Beat! Beat the Hope!!◆wqJoVoH16Y



潮騒の音だけが揺蕩っている。
寄せては返す波が、砂に刻まれた足跡をかき消していく。
まるで、命のように。人が生きた証なんて、時の流れに呑まれてしまうだけなのかもしれない。
そんな大きな大きな海を、アキラは砂の上で見つめていた。
海の中にそれでもその存在を示し続ける、ブリキ大王を見つめていた。

「こんなところに、あるなんてなぁ……」

アキラは年老いた馬を見るような気持ちで、感慨深く呟いた。
アナスタシアと話をしたのち、自分の中にあるもやもやとしたものがどんどんと膨らんでいって、
アキラの足は自然と北に――座礁船へ向かっていった。
その理由を意図的に無視して、枯れ果てたはずが既に満たされた泉を横切ってたどり着いた場所には、何もなかった。
船の残骸さえも、海の底に沈んでしまったのか。焦げ臭い潮風が、鼻につくだけだった。
あの漢の生きた証など何一つないこの場所に留まる必要などなく、アキラが踵を帰そうとした時、
アキラは、西から棚引く線香のように細い煙をみたのだ。
天に延びるように真っ直ぐに伸びる煙につられ、アキラは海岸を歩き続けた。
そして、左手に村が見えたあたりでアキラは煙の根本をみた。
浅瀬に横たわる、大王の遺骸を。

水筒を逆さにして、喉に直接水を流す。
すぐ近くで補充したそれは、アナスタシア達が持っていた物よりも冷えており、この汗ばむ暑さには有難かった。
セッツァーがブリキ大王を操ってアシュレー達と戦ったことは、ゴゴとピサロから聞かされていた。
そのまま西へ流れて行ったそうだが、そのままここまで来て落ちたようだ。
よりにもよってここ、というのは何の因果だろうか。
アキラは口を手で拭いながら、朽ちた大王を見つめる。
酷い損傷だった。金色の憎悪――オディオを模倣したゴゴの手によって穿たれた傷は
構造の要まで達している様子で、いつ自重で壊れてもおかしくない。
天を飛翔する翼は、ぶすぶすと煙を上げ続けるだけだ。
かつて栄華を誇ったバビロニアの魔神とて、今や飛べもせず、ただこの海に浚われ沈んでいくだけの存在だった。

「お疲れさん、ブリキ大王」

その存在を労り、別れを告げるように言うと、アキラの中にどっと疲れがわき上がった。
肉体と言うよりは、心因によるものだろう。アキラはたまらず砂浜に尻を沈めた。
「……なんも残ってねぇなあ」
アキラはガムをうっかり飲み込んでしまったような表情で、ぼつりと呟いた。
もし他の誰か……アナスタシアでもいようものなら、絶対に見せない表情だった。
ごそごそと、ズボンのポケットから一枚のカードを取り出す。
それは、その村にあったちびっこハウスにあった、微かに輝いていたカードだった。
アキラが守れなかった一人の女性が最後に引いたカードだった。

「『塔』……っへ、ドンピシャ引いてくれるじゃねえか、ミネア

『塔』のカードを見つめながら、アキラは力無く笑った。
ジジイ上がりの科学知識はあるが、世辞にも学があると言えぬアキラが、大アルカナの意味を知っているはずもない。
だが、そのカードを引いたミネアの心から、それがろくでもないカードであることは理解できた。
破滅、崩壊、全ての喪失……なんにせよ、ろくでもない未来を指し示すカードだ。
だが、それを引いたミネアを責めるつもりなどさらさらなかった。否、責める資格などなかった。
実際に当たっているのだし、なにより、その破滅の中には、ミネアも含まれているのだから。


アイシャ、ミネア、リン、ちょこ、ゴゴ……そして、無法松
救いたい、と願ってきた。世界なんてもやっとしたものではない、
自分が守りたいと思う人たちを守れるような、そんなヒーローになりたいと願ってきた。
だが実際はどうだ。ルカに、シンシアに、ジャファルに、セッツァーに、彼を取り巻く理不尽を前にして、アキラは何ができただろうか。
触れ合えるのはいつだって手遅れになってからで、巻き込まれるばかりで当事者の位置からは程遠くて。
守りたいと言っておきながら、いつだって守られているのは自分だ。
守りたいといいながら何一つ守れていない……それで、何がヒーローか。

「すげえよ、ユーリル。お前は、救いきっちまったんだからよ」

カード越しに見上げる蒼天に、勇者の背中を垣間見る。
かつて罵倒した少年は、その言葉を歯が折れるほどに噛みしめて、それでも答えを出した。
救いたいから救ったんだ、文句あるか、と。
痛快に過ぎて笑いしか出てこない。見返りも感謝も要らず、望みはただ救われること一つ。
そのついでに結果として世界が救われるのなら、何も言うことはない。
それは、紛うことなき“ヒーロー”に他ならなかった。

ならば自分は? 救いたいものすら救えず、こうして生きながらえている自分はなんなのか。
アナスタシアと話してから、その意識がこびりついて離れない。
まるで自分が穢らわしい何かになったみたいで、
その汚れを皮膚ごとむしり取りたくてたまらない衝動に駆られるのだ。
その穢れこそが、アナスタシアが耐え続けているものだと気づかず、
アキラは立ち上がり浅瀬に座礁するブリキ大王へ近づいていく。

自分はどうするべきなのだろう。ストレイボウの問いが心に渦巻く。
守りたい物もほとんどなくなった今、この拳は、足はどこに向かえばいいのか。
オディオやジョウイを殴り飛ばす為か。そこまでのモチベーションが自分にはあるだろうか。
さまよう祈りは、吸い込まれるように大王の元へ行く。
既に腰下まで身体は海に浸かっていた。足跡など何もなく、そこにアキラが歩んだ痕跡など何もない。
これまでどおり、大きな流れに呑まれて、掻き消えていくだけなのだろう。

胸まで浸かった時、ブリキ大王はアキラの手の届く場所にいた。
生き残りの中でも、単純な戦闘力では自分が下位の部類に入るのは分かっている。
頼みの綱であるこの巨神すらこの手に零した今、アキラにはもう何もない。
「なあ……どうすりゃいいんだよ、俺は……なあ――――」

――――ンなこと知るか。

バンッッ!!と背中を強く叩かれる。
跳ね上がった波か、それにしては強すぎるほどの力に、アキラはたまらずバランスを崩した。
肺の空気が漏れ出て、海水が体内を満たす。
海面に伸ばした手が掴みたかったのは、命か、光か。アキラには分からなかった。

――――死に恥晒して無様に待ってりゃ、なんだそのザマ。

そのアキラの後ろから、海底から吠えるように何かが聞こえた気がする。
記憶の底の魂に刻んだ、忘れられるはずのない幻聴<こえ>だった。

――――カスい死人に聞いてんじゃねぇぞ。どぉしても聞きたかったら、ここに聞けやァァァァァッッ!!

その声に振り向くより先に、再び撃ち抜かれた衝撃が背中に走る。
拳大にまで濃縮された何かが、心臓を貫く。血液の刻む鼓動が上がっていく。
ただのポンプなはずなのに、血液以外の何かが駆け巡っている。
心臓<ここ>に、命<ここ>に、俺<ここ>に、確かなものがあるのだと示すように。

(ああ、そうか……そうなんだな……)

伸ばした手を胸に添えながら、アキラは知る。
何も掴めていないこの手は、だからこそ何かを掴むことができる。
そしてそうあれるのは、他ならないみんながいたからだ。

アイシャが、ミネアが、リンが、アシュレーが、ちょこが、ゴゴがいてくれたからこそ、
この手のひらは鼓動を感じることができて、
アンタがいてくれたからこそ、
この血潮の熱さを、感じ続けられている。

何も残っていない? そんなわけがない。
この血潮の熱こそが、生命こそが、
何もこの手に掴めていない俺が、
それでもヒーローを目指せる俺こそが、確かに残っているものなんだ!

(そうだろ……なあ……)

その言葉をいうよりも前に、その背中を支えてくれていた掌の感触がなくなる。
満足そうに、これで十分だというように、消えていく。
その願いは、きっとこの海に消えていく。
後には何も残らず、そう、人の命のように、時の流れに浚われていくだろう。
だか、それでも。この鼓動が響き続ける限り、きっと忘れはしない。

忘れない限り、きっとそれは、確かにありつづけるのだ。


「ん、うぁ……」
瞼を開くと目尻から塩水がしみ込んできた。アキラはたまらず上半身を起こし、首を振る。
揃えた髪の毛からびしょびしょと海水が飛び散る。
どうやら溺れはしたものの、幸運にも浜側に引き寄せられたらしい。
一歩間違えれば、死に直結していたはずだが、アキラはへへらと笑った。
そして傍には、あの塔のカードがあった。もう一度それを見る。だが、そこには自嘲も自虐もなかった。
何もないかもしれないが、何もない自分が確かにここにいるのだから。

その意志に満足したかのように、タロットは淡く輝く。
直後、ブリキ大王に雷が奔った。雷が落ちたようにも、雷が昇ったようにも見えた。
救いに似た光と共に、巨神の体が崩れていく。
溺れる間際、ブリキ大王に触れたアキラには分かっていた。
本当は、もうとっくの昔に崩れ落ちているはずだったのだろう。刻まれた憎悪はそれほどだったのだ。
それでも、遺り続けていたのかもしれない。最後の最後まで、あの鋼に込められた思いを届けるために。

「伝わったよ。ありがとな、ブリキ大王」

その言葉を聞いて満たされるように、大王は完全に崩れ、海の四十万に消えてゆく。
寄せて帰す波と一つになる。どのように偉大なものとていつか終わりが来るように。
その崩御を、アキラは最後まで見続けた。悲しみはない。その心臓に、また一つ熱が籠ったのだから。
「っと、もうそんな時間か。そろそろここもやべえか。びちゃびちゃだけど……ま、戻るころには乾いてるだろ」
アキラは髪を掻き上げ、ポケットに手を突っ込んでゆるりと歩いていく。
孤児院<はじまり>と、ブリキ大王<おわり>に背を向けて、明日へ歩いていく。

「行ってくるぜ、みんな」

彼は何も変わらない。ヒーローになる。その想いはここに来る前と何も変わらない。
それでも、その祈りは、決して揺るぐことはないだろう。
あの雷のように、その心に燦然と輝き続ける巨神が息つく限り。




あなたの 運命を示すカードは塔の 正位置。

すべてを失います。けれど――――――

その中から やがて希望も見えてくるでしょう。



  アキラ は PSY-コンバインを覚えたッ!!



ラッキーナンバーは 5。
ラッキーカラーは 真紅。


失ったものに こだわらないで。
希望<あなた>の目の前には、こんなにも青い空が広がっているのだから。




……そして今、輝ける希望を以て、永久に満たされぬ絶望に、挑む。




【C-7とD-7の境界(C-7側) 二日目 日中】

【アキラ@LIVE A LIVE
[状態]:ダメージ:中、疲労:大、精神力消費:極大
[スキル]:PSY-コンバイン
[装備]:デーモンスピア@DQ4 激怒の腕輪@クロノトリガー
[道具]:双眼鏡 不明支給品@魔王が初期に所持していたもの
[思考]
基本:本当の意味でヒーローになる。そのために……
1:この俺の希望を、見せてやるッ! 見せつけてやるッ!
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※松のメッセージを受信しました。かなり肉体言語ですので、言葉にするともう少し形になるかもしれません。
※自由行動中に、座礁船・村(ちびっこハウス)に行っていました。

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160:響き渡れ希望の鼓動 アキラ 162:錆びた鎖に翼絡め取られても、繋いだ手を離さない



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最終更新:2015年03月22日 23:18