受け継がれしもの ◆BGnFOf.FWQ



「クリフト…」
彼の名を呟くが、彼はもう戻ってこない。彼はもう帰ってこない。
城を飛び出した自分に着いてきて、小言を言いながらも何だかんだで面倒を見ていてくれた彼。
お供として彼は最後まで自分に尽くしてくれた。それに対して、自分はクリフトに何をしてあげられただろう?
思い出せば、いつも彼やブライを振り回して迷惑をかけてばかりだった。
あの時だって…クリフトが少年を治療しようとした時だって、自分は叫ぶだけで何も出来なかった。
もっと勇気を出せれば…叫ぶだけでなく、力づくでも彼を止める事が出来たら、クリフトは死なずに済んだのではないか?
結局自分は何も出来ず、彼を見殺しにしてしまった。


アリーナの支給品は「天罰の杖」。一時期クリフトが装備していた武器だ。
…まあ己の拳が武器である彼女にとってはそれほど役立つ物では無いだろうが、遺品となってしまったこの杖はアリーナの決意を強いものにする。
「ごめんね、クリフト」
後悔の言葉はこれで最後にする。
いくら悲しんだって、いくら悔やんだって、クリフトは生き返らない。
ならば、せめて彼の無念を晴らす。

――……分かっています、姫様。しかし私は、神に仕える身。何もせず黙っているわけには参りません

彼の正義を、自分が受け継ぐ。
クリフトに代わって自分が人々を助ける盾になる。
そして最後は…あの魔王にこの杖の名の通り天罰を与え、仇を取ってみせる。
それが自分にできるクリフトへの供養だろう。


「うっひゃひゃひゃひゃー!これはこれは、さっき泣き喚いてた女じゃあっりませんかぁ~!」
そんなアリーナの決意を背後からの不愉快な声が遮った。
「誰!?」
すかさず振り向いて臨戦態勢を取る。
ピエロのような化粧をした派手な男が、ケラケラと笑いながらアリーナを見ていた。
ガストラ帝国の魔術師であり、神の力をも手に入れた混沌の王ケフカである。
「おやおや、いきなり喧嘩腰なんて、ヤバンな女は嫌ですねぇー。僕ちん、何にもしてないのに!」
「何の用?」
不快感を露にしながらアリーナが問いかける。
しかしケフカは意に介さず、相変わらず小馬鹿にしたような喋り方をする。
「べっつにー?ただ歩いていたらオマエを見つけただけですよ?」
…アリーナは決して気が長い方ではない。普段だったらこの時点でケフカをぶっ飛ばしていても不思議は無い。
だがクリフトの死を乗り越え決意をしたばかりの彼女は、何とか激情を抑えて冷静になるように努めていた。
「…あんた、殺し合いをするつもり?」
一番重要な事を聞く。
「うーん、そうですねえ…面白そうではありますよねぇ~」
「面白い…ですって?」
アリーナの顔に僅かながら血管が浮き出る。
「沢山の人間が殺し合う。面白いじゃありませんか!ある者は望むまま、ある者は自分の意思と関係無く、ある者は流されるまま!
戦いが憎悪を呼び、やがてはこの舞台そのものが地獄と化し、そんな中を必死に生き残り、また殺しあう!う~ん、想像するだけでもゾクゾクしちゃう!」
段々と浮き出る血管が増える。
「ん~でも唯一気に入らない事があるって言ったら、このボクちんが参加する側に回されっちゃったことですね!
こんなユカイな事を傍観者としてノンビリ見物できたらどれほど良かったかぶほぉ!」
そこでケフカの言葉は途切れる。
堪忍袋の緒が切れたアリーナがケフカの顔面に必殺パンチをお見舞いしたのだ。
小柄なケフカの体はその衝撃で吹っ飛ばされる。
「いった~い!何するんですかっ!」
「何が、愉快よ…」
ケフカの文句も彼女の耳には入っていなかった。今彼女の頭を支配しているのは、殺し合いに賛同する者への怒りのみ。
「こんな殺し合いの!何が愉快なの!?」

拳を握りしめてケフカに向かって突進するアリーナ。
腹が立った。こんな殺し合いを面白そうだというケフカが。
クリフトの死を侮辱されたようで、許せなかった。
「ふん、短気は損気だよ。サンダー!」
アリーナに向かってケフカが魔法を放つ。
しかし抜群の身体能力と反射神経を持つアリーナは難なくこれを避ける。
「このおおおお!」
かわすと同時にケフカへ肉薄。アリーナの上段回し蹴りがケフカを襲う。
ケフカにこれを避ける術は無く、再び吹っ飛ばされて木に叩きつけられた。
「取り消しなさい!殺し合いが面白いって言葉を!クリフトを侮辱した事を!」
尻餅をついたままのケフカに向かって、ビシッと指を突きつけて叫ぶアリーナ。
しかしケフカに反省の様子は無い。口からペッと血を飛ばして立ち上がり、チッチッチと指を振る。
「いやー、殺し合いは面白い!ユカイ!」
アリーナの神経を逆撫でするかの如く、小馬鹿にしたような表情と口調で彼女を挑発した。
「こいつ…!」
アリーナが駆ける。完膚無きまでに叩きのめして、絶対に反省させてやる!
拳を振り上げ、自慢のパンチを喰らわせようとケフカに迫る。
だが当のケフカはその場から動こうとしない。それどころか、余裕の表情を浮かべている。
何か嫌な予感がする…そう思った時だった。

(!?…何、これ…)
突然アリーナの視界がぐらつく。
まるで自分が高速回転してるかのような感覚に陥る。足下がふらつき、頭が痛い。
(何なのよ…一体…!)
必死に体勢を立て直そうとするが体のバランスが全く取れず、前を向くことすらままならなかった。
「オマエみたいな奴はボクが最も得意な相手だよ。こーやって簡単にコンフュにもかかってくれるしねえ!」
ケフカの声がする。しかし最早その声がどの方向からするかも分からない。
「熱血野郎は、少し頭を冷やしなさーい!ブリザガ!」
刹那、アリーナの周囲を氷壁が覆う。
全身が凍りつくき、猛烈な痛みが走る。最早熱いのか冷たいのかも分からなかった。
「あ、あ…」
氷が消えると同時に、アリーナはその場へと崩れ落ちた。


「ひょーひょっひょっひょっひょ!まあボクちんにかかればこんなものさー!」
動かなくなったアリーナを眺め上機嫌になるケフカ。
「それにしてもこの女、私に二発も攻撃を喰らわすとはなかなか油断できませんねえ。
こういう腕力バカばかりだと、さすがのボクちんも戦うのが苦しいですね」
どちらかというと遠距離からの魔法攻撃が得意で、接近戦が苦手なケフカ。
ここから先一人っきりで戦っていくのは少々骨が折れそうだった。
「う~ん、ここは誰か他の連中に上手く取り入った方が良さそう!私は賢いからね、利用できる奴は利用させて貰う!
そして最後に勝つのは、このボクちんって事だ!」
耳障りな高笑いを発しながら、ケフカは悠々とその場を去った。



アリーナとケフカの交戦場所にアシュレーがやって来たのは、その数分後だった。
ひとまず森を出て参加者が集まりそうな場所へと向かっていたのだが、その途中で現場を通ったのだ。
「!?…おい君!大丈夫か!?」
その場に倒れていた少女を見つけアシュレーが声をかける。
「しっかりするんだ!」
少女を抱き起こす。全身に凍傷のような傷痕が広がっており、素人目にも致命傷であることは分かる。
恐らくもう意識は…。
「あ……う………」
少女の口が微かに動く。まだ息があったようだ。
「あ…あな……た…」
「君、喋らない方が…」
「こ、これ、を…」
アシュレーが制するものの少女は喋るのを止めず、握りしめていた杖を手渡してきた。
「あた、しと…クリフト、…の……ぶん、まで…」
杖をアシュレーが受け取ると同時に、少女の腕が支えを失ったかのように地面へと落ちる。
そして、二度と動くことはなかった。

「おい!おい!……くそっ!」
少女を救えなかったことを悔やみ、拳を地面に叩きつけるアシュレー。
彼が来た時には既に手遅れだったのだが、それでも歯痒い思いだった。
彼女が最後に言った「クリフト」という名前には聞き覚えがある。
最初にあの場所に集められた時、首を吹き飛ばされて死んだ男を治療していた青年。
確か少女の声が彼を「クリフト」と呼んでいた。
そしてその声は、きっとこの少女のものだろう。

魔王オディオの力を見せつけられた後、彼に刃向かってまで人を助けようとするなんて普通はできない。
きっと、勇気と正義感に溢れる人物だったのだろう。
人を守る事を仕事としてきた自分に取っては、尊敬に値する人物だ。
彼の意志は、まだ生きている自分達が継いでいかなければならない。
もちろん、この少女の意志も。
「…ありがとう」
少女から渡された杖をデイパックに入れ、一礼する。
止まっている暇は無い。彼らの死を無駄にしないためにも。
踵を返してアシュレーは走り始めた。
少女と青年の分まで、絶対に魔王オディオを倒してみせる。そう心に誓って。



【E-8 中心部(森林) 一日目深夜】
アシュレー・ウィンチェスターWILD ARMS 2nd IGNITION
[状態]:健康
[装備]:?(支給品に武器があった場合、装備している可能性有り)
[道具]:天罰の杖@DQ4、ランダム支給品0~3個(確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:主催者の打倒。戦える力のある者とは共に戦い、無い者は守る。
1:リルカやブラッドら仲間の捜索
2:他参加者との接触
3:アリーナを殺した者を倒す
※参戦時期は本編終了後です。


ケフカ・パラッツォ@ファイナルファンタジーⅥ】
[状態]:上機嫌。顔、腹部に痛み
[装備]:無し
[道具]:ランダム支給品1~3個(確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:全参加者を抹殺し優勝。最終的にはオディオも殺す。
1:積極的には殺しにかからず、他の参加者を利用しながら生き延びる。
※参戦時期は世界崩壊後~本編終了後。具体的な参戦時期はその都度設定して下さい。
 三闘神の力を吸収していますが、制限の為全ては出せないと思われます。


【アリーナ@ドラゴンクエストIV 死亡】
【残り51人】

時系列順で読む


投下順で読む


GAME START アシュレー 043:道化師の哄笑
ケフカ 043:道化師の哄笑
000:OPENING アリーナ GAME OVER


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年06月19日 22:52