と或る逆光のRendez-vous ◆2dNHP51a3Y


突風が吹いている。窓のない空間にも関わらず。
勿論人為的な突風だ、ほぼ密室空間に近い場所で自然的な風など在り得るはずもない。
ただ、それは突風と言い表すよりも適切な言葉がある。
それはまさしく暴風。一瞬の刹那で巻き起こる『圧』の放流。

風が吹き、陳列していた物品は弾け、吹き飛び、散る。
それを引き起こしているのは、中華風の白いパーカーを着込んだ一人の武人。
その額の小さな白毫が彼の闘争本能を示すかの如く濁り輝いている。
宛ら台風の目のように、その一挙一動で周囲を吹き飛ばす。風の中から見え隠れするその肉体は何十年何百年もかけて鍛えられた鋼の宝石、並の人間が生半可な努力や鍛錬で得られるような頂きでは無い。

「なるほど、手応えはある。」

武人が、瓦礫に埋もれた向こう側に語りかける。
瓦礫が払われ、その姿を現したのは赤い髪の目立つ一人の青年。

「あんたに褒められても何一つ嬉しくねぇよ、おっさん。」

そう一言吐き捨て、青年は武人へと再び目を向け、構える。

(……流石にこのまま相手の土俵の上で戦うのキツイな)

青年こと朝野太陽は内心では焦っていた。何かしら武器があるのならまだしも、今の自分は完全な無手。
それに相手は極致へと至っている武の達人。

(二刃姉さんと互角が、おそらくそれ以上か……)

夜桜二刃。太陽からして姉に当たる、夜桜家長女。合気と柔術を得意とする包容の白銀。
あの武人の実力はそんな二刃に匹敵するかも知れないと感じ取ってしまう。

「――そうか、ならこちらから行くぞ。」

瞼々、忽の速さにより生じた突風が周囲の残骸を吹き飛ばし、武人の剛拳が太陽の目前に迫る。
勿論、太陽は身を屈ませて回避、そのまま武人の拳を掴み遠くへ放り投げようとする。

「その程度か。」

それを見越した武人を左足でそのまま太陽の身体を蹴り飛ばし、別の壁を突き破りまたしても瓦礫が生まれ落ちた。

「―――。」

だが武人は警戒を辞めない。見え透いた小技で誤魔化せるような観察眼はしていない。

「悪いなおっさん。俺はあんたみたいな格闘家じゃなくて――」

瓦礫の向こうで声がして、吹き飛んだ瓦礫の山から、調理用の包丁をその手に持った太陽の姿。

「――スパイだ。」

――夜桜古刀術 螺旋時雨――

「ほう。」

螺旋を描き、太陽は武人へと突進。螺旋の範囲の適切回の判断が一瞬遅れ、回避こそ成功すれど武人の頬に切り傷が出来、血が垂れる。垂れた血を指で掬い、舌で舐め取る。

「精彩(やるな)。」

太陽の手に持った包丁が砕けたと同時に、武人はその言葉を満面の笑みと共に言い返した。

(やっと一撃って言いたいところだが、さっきの手はもう通じないだろうな)

先の店内での包丁を利用しての一撃は二度とは通じないだろう。もし仮にもう一度能動的に取りに行こうとしてもほぼ確実に阻止される。
だが相手は無敵の怪物ではないし、無限再生の狂人でもない、困難ではあるが勝てない相手ではないし、前提として別段勝つ事を最終目的とはしてない。
この武人から勝つか逃げるか、否、朝野太陽からすれば逃げるためには勝つしか無いのだ。




(及第点、としておこうか。)

朝野太陽を見定めながら、UNDER所属『不老』の否定者ファンは構えたまま思考を紡ぐ。
首領(ボス)から「『不運』を奪え」という指令が来た直後にこのような余興と、ファンにとっては期待感の方が遥かに勝っていた。
様々な世界を巻き込んだ殺し合い、死滅跳躍(バトル・ロワイアル)。数多数多の猛者たちが集うこの場所は殺し合いと言う名の登竜門。
これに滾らずして何が男か。血肉が滾り、強者を求めている。
袈裟姿の男の思惑、願望の成就、それがどうした? 強さという概念は、カタチの分からぬ願望器等に推し量れる在り方ではない。強さとは個が自ら鍛え上げ得るもの、そこに一切の余地はない。
故に殺す、殺し尽くした死出の血道の果てに最強の頂きを得るが為、それこそがファンの、力の求道者としての方針であり、固定概念であった。

このマルノヤなる建造物で目覚めたファンはすぐさま強者を求めて動き出した、古代遺物(アーティファクト)で無くとも何かしら使える武具を見つかればいいのだがと探し回っていたのだが、その最中で彼の目に止まったのが朝野太陽。
挨拶代わりの一撃とはこの事、だが朝野太陽は血の滲むような努力と六美への狂気とも等しい愛で唯の凡人から超人とまで成った夜桜家の成長株。
余裕までとは程遠いが既の所で察知し回避。なし崩し的に追撃し続けるファンに対し、それに応戦すると太陽という形でこの戦いの幕は開けたのだ。

時間は戻り、先手で動いたのはファン。

「……では改めて、行くぞっ!」
「……!」

一直線に踏み込み、その拳を太陽がいなす。姉ほどでは無いものの柔術の心得はある。
生死ギリギリの狭間であるが、ファンの殺意そのもの攻撃を潜り抜けられているのは今までの地道な鍛錬が実を結んでいる証拠だ。

(……小手先だけでなく他にも小細工はあるようだ)

自らの受け流す太陽に反撃の暇なく打ち込み続け、受け流すことに専念させながら違和感への思考を行うファン。
受け流された際に肌に増えた感覚の違和感、おそらく擬似的な防弾チョッキの役割も果たせる人工皮膚の類。

「……ふんっ!!」

一旦太陽から距離を置き、背後に散らばる物品による残骸の集合体を太陽に向けて蹴り上げる。
蹴り上げられた直後に太陽は最小限の動きで回避、まるである程度残骸の飛び方の軌道が分かっていたように。そのまま瓦礫に埋もれていたナイフをファンに向けて投擲、そのままファンに打ち落される。

(……さて、何処から来る?)

朝野太陽の姿は見えない。だが何処かにいるのは確実。ファンは周囲の警戒を辞めない。

(………っ!)

朝野太陽はファンの後ろにいる。
諜報機関ヒナギクにおける移動術「花踏み」。
地に舞い降りる花びらの如く柔らかな歩みで音と反発を吸収、無音でかつ最速での移動を可能とする歩法。
スパイとは情報戦、情報を制するものが場を制す。例えそれが不完全な付け焼き刃であろうとも。


「―――面白い歩法だな。俺が今迄戦ってきた武術家にそんな歩き方をするやつはいなかったぞ。が――」

視界にシェンがいないことに太陽が気付いた時には既に遅く。ファンは太陽の身体を飛び越えながら自らの身体を高速回転。着地と同時、勢いを保ったまま、太陽が反応する暇すら与えず、その背中で太陽にぶつかって


――捌廻山靠――

「まだ足りん。一度死んで鍛え直せ。」
「ガ―――!?」

直撃、鉄山靠八連分の衝撃が太陽の身体に響き渡り、その身体はおおよそ人間が鳴らさない音を響き渡らせ、瓦礫の向こう側へと吹き飛び、轟音を打ち鳴らせ壁を破壊した向こう側へと叩きつけられたのであった。

「……が、存外暇つぶしには―――」

そう言い終わる直前、その違和感に気づいた。背中の感触が、人間にぶつかったと言うよりも、まるで鉄にぶつかったような感触。

「まだ隠し玉を仕込んでいたか。」

格闘家としての、長年生きていた経験からなる直感が告げている、先程の男はまだ生きている、と。
やはりここは楽しめそうだと、ファンは快楽にも似た感情で無意識に笑みを浮かべ足を進めていた。


○ ○ ○


「う~ん、これ以上の欲張りは危なそうです……」

同じく、轟音が壁の向こうから響き渡るあるマルノヤのあるエリア。桃色のお団子ツインテールを揺らして呟く一人の少女。
祓忍、香炉木恋緒。と言っても彼女の本領は武具開発の類であり、戦闘面はそこまで得意ではない。
彼女がこのエリアでやっていた事と言えば、簡単な話工具及び目ぼしい物品を集めていた事。
謎の袈裟男が話していた結界、その術式を破る為の第一歩として。

「今は最低限の道具は回収できただけでも良しとしますか。」

結界術『死滅跳躍』、ルール説明、会場、言葉が真実であること誓う『縛り』。
呪術を知らぬ香炉木恋緒から見ても強固かつ難儀な代物。
だがそれがどうした、機械であれ技術であれ術式であれ、この世に完璧など早々ありえない。
物事はトライ&エラー、その時点では完璧であろうとも、何れ弱点(オーバーホール)は生まれるものだ。

(これでも祓忍ですから、無関係な人たち巻き込まれたとなれば黙っちゃいられません。)

香炉木恋緒は職人であると同時に祓忍である。自分だけならいず知らず、祭里やすずまで巻き込まれて黙ってなんていられない。しかもあの比良坂命依のオモカゲことカゲメイすら軽々と巻き込んだ袈裟男の底知れ無さは計測不能。
それ以上に、名も知らぬ自分たちの世界を知らない一般人まで巻き込まれているかも知れない。自分は祭里のように戦いは得意ではない、だからこそ香呂木恋緒は得意分野でこの殺し合いに抵抗するするのだ。
道具は壊れてなんぼであるが、人の命は壊れてしまったら治すことすら出来ないから。

「それじゃあ、厄介事に巻き込まれる前にさっさと退散です。」

ここからでも聞こえる崩壊の轟音、どうあがいても碌な事ではない。
ただしそこに一般人が居るなら放ってはおけないので、最低限見つけたならば避難誘導を最優先はするつもりだ。
そそくさとマルノヤ内で回収した工具をバッグに仕舞い、入り口に繋がるエスカレーターに足を踏み出す。
エスカレーターは常時と変わらず稼働し続けているが、それに構わず急ぎ足。
下の階層の床に足を踏み出した瞬間、恋緒の眼前で何かが砕ける音が、飛び散る粉塵とそれに紛れて吹き飛ぶ赤い髪の誰か共に視界に入る。

「……これはちょっと遅かったみたいです。」

目の色を変え、吹き飛んだ誰かの元へ向かう。
何事も無ければよかったのだが、その何事が起こってしまった以上は仕方がない。

「そこのあなた、大丈夫です?」
「……ん……あ……あぁ。」

吹き飛ばされていたのは赤い髪の青年、何か大きな衝撃を喰らってここまで吹き飛んだと思われる。
恋緒の声を聞いた青年は起き上がり、命に別状はなさそうと恋緒はほっと息を撫で下ろした。

「無事で何よりみたいです。私は香炉木恋緒。事情とかは後で話します、もし自分で歩けるのなら早く――」
「………多分、もう遅いと思う。」

少年の言葉に、恋緒がはっと向こう側を見れば、砕けた壁と散らばる瓦礫を吹き飛ばし、ゆっくりとこっちに近づいてくる男が一人、恋緒の目に映し出されていた。

「……やはり生きていたか。」

少年が生きている事に男は何の疑問を抱いたすらおらず、その獰猛な狩人の如き視線を二人に向ける。
明らかに唯の人間がしてはいけない眼力に、思わず恋緒の身が竦む。

「ああ、死んでなんかいられねぇさ。俺にとっての『あたりまえ』がここにいるんだ。」

そんな男の獰猛さの波濤に対し、少年、朝野太陽は怯えることもなくただまっすぐに波濤の主を見つめていた。その瞳の奥に、桜を花開かせて。


世界は広い、余りにも広すぎると実感させられる、太陽はその事実をその肌で実感させられていた。
あの武人の鉄山靠の際、自らの『開花』を使わざる得なかった事に。ダメージは抑えたにしても、骨の数本は明らかに折られたのは確実。
生身でありながら、『開花』のような異能もなしに、唯鍛え上げられただけの肉体で、この破壊力だ。

(試験の時の凶一郎兄さんの言葉が身に沁みるな……ッ)

己に対して恐ろしく辛辣なシスコン兄貴の事を嫌々思い出しながらも、一直線に正拳を叩き込んできたファンの攻撃を顔を揺らしギリギリの所で避ける
そこから続く連撃を躱しながら、ファンを恋緒から引き離すように移動、膠着状態を続けながらも攻めの機会を伺う。

(まだ『開花』の事は気付かれてはないけれど、あいつの察しの良さじゃ次使ったら確実にバレる!)
(俺の捌廻山靠を受けて無事だったあの耐久力。何かの否定能力か遺物の力か? が、タネさえ分かれば、ただ『硬い』だけならなんともでなろう。)

両者とも攻防の最中の思考。太陽の懸念通り、もしファンが自らの開花能力『硬化』にまで至れば何かしらの手段で突破される。その時こそ完全に勝機は0となり得る。
太陽の置かれた状況は圧倒的不利だ、せめて手元に八重があればもう少しは有利に戦いを運べたとなど思っても意味がない。
更に太陽にとって予想外な事として、吹き飛ばされた先にいた香炉木恋緒の存在だ。ファンが恋緒に襲いかからないと言う保証は全く無い。

(ここにあるやつじゃこいつに対して決定打どころか隙作りすらままならねぇ。なんとかして――)
「先の技はよく耐えた。ではこれはどうだ?」

思考中の太陽の顔面に向けてファンの裏拳、顔を横にずらし避けようとするが、その拳は直前で引っ込まれる。すかさず意図に気付いた太陽が受ける体勢を取ろうとするも既に遅し。

「本来なら両腕での技だが、別に片腕でもやれんわけではない、このようにな。」

――弧撲――

ファンの右腕が太陽の身体を軽く押す。直後、太陽に凄まじい衝撃が迸り背後に吹き飛び、壁に叩きつけられる。

「が、はっ……ッ!」

嗚咽を漏らし、叩きつけられた太陽の身体が瓦礫の上に崩れ落ち、動かなくなる。
そしてファンは気付く、太陽の異能に。

「――単純な硬化、というわけか。内側にまで勁を流し込んだつもりだったがな。」

否定能力とは別種の力。交戦の際に気付いたことであるが、よく見れば太陽の目に桜の花が刻まれていたのは明確。
勁を防がれるのは少々いい意味で予想外であり、やはり多少は満足できる相手であるとファンは確信していた。

(容易に発動できるものではない。いや、手の内を明かさぬ用に心掛けていたいたか、良い判断だ。最初からそれが分かっていれば、俺ならもう少し工夫を凝らしていた。)

脳内にてそのように評価しながらも、既に倒した相手に興味はない。もう一度立ち上がって挑んでくると言うならそれもまた一興。

「さて、貴様はどうする?」
「……ッ!」

動かなくなった青年に背を向け、ただ黙って先程の戦闘を見るだけしか出来なかった香炉木恋緒に目を向ける。

「弱者に興味など無い、早々に失せれば今だけは助けてやる。」

恋緒を見下ろすファンの目は、宛ら獲物を見定める猛禽類の眼光、狩人の目だ。

「……あの少年は、どうするんですか?」

恐る恐る、恋緒が口を開く。目の前の武人は、自分がどうにかできる相手ではない。
仮にこの場に祭里や宗牙がいて、それでも勝てるかどうかすらも分からない。
それ程に相手は強い、並の妖なら文字通り素手で引きちぎってもおかしくない程にも。

「殺す。俺の強さの証明のためにな。」

ただ冷淡に、ファンはそういい切った。彼にとって参加者とは有象無象の壁であり、未知数の猛者でもある。自らが最強を示す為に、殺し尽くす事が当然の思考だと言わんばかりに。

「貴様はどうする? 今死ぬか、何れ死ぬか。」

明確な殺意を交えて、ファンは香炉木恋緒に選択を迫る。
どちらの選択肢もファン自らが殺すという宣言であることに変わりなど無い。
あれは虎だ、獲物に飢え、強さに餓えた血染めの虎だ。全てを食らい付くし、積み上げられた屍の山の頂上に立ち尽くすまで衝動を止める強さの獣だ。

「……どっちもお断りです。それともう一つ、やっぱりあの人を放っては置けませんっ!!」

拒否の言葉と共に、デイバッグから取り出した横に長い鉄塊のような長刀をファンに向けて投げつける。
当然の如く、ファンには単純な上半身の動きだけで避けられる。

「私だって祓忍! 祭里くんや宗牙くんみたいには強くないけれどっ!」

だがそんな事など承知の上。次に恋緒が取り出したのは2つのスーパーボール、それを上空に投げつける。

「たかが跳弾程度!」

先のスーパーボールは天井に当たれば跳ね返り、壁や瓦礫を跳ね回りながらファンへと迫る。
勿論それも読んでたとばかりに跳弾の軌道を予測し、その拳で撃ち落とそうとする。

「こんな所で彼を見捨てちゃ、みんなに顔向けできないですっ!」
「ぬ――!?」

スーパーボールが拳に当たった瞬間、爆発。
その隙に恋緒は向こうで倒れている太陽の身柄を回収しようと駆け出す。

(まだとっておきたかったけど、四の五の言ってられる場合じゃない!)

先のスーパーボールは、ボイルと呼ばれる殺し屋が使用していた特性爆弾、SBB(スーパーボール爆弾)。
恋緒にはそれが5発分支給されており、さっきので2発使った残り三発分。
流石にあの爆発の威力で無傷とはいかないから、その間にと恋緒が思った直後の事。

「……精彩(ヂンツァイ)、さっきのは中々に効いたぞ?」

砂煙の向こうからする、ファンの声。一瞬恋緒がその声に反応してしまい、横っ腹にファンの廻し蹴りが直撃。

「あ゛ッッッ!!」

痛みに唸り声を上げ、太陽が吹き飛ばされた場所へと転がり叩きつけられる。
香炉木恋緒が人生で初めて経験する激痛、悶え暴れないだけまだ幸運。

「……あ゛あ、もう、無理なんてするもんじゃない、です、ね……」

今更になって後悔、といってもほぼ自分の行動が招いた自業自得だ。
でも放ってなんておける訳がなかったから、仕方なかった。

「是结束(おわりだ)」
「あっ……」

迫るファンの拳。迫る死へのカウントダウン。
せめてさっきの少年には無事でいてほしかったなと、祭里やすずさんが無事だといいなと、香炉木恋緒は後悔と願いを抱き目を閉じる。
だが、いくら目を閉じたままでも死の感覚どころ、次に来るはずの激痛の感覚すらなく。

「……ありがとう、恋緒。さっきのあんたが投げてくれたやつのお陰で、なんとかなりそうだ」
「え?」
「な、にぃ……!?」

目を開けれみれば、先程恋緒が投げた塊のような長刀を、棍棒を叩き込むが如くファンに炸裂させその身体を天井へと吹き飛ばした、凛然と立つ朝野太陽の姿があった。

あの時恋緒が投げた支給品。それは夜桜家の次男、夜桜辛三が取り扱う彼特性の形状不定合金『鬱金』。
水の如き流動性と鋼の高度を併せ持つ、その扱いが非常に難しい特殊合金。
本来なら、武器や金属の性質を熟知した夜桜辛三だからこそ、この合金一つで数百の兵器を再現して戦うことが出来る。

並の人間がまともに取り扱うことなんて出来ない代物。支給されるに当たって長刀の形で加工済み状態で支給されていた。
それを偶然にも手に取った朝野太陽。太陽は辛三から武器の取り扱い等こそ学んでいるものの、辛三本人の技術に至るまでは届いていない。
夜桜辛三の開花は『破壊』、相手がどう動くか、どう使うか、弱点は何かを理解する。だが太陽は辛三のようには行かない。
だが、使えるものは使うしか無い。辛三のように『破壊』ではないが、『硬化』で強化して威力を最大限まで高めて、――殴った。


「……ありがとう、辛三兄。」

天井を突き破り、ファンの姿は見えなくなった。
太陽はこの場所にはいない兄に感謝し、胸を撫で下ろす。

「つッ……っ!」
「だ、大丈夫です!?」
「あ、ああ……骨の何本か折れてるのは確実なんだ、そっちこそ大丈夫なのか?」
「いえ、痛いのは痛かったですけれど……支障はありません。」

ファンとの戦いに終止符をうった事が引き金か、太陽は疲労とダメージから膝を崩す。
それを慌てて支えたのは恋緒。近づいた際に太陽から放たれたいい匂いに思わず少し顔が赤くなったが太陽は気付くことはなかった。

「……先程はありがとうございます。あなたがいなかったら私はどうなっていたか。」
「いや、いいさ。こっちこそごめん。巻き込んじまって、でも助かった。」

互いに感謝の言葉を掛け合い、肩を抱えながら二人はこの場所から出るために歩き出す。
お互いの話すことは脱出の最中でも構わない、今はまずここから出る事を優先する為、未だ多少の揺れが続くマルノヤの中を進むのであった。


◆ ◆ ◆


少し時を遡り、朝野太陽がファンと交戦していたのと同時期。
マルノヤの屋上駐車場にて激突し弾け飛ぶ閃光の輝き。
破壊を振り撒くその輝きはコンクリートの床をいとも剥がして飛び散らせる。

だがその破壊光を、その手ひとつで無力化する、一人の少女の姿があった。
巫女衣装を身にまとった少女のカタチをした憎悪の化身。悪意に押しつぶされた人と妖と架け橋となり得えたはずの成れ果て。人への憎しみを宿した或る少女の面影(アルターエゴ)。

「……その程度?」
「ぬぅぅ……!」

少女の無機質で無感情の、そう聞こえるようで本の少し興味心が湧いている低い声が響き渡る。
その声に対し、苦しそうに呻く、ボロボロの人形のような異質なピンク色の1つ目の異生物の姿が少女の暗く淀んだ黒い瞳に映り込んでいた。
少女の手には、その陰の気に似合わぬ、まるでニチアサあたりでありそうなカラフルで可愛らしい装飾がされたステッキ。

「……無様だね、破壊の神。素直に私の誘いを受け入れてればよかったのに。」
「ぬかせ小娘。貴様とてその道具を頼っているだけであろう?」
「否定しないよ、別にこれが無くてもあなたに負ける気なんて甚だ無いんだけど。どうせなら使えるものは使わないとね、このように――ねっ!!」

ステッキの先端より放たれる、黒い稲妻。それを異生物の1つ目から放たれた閃光が相殺しようとする。
が、その威力は歴然。閃光は黒に呑まれ、異生物の身体を焦がす。

「ぬ、お、おっっっっっ!!」

肉が焼ける感覚、鮮やかなピンクの所々が黒く焼け焦げていく。まるで生焼きだ。釣れた魚をそのまま焼いて食すように無慈悲な一撃。
黒い稲妻が収まり、破壊神と称された異生物が無様に倒れ伏す姿が少女の眼前にあった。

「……もう一度、提案するわ。私と手を組みましょう、破滅の神マグ=メヌエク。愚かな人の世を滅ぼすために。」

淡々とした少女の声。当初少女は目の前の破壊神とのファーストコンタクトは比較的温厚なものであった。
妖とは全く別種の存在。封印されし上位存在である混沌の神の一柱。
利用しようとした、人を見下す混沌の神と、人を憎む巫女の面影。利害関係での一致を望んでいたが、かの神はそれを否定した。

だからこそ決裂は当然であった、少女は神を殺すことにした。
結果は今の通り。万全ならばまだしも、今の破壊神では目の前の憎悪の塊を斃すには足りない。逆にこの様に追い詰められていくばかり。

「……何故そこまで下等生物(ニンゲン)共を憎む?」

今一度、破壊神は少女に問う。何故そこまでヒトが憎いのかと?
答えなど、等に察せたとしても。

「幾つもの時を経ても変わらず愚行を繰り返すヒトに意味なんてあると思うの? だったら一度終わらせた方が世界の為だとは思うけれど。」
「……見え透いた嘘を、貴様はただ憎いだけだろうに。」
「恐れられるだけが取り柄のお前たちがほざくのか?」
「なんとでも言え、貴様のソレは我からすれば幼稚な――」
「―――黙って。」

マグ=メヌエクら混沌の神は恐れ、崇められるが本来の在り方であった。
だがかの神は変わった、変えられたと言うべきか。一人の女子学生によって。
破壊するだけの力は、誰かを助ける為の力へと。

破壊神の言葉は、少女の憤怒を呼び起こすに十分であった。
恐れ敬われる存在である上位存在にはわかるものか、人と妖の架け橋となるべく生きてきて、人には何ら受け入れられる恐れられ差別され無惨に贄にされたこの気持ちが、たかが邪神ごときにわかってなるものか、と。
少女からのそれ以上の返答はなく、そのかわりとして破壊神に放たれた気を纏った黒折紙が襲いかかる。

それに対応すべく、破壊神は自らの身体より、一回り小さい彼自身の分体を生み出し対応。
分体によって放たれた光線と、黒折紙が激突し爆発。爆発の煙に包まれる中で、破壊神は少女が何処から襲いかかるかを見極める。
今の弱体化した身体以前に、度重なるダメージの蓄積でこれ以上の攻撃すらもまともに出来るかどうかの瀬戸際だ。明確に見極め、的確な一撃を与えなければならない。
少女の手に握られている見るからにポップなステッキ、あれは同じ混沌の神の一柱『ウーネラス』の摂理の力によって生み出された代物であることを知っている。
少女はあれを魔力のかわりとなる力で稼働させているが、そんなことはどうでも良い。

「……ねぇ、これ便利だね。妖巫女に取り憑かなくても。こーんなことも出来るんだって、ね!」

少女の言葉が聞こえた時に破壊神が気付くも既に遅し。
煙の中より生まれた、黒く迸る稲妻が、煙の中にいたマグ=メヌエクの身体を貫き通す。

「―――!」

言葉すら発する暇すら無く出来ずその直撃を喰らい、黒煙を上げて地面に倒れ伏す。
とどめを刺そうとステッキを向けた少女の回りに未だ生き残っていた分体の姿はあれど、浮遊する黒折紙が直撃し次々と消滅する。
それでも立ち上がろうとするマグ=メヌエクの姿を、無駄な行為だと呆れた視線で少女は見つめ、ステッキを構えてた。

「……遺言ぐらいは、聞いてあげるわ。」

既に勝敗は決した。だが人間でないもの同士のよしみで、遺言の時間ぐらいは許してやろうと、少女は手を抜いた。
どっちにしろ始末する、もうこいつに自分に抵抗できる余裕など無いと、高を括っていた。

「……貴様の過去に何があったか、我には知らぬ存ぜぬ所だ。」
「……」
「が、この世は貴様が思っているほど狭い世界ではないぞ。」

破壊神マグ=メヌエクは知っている。長き封印の果て落ちぶれた自分を拾った愚かな少女の事を。
畏怖せず、ただ一人の友だちとして、新しい家族として接してくる信徒(しょうじょ)のことを。

「我は知っている、愚かで知性のない、何処までも他人の為に尽くす、利己の願いを望まぬ我が第一の使徒を。」

マグ=メヌエクは破壊神であるが、それは勝手に誰かが名付け恐れただけに過ぎない。破壊神、混沌の神、破滅の神、邪神。誰かがレッテルを貼り付けて、勝手に畏れているだけ。
それでもマグ=メヌエクが破壊を齎す者であることは変わらない、誰かに願われて破滅を齎すだけどかの神は、或る少女との出逢いの得て変わっていった。

「……貴様は人の世を滅ぼすと言ったな。残念だがそれは阻止させてもらうぞ。」
「それはなんでかな?」

破壊神マグ=メヌエクは心は、既にたった一人の少女によって絆されていた。

「宮薙流々の『憂い』を、破壊する。貴様の望みは、流々の障害となるからだ。」
「ああそうなんだ。キミも、――人間ごときに絆されたか。」

少女の言葉に、呆れの籠もった憎悪が込められていた。
お前もそうなのかと、取るに足らない人間等に心動かされたか、当代の妖巫女のようにと。

「じゃあ、大人しく貴方が破壊されなさい―――ッ。」

ステッキに妖力を込め、放とうとして、背後の気配に気付き振り返り稲妻を放つ。
背後にいたのはマグ=メヌエクの分体。塵に還るそれを見向きもせず、本体の動きを見極める。
――その本体は、禍々しき姿へと変貌して、その眼前に光を溜め込んでいた。

「―――!?」

別に少女は油断しきっていたわけではない。逃走か反撃の懸念は在った。
話の間に少しづつ力を溜め込んでなんて策も想定していた。
だが、それは余りにも溜め込みすぎている。彼女の想定以上に。

「……自滅するつもり!?」
「自滅なぞと。ただ限界以上に溜め込んだ力を貴様に向けて放つだけだ。」

破壊神の身体は膨張し続けている、全てを出し尽くさんと、風船のように膨らみ続けて。
最大の一撃を放つ事などわかりきっているが、その威力と範囲がどうなるかなど。
恐らく、この駐車場全てが吹き飛ぶほど。

「………っ!」
「……その愚かな頭を一度冷やすがいい、憎悪の面影。」
























「―――――。」

前触れもなく、前兆もなく、それは発生した。

「な、ぁ゛………?」

破壊神マグ=メヌエクの身体が、崩れていく、その身体も、溜め込んだ力すらも。

「――――ぁ゛」

破壊神に、誰かの手が置かれた。
その刹那。破壊神は、本当の意味で塵へと変わった、塵は風に吹かれて散って、消えた。
再生することもなく、最初からいなかったように。

【マグ=メヌエク@破壊神マグちゃん 死亡】

少女は、比良坂命依のオモカゲことカゲメイは、その光景に、思わず息を呑んだ。
人妖でもなく祓忍ですらない誰か、ミイラのような、死人のような、そんな男。

「だ、れ……?」

震える口で、問う。さっきの破壊神よりも、よっぽど破壊神らしき力を秘めた、何かを。
男が、カゲメイに気付いて、視線を向ける。
その目は、同じだった。否定され続けた、世界の悪意に潰されそうになって、自分たち以外を全てを否定しようとした、その目だ。

「……?」

男はカゲメイの目を、じっくりと眺めていた。悍ましいものが包み込むような感触を、カゲメイは感じた。
逃げるべきか、隙を見て殺すべきか、数多の思考がカゲメイの脳内で巡り回る中で、男は口を開けた。

「……いい目を、しているな、お前。」
「………!」

意外な言葉を掛けられた。だが、それと同時にカゲメイは目の前の少年が同じ絶望を知っている事を理解した。
否定され、否定され、否定され続けて、ここまで堕ちて、壊れて、壊して、積み重ねて。
似て非なるもの、人とオモカゲ、本来なら敵同士、対立するもの同士。
なのに、それは、余りにも神々しく、黒く輝いてるように錯覚して。

「……ねぇ。一つ、良いかな?」
「……なに?」
「もしも私が今の世界を、人の世を滅ぼすとしたら、貴方は協力してくれ……る?」

カゲメイ自身が、自分の言葉に困惑していた。相手は人間だ、相容れない相手だ、なのに何故こんな協力しようなんて言葉を投げかけた?
分からない。分かるわけがない。だが、カゲメイ自身、彼という『悪のカリスマ』に、無意識に魅了されている事に、気付かないで。

『……ハハ。』

男が、笑った。何処までも空虚で、渇いているように見えて、愉快そうに。

「人の世だけなんぞみみっちいんだよ。どうせなら、『全部ぶっ壊せばいい』。ぶっ壊して、俺達が生きれる世界だけがありゃいい。」

ああ、そうか、と。カゲメイは理解した。
誰かのためになろう願ったのに、否定されて、助けてもらえなくて。
それが憎くて、全てを破壊しようとして、自分たちとその理解者さえあればいいと、そう願って。

「あと訂正だ。お前の思想は気に入ったが、俺がお前に協力するんじゃない。『君が僕に協力するんだ。』」

人間なんて、だと思っていた。だが、『これ』は違う、『悪』の魔王であるこの少年だけは、この人間だけは、親近感が持てた。

「……ええ。『私』は貴方に協力する。それでいいの?」

無意識に答えた、ヒトなんかと手を組むなんて、まさかだとカゲメイ自身も思っていた。

「それでいい。今は、な。」

それでも、彼の目に、嘘はなく。おのず自分の理想も、彼の理想も、行き着く先は違うものになるのか、それとも同じものになるのか、誰も分かるはずがない。
確かなのは―――同じく人の世を憎み、破壊しようとする者同士の、同盟が結ばれてしまったという事だけだ。




『しかし、面白いことになったじゃないか、死柄木。』


(勝手に出てくんなよ、先生。)


『良いじゃないか、良い手駒が増えた。警戒すべきではあるけれどね。』


(………まあ、あの目は悪くはなかった。)


『かつての君にかな?』


(………)


『まあいいさ。それに、今回の殺し合いで、度々君の身体を借りる事になることを先に言っておくよ。』


(勝手に決めるな。)


『これは君の為でもあるんだ死柄木。この殺し合い、彼女やあの異形のようなのがわんさかいるとなれば、君だけでは手が折れるだろうからね。だからこれまで以上にサポートすることにするよ』


(……ケッ。) 


大いなる闇の中、少年、死柄木弔の中で笑う影がある。
オール・フォー・ワン。個性社会最大の邪悪、悪の魔王は闇の奥底で、微笑んでいた。





【H-3/マルノヤ屋上/1日目・未明】
【カゲメイ@あやかしトライアングル】
[状態]:健康
[装備]:めっちゃファンシーな魔道具@破壊神マグちゃん
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2
[思考]
基本:現在(いま)の人の世を終わらせる。
1:祭里くんにすずちゃんもいるのかぁ……。ふふっ、どうしようっかな?
2:どうして彼(死柄木)に惹かれちゃったんだろ、私。……まあいいや。
[備考]
※参戦時期は最低でも7巻以降。


【死柄木弔@僕のヒーローアカデミア】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品3
[思考]
基本:現在(いま)の何もかもを壊す。
1:緑谷出久、お前は俺が壊してやるよ。
2:トガのやつ、無事だろうな。
3:こいつ(カゲメイ)は利用する。
4:――俺は先生の道具じゃない。
5:『面白いことになったじゃないか、それに彼女(カゲメイ)は興味深い』
[備考]
※参戦時期はタルタロス襲撃後。
※個性『崩壊』の制限や、宿っているAFOの個性等に関しては後続の書き手におまかせします。


『支給品紹介』
【めっちゃファンシーな魔道具@破壊神マグちゃん】
カゲメイに支給。見た目ちっちゃい女の子向けおもちゃのやつ。
ただしウーラネス製の魔道具だけあって魔力があればすごいビームとか出せる。
カゲメイの場合は魔力の代わりに妖力で代用している。


◆ ◆ ◆


「本当にいたんだな、忍者って。」
「正しくは祓忍なんですけどね。」

マルノヤの外。戦場と化した大建物から脱出した朝野太陽と香炉木恋緒。
脱出の道中でお互い話せる範囲での情報の交換は行われていた。

と言っても太陽側は最重要シークレットである夜桜の血の事等は話していない。
夜桜家の根幹に関わる事でかつ、家の秘密そのものでもあるからだ。
ただしファンとの戦闘は見られてしまったため、大凡のことは恋緒に話さざる得ない空気になってしまったのは事実。主に『開花』等の異能とか、恋人である六美の事とか。

「でも羨ましいです太陽さん! その年で好きな人と結婚まで! 祭里くんですらすずさんとはそこまでディープな関係には至ってはないというのに、今祭里くん女の子なんですけどね。」
「さらっととんでもない情報が流れた気がする!」

恋緒が一番過剰に反応したのは勿論六美との関係のこと。幼馴染という関係性から紆余曲折あって彼女を守るために結婚し、鍛え努力してきたのが朝野太陽だ。
恋緒からすれば風巻祭里に対する感情は、過去に自分を選んでくれた事から、それに対する感謝として彼を支え続けるパートナーとしての気持ちだ。恋愛感情が無いと言えば嘘になるが、祭里にとっての熱風とは花奏すずである。だが幼馴染という関係性に勝る為にも彼女自身のアプローチも改良し続けるだけだ。
ちなみに祭里が現在女の子であることをこの時初めて太陽は知った、閑話休題。

「……なんて言ってる場合じゃないな、早く六美や四怨の事を探さないといけないんだった。」
「私も祭里くんやすずさんが心配ですから、一緒に探してくれると助かります。」

太陽にとって最優先は六美ら夜桜家の家族の安否だ。
百歩譲って凶一郎(クソ兄貴)はまあ大丈夫だろうという謎の確信がある、何なら「六美がいながら他の女とデートとはふざけた真似を。」といきなり現れて言って来ても全く違和感がない。
勿論、恋緒の仲間であり友人である祭里やすずの二人も一緒に探す事は確定事項だ。
懸念点は捕まえたはずのタンポポ幹部皮下真と、恋緒が話していた人の世を憎む妖巫女のオモカゲことカゲメイ。特に皮下がこの状況下でどう動くか不明瞭だ。

「そ、れ、に……太陽さんの武器も制作しないとです。」
「はい?」

そんな中で恋緒の唐突な言葉に思わず太陽はキョトンとなった。

「使いづらい武器よりも使いやすい武器! スパイだからって手に馴染むものじゃないとこの先戦いづらいでしょうし。私は職人ですから、戦闘にはあまり役立てなくても、こういう事で役に立たないと名折れですので。」
「恋緒、お前……。」
「それに、助けられたお礼は、まだ返しきれてないのです!」

それは単純な恩人への感謝と返礼、そして職人魂の奮起な部分でもあるのだが、その心遣いは素直に太陽としても有り難かった。

「それじゃ、頼むよ恋緒。」
「はいっ! では一旦ここから離れましょう! ……せっかくだから私の店もあればいいんですけれど。」
「……そう都合良くは無いんじゃないかな……?」


※マルノヤ内部の一部フロアは崩壊したりしています。
【G-3/マルノヤ近く/1日目・未明】
【朝野太陽@夜桜さんちの大作戦】
[状態]:ダメージ(中)、一部骨折
[装備]:形状不定合金『鬱金』@夜桜さんちの大作戦
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:六美や家族の皆を守り抜いて帰還する。
1:今は恋緒と共に行動。祭里やすずの事も探す。
2:皮下とカゲメイは警戒。
3:凶一郎兄さんは……うん、大丈夫だな!
4:あの戦闘狂(ファン)、一体何だったんだ……?
[備考]
※参戦時期は銀級試験合格後。
※恋緒とお互いの情報を交換及び共有し、祓忍や妖等の知識を得ました。ただし恋緒に夜桜家の根幹に関わる秘密は話していません。

【香炉木恋緒@あやかしトライアングル】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1。SBB(スーパーボール爆弾)@SAKAMOTO DAYS(残弾3/5)、マルノヤで回収した工具用の道具全般(内容は後続の書き手におまかせします)
[思考]
基本:祓忍として、こんな殺し合いは見過ごせない。
1:結界の突破手段を模索する。
2:今は太陽さんと一緒に行動です!
3:祭里くんやすずさんが心配。
4:皮下真って人とカゲメイには最大限警戒。
5:太陽さんの為に何かしらの武器は作ってあげる。
6:もしかしたら会場内に私の店があるかもしれない?
[備考]
※太陽とお互いの情報を交換及び共有し、夜桜家や開花等の知識を得ました。


『支給品紹介』
【形状不定合金『鬱金』@夜桜さんちの大作戦】
香炉木恋緒に支給。夜桜戦線の為に製造された夜桜辛三の新兵器。
数十種類からなる形状不定合金であり、水のような流動性と鋼の高度を持ち合わせる、扱いが非常に難しい金属。本来なら辛三の指先で数百種の兵器の再現が可能であるが、辛三以外での運用の難しさも考慮されてか支給される際に長刀に形成された状態で支給される。

【SBB(スーパーボール爆弾)@SAKAMOTO DAYS】
香炉木恋緒に支給。ボイルと呼ばれる殺し屋が自ら作成したスーパーボール型の爆弾。坂本曰く「ダサい」
爆弾の配合は過塩素酸カリウム10g、ピクリン酸4.8g、ペンスリット20g、ニトログリコール3.5g。



「夜桜六美、か。それが貴様の愛する女の名前だな、朝野太陽。」

朝野太陽と香呂木恋緒の会話とその背中を、誰も気付かれない場所でファンは聞いていた。
先程の一撃は効いた、血反吐を吐かされたの久しぶりだ。

「喜べ、朝野太陽。貴様は更に強くなれるぞ。」

愛するものがいるのならば、あの時負けたのは結果的に良かったことだ。
何故ならば、愛する者がいるというのなら、それを殺され絶望したその時こそ、更に強くなれるのだから。

「……俺がその夜桜六美とやらを殺してやるのだからな。」

夜桜六美を殺し、朝野太陽がその喪失に絶望した時、彼はさらに強くなる。強くなった彼に挑んで勝つ。
あの時と同じ様に、愛弟子の妹を殺した時のように。

「何れお前とも決着を付けてやろうか、シェン。」

名簿に載っていた愛弟子(シェン)の他、一応は仲間である『不治』リップ、そしてビリーの言っていた『不死』と『不運』。

「その前に、やることは余りにありすぎるがな。」

そう、愛弟子との決着以上に、この場所は愉しみが多すぎる。朝野太陽の事、それにまだ見ぬ強者のこと
快楽にも等しき未知への渇望を懐き、『不老』の戦闘狂は嘲笑(わら)うのだ。


【G-4/橋の上/1日目・未明】
【ファン@アンデッドアンラック】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:己が天下無双であることの証明。
1:夜桜六美を殺し、朝野太陽を絶望を以て強くし、それを撃ち倒す。
2:愛弟子(シェン)との決着も付けたい所であるが、それ以上にやること愉しむ事が多い。
3:……せっかくだ、何かしら目ぼしい武具を見つけたいところだな。
[備考]
※参戦時期はビリーから不運捕獲の命令を受けた直後


前話 次話
ファミリー 投下順 まだ見ぬ未来
ファミリー 時系列順 まだ見ぬ未来

前話 登場人物 次話
START カゲメイ 人でないもの
START 死柄木弔 人でないもの
START 朝野太陽 武装戦線
START 香炉木恋緒 武装戦線
START ファン 武装戦線
START マグ=メヌエク GAME OVER


最終更新:2025年08月11日 22:06