『モールぐだぐだロード』
(キャラ)ダース・モール、謎のヒロインX〔オルタ〕
低く鼻を鳴らしながらダース・モールは周囲を見渡した。見知らぬ夜の街。高層のビル群、消えかけたネオンの残光、そして湿った潮の匂いを含んだ夜気。首元に触れると、そこには硬い金属の輪が嵌められていた。
次に視界に入ったのは、傍らに転がる布製の背嚢だった。中を検めると、見慣れぬ板状の機器と、いくつかの生活用品が収められている。板状の機器に触れると、淡い光と共に画面が明滅し、地図と文字列が浮かび上がった。
――閉ざされた孤島。四十八時間の制限時間。時間切れによる首輪の爆破。そして、最後の一人として生き残った者に与えられる、あらゆる願いを叶える権利と、元いた世界への帰還。
モールはその文字列を、しばし無言で睨みつけていた。
「――くだらん茶番だ」
低く吐き捨てるように呟いた。モールの脳内には、長年の戦いで培われた警戒心が、絶えず低く唸り続けていた。
つい先刻まで、モールは護送用クルーザーの一室に囚われていたはずだった。アソーカ・タノという小娘との死闘の末に敗北し、拘束され、コルサントへと護送される道中だった。
モールの生涯は憎悪と復讐によって織り上げられていた。惑星ダソミアのナイトブラザーと呼ばれる氏族に生まれ、酋長マザー・タルジンの息子として育てられるはずだった赤黒い肌の少年は、幼い頃にダース・シディアスによって拉致され、シスとしての過酷な訓練を強いられることになる。
ライトセーバーの扱いにおいて、モールは並外れた才を示した。主流から外れた攻撃的な型――ジュヨーを極め、両刃のライトセーバーを自在に振るうその剣技は、後にジェダイ・マスターたちをして戦慄させるほどの完成度に達していた。だがクワイ=ガン・ジンを討ち取ったのも束の間、若きオビ=ワン・ケノービとの死闘の末に、モールは胴を両断されるという致命的な敗北を喫することになる。
上半身だけの姿となりながらも、モールは驚異的な生命力で生き延び、惑星の底辺で朽ちるように暮らし続けた。復讐の一念だけが、モールをこの世に繋ぎ止めていた。やがて実弟であるサヴァージ・オプレスと再会し、蜘蛛型の機械肢を得て再起したモールは、かつての師であるダース・シディアスに反旗を翻す。だが、その企ては返り討ちに遭い、モールは再び深い絶望の淵に叩き落とされることになった。
アソーカとの一騎打ちでは、互角に近い戦いを演じたモールであったが、最終的には高所から突き落とされた上で拘束、ついに捕縛の身となった。
それが、モールにとっての「つい先刻」までの記憶だった。
――あらゆる願いを叶える権利、か。
胡散臭い話だとモールは思った。
このゲームの主催者が何を企んでいるのか、その正体すら分からぬうちは、迂闊に動くべきではない。まずは様子を見る。それが幾度となく敗れてきたモールが学び取った教訓だ。
だが同時に他の参加者を殺すことにモールは何の躊躇も持たなかった。
「まぁいい……乗るかどうかは、後で決めればいいことだ」
モールは低く呟くと、背嚢を担ぎ両刃のライトセーバーの柄を腰の位置で確かめる。そして夜の街をゆっくりと歩き始めた。
数十分前。
「……面倒くさい」
謎のヒロインX〔オルタ〕は低く呟いた。見知らぬ夜の街、コンクリートとガラスの建物群。首元には見慣れぬ金属の輪。傍らには布の背嚢。眼鏡はずれることなく、いつも通り鼻の上に収まっていた。
「はぁ……」
もう一度溜息をついてから、Xオルタは背嚢の中を検めスマートフォンを取り出す。画面に触れると、地図と共に文字列が浮かび上がった。
――孤島。四十八時間。時間切れの首輪爆破。そして、最後の一人に与えられる願望成就と帰還の権利。
Xオルタは特に驚いた様子もなく、画面をそのまま流し見た。物騒な話ではあったが、それ以上に彼女の関心を引いたのは、画面の隅に表示されていた「最寄りの飲食店」を示すアイコンの方だった。
「お店……和菓子屋さん、あるといいですけど」
彼女の好物は甘味。羊羹にして丸三本分、お汁粉ならば十八杯分の餡子と和三盆糖を、一日の必須摂取量とする甘味特化型の大食漢である。
Xオルタは地図を見ながら最寄りの飲食店に向けて歩き出した。
夜の街を彷徨っていたモールはフォースの流れの中に、ふと奇妙な感覚を捉えた。
それは、これまで感じ取ってきたどの生命反応とも異なる、歪んだ気配だった。単純な生命力の強さとは別の、もっと根源的な――闇そのものに親和性を持つような、そんな質の気配。
モールは足を止め、その気配のする方角へと視線を向けた。
大通りの真ん中、街灯の乏しい明かりの下に、小柄な人影が一つ、ゆっくりと歩いているのが見えた。眼鏡をかけた、線の細い少女だった。気だるげな足取りで、まるで買い物にでも出かけるかのような緩慢さで、夜の街を進んでいる。
モールは物陰からその姿を注視した。フォースの感応力を研ぎ澄ませればすますほど、確信は深まっていった。あの少女の内側には、尋常ではない量の"何か"が渦巻いている。憎悪とも自己嫌悪ともつかない、渦を巻くような負の力。それは紛れもなく、暗黒面へと通じる資質そのものだった。
「……面白い」
モールの口元に、酷薄な笑みが浮かんだ。
物陰から歩み出て、両刃のライトセーバーを引き抜いた。柄の両端から、赤い光刃が音を立てて伸びる。
「そこの娘」
低く、腹の底に響くような声で、モールは呼びかけた。
Xオルタは足を止め、気だるげにモールの方を振り返った。赤黒い肌、頭部に並ぶ短い角、そして両刃の赤いライトセーバー――明らかに人間ではない、異形の相手。
「貴様の内にある力、俺には視えている。それは紛れて疑いようもない暗黒面の資質だ」
モールはゆっくりと間合いを詰めながら、続けた。
「その力が本物かどうか、俺自らが確かめてやろう」
Xオルタは眼鏡の奥から、感情の読み取りにくい目でモールを見つめていた。
「戦うってこと? ……面倒なんだけど」
「拒否は許さん」
そう言うが早いか、モールは地を蹴り、赤い光刃を振り下ろした。
Xオルタは咄嗟に身を捻ってその一撃をかわすと、腰の得物――邪聖剣ネクロカリバーを抜き放った。赤い魔力の輝きを纏った刀身が、夜の街に不気味な光を放つ。
「五秒で終わらせましょう」
抑揚のない声でそう告げると、Xオルタはネクロカリバーを構え直した。ボヤきとは裏腹に、その太刀筋には一切の淀みがなかった。振り下ろされた刃を受け止めたモールは、想像以上の重みに、わずかに眉をひそめた。
「――ほう」
両刃のライトセーバーを巧みに操り、モールはジュヨーの型に基づく攻撃的な連撃を繰り出した。だが、Xオルタはその一つ一つを、最小限の動きで的確に受け流していく。動きに無駄がなく、しかしどこか気だるげで、まるで面倒な家事でもこなしているかのような様子だった。
「はあ……もう、これ以上は本当に面倒だから」
Xオルタがそう呟いた瞬間、彼女の右手から赤い電撃が迸った――絶技「オルト・ライトニング」。モールは咄嗟に横に跳んでそれをかわしたが、電撃はかすめた外套の端を焦がした。
「小癪な!」
モールは体勢を立て直すとフォースを使い、周囲の瓦礫をXオルタめがけて叩きつけた。だが、Xオルタもまた同様に、自らの念動力――「オルタ・チョーク」を発動させ、飛来する瓦礫を空中で押し留めた。
二人の間で繰り広げられる攻防は、まさに闇と闇のぶつかり合いだった。モールの繰り出す精緻で攻撃的な剣技と、Xオルタの気だるげでありながら効率的な立ち回り。互いの得物が交差するたび、火花と共に赤い光が夜の街を照らし出した。
戦いの最中、モールの脳裏に、かねてより燻っていた渇望が急速に形を成し始めていた。
――弟子だ。
シディアスという稀代の策謀家を打倒するには、自らに匹敵するか、あるいはそれを補う力を持つ弟子が要る。
そして今、目の前でこれほどまでに拮抗した戦いを演じている娘こそ、まさにその条件を満たす存在に思えた。暗黒面に通じる資質、常人離れした剣技、そして底知れぬ何か。この娘を手に入れられれば野望の成就に近づく。
その考えに至った瞬間、モールは攻撃の手を緩め、油断なく距離を取りながら口を開いた。
「――娘、名を何という」
Xオルタは怪訝そうに眉を寄せた。
「戦ってる最中に、名乗り? 面倒だから省略していい?」
「答えろ」
「……Xオルタ」
「Xオルタか。いいだろう」
モールはライトセーバーを油断なく構えたまま、続けた。
「貴様の内に渦巻く力、その質、紛れもなく暗黒面のものだ。俺の弟子となれ。共にダース・シディアスに復讐を果たす」
一瞬の静寂が、二人の間に流れた。
Xオルタはしばらくモールを見つめた後、気だるげに、しかしはっきりと言った。
「受ける理由がありません」
淡々とした声だった。感情の起伏はほとんど感じられない。
「あなたの復讐にも、シディアスってやつにも興味ない」
モールの眉間に、深い皺が刻まれた。
「ならば力ずくで従わせるまでだ」
そう吐き捨てると、モールは再び猛然と斬りかかった。
夜の街に、二筋の赤い光跡が交錯した。モールの繰り出す一撃は、これまで幾多の敵手を退けてきた実戦の重みを伴っていた。両刃のライトセーバーを目まぐるしく反転させ、上段からの斬撃と見せかけて柄を返し、下段から胴を薙ぐ。ジュヨーの型に特有の、攻撃を防御の代わりとする苛烈な連撃だった。
Xオルタはその一つ一つを、決して無駄のない最小限の動作で捌いていった。踏み込みの深さも、身のこなしの速さも、見た目の気だるさからは想像もつかないほど洗練されていた。
モールは足払いを兼ねた回し蹴りを繰り出した。Xオルタは軽くステップを踏んでそれをかわすと、間髪入れずにネクロカリバーを突き出す。切っ先がモールの外套を掠め、布地を裂いた。
「速いな」
モールは僅かに目を細めた。無駄を極限まで削ぎ落としたその太刀筋は、洗練された技術というよりも、本能に近い何かによって研ぎ澄まされているようにすら感じられた。
二人は幾度となく距離を詰め、また離れながら、互いの出方を測り合った。夜の交差点に飛び散る火花と、赤い光刃の残像だけが、この静まり返った孤島の一角を照らし出していた。
赤い光刃と赤い魔力を纏った邪聖剣が、幾度となく交錯した。モールの繰り出す連撃は、ジュヨーの型特有の攻撃的な性質そのままに、防御を度外視した苛烈さを帯びていた。一撃、また一撃と、まるで嵐のような剣戟がXオルタに叩き込まれる。
Xオルタはそのすべてを、最小限の動きで受け流し続けていた。
「ならばこれならどうだ!」
モールはフォースで周囲の瓦礫や街灯の残骸をXオルタめがけて叩きつけた。Xオルタは最小限の動きでそれらをかわし、あるいは剣で弾き飛ばしながら着実に距離を詰めていく。
戦いは、拮抗していた。互いの技量、互いの力量。どちらが優勢とも言い切れない、緊迫した攻防が、夜の街の一角で繰り広げられ続けていた。
だが、その均衡は、ふとした偶然によって崩れることになる。
モールが大きく踏み込みざま、背嚢を担いだ肩を捻った拍子に、背嚢の留め具が外れ、中身が地面へと零れ落ちた。いくつかの包みが、パラパラと石畳の上に散らばる。
そのうちの一つが、勢いよく地面に落ちた衝撃で破れ、中から現れたのは艶やかな飴色の光沢を放つ、いかにも高級そうな羊羹だった。
戦いの最中であったにもかかわらず、Xオルタの動きが、ぴたりと止まった。
「――待って」
「な、何だ」
いきなり戦闘態勢を解いたXオルタに、モールは戸惑いを隠せなかった。Xオルタの視線は、地面に転がった羊羹に釘付けになっていた。眼鏡の奥の瞳が、心なしかわずかに輝きを増しているように見えた。
「それ羊羹ですよね。しかもその包装、老舗のそれも結構、値の張るやつ」
「……は?」
モールは自分の背嚢から零れ落ちたものを、改めて見下ろした。確かに、それは和菓子の類――羊羹らしきものだった。それがなぜ自分に支給されたのかモール自身、まるで見当がつかなかった。
「その羊羹、私にくれるなら」
Xオルタは、感情の起伏に乏しいいつもの声のまま、しかしどこか真剣な響きを込めて続けた。
「弟子になっても、いいですよ」
モールは、しばし言葉を失った。
つい先ほどまで、あれほど頑なに「受ける理由がない」と言い切っていた娘が、羊羹を前にして、あっさりと態度を翻したのだ。
「……貴様、正気か」
「正気です。とても」
Xオルタは真顔で頷いた。
「羊羹の価値、分かってます? 老舗の、この包装だと、たぶん相当良い品です。相応な対価だと思いますけど」
モールはしばし、地面に転がった羊羹と、目の前で真顔を崩さないXオルタとを、交互に見比べた。長年、シスの教えの中で培ってきた威厳や矜持が、この状況にどう反応すればいいのか、モール自身にも判断がつきかねていた。
だが同時に、モールの中には、確かな計算も働いていた。理由が何であれ、この娘の内に眠る暗黒面の資質と戦闘技術は、本物だ。羊羹でその力を手中にできるというのなら、これほど安い取引はない。
「……いいだろう」
モールは屈むと、地面に落ちた羊羹を拾い上げ、埃を軽く払ってからXオルタへと差し出した。
「これをやろう。今後は俺をマスターと呼べ」
Xオルタは羊羹を両手で恭しく受け取ると、こくりと頷いた。
「はい、マスター」
その切り替えの早さに、モールは内心、わずかにたじろいだ。
Xオルタはその場に腰を下ろすと、包装を丁寧に剥がし、羊羹に小さく齧りついた。咀嚼する頬が、ほんの僅かに緩む。感情表現の乏しい彼女にしては珍しいほどの反応だった。
「美味しい」
呟くように言うと、Xオルタは齧りかけの羊羹を見つめ、それから傍らに散らばったままの、他の包みの山へと視線を移した。
「マスター。まだ結構、余ってるみたいですけど」
「……何?」
「あなたも一本くらい、食べていいですよ」
どういうわけか、妙に上から目線の口調でそう言われ、モールは思わず眉間に皺を寄せた。
「俺の支給品だぞ」
「そうですけど」
悪びれる様子もなく、Xオルタは涼しい顔で二本目の羊羹の包装に手をかけていた。
モールは訝しみながら、地面に散らばった包みを一つ拾い上げ、中を検めた。羊羹。もう一つ拾う。これもまた、羊羹だった。さらにもう一つ。羊羹。
「……まさか」
背嚢の中身をすべて引っ張り出し、モールは愕然とした。
自分に支給された不明支給品――そのすべてが、寸分違わず高級羊羹だったのだ。
「なぜ俺の支給品がすべて、この菓子なのだ」
低く唸るように呟くモールの前で、Xオルタは二本目の羊羹に静かに口をつけながら、こともなげに言った。
「さぁ、運命じゃないですか」
「……ふざけるな」
そう言いつつも、モールは手にした羊羹を、まじまじと見つめた。主催者とやらが、いったいどのような意図でこのような支給品を寄越したのか、皆目見当もつかない。だが、目の前に積み上げられた羊羹の山を前にして、怒りをぶつける先すら見当たらなかった。
しばしの逡巡の後、モールは苛立たしげに包装を剥がすと、羊羹に齧りついた。
――甘い。
思いのほか上質な甘さが、口の中に広がった。長きにわたる復讐と敗北の連続の中で、こうした穏やかな味を口にする機会などモールにはほとんどなかった。
夜の渋谷の一角、闇に沈んだ交差点の傍らで、暗黒卿だった男と暗黒の資質を持つ少女は、並んで羊羹を頬張っていた。つい先ほどまで死闘を繰り広げていたとは思えないほど、その光景には奇妙な静けさが漂っていた。
【ダース・モール@スター・ウォーズ】
[状態]:下半身義足、疲労(少)、羊羹を食べている
[装備]:両刃ライトセーバー(赤)
[道具]:基本支給品一式、高級羊羹3ダース
[思考]:Xオルタを弟子とし共にダース・シディアスへの復讐を果たす。
1:状況を把握するまではゲームに全面的に乗るのは保留。
2:Xオルタをシスとして鍛える。
3:主催者とあらゆる願いを叶えるという報酬には強い懐疑心。
4:自らに支給された品がすべて羊羹であったとに困惑。
【謎のヒロインX〔オルタ〕@Fate/Grand Order】
[状態]:疲労(少)、羊羹を食べている
[装備]:邪聖剣ネクロカリバー
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:モールを暫定的なマスターとして受け入れる。
1:命令や指図には、それなりに従う。
2:戦闘そのものを面倒だと感じている。
最終更新:2026年08月09日 18:40