『Bites the Dust』
◆
────やったな、円堂!
────俺達の力で、遂に世界一になったんだ!
────キャプテン! これ、夢じゃないッスよね!?
────うおおおおおッ! やったぞぉぉぉおおおおお!!
────円堂くん、このイナズマジャパンは……最高のサッカーチームだよ!
みんな……!
ああ、そうだ! 俺達が優勝したんだ!
俺、みんなと同じチームになれて。
みんなとこんなに最高のサッカーが出来て。
────本当に、よかった!
◆
「へへ……優、勝…………」
円堂守は気を失っていた。
あれからどれほどの時間を彷徨っていただろう。
自分よりもずっと大きな男の遺体を、肌身離さず背負っていたせいで、両腕が限界だった。
疲労とショックが積み重なり、いつの間にかこうして地べたに這いよる形となっていたのだ。
それでも仗助の遺体を汚さないよう、自分の体をクッション代わりにしていたのは、彼の強固な精神の現れである。
「────ぅ、ん……?」
そうして、目が覚めた。
夢うつつの重い頭を振り、顎を土につけながら周囲を見渡す。
背中が重い──現実を認識した途端、まるで冷や水を打たれたように、熱の籠っていた脳が急速に冷えていくのを感じる。
「そうだっ──! 仗助さんを……!」
再び起き上がり、仗助の遺体を背負い直す。
修行で使っているタイヤよりもずっと重い。両腕が軋んでゆくのを痛感する。
痛みと疲労によって崩れかける身体に鞭打ち、牛歩のように進んでゆく円堂。
「どこか、安全な……ところを……っ」
そんな場所、本当にあるのだろうか。
すっかり冷えきった仗助の身体は、あれからどれほど時間が経ったのかを物語っている。
小柄な中学生が人一人を背負って歩くには、この渋谷の街はあまりにも広かった。
「ぐ、……ッ」
そうして、また限界が来る。
うつ伏せに倒れ込む円堂は、受け身も取れずに顎からモロに衝撃を受け止めた。
脳を揺さぶられたせいか、一気に気分も悪くなってきた。
「まだ、っ……まだ…………!」
それでもこうやって起き上がろうとしているのは、流石の円堂守といえる。
オレンジ色のキャプテンマークを一瞥し、両腕に力を入れて地面を押し返す。
痛みを通り越して痺れさえ感じ、ガクガクと震える両腕が再び崩れ落ちようとして。
「────なあ、君。大丈夫かい?」
白いスーツを着た男性が、そう話しかけてきた。
「だれ、だ……?」
「私は──吉良吉影。君と同じく、殺し合いに巻き込まれたサラリーマンだよ」
「……“吉良”…………」
穏やかな顔立ちの男性だ。
瞳子監督と同じ苗字だ、なんてどこか緊張感のない感想を抱くのは、やはりまだ現実を受け止めきれてないからか。
ただならない疲労によって焼き切れそうな思考回路は、次の瞬間電流が走る。
「その人」
「え?」
「東方仗助、だろう?」
「──えっ!?」
思わず円堂は飛び起きた。
円堂しか知りえないと思っていた名前が、男の口からさらりと告げられたのだ。
疲労や痛みなど、彼方へと吹き飛ぶ。
「仗助さんを知ってるんですか!?」
「ああ、昔からよく知っているよ。彼の父親とは深い仲でね。
仗助くんは……凄く良い子だった。本当に、こんな形で命を奪われるなんて……遺憾でしかないよ」
男性──吉良は静かに俯いた。
円堂はその様子に、心の奥にじくりと鋭い痛みを覚える。
友人の息子が人知れず死んで、遺体を目にしたとなればその無念さは計り知れないだろう。
仗助の死の瞬間を知っているのは自分だけなのだと、改めて実感する。
「……ごめんなさい。仗助さんは、俺を庇って──」
「いいんだ、思い出すのも辛いだろう。無理に話さなくていい」
「っ……でも! 話しておかないといけないんです!
特に、仗助さんを知ってる吉良さんには!」
吉良はなんとなく、必死な円堂の様子から事情を察していたのだろう。
ぽつりぽつりと落とされる少年の懺悔へ、穏和な声で待ったをかけた。
けれど、一度帯びた熱はなかなか引いてくれない。
やり場のない気持ちをぶつける為にも、円堂は思わず睨む形で踏み出した。
「……君はとても他人想いでいい子だね。
名前を、聞かせてもらってもいいかな?」
言われて気がついた。
名乗ることすら忘れるなんて、よほど冷静さを欠いていたらしい。
「……円堂、守です」
「円堂くんか。とりあえず、仗助くんを降ろしてあげよう」
直情的な円堂と対照的に、吉良は終始落ち着いていた。
ここは道路のど真ん中。いつ人が来てもおかしくない。
のんびりと事情を説明するには、あまりにも目立ちすぎる。
吉良の意図を汲んだ円堂は、こくこくと頷いた。
「……ごめんなさい、お願いします……!」
汚さないように、平坦な地面へと仗助の遺体を降ろす。
吉良はそれを背負い上げて、ほんの少し顔を歪めた。
彼も体格はいい方だが、やはり仗助の身体は相当重いのだろう。
それでも数度揺さぶって位置を調整すれば、円堂よりかは安定している姿勢に見えた。
人目につかない場所へ移るため、二人は歩き出す。
「────あ~~~ッ! いたいた! 人いましたよ、シュタルクさんッ!!」
数分ほど歩いたところで、突然横合いからよく通る声が響いてきた。
振り返ってみれば、路地裏から茶髪の少女がぶんぶんと腕を降って駆け寄ってくるのが見える。
その少し後ろには、待ってよと言わんばかりに眉を下げる赤髪の男が続いていた。
無意識に警戒する円堂だったが、ぴょんっと飛び込んできた少女の姿に毒気を抜かれる。
「あのあのっ! 私たち、この授業? に反対してて……。
──って、うわあああっ!? その人……大丈夫ですか!?」
「佑芽、ちょっと落ち着いて……ってうおっ!?
大丈夫かよ、その人……血まみれじゃねぇか!!」
遠目からでは分からなかったのか、吉良の背中にある仗助を見て分かりやすく動揺する二人組。
これで彼らの命を狙って近づいてきたのならば、相当な役者だ。
思わず全身の力が抜けるような感覚に、円堂はどこか懐かしさを覚える。
「……吉良さん」
「うん? ああ。危険はないみたいだね」
確認を込めて吉良へと視線を移す。
万が一に備えていたようで、少女の方を注視していた吉良はゆっくりと顔を戻した。
二人組の男女は仗助を気遣っているようだったが、円堂たちの視線に促されたのか、バッと姿勢を正した。
「あたし、花海佑芽っていいます! ほら、シュタルクさんも!」
「ああ、今名前呼ばれたシュタルクだ。おっさん、その人俺に背負わせてくれ」
「助かるよ……っ、任せてもいいかな」
花海佑芽、シュタルク。
意気揚々と名乗りをあげる姿へ、円堂は反射的に名乗る。
続いて、吉良もまた仗助を預けながら簡潔に名前を告げた。
「……やっぱり、この人……」
「えっ?」
シュタルクはぽつりと、沈んだ声で呟きを落とす。
仗助の遺体に直接触れたことで、彼の死を確信したのだろう。
円堂はゼオンによる蹂躙を思い返し、拳を震わせながら俯いた。
「え、えっ……その人、まだ息ありますよね? 死んでないですよね!?」
佑芽はというと、困惑と不安を色濃く瞳に宿していた。
人が死ぬ姿なんて、日常生活を生きていてまず目にすることなどない。
だから今回も、手当てをすれば助かると思っていたのに。
頑なに口を噤むシュタルクと円堂の姿から、彼女も“死”の気配を察してしまう。
「花海さん、人の死を受け入れられたくない気持ちはよく分かる。
けれど、頭ごなしに否定ばかりしていても仕方ないんだ。
私達は仗助くんの分まで、生きる責任がある。その為にも前に進もう」
「吉良さん……っ、でも……」
鉛のように重い沈黙を破ったのは、吉良だった。
この中で唯一大人と呼べる彼だからこそ、言わなければならないと判断したのだ。
理屈ではないと分かっている。
現に佑芽は吉良の言葉を上手く呑みこめずに、出処の分からない涙を溜めていた。
花海佑芽のイメージする死とは、遠い場所にあった。
老衰、事故、病気──そして、“殺人”。
身内が全員健在である彼女にとって、今目の前にある仗助の遺体は、現実から乖離している。
「吉良さんの言う通りだ!」
声を上げたのは円堂。
拳を突き上げて、吉良の意見に賛同する。
その瞳からはもう、悲しみや後悔の色は失せていた。
「俺は仗助さんの遺志を無駄にしない!
仗助さんの分まで生きて、ゼッタイに森口を倒す!」
「円堂くん……! あたしもあたしもっ!
これ以上誰も死なないように、頑張りますっ!」
「そうだな……ここにはフリーレン達もいるし、きっとなんとかなると思う」
円堂の高らかな宣言を皮切りに、佑芽とシュタルクが口々に希望を語る。
仗助の死が運んできたのは絶望ではなく、生きる道なのだから。
この地獄で彼を弔う方法があるとしたら、それはやっぱり、殺し合いを終わらせることなのだろう。
生殺与奪を握られている以上、半端な道ではないというのは理解している。
けれど全く希望がないというわけではない。
事実こうして、同じ志を掲げた4人が集まった。
「──とにかく、仗助くんを運んであげよう」
吉良は深く頷きながらそう切り出す。
開けた場所でこれだけの人数が集まっていれば、いつ襲撃に遭ってもおかしくない。
スマホアプリで地図を確認して、彼らは手近な家具量販店を目指す運びとなった。
◆
仗助の遺体をベッドに安置させたのち、4人は展示用のテーブルを囲んでいた。
この二時間で経験したそれぞれの経緯と、各々が知る知り合いを共有。
円堂や吉良とまるで違う世界を生きてきたシュタルクは、事前に軽く聞かされていた佑芽がサポートする形となり。
しばしの休息を兼ねた話し合いは、この授業の異常性を浮き彫りにした。
「しかし、どういう基準で選んでんだろうな」
「たしかに……謎メンツですよね」
テーブルの中心に置かれた佑芽のスマホを見て、シュタルクがぼやく。
ずらりと並べられた参加者の一覧は、彼らの頭をますます悩ませる。
「フリーレンやフェルンは分かるよ。けど、マハトたちは目の前で死んだはずなのに……」
「それもあるが、やけにキミだけ知り合いが多いことも気になるね。
私は仗助くん以外見知った名前がないし、花海さんも一人だけらしい」
「や、あたしこの人達も知ってますよ! 《illuminationSTARS》の二人!! 逆になんでみんな知らないんですか!?」
「悪いが、アイドルには疎くてね」
話を擦り合わせると、見えるものがまるで違ってくる。
吉良も佑芽も円堂も見知った名前があるが、シュタルクと比べれば少ない。
これを選定しているのが森口なのかは不明だが、あまりに纏まりがないに思える。
奴がシュタルクの世界の住人なのかと疑ったが、彼は森口をまるで知らないと言う。
少なくとも、名前の羅列からこれ以上手がかりを得ることは難しいだろう。
「……円堂くん」
「…………大丈夫。大丈夫、です……!」
スマホを確認してから、円堂はずっとこの調子だ。
その原因が何処にあるかなど、今更語るまでもないほどに明白。
死亡者一覧の項目に並んだ「緑川リュウジ」の名前──それは、円堂が共に戦ったチームメイトであった。
円堂は最初、酷く動揺していた。
目の前で仗助を喪った上に、仲間が知らないところで死んだことを、無機質に告げられる。
中学生が抱えるにはあまりにも重い仕打ちに、3人は掛ける言葉が見つからなかった。
「緑川もきっと、同じ気持ちだった」
それでも。
誰よりも辛いはずの円堂は、己を鼓舞する。
「だったら俺が、あいつの分まで戦ってやる」
固く握られた拳をテーブルの下で震わせて。
溜め込んだ涙を拭い、前を向く姿に挫折は感じられない。
そんな円堂の顔を、シュタルクはまじまじと見つめていた。
「お前、強いな」
「そんなこと……」
「あるよ、そんなことある。俺なんかよりずっと強い」
それは狂言でもお世辞でもなんでもない。
肉体的な話ではなく、精神的な話において。
身近な人間の死を体感し、恐怖に押し潰されそうになっていたかつての自分では、勝てないと思わされた。
「お前が自信持たなかったら、俺が泣くよ」
「えっ? な、なんだそれ……」
だから、そう釘を刺す。
当の本人は困惑するばかりだが構わない。
「じゃああたしも泣きます!」
「えぇっ!? う、佑芽さんまで!?」
「はいっ! あたしの泣き声は凄いですよ~~!!」
ほんの少しだけ、緊張が解れる。
もちろんそんな安息は目の前の難題に比べれば、気休めにしかならない。
けれどこの一瞬を、大切にしたいと思った。
「いいかな」
そんな折、自然とまとめ役に回っていた吉良が手を挙げる。
水を打ったように静まる場に、続いて彼の咳払いが響いた。
「私としては、放送が始まるまで迂闊に動くべきではないと思っている。
なんにせよ情報が足りないし、48時間もあるうちに最初から歩き回っていたらもたない」
彼の言うことは一理ある。
ゼオンのような危険人物と遭遇する可能性も考慮しなければならないし、なにより円堂の疲労が大きい。
けれど、彼以外の3人はあまり乗り気ではないようだった。
「……君達の気持ちは分かるよ。今すぐ仲間と合流すべきだ、と思っているのだろう。
実際私もそれを否定はしないし、今後を考えたらさっさと人数を増やすべきだ。そこで、円堂くん」
「えっ、俺……ですか?」
「ああ、君に任せたいと思ってる」
名前が呼ばれると思っていなかったのか、肩を跳ねあげて自分の顔を指差す円堂。
吉良は彼の意見を促すように、左腕のキャプテンマークを顎で示した。
「この殺し合いにおいて、君は一番死線をくぐり抜けている。
そんな君だからこそ、我々とは違うものが見えるんじゃあないかと思ってね。
────頼むよ、“キャプテン”」
異論は出ない。
絶望と希望の両方に触れた円堂にこそ、この場の決定権があるというのは共通認識であった。
円堂は目を見開いていたが、やがて自分の頬を叩き気合いを入れ直す。
こういった判断は鬼道有人に任せきりだったなと、キャプテンとしての在り方を見つめ直す機会となった。
「そう、だな……」
円堂としては、一刻も早く基山ヒロトと合流したい。
彼ならば絶対にこの殺し合いに反抗するだろうし、味方としても心強いことこの上ない。
佑芽と同じユニットメンバーである秦谷美鈴に関しても、探し出して守りたいと思っている。
シュタルクが信頼を置くフリーレンやフェルンは、是が非でも仲間に引き入れたいと考えてる。
けれど今の自分の体力と戦力を踏まえれば、それがどんなリスクを孕んでいるのかも十分理解していた。
「俺は────」
理想と懸念の間で揺れ動く。
キャプテンマークを握り締めて、感情と理性が交互に波打つ。
背反する葛藤の末、円堂が出した答えとは。
【A-4 家具量販店/深夜/1日目】
【円堂守@イナズマイレブン】
[状態]:疲労(大)、全身に痛み
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品×1~3
[思考・状況]
基本方針:キャプテンとして相応しい行動をする。
0:俺は────。
1:仗助の意志を継ぎ、この手で皆を守る。
2:ヒロトを探して協力したい。
3:緑川……。
※FFI優勝後からの参戦です。
【シュタルク@葬送のフリーレン】
[状態]:健康
[装備]:ハイボルテック@モンスターハンターワイルズ
[道具]:基本支給品、不明支給品×0~2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしない。
1:佑芽達を守る。
2:フリーレンやフェルンを探す。
[備考]
※少なくともソリテール討伐後からの参戦です。
【花海佑芽@学園アイドルマスター】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品×1~3
[思考・状況]
基本方針:皆で協力してバトルロワイヤルを終わらせる。
1:みんな大変そう! あたしにもなにか出来ることないかな?
2:美鈴ちゃんと合流したい!!
※初星コミュ4章7話、花海咲季達に勝利した後からの参戦です。
◆
◇
また一人 殺られていく
────Another one bites the dust
また一人 殺られていく
────Another one bites the dust
また一人、そして また一人
────And another one gone, and another one gone
また一人 殺られていく
────Another one bites the dust
さあ、次はお前の番だぜ
────Hey, I'm gonna get you, too
また一人 殺られていく
────Another one bites the dust
◇
◆
あの古畑という男、どうやらこの二時間を生き残ったようだ。
ああ、クソッ。本当にストレスが溜まる。
執拗でねちっこいあの男の声が、耳元で聞こえてくるようだッ!
古畑とその金魚の糞のようなガキ共がのびのびと生き永らえている事実は、近いうちに必ず障害となるだろう。
というよりも、由比ヶ浜さんの下の名前が分からなかったのもストレスだ。
なんなんだ、“由比ヶ浜結衣の母親”だとッ!?
ふざけるなよ森口、どんな基準でこの名簿を作成しているんだッ。
だが同時にこの吉良吉影、“ツイている”ッ!
この薄っぺらい携帯電話に流れてきた情報によると、どうやら参加者の名前とこれまでの死者が表示されるらしい。
それを見て──私は自分の幸運を確信したッ!
まず、空条承太郎の名前はない。
あの東方仗助と岸辺露伴の名前はあったが、仗助の方はもう死んでいる。
こんなに嬉しいことはない。これを幸運と呼ばず、なんと呼べばいいッ!
残る不安因子はあの岸辺露伴とかいう根暗な漫画家と、私を訝しんでいる古畑だけだ。
そして古畑の方は私の“趣味”を探り当てはしたが、確信にまで至ってはいない。
仮に古畑が私の悪評を流したとしても、推察だけの殺人犯呼ばわりなどどうとでも対処出来る。
岸辺露伴に至っては──あの腐った木のような性格だ、警戒するまでもない。
そして、更に。
この吉良吉影が生還を確信した理由は、今目の前にある。
「────なあ、君。大丈夫かい?」
バンダナを巻いたガキが、死体を背負っていた。
そう、その死体こそが──“東方仗助”だったのだッ!
普段ならばこんな切羽詰まった状態で見ず知らずのガキに声を掛けるなど、絶対になかった。
けれど、まぁ、ほとんど反射的だったのだろうと思う。
あまりにも運命的で、喜劇的で──ああ、軽率だとは分かっていたよ。
それでも、つい声を掛けてしまうくらい機嫌が良かったんだ。
例えるなら凄く感動的な映画を一本観終えて、気まぐれでエンドロールまで見届けるような、そんな気分だ。
「だれ、だ……?」
「私は──吉良吉影。君と同じく、殺し合いに巻き込まれたサラリーマンだよ」
「……“吉良”…………」
一瞬、川尻浩作の名前を名乗ろうとしてしまった。
名簿にあった私の名前は“吉良吉影”。
こんなガキ一人どうとでも欺けるが、平穏を乱す要素は一つでも残しておきたくない。
あくまで偶然殺し合いに巻き込まれた、無力で目立たないサラリーマンを演じてやろう。
「その人」
「え?」
「東方仗助、だろう?」
「──えっ!?」
この状況、利用しない手はない。
死人に口なし、とはよく言ったものだ。
さぞ大事そうに抱えている様子から見て、このガキは東方仗助にかなり思い入れがあるのだろう。
大方、目の前で庇われて死んだりでもしたんじゃあないか。
反吐が出るほど感情的で正義漢ぶった奴のしそうなことだ。
「仗助さんを知ってるんですか!?」
「ああ、昔からよく知っているよ。彼の父親とは深い仲でね。
仗助くんは……凄く良い子だった。本当に、こんな形で命を奪われるなんて……遺憾でしかないよ」
全く、心にもないことを言うのは苦労するよ。
思わず噴き出しそうになるのを、咄嗟に俯いてカバーした。
このガキからすれば、友人の息子の死を嘆く優しい男性に見えるだろう。
「……ごめんなさい。仗助さんは、俺を庇って──」
「いいんだ、思い出すのも辛いだろう。無理に話さなくていい」
「っ……でも! 話しておかないといけないんです!
特に、仗助さんを知ってる吉良さんには!」
やはり仗助の奴はこいつを庇って死んだらしい。
思った通りだ、容易に想像できるよ。ああ、さぞ感動的だっただろうね。
「……君はとても他人想いでいい子だね。
名前を、聞かせてもらってもいいかな?」
現に私も今、感動しているよ。
これほどまでに、私にとって都合がいい“流れ”に。
「……円堂、守です」
「円堂くんか。とりあえず、仗助くんを降ろしてあげよう」
円堂守。見たところ中学生くらいか。
これだけ念入りに演技をしているのだからまず脅威になることはないだろうが、もしもの時は始末しなければ。
ガキと侮って川尻隼人には一杯食わされたのだから、油断はできない。
「……ごめんなさい、お願いします……!」
私に言われるがまま、丁寧に仗助を床に置く円堂守。
私は代わりに、仗助を背負ってやった。
重い──ッ! なんなんだこいつは、本当に高校生のガタイか?
死体を運ぶなんていくら金を積まれてもまっぴらゴメンだが、この時ばかりは仕方ない。
なにせ今の私は、優しい優しい“吉良さん”なのだからな。
「────あ~~~ッ! いたいた! 人いましたよ、シュタルクさんッ!!」
少し歩いていると、やかましい声が横から掛かった。
次から次へとなんだッ。
思わずストレスを抱えそうになったが、次に私の目に飛び込んできたものを見て、少し穏やかな気持ちが芽生えた。
「あのあのっ! 私たち、この授業? に反対してて……。
──って、うわあああっ!? その人……大丈夫ですか!?」
「佑芽、ちょっと落ち着いて……ってうおっ!?
大丈夫かよ、その人……血まみれじゃねぇか!!」
私達の元に駆け寄ってはぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる男女。
赤髪の男の方はどうでもいいが、茶髪の女の方は──中々に私の嗜好を刺激した。
ネオンライトに照らされて煌びやかに輝く彼女の手は、まるで砂漠のオアシスのようだった。
由比ヶ浜さんの手とはまた違い、若々しくて繊細ながらも、細すぎず太すぎず。
本来ならばこのくらいの歳の女になど唆られないが、気がつけば私の視線は彼女の手に釘付けになっていた。
「……吉良さん」
「うん? ああ。危険はないみたいだね」
少し希望を抱いたような顔で問いかける円堂守に、仕方なく視線を移してやる。
こいつの経緯は知らないが、仗助がこうまでやられる程なのだから相当凄惨な現場だったんだろう。
心底どうでもいいが、人数が増えるのは私にとっても好都合だった。
「あたし、花海佑芽っていいます! ほら、シュタルクさんも!」
「ああ、今名前呼ばれたシュタルクだ。おっさん、その人俺に背負わせてくれ」
「助かるよ……っ、任せてもいいかな」
なるほど、この子は花海佑芽というらしい。
シュタルクという男に仗助を渡しながら、私と円堂も続いて自己紹介をする。
「……やっぱり、この人……」
「えっ?」
死体に直接触れて確信したのか、シュタルクの顔が少し俯いていた。
円堂も伏せ目がちに頷いて、佑芽は一人状況を理解していないようだった。
「え、えっ……その人、まだ息ありますよね? 死んでないですよね!?」
この子は少し空気が読めないらしいな。
だがいい。性格なんて“手”には影響ない。
押し黙るシュタルクと円堂を横目に、私はそっと彼女の肩に手を置いた。
「花海さん、人の死を受け入れられたくない気持ちはよく分かる。
けれど、頭ごなしに否定ばかりしていても仕方ないんだ。
私達は仗助くんの分まで、生きる責任がある。その為にも前に進もう」
「吉良さん……っ、でも……」
こちらへ振り向く佑芽の目尻には、大粒の涙が溜まっている。
ほらなやっぱり。こういう子供には陳腐で分かりやすい“いかにも”な言葉がよく効くんだ。
シュタルクを含めても、この場に理屈的な奴はいない。
私はこの集団において、信頼の置ける“大人”として立ち回れるだろう。
「吉良さんの言う通りだ!」
円堂が声をあげる。
私の声が響いたのか、アドレナリンが出ているのか分からないが、爛々と目を輝かせて拳を突き上げる様は暑苦しいの一言。
「俺は仗助さんの遺志を無駄にしない!
仗助さんの分まで生きて、ゼッタイに森口を倒す!」
「円堂くん……! あたしもあたしもっ!
これ以上誰も死なないように、頑張りますっ!」
「そうだな……ここにはフリーレン達もいるし、きっとなんとかなると思う」
三人寄れば文殊の知恵とは言うが、どうやらこいつらにそれは当てはまらないらしい。
口々に希望を口にする3人を前に、私は溜息を呑み込むのに必死だった。
──森口を倒す?
──どうやって?
──この首輪をどうする?
──たった48時間以内で、どうにかできるのか?
具体的な策一つ上げられないのに、理想に駆られて躍起になる。
これだから頭が足りないやつらに合わせるのは疲れるんだ。
だが、扱いやすいのは事実だ。
こいつらの馬鹿さ加減に、今は感謝してやろう。
「──とにかく、仗助くんを運んであげよう」
盛り上がるこいつらの流れを断ち切るように、現実を突きつける。
その言葉に、全員ハッとしたような顔で頷いた。やはり扱いやすい。
「この辺の地面は固いから、土葬は難しそうだな。
それに道具もないんじゃ時間がかかっちまう」
「ならせめて、どこかのベッドに休ませてあげたいな……」
なぜ私が東方仗助の死体を安置させる話し合いに参加しなければならないんだ。
本当ならキラークイーンで跡形もなく吹っ飛ばしてやりたいところだが、堪えろ吉良吉影。
スタンドを使用するのは、“ここぞ”という時だけだッ!
勝利を確信した、その瞬間だけ。
常に荒波を打つような海ではなく、静かに人を溺れさせる湖のような生き方を心がけるのだッ!
「それなら家具屋にでも行こう。ちょうどさっき、この辺で見たんだ」
我ながら、上手く笑えている。
気に入らない上司にヘコヘコするクソみたいな川尻浩作(サラリーマン)の生活を続けていて、この時ばかりはよかったと思うよ。
しかし、懸念があるとすればただ一つ。
こいつらは十中八九、仲間を探そうとするだろう。
頭数を揃えればなんとかなると思っているような頭がお花畑の連中だ、後先考えるわけはない。
私としては、これ以上人数が増えるのはごめんだ。
4人というのは、多すぎず少なすぎず丁度いい。
あまり少なすぎても襲撃されれば危険があるし、多すぎても私の正体に勘付かれる可能性がある。
だからここからは目立たない場所に籠っているのが理想だが、こいつらの性格を考えたら黙って従うわけもないだろう。
────上手くコントロールするしかないな。
この絶妙な人数の集団において、真に人を動かす力があるのは“リーダー”じゃあない。
もっと客観的に、一歩引いた距離から物事を見ることができる補佐の立場にある。
中心人物が舵を取っているように見せかけて、最小限の言動で、決して目立たずに多数の人間を操作する。
そんな傀儡師のような在り方こそが、私の取るべきスタンスなのだ。
矢面に立たせる人物は決まっている。
円堂守──こいつはなにかと利用できそうだ。
君にはもう暫く、私の安全が確保されるまで踊っていてもらう。
────頼むよ、“キャプテン”。
【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険 Part4 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:健康、若干の高揚、ストレス(大、緩和中)、承太郎へのトラウマ(極大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~5(由比ヶ浜結衣の母親の分込み)、由比ヶ浜結衣の母親の右手と首輪
[思考・状況]
基本方針:生還する。
1:能力を隠したまま、この集団を利用する。
2:古畑を警戒、気になってストレス。
3:仗助が死んだお陰で気が楽。
4:機会があれば花海佑芽の手も入手したい。
※救急車に轢かれる直前から参戦です。
※スタンドは誰にでも視認でき、バイツァ・ダストは使えません。
最終更新:2026年08月24日 21:46