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『Kの奸計/希望に縋る少女たち』


(キャラ) 神谷実、紫雨こころ、小林みくる、古畑任三郎、美樹さやか、秦谷美鈴




え~~……嘘の、上手な吐き方。
皆さん、ご存じでしょうか……?

それはですねぇ……、んー、詳しくは────「古畑任三郎」第11話、「さよなら、DJ」をご覧ください。







ガタガタガタ




コインランドリーで洗濯機が回る。
ドラム式の洗濯機の中で、小林みくるの着ていたピンクのケープが目まぐるしく回転し、バシャバシャと水音を立てながら洗われている。

「なるほど神谷先生。えーあなたぁ、その殺人ピエロに遭遇して逃げて来られたと?」
「はい。死ぬかと思いました」

みくるの吐瀉物に塗れた衣類を洗濯していた横で、古畑任三郎は神谷実と名乗る医者の男から事情を窺っていた。


──た、助けてくれ……!!
──私は、神谷実……殺し合いには乗っていない!
──ピエロ風の男に、お、襲われてぇ!!

──え~~、落ち着いてください。私あの、警視庁の古畑と申しますぅ~。

吉良吉影が去ってから、コインランドリーを探していた一行の前に、神谷は現れ自ら名乗り殺し合いに反対であると口にする。
古畑達は神谷に敵対の意思がない事を確認して、このコインランドリーで情報交換を行っていたのだった。

「……特殊な能力を持っているようでして。
 紙で刃物のように突き刺してきたり……一番不可解だったのは、遠くにいたのに一気に手繰り寄せられて殴られた時でしょうか……」

奇怪なピエロの風貌をした奇術師に、さながらスプラッタ映画の殺戮者のように襲われ、支給品を使って命からがら逃げてきた。
左の頬を腫らした神谷の言葉には強い説得力がある。

「災難でしたね……」
「いやいや、こうして君達に出会えたんだ。私はツイている方だよ」

紫雨こころ──キュアキュンキュンもいつしか神谷を疑う事を忘れ、信じきっていた。

「んー、なるほどぉ。そうでしたかぁ……」
「古畑さん、これって空間を操るような能力じゃ……例えば──」

みくるが引っ掛かったのは、神谷が引き寄せられたと感じた現象だった。

「離れた空間を瞬時に縮め、ターゲットを自分の間合いへ吸い寄せる力。
 それなら、その不可解な攻撃も説明がつきます!」

強い確信を胸に、みくるは言葉を泳がせながらも必死に推理を紡ぎ出していく。

「……小林さん。ここには超能力のようなものが実在しているのは事実ですがね。
 なんでも都合よく超能力で辻褄を合わせようとするのは、よろしくない」

古畑は渋い顔をしていた。
推理に対し、その推理材料が決定的に不足している。
みくるは自分の求める推理に当てはまるような異能力を作り出し、根拠もなく結論を決めつけていると、古畑は指摘した。

「あ、す……すみません」
「もちろん、小林さんの推理通りの可能性もなくはありません。
 ですがね、まずは疑ってかかってください。ご自分の立てた仮説にすら。
 重要なのは、物事の本質を捉えることです……」

そう語る古畑の言葉には、どこか重みが宿っていた。
過去に似たような過ち、自らの偏見や過信によって、真実を見落としかけた。そういわんばかりに。


「ほん、しつ……?」

「私にも、決めつけで陥った苦い失敗があるという事です。今となってはいい思い出ですが……」

いつもの飄々とした口調の奥に一瞬だけ覗かせた、静かな熱量と郷愁に、みくるは息を呑んだ。

「どうしますか? その殺人ピエロが殺し合いに乗っているなら、今から止めに」

神谷を取り逃がした殺人ピエロが、すでに別の参加者を襲っているのではないか。キュンキュンに、嫌な胸騒ぎがよぎる。

「いえ紫雨さん、やめておきましょう。ろくに戦えるのがあなた一人しかいない以上、下手に喧嘩を売るのも危ない」

古畑は静かにキュンキュンを制止した。

「神谷先生も、そんな恐ろしい殺人ピエロとまた会いたくはないでしょう?」
「ええ、奴らには、もう懲り懲りですよ」

その言葉に嘘はない。

(どうせ、スペルカードで遠くに飛ばされているしな)

神谷を退けたヒソカはゴリゴリの武闘派だった。
次に相まみえれば、ヒソカは神谷を殺すことに何の躊躇もないだろう。
そして、神谷も碌な抵抗ができずに殺されてしまうだけの実力差を痛感したばかりだ。
始末はしたいが、このまま再会したくない。
だからこそ、こうして悪評を撒き散らし、他の参加者に潰させようと画策している。

(あの小娘の存在も……やはり伏せておくのが無難だな。
 殺人ピエロに連れがいるなど、話に余計なノイズが混じる。かえって俺の証言が怪しまれかねん)

そしてヒソカより頭を悩ませたのは、猫猫の方だった。
ヒソカと組んで襲ってきたと話すか、あるいは存在そのものを伏せておくか。
神谷が選んだのは後者だった。
ヒソカの悪印象を植え付けるには、猫猫の存在が邪魔になる。
恐ろしい殺人ピエロに幼い少女の相棒がいるなどと言えば、信憑性が薄れるてしまうからだ。
もしも再会したならば、猫猫はヒソカに騙されているのだと周囲に吹き込み、保護するフリをして暗殺すればいい。
医療知識とそれをフルに活用できる神谷の能力ならば、難しくはない。
余計な事を一言も話させず、口封じをするなど造作もない。
あとは、それをヒソカのせいにして、神谷に騙された参加者達をぶつけてやればいい。

「…………えー、はいぃ……心中、お察ししますぅ……」

自身の両腕を強く抱きしめ、カタカタと震える神谷。その姿はすっかり怯えきっている、という風に演技をした。
口を鳴らしてから出した古畑の声は同情的だった。騙せていると神谷は確信する。

「やっぱり、人と戦わなくちゃいけないんですね」

キュンキュンの目もまた陰っていた。
大人の男をここまで恐怖させる殺人ピエロとは、一体どんな存在なのか。
これまで対峙してきた怪物たちとは違う。生身の人間が、明確な殺意と悪意を持って自分たちを狙ってくるのだ。
想像するだけで、鉛を呑み込んだように心が重くなる。

神谷の本性を知らないまま。

ピーピー、ピーピー。

唐突に電子音が響き、ドラム式洗濯機が運転の終了を告げた。

「お、洗濯が仕上がったようだ」

神谷が席を立ち、洗濯機へ手を伸ばしたのは単なる気まぐれだった。
たまたまその近くにいたから。音に釣られるようにして、コインランドリーのパイプ椅子から立ち上がったに過ぎなかった。



ドスドス!!


その直後だった。
無数の剣がコインランドリーの窓ガラスを突き破り、神谷が一秒前まで座っていた席に突き刺さったのは。
驚いた神谷が腰を抜かし、みくるは悲鳴を上げた。

「運のいい奴」

ガラスの破片を踏みしめて、中に飛び込んできたのは青い髪の少女だった。

(なんだ、このガキはッ……!)

白いマントを靡かせた少女が両手に剣を握り、殺意の滾った視線を神谷へと向ける。
神谷が想起したのは、一度敗北を味わった浦飯幽助だった。
病院内でテリトリーを展開し、医者、看護師、患者、全てを病気に罹らせ幽助と対峙したあの瞬間。
被害者達を病気から回復させるために神谷を殺そうとした殺意。
その時のさらに数十倍はあろう冷徹な殺意が、神谷に向けられているのだった。


コインランドリー内をジロリと見渡し、古畑達全員を視界に収めた少女が動き──その目の前にキュンキュンが飛び込む。

「古畑さん!」
「お任せします!  小林さんと神谷先生はこちらへ!」

キュンキュンの叫びに古畑が即座に応じ、みくるの手を引いて神谷とともにコインランドリーの奥へと走り出す。
逃げる三人へ追撃を仕掛けようとする少女へ、キュンキュンの重い蹴りが襲いかかった。
少女は間一髪でそれをかわし、後方へと大きく跳躍してコインランドリーの店外へと躍り出る。
追撃の手を緩めず、キュンキュンもまた同じように屋外へと飛び出していった。



(やはりツキは俺に来ている)



コインランドリーの裏口を走る神谷は、胸中でひそかにほくそ笑んでいた。
剣を操る青い髪の少女には些か驚かされたが、それはまあいい。
ここにいる中で最大戦力と思わしき、キュンキュンが離脱したのは絶好のチャンスだった。

(あの紫の雌ガキさえ消えれば、残った古畑と小林を殺すのは簡単だ)

プリキュアという超人をまともに相手にするのは、神谷も避けたい。
だが、彼女が青髪の少女の相手を引き受けて離脱してくれるなら話は別だ。
優しい神谷先生として、殺し合いに否定的なチームに紛れ込む算段だったが。
今ここで二人を殺し、支給品を奪う方が遥かに得と言える。
後から、もしもキュンキュンが追いついたのなら、ヒソカがやった事にして、彼女をぶつけ合わせるという風に仕組む事もできるだろう。
つい先ほども、殺人ピエロとして散々悪評を吹き込んだばかりだ。
神谷に同情していたキュンキュンならば、少し凄惨に殺人現場を演出してやれば頭に血が上ってヒソカに敵愾心を燃やしてくれるかもしれない。

前を走る古畑を見つめる。
コインランドリーの裏口から外に出て、さらにそこから離れた場所まで来たところで。
神谷は手に霊力を込めた。
こうする事で、徒手が切れ味のいいメスへと早変わりするのだ。
あとは身体機能を上げて、そっと古畑とみくるの背後に忍びより首筋を撫でるだけで良い。
血を噴き出して二人は死ぬ。


「わっ……凄いなあ、これぇ」

その、筈だった。

『オラァッッ!!』

神谷が一歩を踏み出した瞬間、古畑の頭上に、髪を逆立てた古代ローマの戦士のような大男が顕現し、鋭い視線で睨みを利かせてきた。
咄嗟に足を止め、手に込めた霊力を霧散させた神谷は、ただ絶句するしかなかった。

「ふ……古畑さん?」
(まさか、殺し合いに乗っている事がバレている?)

「ンッフフフ……えー、これスタンドというんですって。支給されたものなんですが、案外使えそうですね。
 んー強そうだぁー」

古畑は実に軽い口調で、飄々と言ってのけた。

「は、はあ……スタンド……?」

「紫雨さんが居ない間は、これで何とかしましょう」

(俺が殺そうとした瞬間、こいつスタンドとかいう奴を……)

神谷が支給されたスペルカードのように、特殊な力の宿った物品が古畑に支給されて、特殊な力に目覚めたのは納得できる。
しかし、何故このタイミングなのだろう。
まるで神谷に警告し威嚇しているようだ。
何か、殺し合いに乗っているという致命的な証拠を見つけられたのか?
古畑の素性が刑事であることは、最初の接触の段階で聞いていた。それ故に、一瞬神谷に緊張が走る。

(いや、今の俺は幸運だ。リスキーダイスの効果で)

リスキーダイスの効果は、大吉が出た場合一度だけ幸運が訪れるというもの。
格上のヒソカに不意打ちを決めたように、次に出会う参加者にも奇襲を決められるか、あるいは容易く騙せるようにダイスを振って大吉を出した直後だ。
恐れる事はない。

(待て──?)

『運のいい奴』

(……俺が席を立って、剣を避けたあの偶然が幸運を吸ってしまった、という可能性はないか?)

しかし、あの時。
剣を操る少女の攻撃を偶然避けられたこと、それこそが幸運としてリスキーダイスの加護を消費してしまったのだとしたら?

今の神谷には幸運は味方しない。

このまま交戦して、未知の力を得た古畑に勝てるか?
使い慣れていない能力なら、熟練する前にここで狩っておくのが得策ではないか?
神谷の中で見解が揺れる。

(もう一度、リスキーダイスを振るか?)
(だが……こんな場面で切るのは無駄なリスクか?)

神谷とて、死を受け入れる覚悟はあるが、無駄死には御免だった。
現状、古畑を不用意に襲うためだけにダイスを振る気には、どうしてもなれない。
振り返ってみると、ヒソカとの戦闘も初手の奇襲のみが成功して、その後は散々な戦果だった。
リスキーダイスでまた幸運を得たとしても、あの正体不明の古代ローマ戦士の幽霊と、何の手の内も分からないまま交戦するのはやはりリスクが高いだろう。
所詮一度しか発動しない幸運、あてにするには少々心許ない。しかも1/20で、大凶が出てしまう可能性もある。


(こいつ、一体……)

それに現状では、殺し合いに乗らない参加者のフリをして友好的な集団に紛れ込めているのだから。
わざわざ自滅の可能性を孕むリスキーダイスを振ってまで、無暗に交戦する必要は感じられない。
故に、神谷は一旦矛を収める。
しかし、やはり腑に落ちない。
古畑の振る舞いがただの偶然なのか、あるいは……。

「えー……名前は何々?」

神谷の苦悩や葛藤を知ってか知らずか、古畑は取り出した説明書を呑気に読み始めた。

「──……んー、『スタープラチナ』ぁ?」

それが神谷に対する揺さぶりなのか、それとも本当に何も知らず単なる偶然なのか、神谷には最後まで判別がつかなかった。



「紫雨さん……大丈夫でしょうか」
「我々が行っても足手纏いです。今は、彼女を信じましょう」


「……」



みくるを落ち着かせる古畑を、神谷は冷ややかな目で見つめていた。


【G-4/深夜/1日目】

【古畑任三郎@古畑任三郎】
[状態]:健康、貧血気味
[装備]:フリーザの小型ポッド@ドラゴンボールシリーズ、スタープラチナのスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~1
[思考・状況]
基本方針:森口を逮捕する。
1:吉良を警戒、ロックオン中。
2:神谷に対して???
3:────古畑任三郎でした。
※神谷の「ええ、『奴ら』には、もう懲り懲りですよ」の台詞から、殺人ピエロ(ヒソカ)には最低でも仲間が一人いたのを、神谷が隠していると判断しました。


【小林みくる@名探偵プリキュア!】
[状態]:健康、トラウマ(極大)、殺し合いへの恐怖
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3、小川さくらの支給品×1~3
[思考・状況]
基本方針:名探偵として人を助けたい……けど。
1:古畑さん達についていく。
[備考]
※明智あんなと出会う前からの参戦です。


【神谷実@幽☆遊☆白書】
[状態]:ダメージ(小)、全身に裂傷(処置済みのため行動に支障なし)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、リスキーダイス&排除(イリミネイト)のカード@HUNTER×HUNTER、ランダム支給品×0~1
[思考]:皆殺し。優勝したら人類滅亡でも願う。
1:優しい神谷先生(ステルスマーダー)を継続する。古畑には気付かれていない……はずだ。
2:ヒソカと猫猫は次に会ったら始末する。


【スタープラチナのスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険】
古畑任三郎に支給。
空条承太郎の使用するスタンドスタープラチナが内包されている。
圧倒的なパワー、スピード、精密動作性に長けており、シンプルに強いスタンドの代表格。
時を止めるスタープラチナ・ザ・ワールドの能力も備わっているが、練度の浅い使い手では時止めを発動することができない。








「くっ……こいつッッ!!」

剣を操り神谷実を襲撃した少女──美樹さやかは完全に劣勢に立たされていた。

「キュンキュンレーザー!!」

甲高い叫びと同時に、相手のツインテールを束ねるリボンが紫光へと結実する。
瞬間、空間を裂くような数多のレーザー光線が放たれた。

これが厄介だった。

さやかのメインウェポンは、無限に産み出される西洋剣だ。
肉迫して斬り伏せるも良し、柄を握り直して弾丸のごとく投擲するも良し。近接・遠距離ともに隙のない万能スタイル。

だが、敵の速射性能は魔法少女の超人的な身体能力すら軽々と上回っていた。

(??速い……ッ!!)

正面から迫る一閃を刃で強引に弾き飛ばし、左右から挟み込む熱線は間一髪の跳躍でかわす。
迫りくる光線を、空中で刀身を投げ捨て、足元に生成した新たな剣の側面を蹴りつけて強引に軸をずらし回避。
余裕などどこにもない。
着地。そのわずかコンマ数秒の隙すら、敵は見逃さなかった。
地面を蹴った瞬間の足裏の死角へ、あらかじめ置かれていたかのような紫の砲火が一斉に降り注ぐ。
剣を無数に作り出して、即席の盾として直撃を回避。
レーザーに煽られながら、さやかは後方へ吹き飛ばされた。
面を押し潰すようなレーザーの弾幕が間髪入れずに叩き込まれ、間合いを詰めることすら叶わない。
ならばと、無数の剣を同時に生成して一斉に投擲を仕掛けても、寸分の狂いもない精密な迎撃射撃によって、ことごとく撃ち落とされる。

(なんなのよ、これ……ッ!!)

キュンキュンレーザーなどというふざけきった名称のくせに、そこから繰り出されるのは圧倒的な汎用性。

馬鹿正直に戦うのは、得策ではない。

「……あんたさ。もし、魔法少女がテレビでやっているような正義の味方だって考えているなら、キュゥべぇに騙されてるよ」

なにも、戦いとは剣を振るだけではない。
某アイドルに激似の探偵を取り逃がした経験から、さやかは戦い方を変える事にした。
あの男も口が非常に達者で、さやかから冷静さを奪ったからこそ逃走に成功したともいえる。

「何を、言っているんですか?」

言葉は時として、剣以上の武器になり得るのだ。

「魔法少女の正体……それは魂をソウルジェムに加工されて、空っぽの肉体を動かすゾンビだってこと。
 嘘だと思うなら、ソウルジェムを遠くへ投げてみなよ。あんたはすぐに意識を失うから」

信じるとは思っていない。戦闘の最中に本当にソウルジェムを捨てるなんてするわけもないだろう。
だが、揺さぶりをかけることができれば、それでいい。

「あの……なんだか、さっぱりなんですが」
「……あんたも魔法少女なんじゃ」
「プリキュアですけど……」
「なっ!?」
「事情はよく分かりませんが……元の体に戻るために、こんな殺し合いに乗っているんですか?」
「だったら、なに?」

さやかは柄を握る手に一層力を込め、相手を睨みつける。
華やかな見た目と、自分と同年代の容姿から同じ魔法少女と誤解してしまったが、全くの勘違いだった。
気恥ずかしさと苛立ちが混在して、さやかは叫んだ。


「説教でもする気!?」
「……」

返ってきたのは、言葉ではなく冷ややかな沈黙と哀れみの視線だった。

「そんな目で……憐れんだ目で、私を見るなッッ!!!!」

咆哮とともにさやかが剣を握り直す。それが、第二ラウンドの合図だった。

降り注ぐ紫色の雨嵐の中へ、さやかは回避行動のすべてを捨て去り、正面から飛び込んでいく。
ぐちゃり、と肉と骨が爆ぜる生々しい音が響いた。
一瞬でさやかの左腕が肘から吹き飛び、追撃の熱線が容赦なく腹部を穿ち、背後へと貫通する。

「う……そ……!?」

さしものキュンキュンも絶句し、目を丸くさせた。
当然避けるはずの光線に、自ら死にに行くように飛び込んできたのだから無理もない。

だが、それこそが美樹さやかの狙いだった。

彼女の魔法少女としての本質は、単に剣を産み出すことではない。
真の能力は、致命傷すら瞬時に塞ぐ異常なまでの超回復力。
そして何より、自らをゾンビと自虐する彼女は、痛覚を完全に遮断できる。
肉が抉られようと、腹に穴が開こうと、彼女の踏み込みを止める理由は存在しなかった。

血だらけになりながら、ビームの弾幕を突破しようやくキュンキュンへと肉薄するさやか。
捏ねた粘土のように、さやかの左腕が再生されていく。ビデオの巻き戻しのようだなと、さやかは他人事みたいに思った。
やっぱり、私は化け物なんだなと、自嘲する。

再生されたその手には、西洋剣が握られていた。

キュンキュンの動きが、一瞬固まる。
腕が吹き飛んだのも、そしてその腕が復活したのも彼女の予想外。
その驚愕の際に生じた隙へ、顔面を狙ってさやかは剣を突き立てた。

正義のヒロインが、悪辣な化け物に負ける。
悪趣味で露悪的できっと殺し合いの場では、ありきたりな惨劇が一つ完成する。

その瞬間、さやかは目を閉じた。

勝利を確信したからか。それとも……見たくなかったのかもしれない。
かつて自分がなろうとしていた正義の味方が、散っていく瞬間を。
手に走る鈍い手ごたえ。過去に最低二度は経験した、肉を切り裂く特有の弾力と柔らかさ。
それらを脳裏で予知するように思い浮かべていたさやかだったが、数秒が過ぎてもその感覚が訪れないことに気がついた。

「あ……ぶ、なッ……!」

目を開けた視界に飛び込んできたのは、しなやかな身のこなしで上半身を極限まで後方へ反らし、剣先をすんでのところで避けたキュンキュンの姿だった。
日頃からダンスで鍛え上げられた彼女の体幹は、極限状態にあっても崩れない。

「この!!」

さやかはすぐさま刃を返し、身を低くしたキュンキュンを目掛けて容赦なく剣を振り下ろした。
しかし、身をさやかの方向へ捻ったキュンキュンには当たらない。
空中でコマのように回転しながら、さやかの頬に蹴りを叩き込む。
首が遠心力に持っていかれ、さやかの体勢が一気に崩れる。




『クライマックスはわたし! 準備はオーケー!?』



キュンキュンの頬にインカムマイクが装着され、世界が一瞬にして塗り替えられる。
何万人をも収容可能な巨大なライブスタジアム。頭上を走る幾筋ものスポットライト、そびえ立つ巨体なライブステージ。
その空間を埋め尽くす熱気の中央にキュンキュンが立っていた。

「はあ!? なによここ!!?」

強制的な転移に、仰天するさやか。
彼女はライブステージの観客席に座らされていた。
────動けない。
強いて言うならば、魔女の結界に似ているだろうか。
辺りを漂うサイリウムは蛍の光のようで、独りでに左右に動きながらライブ会場を彩っている。


『ねえ、キミも!』

『かわいーな、かっこいーな』
『完全同意にアガるテンションコーレスプリーズ!』


歌声が弾けた。
細くしなやかな四肢が軽やかに舞い、ライブステージの足元、客席から幾重もの光の波紋が激しく揺れた。
右へ左へ、サイリウムは歌の踊りのリズムに合わさるように揺れて、ライブを盛り上げる一端を担っている。
客席に座らされたさやかも我を忘れたかのように、ライブステージ上のキュンキュンに目を奪われた。


『もっと、夢中になれるね』
『こころビートyes! キュンキュン!!』


彼女のパフォーマンスが最高潮に達したその時。
無数の光の粒が収束して大きな光線になりさやかの頭上から降り注ぐ


「プリキュア・キュンキュンビート!!」




──ああ……。

こんな、風に。

恭介のコンサートを、眺められたのなら。
特別にとってもらったチケットで、舞台の上でヴァイオリンを演奏する恋人を見つめる事が許されたのなら。

きっとそれは無理だけれど。

仮に、人間に戻れたとして。今度はその血に塗れた体で、愛する人と肌を重ねる事などきっと自分が許さない。
そんなこと、さやか自身が一番分かっているのに。
それでも、殺し合いで希望に縋るのをやめられない自分が、本当に──

──あたしって、ほんとバカ

きっと、永遠に届かないであろう幸福を夢見ながら、さやかはキュアキュンキュンの放つ光の波に焼かれ、意識を失うのだった。






「ソウルジェムってこれかな?」

意識を失い、変身が解けたさやかの所持品を探ると、一つの宝石が見つかった。
ソウルジェム。さやか曰く、魔法少女の魂のようなものらしい。
他には特に目ぼしいものもなく、この宝石がそうなのだろう。
キュンキュンは少し気が引けつつも、その宝石を自分の懐へと収めた。
人質を取るような真似で気が咎めるが、もしさやかが目を覚ました時にまだ殺し合いに応じる気でいたとしても、ソウルジェムが手元になければ無茶な行動は起こせないはずだ。

「……そういえば、古畑さんたちはどこへ逃げたんだろう……それに、この人も……」

気絶したさやかを背負い、先に逃げた古畑たちを探そうとして、待ち合わせ場所を決めていなかったことに今更ながら気づく。
おまけに、殺し合いに加担していたさやかをそのまま連れて行ってもいいものだろうか。
だからといって、ここに放置していくわけにもいかない。

「あの」

キュンキュンが頭を悩ませていた、まさにその時だった。

口元のほくろが印象的な、お淑やかな雰囲気を纏った女性から声をかけられたのは。




最早、走る事すらできずに秦谷美鈴は歩いていた。
アイドルとしてレッスンを重ねて得た体力も殆ど使い果たして。
酷使した足は痛くなり、休息を訴えていたが。
歩む足を絶対に止めることはなかった。
美鈴にとって、死の象徴であるグランから一歩でも遠ざかる為に。
途中、スマホに流れてきた死亡者の情報と名簿に、月村手毬の名がない事だけには安堵して。
けれども、その安堵が恐怖に塗り替えられていくのに時間は掛からなかった。

息を切らしながら歩いていく、早足で何度も足が縺れて転びそうになろうとも、美鈴は逃げていく。
グランから。殺し合いから。死の恐怖から。


「こ、れ……は……?」


恐怖に駆られた美鈴が足を止めたのは、唐突に広がったライブステージだった。
渋谷の街中を彷徨い、歩いていた筈の美鈴は突如として屋内のコンサートホールに転移させられた事に驚愕する。
驚愕のあまり、かえって彼女は冷静だった。
アイドルとして、馴染み深い場所であった事も一因だったのかもしれない。


『もっと、夢中になれるね』
『こころビートyes!キュンキュン!!』


舞台の上で、一人のアイドルがパフォーマンスに励んでいた。
可愛い──。
目を奪われる可憐さに、美鈴は一瞬釘付けになる。



──でも踊りは……。





プロ級。アイドルを育成する名門校初星学園の生徒である美鈴を以てしても、その踊りのキレは、自分でも太刀打ちできないと思わせた。
初星学園の生徒の中でも彼女に匹敵するキレのあるダンスを踊れる人物は、そうはいない。
だが、それはあくまで純粋なダンサーとしての技量に限った話だ。
むしろダンサーとしての主張が強すぎるがゆえに、アイドルとしての魅せ方がどこか歪で、僅かにぎこちなく美鈴の目には映っていた。
キュアキュンキュン──紫雨こころは幼い頃からダンスに打ち込んでおり、その筋では有名であった反面、アイドルとしての育成は一切受けていない。
アイドルプリキュアとしてのレッスンを後からどれだけ重ねようと、骨身に刻まれたステップの癖は、今も変わらずストリートダンスとしてのものだった。
それ故に、素人目には気付かないダンスの表現性のブレに、美鈴は気付いていた。
歌唱力も目を惹かれるような容姿も揃っている。それなのに、ダンスだけがアイドルとしてチューニングされきっていない違和感。
美鈴の胸に、拭いきれない引っ掛かりが残っていた。


──わたしの方が……。


同時に、ダンスのみであれば美鈴が敗北するのは確実だが、アイドルとしてのトータルで比較すれば、恐らくは……。


『プリキュア・キュンキュンビート!!』


パフォーマンスを終え、巨大な光線を打ち放つ紫色のアイドルの姿を見て、美鈴は思った。
もしもあの力が、アイドルとしての才覚により得られるのであれば。
自分にも資格はある。……いや、あの少女よりもずっともっと上手に扱える筈では、と。



「あの」



だから、声を掛けた。
力を、手に入れる為に。


グランに植え付けられた恐怖を拭い去るように。


「秦谷美鈴と申します」


生きる為に。



【H-4/深夜/1日目】

【紫雨こころ(キュアキュンキュン)@キミとアイドルプリキュア♪】
[状態]:健康、キュアキュンキュンに変身中
[装備]:アイドルハートブローチとプリキュアリボン・キュアキュンキュン@キミとアイドルプリキュア♪
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~1、美樹さやかのソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
[思考・状況]
基本方針:殺し合いなんて心キュンキュンしないこと絶対に止める!
1:この人は?
[備考]
※ダークイーネ撃破直後から参戦です。


【秦谷美鈴@学園アイドルマスター】
[状態]:疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3
[思考・状況]
基本方針:生きるために動く。
1:紫のアイドルに声を掛ける。
2:わたしの方が……。

※初星コミュからの参戦です。



【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(小)、精神不安定、ソウルジェムに濁り(小)、気絶
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~2
[思考]:優勝して、人間に戻る。
1:目に付いたやつを殺して回る。

※電車でホスト殺害後~魔女化前からの参戦です。
※ソウルジェムの穢れはリセットされていますが、再び穢れが最大まで溜まると魔女化します。






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採用No.05『幸福論 みくる
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採用No.08『星が一番輝く日 秦谷
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最終更新:2026年08月13日 15:38