『リミナル『スペース』』
(キャラ) 岸辺露伴(ドラマ版)、グラン(基山ヒロト)、佐倉千代、エイリアン
◆
…
……
………
あるところに、とっても ネクラな マンガ家と、 アシスタントの リボンちゃんが いました!
センセーは ぐっすり おねむりチュー。
「センセー、おきてください! こうなったら わたしの チューで……」
アラまぁ! おアツいこと!
しかし しかし! そんな2人に ヒゲキが!
「ギョエェ~~!? う、うちゅうじんんッ!?」
なんと、なんと! うちゅうじんが やってきたのです!!
アットーテキな ちからで センセーと リボンちゃんは ボッコボコの メッタメタに やられてしまうのでした。
「千代ちゃん あぶない!」
センセーの ちゅうこくも むなしく、リボンちゃんは しんでしまいました……。
………
……
…
◆
「先生! 起きてください、先生っ!! 寝てる場合じゃないんですってぇ~~!!」
古い2階建ての喫茶店、そこの1階。
切れかけた照明の下で、無防備に寝込む岸辺露伴の身体を、佐倉千代はゆさゆさと揺さぶる。
雰囲気作りのために置かれたCDプレイヤーに、何気なく『ローレライの歌声CD』をセットしたのが悪夢の始まりだった。
プレイヤーから流される清らかな歌声を聞いた途端、露伴はばたりと睡眠に耽ってしまったのである。
「どど、っど、どうしよ~~……! こんなところで寝てたら風邪引いちゃう──……どころじゃない!!」
寝不足だったのか、起きる気配がない。
こうしている今も、佐倉千代という一介のデカリボンに過ぎないアシスタントには、死の気配が迫っていた。
さきほど露伴が使用していたドリップポットが湯気を立てて、芳醇な香りが満ちている。
湿った木とコーヒーの匂いは、長年点検をしていないであろう古びた換気扇を伝って、外へと漏れ出ていた。
ご丁寧に焙煎の煙まで出しているのだ。ここにいますよ、と狼煙を上げているのと変わりない。
なによりも────
「────こ、このままじゃ私っ! 宇宙人に殺されちゃうんですよぉっ!!」
両目に涙を溜めて、項垂れる千代の傍には『トト神』の漫画が開いた状態で落ちていた。
非常に誇張された露伴と千代の似顔絵に加えて、これまた誇張された宇宙人のシルエットが描かれている。
内容としては──パースもなにもあったものではないからあまり分からないが、これでもかとぶち撒けられる赤い塗料から、かなりショッキングなことになっているのは明白。
宇宙人の存在を信じているかどうかと言われたら、そこまでではない。
けれどこの“予言の漫画”の確実性は、さっき体験したばかりだ。
「わ、私……このままじゃ、本当に……っ!」
露伴を置いてここを離れる、なんていう選択肢はない。
けれどこのままここにいたら、宇宙人とやらに殺されてしまうらしい。
一体どうするべきかと、両手を振って慌てているうちに窓の外から凄まじい光が差し込んできた。
「えっ、なに────」
紫色の絶光が、千代の網膜を鋭く刺す。
轟々と迫る音圧に気がついた時には、もう手遅れだった。
────流星が、喫茶店を襲撃する。
もしも隕石が落ちてきたなら、きっとこんな感じなのだろう。
勢いよく弾き飛ばされて、全身の痛みに顔を悶えさせながら千代は思う。
ガラガラと崩壊を始めている天井の一部が、目の前に落下するのをぼうっと見ていた。
「──……い──っ、た……ぁ…………」
痛みと混乱から生理的な涙を滲ませて、必死に肺から空気を絞り出す。
バラバラになりそうな衝撃だったのに打撲程度で済んでいるのは、運良くソファに受け止められたからだ。
大きく仰け反らされた首と、背もたれの上端に当たった後頭部が特に鈍く痛む。
耳の奥で響くバネの軋む音が、フィクション感を拭って千代の恐怖心を煽った。
「やっぱり、直撃はしなかったか。
ロングシュートを的確に当てるのは難しいね」
冷たい声が、どこからか降ってくる。
半壊した建物の壁から、塵埃に紛れて人影がこちらを覗いていた。
「だ、れ…………」
どうにか絞り出せた疑問は、届いていたのか否か。
段々ハッキリと露になるシルエットに、千代は目を見開いた。
「僕の名前はグラン。エイリア学園の選ばれしハイソルジャーさ」
背丈は自分よりも少し高いくらいだろうか。幼さの残る顔立ちは、中学生ほどに見える。
奇妙なスーツに身を包む赤髪の襲撃者──グランは、崩壊寸前の店内を悠々と闊歩する。
「驚かせたようならごめんね。ほんとは小手調べで撃ったつもりだったんだよ。
けれどこのボール、思ったよりもずっと凄い力があるみたいでね。コントロールが難しいんだ」
(────……露伴先生、は…………?)
小脇にボールを抱えて、感情の読めない微笑みを携えたまま、芝居めいた動きで近づくグラン。
死神のように歩みを進める彼から視線を外して、周囲を見回す。
白い漆喰の瓦礫や、壊れたテーブルや棚が散らばって、少し探った程度では人影すら見つけられなかった。
まさか、死んでたりしないだろうか。
未だに自由が利かない身体を懸命に起こしながら、千代の瞳はグランの顔へと注がれる。
「うちゅう、じん…………?」
グランの見た目はただの人間と変わらない。
漫画に載っていた典型的な怪物とは、似ても似つかない容姿だ。
なのにそう問いかけたのは、今まさに“命の危機”に瀕しているから。
「へえ、よくわかったね。その通り。僕は遠き星エイリアから現れた星の使徒さ」
何を言っているのか分からない。
夢見心地な思考がようやくハッキリとしてきたのに、別の要因で意識が遠のきそうだ。
まさかこんな子供の見た目で宇宙人なんて、誰が予想出来ただろうか。
「……っ、ここ、ころさないで、くださいっ!」
「安心して、無力な一般人を手に掛けても力の証明にはならないからね」
「えっ……! み、見逃してくれるのぉ!?」
期待を孕んだ千代の目線を、まさかと一蹴してグランはデイパックを漁り始める。
そうして千代の前にガシャンと投げつけられたのは、変わった形状のナイフだった。
「僕の支給品の一つだ。それを使うといい」
「ぇっ、……は、ええっ!? なにこれぇ!?」
稲妻を形どったような虹色の刃は、骨董品のような独特な美しさを持つ。
こんな時でなければまじまじと観察したかったが、そもそも手が震えてまともに握れない。
反射的にナイフを取りはしたものの、困惑するばかりで一向に構えを取らない千代に対して、グランは痺れを切らしたようだった。
「キミ、他に武器は持っていないのかい?
実力差から考えて、それだけじゃフェアじゃないだろう」
ぴくり、と千代の頭が揺れる。
まるで地雷を踏んでしまったような予感が、グランの背筋を駆け抜けた。
「…………ない………………」
「え?」
「──だからないんですってぇっ!! 私に配られたの、ぬいぐるみとどら焼きですよっ!!?
こんなんで殺し合いとかっ! もう絶対ウケ狙い担当任されてるじゃないのぉ~~~~っ!!」
命の危機ということも忘れ、一人で大騒ぎする千代にグランは呆気に取られていた。
こちらを油断させる演技だろうか、なんて疑うことも忘れてしまうほど切実な様子。
獣のような敵意に満ちていたグランの瞳は、いつしか小動物を見るような哀れみを宿していた。
「もうだめだ……私、しぬんだぁ…………」
ナイフを持ったまま、がっくりと項垂れる千代。
このままでは自分の首を切りかねない危うさがあって、思わず取り上げたくなった。
こんな無力な少女を殺しても、ハイソルジャーの力を見せつける足しにもならない。
そう考えたところで、緑川の死体がフラッシュバックする。
毒気の抜かれた顔は一瞬にして鋭さを取り戻し、揺らいだ覚悟を掴み戻した。
「可哀想だけれど、キミには死んでもらう。
僕はなんとしてでも優勝しなければならないんだ」
「ひっ……、やっ、やだあああああああっ!!」
渋谷中に響き渡るのではないかという絶叫を意に介さず、グランが数歩踏み出す。
そうして手に持ったボールを床に落として、大きく利き足を振りかぶった。
「────《ヘブンズ・ドアー!》」
突如、横合いから飛び出した小さな影がグランへと襲いかかる。
予期せぬ襲撃にグランは対処が遅れ、咄嗟に跳躍するがもう遅い。
驚愕に歪んだ顔面は、目と口の部分を除いてペラペラと捲れ上がり、新聞紙を思わせる紙媒体となっていた。
「なっ──んだ、これは──っ!?」
今、グランの傍にいる帽子を被った子供を思わせるシルエット。
その正体を、千代は知っている。
これは、間違いない。そしてさっきの声だって、聞き違えるはずない。
「────せ、先生ぇっ!」
ぱああっ、と顔を喜色に染め上げた千代は、勢いよく振り返る。
壊れたテーブルの一部に半身を埋もれさせながら、右手を突き出す漫画家──岸辺露伴。
心底面倒くさそうにため息を吐きながら、露伴はテーブルの残骸を払い除けた。
「やれやれ、最近のガキは入店のマナーも知らないみたいだな。
もしもここが富豪村の別荘地だったなら、“代償”として命を落としても文句言えないぞ」
塵埃で汚れた真っ白な服をパンパンと払い、まるで席を立つかのような動作で立ち上がる露伴。
忙しなく口をぱくぱくと開閉させる千代を尻目に、彼は倒れ伏したグランへと近づいてゆく。
「あの悪趣味で醜悪な漫画によれば、僕らは“宇宙人”にやられるらしいじゃあないか。
となると、それはお前の事か? おいおいおいおい、とんだ期待外れな“宇宙人”だな」
「なん、だ……お前っ、は……!」
「ほォ~~、僕の『ヘブンズ・ドアー』を受けても意識があるのか。
これは精神力によるものなのか? それとも身体能力によるものか?
ああいい、返事はいらない。気が散るだけだ。今“読ませて”もらう」
──ペラリ、ペラリ。
千代の救助よりも、自身の手当てよりも、真っ先に優先された岸辺露伴のルーティーン。
天から与えられたギフト。偏執的という言葉を体現した彼にとって、なによりも興味の唆られるもの。
この殺し合いという異常事態においても、岸辺露伴は“生きた漫画”を描くためのネタを探している。
けれど、その行為は。
たった2ページ捲ったところで、止められた。
「──なにッ?」
露伴の右腕を掴んでいるのは、今まさに本となっているグランの手だった。
僅かに動揺する露伴。精神の乱れが影響してか、逆再生のようにグランの顔のページが閉じてゆく。
「驚かされたよ、奇妙な力を持っているんだね」
露伴は本能的に腕を払い除け、数歩分後ずさる。
上体を起こしたグランは、怒りか興味かどちらともつかない笑顔を浮かべていた。
「けれどその顔を見るに、“制限”が掛けられているらしい。
それがどんな制限なのか分からないが、ともかく君は僕を倒すチャンスを失った」
余裕を見せつけて立ち上がり、床のボールを踏み締めるグラン。
あわわ、と分かりやすく狼狽する千代とは対照的に、露伴は指先を顎に添えながらじっとグランを見つめていた。
「なあおい、君宇宙人なんだって?」
「なんだい? 冥土の土産でも欲しいのかな?」
「質問を質問で返すなッ!」
豹変。さっきまでの落ち着きようが嘘のような怒号に思わずグランは肩を震わせる。
数秒の沈黙を置いてから、引き攣った口元を戻しながらグランが口を開いた。
「ああ、その通──」
「1947年、アメリカのワシントン州レーニア山上空。世界で最初に未確認飛行物体(UFO)が目撃された。
それを皮切りに、世界中で続々と同じような目撃情報が相次いでいる」
出鼻をくじかれた。
喋らせておいてまるでわざと被せるように語り出す露伴のペースに、グランは惑わされている。
露伴の性悪さを察したグランは口を挟む気になれず、このまま流星ブレードをぶち込んでやろうかとさえ思った。
「だけどな、地球外生命体の目撃情報っていうのは未だにないんだ。
ノータリンのヤツらはNASAの陰謀だとか政府が隠蔽してるだとかアホ面こいて抜かしているが、そんなことどうでもいいッ。
本来絶対存在しない、という我々人類の“共通認識”があってこそ、リアルな“宇宙人”が完成するんだッ!」
凄まじい熱量を持って露伴の口から語られる宇宙人像とやらに、千代もグランも等しくドン引きする。
指一本動かすことすら躊躇われる彼の領域が、じわじわと展開されてゆくのを感じる。
「それをお前はなんだ? 僕は宇宙人です、だって?
ワレワレハ宇宙人ダ、なんて扇風機の前でふざけてるガキと変わらないじゃあないかッ!
なぜ宇宙人が自分を宇宙人と認識している? お前達にとっては、僕達こそが“宇宙人”だろうッ!」
露伴はグランの生い立ちを詳しく“読めて”いない。
最初の2ページを流し読みした程度で、その内容もほとんどが“円堂守”とか“サッカー”に関してのことだった。
つまり、露伴はただの自己解釈と偏見によってグランが人間であることを見抜いたのだ。
図星を突かれたグランは眉間に深い皺を寄せ、一瞬だけ大きく目を見開いたかと思えば、またすぐに猛禽類のように細められた。
「お前はダメだ。宇宙人として、全くリアリティを感じない」
総評として、バツ。
グランという少年は、宇宙人という題材としては相応しくない。
一方的で散々な言われように状況を忘れ、傍で見守っていた千代は可哀想とさえ思う。
「違うッ! 僕はエイリア学園の最高傑作! 最強のハイソルジャーなんだッ!」
ここまで言われてグランも黙っているはずもない。
足元に佇むボール、ザ・ストライカーに右足を掛けて、流れるように空中へ蹴りあげる。
天井スレスレまで放られたそれへ追従するようにグランが跳躍し、露伴は身構えた。
「────流星ブレードッ!!」
流れ星は二度墜ちる。
紫色の輝きを纏う円形のそれは、狭い屋内で放たれたということもあって一度目よりかは速度も威力も落ちている。
しかし、生身の人間からすれば変わらず脅威でしかない。
咄嗟に転がる露伴の後方に突き刺さり、耳を貫くような音波と衝撃波に身体が投げ出される。
くぐもった声を上げながら吹き飛ぶ露伴へ、千代は片手で顔を覆いながら悲鳴をあげた。
「見たかい? これがエイリアの力さ」
床を深々と抉ったボールは意思があるかのようにグランの手元に収まった。
吹き飛ばされた拍子に残骸に頭をぶつけたのか、流した血によって片目を瞑りながら、露伴はゆったりと立ち上がる。
「なるほど」
その顔は、笑っていた。
「宇宙人としては失格だが、漫画のネタにはなりそうだ」
「──……戯言をッ!」
踏み込むグラン、後方へ跳ぶ露伴。
回避と接近は同時に行われたのに、二人の距離は縮まっていた。
(──なんって身体能力だッ)
異次元な膂力だ。人間を超越している。
純粋なフィジカルでは、あの橋本陽馬をも凌いでいるだろう。
しかし、この場においても露伴が勝っているものが一つだけある。
「────《ヘブンズ・ドアー!》」
それは、手先の器用さ。
何万何十万と繰り返した指先の動きは、グランの接近スピードを上回る。
露伴から飛び出した子供型のシルエットへ、グランは自ら突っ込む形となった。
「──ッ──!」
次の瞬間、露伴の目が驚愕に剥かれる。
ヘブンズ・ドアーを見てからグランは即座に切り返し、華麗なステップで躱したのだ。
予測と反射神経、どちらも相当な領域に達していなければこんなら芸当は成し遂げられない。
「二度と食らうか──!」
とはいえ、グランも迂闊に踏み込めない。
ヘブンズ・ドアーは、触れた対象の動きを強制的に殺す能力なのだ。
例えそれがたった数秒間であろうと、戦いの中で動きを止めるというのは敗北に直結する。
警戒を滲ませるグランは、露伴への追撃を断念して距離をとる他ない。
冷や汗を垂らす露伴とグランが、互いに睨み合う形となる。
ふとその傍で、力なく座り込んでいる千代の姿が目に入った。
どうやら戦いの中でいつの間にか近づいてしまっていたらしい。
邪魔だと追い払おうとした露伴だったが、なにか思いついたようにハッとした顔を浮かべる。
「佐倉くん、ちょっと」
「えっ、は……はい?」
「こっちに来てくれないか」
「はぁっ!? む、無茶ですよ!! やられちゃいますって!!」
「よく見ろ相手は僕しか見てない! 君程度が動いたところで、なんの影響もないんだよッ」
ひどっ、と落ち込む千代だったが、事実グランはこちらへ目も向けていない。
それで言うなら露伴も視線すらくれていないのだが、グランから目を離すわけにいかないのでそれは仕方ない。
身体を強ばらせながらゆっくり、ゆっくりと露伴の元へ近寄る。
「これ、借りるよ」
「あっ、え!? ちょっと!!」
そんな健気な千代から、あろうことか露伴は真っ赤な水玉リボンを毟りとった。それもご丁寧に二つとも。
怪訝そうに出方を伺っていたグランも、悠長な行為を前にして先手を打つことを決断した。
「舐めるなッ!」
天井が低い屋内での流星ブレードは威力が著しく落ち、確実性が低い。
ゆえに彼は、棚の残骸を蹴り飛ばして牽制の一撃を放つ。
木製ということもあり頑丈さとは無縁なそれは、無数の弾丸となって襲いかかる。
幾つかはヘブンズ・ドアーによって迎撃したものの、破片の一つに左脚を射抜かれた。
「ぐ……ッ」
機動力を削がれた露伴にできることはない。
迫り来るグランへ、苦し紛れにいまもぎ取ったリボンを投げつけるので精一杯だ。
こんなもの時間稼ぎにもならない。水玉模様のそれを払い飛ばし、グランは今度こそトドメを刺すために肉薄した。
「もらっ──」
「いいのか? そんなに接近して」
ぴたりと、足が止まる。
危機的状況の中、勝利を確信したような薄ら笑いを浮かべる露伴へ、寒気がした。
「そんなに近付いてたら、周りがよく見えないだろ?」
────ハッタリだ。
もう既に蹴りの射程圏内。構わず露伴の顎を蹴りあげようとして、違和感に襲われた。
「こ、れは──ッ!?」
右足が重い。振り抜けない。
目線を下にやって、グランはその原因に気が付いた。
彼の右足と壊れたテーブルの脚が、水玉模様のリボンによって巻き付かれている。
当惑に見舞われながらも右足に力を込めて、無理やりリボンを引きちぎった。
(まずい……!)
一体いつの間に、どうやって。
そんな疑問はどうだっていい。
問題なのは────
「────《ヘブンズ・ドアー》。心の扉は開かれる」
グランが動きを止めたのは1秒にも満たない僅かな時間。
けれどそれだけの時間があれば、露伴でなくても人間の反射神経なら先手を打てる。
即座に後方へ跳んだものの、グランの右腕の一部が本となり、すぐに顔面にまで伝達した。
「僕は手先が器用なんだ。そしてこのヘブンズ・ドアーもね。
さっき僕が投げたリボンに気を取られた瞬間に、もう一つのリボンをヘブンズ・ドアーに渡していた。
そして愚かにも、僕のブラフにかかって動きを止めた君に、こいつをプレゼントしてやったのさ。
別にその時に本にしてやってもよかったんだが、こうした方が君のプライドを傷つけられると思ってね」
勝利を確信した露伴は、饒舌に語り出す。
動きを封じられたグランは、悔恨とも憎悪とも取れる双眸で露伴を睨みつけた。
「馬鹿な……あんな一瞬でこんな芸当、できるわけがない……!」
「できるわけがない? 君が僕の何を知っている?」
グランの言い分はもっともだ。
純粋な機転という言葉ではどうにもならない圧倒的な器用さをもって、さっきの罠は完成する。
グランの敗因はただ一つ。
「────この岸辺露伴を舐めるなよ」
“岸辺露伴”を知らなかったことだ。
「さて、ゆっくりと鑑賞したいがそうもいかないらしい。
悪いが君の素性を読む前に、“勝利宣言”させてもらう」
スラスラスラ────。
【岸辺露伴、ならびに佐倉千代に攻撃できない】
「お前っ、なにを──!」
「オマケにこれも書いておこう。ヘブンズ・ドアーが解かれた瞬間に付き纏われたらたまったものじゃない」
【このエリアから一目散に走り去る】
◆
──なんという屈辱だ。
グランは流れる汗を水平に飛ばし、アスファルトの中心を全力疾走しながら歯噛みする。
最強を自負しておきながら、あの岸辺露伴という男に一杯食わされた。
まさかあんな奇妙な力を持つ者がいるなんて──自分の迂闊さに笑いすら込み上げてくる。
力では完全に勝っていたのに、些細な油断きよって勝利を取りこぼしたのだ。
緑川の時になにも学ばなかったのか。
現時点では、グランは“最強”になり得ない。
少なくともそれを認めなければ、同じような過ちを何度も繰り返すことになるだろう。
(次こそは────!)
この場には円堂守もいる。
彼がそう簡単にやられるとは思わないが、この戦いを生き残るにはどのみち決着をつけなければならない。
こんな形で戦うことになるとは不本意だが、逆にいい機会なのかもしれない。
「君と会うのが楽しみだよ、円堂くん」
彼はきっと、この戦いを通して成長している。
飛躍的な力の上昇を近くで見ていたからこそ、断言出来る。
ならば自分も油断を無くし、腕を磨いて新たな技を会得しなければ。
身も心も人間を超越した存在。
それこそ、正真正銘の“宇宙人”にでもなんでもなってやろう。
【B-6/深夜/1日目】
【グラン(基山ヒロト)@イナズマイレブン】
[状態]:右足にダメージ(小)、疲労(中)
[装備]:ザ・ストライカー@FINAL FANTASY Ⅹ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~2、緑川リュウジのランダム支給品×1
[思考・状況]
基本方針:ハイソルジャーの力を示す。
1:人の集まりそうな場所へ向かう。
2:円堂くん、君とはここで決着をつけることになるかもね。
※エイリア編、雷門イレブンとの決着前からの参戦です。
※リミッターを解除することで限界以上の力を引き出せますが、消耗が大きいです。
※ヘブンズ・ドアーによって「岸辺露伴、佐倉千代を攻撃できない」という命令を書かれました。
◆
「せっ、せんせぇ~~~っ! 死ぬかと思いましたよぉっ!!」
「ああ、わかったわかった。ところでその趣味の悪いナイフはなんだ?
危なかっかしくて仕方ない。今すぐ床に置け」
弾けるように走り去ったグランの背中を見送り、千代はへなりと座り込む。
わんわんと子供のように泣きじゃくる彼女を落ち着かせるでも手当するでもなく、露伴は自分の左脚を擦る。
出血はしているが、歩けないほどじゃない。
自分の上着で止血を施して、ふうっと息を吐いた。
「というか、リボン! 私のリボン……なくなっちゃったっ!!」
「一々うるさいな君は。いいじゃあないか、命が助かったんだから。
まぁ、トレードマークである“リボンちゃんは死んだ”けどな」
「あっ……それって、この漫画のやつですか!?」
今まで大事に隠しておいたのだろうか。
どこからか取り出したトト神の漫画を開いて、まじまじと凝視する。
「“指切り”なんてつまらないトンチだと思っていたが、参考にさせてもらったよ」
「えぇっ!? あの露伴先生が、いきなり素直に……!?
これってもしかして、不吉の予兆ですか!?」
「やっぱり訂正しよう。あれは僕の思いつきだ」
「あっ、うそうそ、私達ふたりのお手柄ですねっ!! 超ラッキー!!」
千代は知る由もないし、推察にも至らないが、岸辺露伴がリボンを使ったのはなにも“プライド”のためだけじゃない。
もちろんそれが半分以上を占めるが、ほんの僅かに、つまらない漫画の予言を覆したいという思いもあった。
思いついたのは本当に偶然だったが、どうやら上手くいったらしい。
「それより病院に行こう」
「えッ……もしかして私、頭の心配されてますか!?」
「そうじゃないし君の心配なんてしていない。
見ろよ僕の傷を。君なんかよりもよっぽど深い。
救護道具がいるんだ、いますぐにッ」
たしかに、と今更納得する千代。
正常性バイアスによって、自分も露伴も傷を負っているという認識が欠けていたらしい。
荷物を纏めて喫茶店を出ようとする露伴へ、千代も慌ててついていく。
「まったく、これだから波長が合わない人間と付き合うのは嫌なんだ。
君も一介のアシスタントなら、漫画家が怪我していたらどうするか覚えておけ。
今回は脚だからまだよかったが、もし腕を怪我したなんてことになったら投稿に響くんだぞッ」
ブツブツと文句を垂れて、露伴は出口の取っ手に手をかける。
さっきの騒ぎで蝶番が壊れたのか、ガタガタと歪な音を立ててなかなか開こうとしない。
「おい、聞いてるのか」
苛立ちをぶつけるように、背後へ振り返る。
佐倉千代の返事はない。
いいや、できるはずなかった。
首から上が、食いちぎられていたから。
獣のような唸り声を上げて、咀嚼を繰り返す異形。
口腔内から覗かせる第二の口から、肉片と血がぽたりぽたりと垂れ落ちて床を汚す。
刃物のように鋭く巨大な左手の爪は、佐倉千代の腹部を串刺しにしていた。
全身を覆う漆黒の外殻は、驚愕する露伴の顔を映し出している。
特徴的な頭部で新たな獲物に照準を合わせるソイツの姿は、紛れもなく────宇宙人(エイリアン)だった。
「《ヘブンズ・ドアーッ!!》」
反射だった。
思考と神経の全てを集中力に費やして、ヘブンズ・ドアーによる迎撃を試みる。
突如現れた帽子型の幽霊を前に、エイリアンは佐倉千代の遺体を投げ飛ばして跳躍した。
怯む露伴に対して、エイリアンは追撃よりも撤退を優先する。
先程戦闘した者のように、露伴もまた解析不能の力を持っていると判断したからだ。
追跡者は天井を這い、瞬く間にダクトの中へと潜り込む。
息を切らす露伴は、久方ぶりに味わう本気の恐怖というものに動揺していた。
数秒してから、目の前に転がる千代の遺体に突き動かされたように、喫茶店を飛び出す。
我も忘れて走っているせいで、ちぎれそうなほどの痛みが左脚を襲っていた。
「──はっ、はぁ……! くそッ、冗談じゃあない……ッ!」
それでも、露伴は止まらない。
悔しいがあの怪物は、正真正銘の“宇宙人”だ。
ヘブンズ・ドアーが効くのかも怪しいし、そもそも当てることすら絶望的。
もちろん可能ならばゆっくりと“研究”したいが、もうそんな場合じゃない。
佐倉千代という惜しい人材(アシスタント)を亡くした。
それ自体はもう仕方ないと割り切っているが、むざむざと残酷な遺体を見せつけられた衝撃は大きい。
リアリティのある死の描写のネタになったぞ、なんていう喜びすら遠く彼方へと追いやる。
それほどまでに、目の前で行われていた捕食行為は露伴に恐怖を植え付けた。
「この、岸辺露伴が……恐怖、するなんて……ッ!」
悪態か、もしくは興奮か。
どちらとも取れる声を洩らして、岸辺露伴は動く。
アスファルトを彩る赤い血は、まるで出来損ないの絵画のようだった。
【佐倉千代@月刊少女野崎くん 死亡確認】
【残り88人】
※佐倉千代の支給品、及び【破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)@Fateシリーズ】がC-7の破壊された喫茶店内に落ちています。
【C-7 壊れた喫茶店周辺/深夜/1日目】
【岸辺露伴@岸辺露伴は動かない(ドラマ版)】
[状態]: 全身にダメージ(中)、左脚に刺し傷、疲労(中)
[装備]: Gペン@現実
[道具]: 基本支給品一式、漫画セット一式
[思考]:殺し合い。ならびに『スタンド』という現象を徹底的に取材・研究する。
1:急いでこの場から離れて、治療できる場所を探す。
【エイリアン@エイリアン】
[状態]:右腕欠損、小程度損傷
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:損傷を回復しつつ、次の奇襲の機会を伺う。
1:人間を狙って狩りを行う。
2:ダクトを移動経路として活用する。
※エイリアンに支給されたデイバッグは会場の何処かに放置されています。
【支給品紹介】
【破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)@Fateシリーズ】
グランに支給された歪な形をした短剣。
佐倉千代に渡されたが、現在C-7の喫茶店に放置されている。
攻撃力は普通のナイフと同程度しかないが、「あらゆる魔術を初期化する」という特性を持つ最強の対魔術宝具であり、令呪の契約も打ち消すことが可能。
ただし、どれほど低いランクであっても宝具の初期化は出来ない。
最終更新:2026年08月13日 16:34