鋼鉄のヴァルキュリア ◆sbrD/79/kI



 暗殺集団に所属していた。
 その次には、軍隊に属した。
 あと、自分を好きだと言ってくれた人が、死神。と呼ばれるほどの凄腕の暗殺者。
 人が死ぬところなんか、何度も見て来た。一度なんか暗殺指令も受けた。
 だから、怖くない。
 そう自分に言い聞かせなければ、一歩も立てなくなることぐらい、あっさりと想像がついた。
 何が、と聞かれれば、明確に答えられない。
 ただ、ろくな動作も見せずに人の命を奪ったものと、同じものが首に巻きついていると考えると、すぐにむしり取ってしまいたい衝動に駆られる。
 怖い。

 みんなで幸せに暮らすことを夢見て、ニノは決してへこたれまいと頑張ってきた。
 黒い牙の皆もニノに優しかったし、確かに大手を振って言い回れる商売ではなかったが、暖かくて本当の家族みたいだった。
 その牙も、もうない。母を装った悪魔が、気付かないうちにニノの大切な家族を切り刻んでしまった。
 そして初めての任務として彼女に与えられたのは、ただの捨て駒の役。初めての暗殺任務と信じたまま、殺されるところでさえあった。
 ロイドもライナスも行方知れずになってしまった、あの時の寒さと同じ感覚が、辺りの空気に混ざり込んでいた。
 妙にぬるい風を避けるように、ニノは物陰に逃げ込んだ。

 荷を開いたのは、生き延びるためにはもちろん必要なことだった。
 だが、荷を改め、使い方を考えることで少しなりとも恐れを忘れようという、逃避の目的もあったことは否定できない。
 名簿に、名前が並んでいた。
 知らない名と、知っている名。
ジャファル……」
 黒い牙きっての暗殺者。狙われた者は逃れることができないと言われた「死神」。
 思い出すのは、ベルンの王宮の宵闇に響く、血の匂いとうめき声と、武器が打ち鳴らされるざわめき、音もなく煌めく暗殺剣。
 暗殺対象だった王子を殺せない、とニノが泣き言を言った時、暗殺犯として死体で捨てられるはずだったニノに黙ってついてきてくれた。
 彼女を逃がすために、母から送られてきた追撃部隊を一人で食い止めてくれた。
 無口で無表情で無愛想だけど、本当はとても優しい人。
 まだ子供の自分を、好きだと言ってくれた人。
フロリーナも……」
 ジャファルとともに黒い牙を抜けて、新たに得た二人の居場所で、初めてできた友達。
 弱気で引っ込み思案で、見ているこっちが心配になってくるくらいの、でもニノよりずっと強い、天馬騎士の子。
 彼女も今、恐怖で震えているだろう。ちょうど、さっきの自分のように。戦いの強さと心の強さは違う。
「んんっ、しっかりしなきゃ!」
 消えかけていた元気を奮い起こし、ニノは再び立ち上がった。
 頭の中はまだ重いけど、体を動かす邪魔にはならない。
 ふんっ、と大きく息を吐き出し、再び荷物に取りかかった。
 魔王なんか知らないし、人殺しだって、できればしたくない。みんなを連れて、元のところに帰ると決めた。
 知った名前の残り二人、リンディスはフロリーナの親友だと言っていた。さっぱりした性格の勇ましい人。
 ヘクトルは、乱暴でちょっと怖いし、ジャファルにいい感情を抱いていないけど、悪い人ではない。
 二人とも、強い。だからそんなに心配はしなくてもいいだろう。

 最初に出てきたのは、魔道書だった。
 ニノは魔道士である。当たりを引いたんだ、と喜びかけて、ふと違和感に気づいた。
 今まで見たことのある魔道書のどれとも、意匠が違う。重厚で雄大で、見た目だけでも凄まじい力を秘めた書であることがわかる。
 開いてみた。
 数ページ手繰ってみたが、文字は読めても、書に記された理を理解するにはとても追いつかない。
 書の理を理解し、書の魔力と己の魔力を通じ合わせることで、魔道書は魔法を放つ。
 理を読み解くどころか、この魔道書は、紙面を見るだけでも、深淵を覗くかのような圧倒的な存在感を滲ませている。
 ニノにはまだまだ使うことができない。
「残念」
 本の角でたたくしかないのかな、と呟きながら、魔道書を荷物に戻した。

 次に出たのは、よく乾かしてあるキノコだった。
「またんご……?」
 そう、書いてある。致死量二名分といきなり書いてある時点で、まともな物ではないことは一目瞭然である。
 黒い牙でも使っていた、いわゆる幻覚キノコだろう。
 一度かじってみて、大変な目に遭った記憶がある。
 見たこともない派手な色で曲がっていく世界と、解毒し切る前のとてつもない気持ち悪さは、確かに死にそうな気分にもなったが、
 これで命を落とすかと聞かれれば、ニノにはよくわからない。
 二人分と書いてあるからには、いくつかあるキノコを半分も食べれば死んでしまうのだろう。ただ、ニノはどんなに空腹でも、二度とかじる気はない。
「これも使えないかな……」
 敵に渡されたキノコを食べてくれる相手がいれば、使えるかもしれないけれど。

 支給品は、いくつまであるのだろうか。
 もし3つがあり得るのならば、ニノの荷物が置かれていたあれも、ニノに支給されたものなのかもしれない。
 見た感じの印象は、鉄の木馬である。
 ただ、見たこともないような管や取っ手、革のようで革と違う材質の部分など、木馬には必要のない部分が多すぎた。
 鞍や鐙もなく、手綱もなし。馬の頭までなく、その代わりに申し訳程度に一つ目がついている。
 車輪が付いているところからすると荷車の類なのかもしれないが、物を載せる部分は見当たらない。
 説明書がついている。
「えーっと……?」
 随分と厚い説明書である。紙の質も、エレブ大陸では見たこともない固く丈夫で薄いものだ。
 革のような部分が鞍、一つ目の上側から伸びた2本の取っ手が手綱に相当するらしい。取っ手の握りを引き絞ることで車輪を回し、
 取っ手のナックルガードを握りこむか、目立たなかったが鐙に相当するものを踏みつけて、車輪を止めるのだという。
 まず、鍵を差し込んで駆動機を起動する。
「ひゃっ!?」
 獣よりも大きな唸り声が、腹に来る重い震動と共に響き始める。
 しまった。これくらい大きな音を聞きつけて、誰かが来るかもしれない。
 一瞬、迷った。このまま鉄の木馬を放り出して、どこか森林に隠れてしまえば、音を聞きつけた誰かに見つかる危険はなくなるが、
 これが有用なものであったら、人の手に渡してしまうのは避けなければならない。
 説明書の感覚として、鉄仕掛けの馬で間違いないだろう。
 もしやる気になった人間が機動力を手に入れれば、ジャファルやフロリーナに及ぶ危険がぐっと大きくなる。
 勇気を出して、またがった。
 説明書の図説を思い出しながら、取っ手をひねると、鉄の馬がひときわ大きく嘶いて動き出した。
「うわ、わ……」
 何かを考える余裕はなくなった。
 普通の馬もバランスを取りながら乗る必要があるが、これはそれ以上だ。一瞬でも気を抜けば、鉄馬ごと倒れる。
 馬ほど体高があるわけではないが、落馬が致命傷になりうるのは常識で、鉄馬の下敷きになろうものなら、どうしようもなくなる。
 止まらなければならないと考えるほどに、取っ手から手を離すわけにはいかないという意識が頭を占める。結果、ブレーキの存在は意識から外れた。
 もはや声も出ないほどに張りつめた状態で、ニノは必死に鉄馬を操った。
 景色が飛ぶように流れていく。

【G-8 荒野】

【ニノ@ファイアーエムブレム 烈火の剣
[状態]:健康 、ハーレー騎乗(暴走)
[道具]:フォルブレイズ@FE烈火、マタンゴ@LIVE A LIVE、基本支給品一式
[思考]
基本:全員で生き残る
1:ジャファル、フロリーナを優先して仲間との合流
2:止まる。
[備考]:
※支援レベル フロリーナC、ジャファルA


フォルブレイズ@FE烈火
魔道書。八神将が一人「大賢者」アトスの神将器「業火の理」。エレブ大陸最強の理魔法であるが故に、技量未熟の者には扱うことができない。
よって、時間をかけて読み解き、魔法の腕を上げない限り、ニノにとってはただの柔らかい鈍器である。

マタンゴ@LIVE A LIVE
キノコ。精神を際限なく増幅させることで意識の許容範囲を決壊させ、夢遊状態に伴う恍惚的な悦楽を得る――要するに、ラリる。
二人分の致死量が配給されている。

無法松のハーレー@LIVE A LIVE
無法松の愛車である赤いハーレー・ダビッドソン。異世界の住人のための説明書付き。

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最終更新:2010年06月24日 19:55