『つれづれなるゴッドファーザー』
(キャラ)新田ヒナ、宮沢熹一
Wikipediaの綺麗事がどうあれ、
──現実の『父性』ってやつは、血の繋がりだけで決まっちゃいない。
『一例』として、その証明を一つ、ここに置いておく。
一つ。
通称『オトン』。
その者と、短髪の餓鬼と男の間に、血の交わりは一切ない。
だが彼は、正真正銘の『男手一つ』だ。
拳で叩き込み、背中で見せ、命を張って守り抜く。
その無骨な掌が刻み込んだ流儀だけが、血よりも濃い継承者を創り上げた。
もう一つ。
誰もが畏怖する『血と金と暴力の体現者』。
裏社会を這いずる無法者どもを震え上がらせ、ガキの不良どもに拝まれる、生きてる伝説だ。
世間は常々、首を傾げる。
“なぜ、あの外道に『娘』がいるんだ”──と。
「娘じゃねえ。ただのサイキックだ。ある日降ってきたから、仕方なく面倒見てるだけだ」
……そんな取り合うはずもない真実を抱え、男は夜な夜な、高級酒を苦い涙で薄めている。
ただし、確かなのは一つ。彼とその娘にもまた、通い合う血など一滴もないということだ。
次にもう一つ。
ある老騎士は、自らの名も血も継がぬ若者へ剣を授けた。
人はそれを師弟と呼んだが、当人たちにとっては、紛れもなく父と息子だったと考えられる。
さらにもう一つ。
荒くれ者ばかりが集う孤児院。
子供たちと院長に血の繋がりは一切ない。
だが、飢えた夜にパンを分け合った記憶だけは、戸籍よりも遥かに重かった。
そしてもう一つ。
──否。厳密には『最後に一つ』、か。
海を渡る船乗りたちは、親を失った少年を一人前の男へと育て上げた。
嵐の夜に肩を貸した者こそが、その少年にとっての父だった。
そして、──最後に一つ。
──『ゴリラ』。
動物園で群れを率いる雄は、自らの子ではない幼獣すら守ることもある────。
《こんなことが、》
《許されていいのだろうか、》
今宵、月明かりの下で開かれたのは──惨劇の授業。『バトル・ロワイ・ヤル』。
……愚かなことだ。
集められた生贄どもに、その命の授業を清聴する余裕などありはしない。
ただ無様に泣き叫び、むせび泣き、奥歯を噛み締めて涙を枯らす──無涙のひと時。
人間は極限に至った時、容易く理性を手放す。
だが、どれほど血に塗れようと、決して忘れてはならない一線がある。
以下は、その教訓だ。
『父』という存在は──、
時として──。
いや。
これは、水族館での歪な邂逅を機に、キー坊──『宮沢熹一』へと次々襲い掛かる……。
理性を狂わせる、サイコキネシスな物語である。
◆
「……はァ。……………なんかもう、無理」
水族館じみた冷たい建物の中で、ため息が闇の海へ溶けていく。
『血と金と暴力』を継ぐ体現者──新田ヒナは、ソファに座り込み、脇に置かれた観葉植物の葉っぱを意味もなく撫で回していた。
新田のPaypayで無断購入した、ワッパーチーズセット二,〇〇〇円。
その暴力的な直火焼きの肉骸すら、今の少女の心を微塵も照らしはしない。
気休めに流した瓶を叩き割るASMR動画も、一瞬の現実逃避が関の山だ。
ましてや、目の前のガラスケース越し。エイの舞い踊りなど、そもそも彼女の眼中にあろうものか。
「…………へぇ」
以上。
「……眠」
ぽつりである。
「……寝て起きたら全部終わってないかな。もうやだよ……」
そして、形のない涙が、胸の内でこぼれ落ちる。
全人類七十億。
──哺乳類を含めれば、数十億を超えるこの地球にて。
ヒナもまた、その例外ではない。
全生命が等しく直面する『ソレ』の前に、今、この時。心の底から叩きのめされていたのだ。
死んだ目で天井を睨みつける彼女。
「…………あ~~~~、……もう無理すぎる」
要するに、
──『哀しき過去』である。
追って、回想しよう。
少女をここまで精神的窮地へと追い込んだ悲劇は、今からおおよそ数千秒前の出来事。
──『一冊』の友との証が、起因なのである。
放課後。
闇夜にネオンが滲む帰り道。
級友・三嶋瞳に「えぇ~~……。ヒナちゃんにおすすめの本……?」「……これとか?」と受け取った友情の書物が、今や鞄の底へと沈んでいた。
『本は人を選ぶ』とは言い得て妙。
この時のヒナにとって、二百ページにも満たない紙束はまるで鉄アレイのように重く、苦しかった。
“どうしてこんなことに”
“瞳に、相談したいけどできない”
“もっと早くに気付けば、”
“もっと……早くに…………”
図書室から引きずり出してきたその一冊は、少女の心を容赦なく呪縛で覆う。
アスファルトを叩く革靴の音も、
行き交うタクシーの排気音も、
騒がしい電光広告の雑音も、
キャッチに「あ、お嬢ちゃん新田さんトコの~?」と絡まれた声すら、全ては虚無に消える。
靴底で踏みつけたガムの不快感すら、彼女の凍りついた心を揺さぶるには至らなかったのだ。
“……つらい”
“ワッパー、うま。”
“…………つらい気持ち”
『哀しき過去』とは、選ばれし者だけが背負う──全人類共通の試練。
ほんとうにあった怖い話大全という、子供すら鼻で笑うような、たった一冊の書物。
歪ながら、三嶋の善意がこもった一冊に。
この時抱いた、ヒナの鬱屈さは──、
「おいそこの女ボゲェェェェェッ!!!! はよ逃げんかい!! 命が惜しゅうないんかァァァァァッ!!??」
「うぇ?」
──砕け散った硝子によく似ていたという。
ド ガッ
ド ガ ッ
ガシ ャ ──── ン ッ ッ ッ
「ホギャアアアアァァアアァァァァァァアアアアアッッッ」
「うぇ? うぇ? え?」
「チィッ! ほんましっつこいやっちゃ……!!」
静寂を引き裂いたのは、一匹の獣の咆哮。
時にして現在。ヒナの眼前。
巨大なガラスケースをダイナミックにぶち砕いて現れたのは──ゴリラ。
『霊長類最強』。その名に一片の偽りもない、巨神の獣であった。
「ギャアアアァホギャアアアアッッ、ィィイギョアアアアアアッッ」
「ハァア?! うっさいねん猿! 猿語は猿ん職場で話せ!! 何一つ伝わらんわ!!」
「ギョギョアアアアァァアアァァアアアアアアアッッッ」
「やからうっさいゆうてんねん!!! 猿語で説教されても馬耳東風やないけっ!!」
「……ィイイッ。──」
「──インビャァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!」
「……おうおう、拳こそが万国共通の言語かいな。……ええやん、ほなワシが相手したるわッ!!!」
「なにこれSteam版スマブラ?」
一つ、事実を語ろう。
ゴリラとは生物学的に、『拳』で会話を行う生物である。
咆哮とは威嚇ではない。『これから殴る』という意思表示に他ならない。
拳。それこそが彼らにとって唯一無二の共通言語。
ゴリラに辞書は不要。
会話は拳。
返答も拳。
沈黙すら『拳』で語る。
──すな
──わち────。
ヒナが低予算格闘ゲームと評した眼前の戦闘。
バトル・ロワイアル開始と同時に、この野獣とのマッチアップを余儀なくされていた少年──宮沢熹一は、
「ギョアァアアア」→「しゃあっ」
「ィギョアアアア」→「……やるやないけっ」と。
口には出さずとも、肉体と肉体で、ゴリラとの密なコンタクトを交わし続けていたのだ。
熹一が繰り出す灘神影流活殺術。
突き。膝蹴り。肘。──オールマッハ。
その一つ一つが、剛毛に包まれた肉体にめり込む度────閃光。火花。
巨船を思わせる漆黒の胸板が、ゼリーのように波打ち、震え、弾ける。
表の歴史には決して残らぬ古武術。
だが、裏社会の修羅どもからは最強の殺人拳として畏怖されている。
その真価は、単なる肉体の破壊ではない。
──ひとえに、『痛覚』。
「ギィイイイイッ!!?」
「っしゃあッ!!」
「ギョォォォアアアアアアアアアアアッッッ!!」
「オンドリャアアアアッ!!」
──『痛覚』。
──『痛覚』。
──ッッ『痛覚』ッッ──。
人は拳で命を落とす。
だが、この野獣は今、拳によって知る。
生まれて初めて味わう、『痛み』という恐怖の概念。
野生の頂点に君臨する獣に絶対の敗北を刻み込む、それこそが『灘神影流活殺術』の真髄だった。
しかし傍ら、困ったことがある。
ゴリラという獣は、戦いのゴングを一方的に鳴らしはするが、【敗北】という概念を理解しない。
弱肉強食のジャングルに勝敗を告げるレフェリーなど存在しないからだ。
底にあるのは常に、
──暴力。
──蹂躙。
──玩具で遊ぶという、本能のみ。
──『逆・灘神影流活殺術』。
ゆえに、
──『痛覚返し』。
──『痛覚返し』。
──『胸部への痛み』。『痛み返し』。
──ッッッッ『砕け散るソファー』────。
ッッッ──。
「ッ!! がアアアッ!!! ……が、はっ…………」
「ホギャァアア……ギョホアアアアアア……!!!」
拳が拳を拒絶し、痛みが痛みを喰らい尽くす。
理性を排した獣だからこそ到達した、本能のみのカウンター。
その規格外の衝撃に、百戦錬磨の熹一の口から、初めて狼狽の血が吹き荒れた。
「ハァ、ハァ…………。イィッ…………」
「ホギョア……ギョァアアア……」
「やって……ハァハァ、やってやろうやないけェッ…………!」
無論、熹一にとって血など吐き出すためだけのシロモノに過ぎない。
ズタズタに砕けたタイルを赤く染め上げる流血は、彼にとっては戦意のデモンストレーションに他ならなかった。
ただしッ────。
満身創痍の熹一を見下ろす狂獣の肉体。
膨れ上がる殺意……。
荒れ狂う呼吸……。
また冷酷な事実ッ。
血脈と血脈が螺旋状に絡み、
互いの『死』を賭して衝突する、
──これぞ、バトル・ロ・ワイヤル。
「やって……やってやろうやないけェエエエエエエッ!!!!!」
「ギョァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!」
戦いの中に隠された『哀しき過去』は、今、静かに牙を剥いた────。
「あーもしもし新田? うん、相談事なんだけどさ……。──」
「──あの本、『最後まで読んだあなたは呪われるでしょう』って書いてた。最後のページ。──」
「──……わたし、呪われる?」
「──え?──」
「──なんでわかったの? わたしが挿絵しか読んでないって。──」
「──…………へー。じゃあ呪われないんだねー。よかったぁ。じゃあね~。──」
ピッ。
「──あとうるさい。あんたら」
────ボンッ。
ズ ガ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ッッッ…………。
………………
…………
……
【宮沢熹一@高校鉄拳伝タフ】
[状態]:全身打撲、裂傷多数、疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×2
[思考]:『血と金と暴力に飢えた──新田』……。おもろいやんけ! ソイツとマッチアップや!!
1:↓おいヒナァ!! ンやねんその力!? ゴリラどこへ消しよった!? ざけんなよホンマッ!!
2:↓……まぁええわ。それよりお前のオトン何者や!? 鬼龍よりイカれとるやないけッ!!
3:↓気に食わん。気に食わんけど嫌いやないわ!! ……お前、その力に頼らんでワシについて来いッ!!
【ヒナ@ヒナまつり】
[状態]:健康、精神的にちょっとダルい、本を読むのが億劫
[装備]:ゴリラ@タフ
[道具]:基本支給品一式、イクラの瓶詰、不明支給品×1
[思考]:キー坊……。え、三年目の浮気?
1:↑念動力。
2:↑そのきりゅーって人に伝えといて。『新田倒すなら壺から』って。
3:↑ついてく。だから吉野家おごって。
4:本って、表紙めくったらアリみたいに文字ゾロゾロ湧いてくるから鳥肌。
| 前回 |
キャラ |
次回 |
| 採用No.20『誤射』 |
|
採用No.22『師弟再会』 |
|
キー坊 |
|
|
ヒナ |
|
最終更新:2026年08月09日 18:39