ぬだって?
ちゃんちゃらおかしい。
何故恐れる必要がある?
ずっと、ずっと、ずっと。
望んで、渇望して、求めていたものではないか。
しかも首輪が爆破されるには厳密な条件があり、それらは親切にも事前に知らされている。
いつ来るかも知れず怯え続けた生と死の円環。
あの呪いに比べればどれだけお優しいことか。
選択の余地があるのだ。
強さや信念を貫こうとして魔王に挑み、返り討ちに逢う。
それも自由
矜持や誇りのもと首輪を外そうとして死に至る。
それも自由
逃亡の果てか、実験の一環か。禁じられた地に踏みいれ朽ちる。
それも自由
人を殺したくないと願い、爆殺される。
それも自由
行動を強制されることなく、意思を奪われもせず、その上で、自ら禁忌を破るのは。
破るという行為自体は可能で、その果ての死ならば。
自ら由としての死を選べるのであれば。
自由という以外になんと呼べばいい?
選び進んだ一つの結果じゃないか。
幼い頃、他人に迷惑だけをかけながら生きている自分が嫌だった。
なんの役にも立たない出来損ないの自分。
僕一人じゃ何を為すこともできず、誰かにつらい思いや、迷惑をかけてばかりで。
死んで居なくなって、負担を取り除くことさえできなかった、成長しない赤ん坊以下の存在。
行きたい所に、自分の足で行ける自由。
食べたいものを食べれて、死の発作にも怯えずぐっすりと眠ることができる自由。
皮肉にも殺し合いの地で、僕は再びそれらを手に入れた。
今度はもう、姉や優しい人達を騙さないでもいい。
手にして以来ずっと侵され続けた魔剣が放つ憎悪の声すら聞こえてこない。
かってとは違い、代価は首輪なんてちっぽけなもの只一つ。
誰に憚ることなく、僕は、僕の意志で生きていける。
心と、身体を縛る物は、もう何もありはしない。
僅かな時間、大地を歩んだだけだけど、そのことが実感できて。
犯してきた罪さえ棚上げし、現金な僕は素直に嬉しいと感じてしまって。
だから、居もしない神様が裁きの光で僕を打ちつけたのは当然のことだったのかもしれない。
「……っ!?」
閃光は一瞬。
されど、愚行だとは分りつつも、闇夜に慣れていた眼にはその光は眩し過ぎて、思わず瞼を下ろしてしまう。
心の中で舌打ちを一つつき、大きく後ろに跳躍。
場所が平野な為、足場や遮蔽物を気にすることなく、全力で跳ぶ。
だが、言いかえればそれは相手からこちらは丸見えということだ。
さっきのが閃光弾の類によるものなら、間違いなく追撃が来る。
未だに機能を取り戻さない視覚に見切りをつけ、聴覚と触覚に意識を集中する。
虫や動物の鳴き声どころか気配さえ混じらせることなく、ざわざわと囁き続ける草木達。
踏みしめた大地に生える同朋を気遣う声が、僕を罵倒しているようにも思える。
ただ、それだけ。
警戒していた攻撃は一向に襲ってくることなく、程なく白一色に染まっていた世界が色を取り戻す。
そして気付いた。
僕が滑稽な一人芝居を演じていたことに。
「あははっ、あはははははハハハ!!」
何度も何度も僕を照らす光。
ぐるぐると、ぐるぐると回り続け、周囲を照らす光の帯。
つい最近も海賊船を襲撃する前に見たばかりの光景。
紛うことなき灯台の灯。
「ははははは!!」
どうも仮面として笑顔を張り付けすぎたみたいだ。
癖にでもなってしまったのか、先程笑ったばかりの僕の口は、二度目だというのにちっとも自重してはくれない。
まあ、必死になって警戒したばかりだ。
周りに人が居ないのは確認済みだし、別に無理に黙る必要は無いんだけれど。
それよりも問題なのは突然灯台が光を得た事態についてだ。
夜に自動的に動くよう設定されていることは、灯台の運用目的上よくある話ではある。
が、それにしては起動するのが遅すぎる。
となれば十中八九人為的に灯されたのだろう。
「日頃の行いが悪かったからかな?」
できるだけ人には会いたくなかったけれど、このままではそうも言ってはいられない。
ランタンの明かりとはケタの違う闇を裂く光だ。
かなり広範囲に届いていることだろう。
加えて、灯台の周囲の地形は、地図によると光を阻む物の無い平野ばかり。
明け方までにはもう少し時間がかかることも入れて考えると、頭が痛くなってくる。
明かりを点けた人間の動機も、続く行動も分かりはしない。
単に人を集めたかったのか、偶然点けてしまったのか。
誘われてきた人間を殺す気か、協力を持ちかけるか、泣いて怯えるか。
候補が余りにも多すぎるため、考えても無駄だ。
そもそも、灯台に居る人間がまっとうな人物でも、集まってくる者達が進んで人を殺そうとしている可能性もある。
真に大事な点は、相手の戦力だ。
どの場合にしろ、灯台に集まった人間達が僕よりも弱いなら、どうとでも手は打てる。
自身のコンディションだけを考えるなら、呪いから完全に逃れれた今、かってなく調子はいい。
けど、試しに呼んでみたが、キルスレスは使えなかった。
総合戦力で見れば最盛期には遥かに劣る。
となると最善なのは様子見だ。
何も灯台の中に正直に入っていく必要はない。
僕があそこを目指していたのは、あくまでも、工具や設備が揃っていそうだからだ。
別に、わざわざ人が沢山居る状況に飛び込むなんて、馬鹿なことをする必要はない。
諜報部に所属しかつ、無色の派閥のスパイもやっていた身だ。
表に出ることなく、聞き耳を立てるのも、盗み見るのもお手の物。
そうだ、今までずっとそうやって生きてきた。
遠くから物事を見つめて、自分に利益がなければ、無関心を決めこむ。
そうすれば傷つくこともないし、他人にも見つからないじゃないか。
同じだ、何も変わらない。
今までと、何も。
何も、何も、変わらな
――もう、いい加減にしてくれませんか?
ふと、死ぬ間際に聞いた少女の言葉を思い出す。
――私も、貴方を見ていてむかむか、イライラしてるんですよっ!
全く言ってくれるよ。
「そうだね。僕もだよ。何度も何度も、自分自身にも腹を立ててきた」
誰にも迷惑をかけたくなくて。
僕の存在で、みんなを苦しめないよう死を望んだはずなのに。
いつの間にか、自分が死ぬ為に多くの人々を苦しめて。
違うだろっ!?
僕が、僕が本当に望んだのは!!
本当に望んでいたのは……っ!!
歩を速める。
体力の温存をしておくべきだという理性を、屁理屈で押し伏せて駆ける。
姉さんや先生は愚かでは無いけれど、馬鹿だ。
人を信じ、他人を守ろうと、灯台に人を集めることはありえなくはない。
どっちも簡単に殺されるような口先だけの人間じゃないことは痛いほどに承知しているが、騙し打ちにはこの上なく弱いと断言できる。
解放しようにも姉さん達が殺されていたら意味がない。
急ぐことで殺人の現場に間に合い、危険人物を処理することで殺されそうな誰かを助けてしまっても、単なる偶然だ。
今更先生のように生きようなんて言うわけじゃない。
その証拠に無力化では無く殺人を、守るための手段として選んでいる。
デイパックの奥に眠るもう一つの武器を見やる。
ドーリーショットと名札付けされた異様に長い砲身を持つ巨銃。
精度、威力共に申し分ないが、持ち運びし辛く、使えば発射に伴う音で僕の位置がばれてしまうからと押し込んだままにしていた得物。
撃ち逃げや、使い捨ても視野に含めてだが、いざという時は、遠距離から攻撃できる分、剣よりも僕の意に沿う。
グリップの感触を確かめ、いつでも抜き撃ちできるよう入れなおし、デイパックを肩にかける。
あくまでも方針を変える気はない。
僕は、僕の意志で、僕のわがままで。
姉さんたちとは会いたくない。
できることなら誰にも見つからずに済ませたいのも同様だ。
きっと、こんな僕でも必死に探してくれている姉さんや先生の想いを踏みにじることだけど。
これは紛れもなく今の僕の願いだから。
「ごめんね、姉さん」
生き返ってまで、迷惑かけちゃって。
灯台まで後少し。
僕はより一層走る速度を上げた。
【H-2 平野 一日目 黎明】
【
イスラ・レヴィノス@サモンナイト3 】
[状態]:健康。
[装備]:魔界の剣@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち
[道具]:不明支給品0~1個(本人確認済み)、基本支給品一式 、ドーリーショット@
アークザラッドⅡ
[思考]
基本:首輪解除と脱出を行い、魔王オディオを倒してアズリア達を解放する。
1:首輪を解除する為に必要な道具または施設を求めてI-1へ向かう。
2:途中危険分子(マーダー等)を見かけたら排除する。
3:姿を見られないようにだが、襲われたり苦しんでいる人を助けたい。
4:極力誰とも会いたくない(特にアズリア達)
[備考]:
※参戦時期は16話死亡直後。そのため、病魔の呪いから解かれています。
※名簿は確認済みです。
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最終更新:2010年06月27日 20:44