Aggressive Heartbeat ◆vV5.jnbCYw


ああ、素晴らしいよ、この世界は。
俺だけじゃなくて、他の知らない少女も愛を語っている。
この世界で、俺は本当の愛を確かめるよ。
そして、本当の愛を知った暁には、是非ともあの子にそれを告げよう!!




この殺し合いが始まってすぐの真夜中の草原。
二人の男女が睨み合っていた。
男子の方は、紺色のヒーローコスチュームに身を包み、右が白髪、左が赤髪になっている左右非対称な面持ちをしていた。
彼が右足で踏んでいる箇所から、鋭利に尖った氷が生え、女子の方を攻撃する。


「そうカリカリしなさんな。焦凍くんは目当てではありませんから。」


八重歯と縦長の瞳孔が印象的な少女は、軽口を叩く。
叩きながらも、少年が地面から生やした氷の槍を、確実に躱していく。
まるで路地裏を走るネズミのような、小回りの利いた動きで。
素早い身のこなしで近距離に入り込むと、セーラー服から何かを出す。
それは人を斬れるとは思えないほど、細い刀だった。
彼女のお気に入りの武器である、血を吸い取る針は奪われてしまったが、彼女にとっても軽くて使いやすい武器だった。


「じゃあその妙に細長い刀は何だ。」


彼女の刺突を躱しながら、焦凍と呼ばれた少年は叫ぶ。
今度は左手から炎を出して、敵を焼こうとする。


彼の持ち技は氷だけではない。
炎の個性『ヘルフレイム』を持つ父と、氷の個性を持つ母の間で生まれたヒーローである彼は、その両方を使うことが出来る。


刀で焦凍を串刺しにしようとした少女は、その寸前に攻撃をキャンセルし、宙返りを2度ほどして炎を躱した。

(チッ、氷もそうだが、炎が上手く出ない?もしかしてこの空間、個性に何かの干渉があるのか?)

この戦い、最初に襲い掛かったのは彼女、トガヒミコの方だ。
少年の方はヒーローとして、この殺し合いに乗った者を倒そうという使命を全うしようとしているのみ。

「女の子の顔を焼こうとするなんて、随分とひどいヒーローですね。」

八重歯をむき出しにして、妙に腫れぼったい瞳で、焦凍を睨めつける。
進んで他者に危害を加えようとする彼女も、他者に思いを寄せる所は、一人の青い少女だ。
勿論、自身の美貌の一つにも気を使う。


「人の血を吸おうとするヴィランに言われたくはないな。」


冷静に相手の挑発を流す。
その瞬間、トガの周囲に爆発が起こった。
それは何かの偶然という訳ではない。
彼が氷結の個性を用いて空気を冷やした後、炎の個性を用いて急激に気温を上げた熱膨張を利用した爆発技だ。
その爆発の威力は、爆撃をメインとする彼の同期、爆轟にも劣らない。
膨冷熱波と名付けたこの技は、彼の個性の中でも特に高い威力を持っている。


(やはり爆発の威力も落ちているか……)

だが、上空でくるりと身を翻し、猫のように着地したトガを見たヒーローの顔は、苦々し気だ。
先の技は轟本気を出して使えば、オールマイトの力を得た緑谷の全力の一撃さえ吹き飛ばせる。
勿論、殺すつもりはなく手加減したことを加味しても、爆発の威力も範囲も小さすぎる。
最初に撃った氷攻撃、穿天氷壁も、本来なら大型ドーム半分を覆えるくらいの広範囲を攻撃出来るはずだった。
だというのに、精々がプロレスリング1つといった所。
天を穿つというには、名前負けも良い所だ。
これはこの殺し合いにおける、ある世界の鬼の血鬼術の制限、はたまた別の世界の否定者の能力の減退と同じようなものだ。
現に彼はこの殺し合いの会場に来てすぐ、自身の居場所を知り合いに知らせるために、高層ビル程の高さを持つ氷山を作ろうとしたが、それは叶わなかった。


「まだまだですよ。轟クン。」

セーラー服やクリーム色のカーディガンはいくらか汚れているし、ダメージも受けてない訳ではないが、致命傷を負ってもない。

トガがかつて異能解放軍との戦いの最中、個性による地雷攻撃を受けたこともある。
その際に、吹き飛ばされた後の受け身の取り方を覚えていたのもあった。


「君の血を奪って変身すれば、私の大好きな出久くんに警戒されずに近づける。
だから、轟くんの血を頂戴してほしいな。」
「そう言われて、渡すヒーローがどこにいると思っているんだ。」


この2人は直接対面したことは無いが、互いにその名は知っている。
片や悪を討つ、未来のプロヒーローとして。
片やその雄英高校を何度も襲い、また一般市民にも危害を加えようとするヴィランとして。


「ああ、でも、ステ様にも会いたい。ステ様のために殺すのもいいかもです。ステ様を殺すのもいいかもです。」

彼女がセリフを言い終わってから、一拍置いて、舌打ちの音が響いた。

顔をぽうっと赤らめ、口角を耳に届くか届かないかというところまで上げる。
まるで狂気と殺気に満ちた場所にいるとは思えない、恋する乙女の表情だった。
恋する乙女と何ら変わらないようで、全く異なる感情を胸に抱いている彼女に、地面から氷の槍が殺到する。


「私の恋路を、邪魔して欲しくないですね。好きで好きで好きな人に会いたいという気持ち、分かりますよね?」
S字を描くように走り、攻撃を躱していく。
「お前がその為に他人に危害を加えようとするからだろうが。」


今度は右手から出る炎が、赤い蛇のようにトガに絡み付こうとする。

「!?」

後ろへ下がろうとするが、ズルンと足を滑らせる。
焦凍の個性によって、地面がスケートリンクのようになっていた。
それでもトガはバランスよく重心をキープし、大縄跳びのように迫りくる炎を飛び越える。


「私の愛を、邪魔しないでくれませんかあ?」


彼女は赦されなかった。
当たり前に生きることを。当たり前に異性を愛することを。
なぜなら、彼女は好きな相手の血を吸うことでしか充足を得ることが出来ないのだから。
それは何が悪いのか?我慢しない彼女が悪いのか?否、それを許さない社会が悪いのだと、彼女は断定した。
だから、ヴィラン連合に入り、自身のあたりまえを許さない癖に身勝手な当たり前を押し付けてくる社会にツバを吐いてやろうとした。


だが、もしこの殺し合いの世界ならば。
従来の法や規則の一切合切が撤廃されたこの世界ならば。
彼女の求めているものは、手を汚さずとも手に入るのではないか。そして願いも叶うのではないか。
そう考えて、彼女は殺し合いに乗った。
10人の命など比べ物にならないくらい、元の世界で手に入らなかったそれは輝かしかった。
勿論同じように殺し合いに巻き込まれた連合のリーダー、死柄木弔を援助しようという気持ちは無いわけではない。
あくまで無いわけではない、というぐらいだ。自身の未来より優先するほどでもない。


「へえ、君も愛を求めているんだ。」

急に第三者の声が聞こえたと思ったら、突然空気が重くなる。
既に戦いによって上がっていた二人の心拍数が上がる。
聞こえたのはおおよそ敵意を感じさせない、聊か高くて穏やかな声。
だというのに、下手なプロヒーローより強いと評価された焦凍や、ヴィランの1人として修羅場を潜って来たトガでさえ、悪寒が走った。
これまで互いしか見ていなかった二人の視線は、離れた場所に立っていた男に集まる。

「やあやあ初めまして。俺の名は童磨。良い夜だねえ。」

そこにはニカニカと笑う、不気味な風貌の男が立っていた。
一昔前の衣装に、虹色の光彩。頭から血を被った様な髪の色をした鬼がそこにいた。
妙に高貴な衣装に身を包み、
今まで全くそりが合わず、争っていた同じ世界の二人は、奇天烈な色をした瞳に見つめられた瞬間に同じ思考を抱いた。
あの男は相当ヤバイと。


「どうしたの?」


次の瞬間、二人は予想が当たっていたことに気付いた。
なにしろ、さっきまで離れていた男が、瞬きもせぬうちに近くにいたからだ。


(コイツは、移動に関する個性の持ち主か?)

そう考えながらも、焦凍は氷塊を童磨目掛けて放つ。
まだ目の前の男が完全な悪だと断定したわけではないため、雄英高校体育祭で瀬呂にやったような、拘束するだけの氷技だ。

「おっ、すごいな。君は鬼だったのかい?でも君のような鬼に会ったことはないんだけどな……」

目の前に氷塊が来ても童磨は慌てず騒がず、愛用していた奥義を2,3度振る。
氷はチーズのように簡単に砕けた。

「お返しだよ。血鬼術 蓮葉氷。」

もう一度童磨が金の奥義を振ると、蓮の葉を模した氷が、焦凍の顔面を切り裂こうとする。
だが、かざした左手の炎が、彼を守る。
童磨が放った氷は、瞬く間に水へと融解した。
氷への最大の武器は炎。たとえ個性を持つ者が現れようと、超常的な力を持つ鬼が現れようと、この理は変わらない。


「俺は鬼じゃない。お前のような奴から参加者を救うヒーローだ。」

焦凍は童磨からの疑問に答えると、またしても右手をかざした。
今度は童磨の足元から、氷の山が竹のように出てくる。
いくら度を超えたヴィランだろうと、初見で彼の技を見抜くのは不可能、そうは思わなかった。

焦凍の悪い予想は命中する。
童磨は素早く個性の出所から離れた。

「へえ、救うって、俺と同じじゃん。奇遇だね。」

お前は何を言っているんだという空気が漂う中、童磨は話を続ける。

「俺もね、この殺し合いに無理矢理入れられた可哀想な人たちを、救ってあげようって思「邪魔です。」

ニカニカと、しかし力の入らない笑みを浮かべて話している童磨の首筋を、後ろからトガが刺す。
彼女にとって、笑顔を浮かべて悩みを解決してあげようなどとぬかす輩は、全て憎悪の対象だった。
そんな相手は、彼女が刃物で血を吸い取ろうとした瞬間、悉く異常者として見て来たからだ。

「お?君はどうしてそんなに怒っているんだい?」

後ろ手で刀を受け止めるという離れ業をやってのけるも、表情一つ変えない。
彼が生前に、教祖として信者の悩みを良く聞いていた。
その時に良く浮かべていた屈託のない表情と、何ら変わりはない。

「ッ!離しなさい!!」

人の力を優に超す鬼、しかもその中でも上澄みの童磨の力は強く、その刀を奪うことは出来ない。

「この手触り、この細さ。よく見れば俺の大好きな人の刀じゃないか。懐かしいなあ。
でも、使い方がなってないよ。」

迂闊に振り回すと、細い刀が折れてしまうのはトガにも分かっていた。
だが、愛用の針が無い今、手放すわけにもいかない。


余裕を見せている童磨に、またも氷の刃が迫りくる。
曲がりなりにもヒーローである自分に向かって救うとはなんたる言い草だ、とあきれ半分憤り半分に焦凍が放ったものだ。
今度は狭い範囲に、より鋭利な氷が現れる。
白銀の刃は、童磨の右手を切り落とした。

決して焦凍は、トガを許したわけではない。
だが、それ以上にこの男をどうにかしないといけないと考えただけだ。

「う~ん、やはり血鬼術とは違うのかな?」

童磨は片腕を失っても、ケロリとした表情で目の前の氷を観察していた。
彼ら鬼にとって、それは大した怪我ではないからだ。


(再生も僅かだけど遅くなってる……この世界、あの方の血の呪いに干渉する何かがあるのかな?)

四肢の喪失ぐらい、上弦の鬼ならば一瞬で元通りだ。


だが、腕が生えたばかりの瞬間、トガが彼の虹色の瞳を串刺しにする。
それに続くかのように、焦凍は炎の個性で童磨を焼こうとする。
たとえ相手を焼けなくても、先程と同じように熱膨張によって、爆発技へとつなげることが可能だ。
そんな彼の目論見は、あっさり破綻することになる。

――血鬼術 散り蓮華


童磨は失ってない方の腕で奥義を振ると、文字通り蓮華の花びらを思わせる氷のつぶてが現れ、焦凍の炎を打ち消す。
氷使い相手に、炎ほど打ってつけな力は無い。そんな常識は、上弦の鬼に通じない。
最も、彼の炎の個性が無ければ、2人共童磨が放った氷を吸って、呼吸さえもままならないことになっているのだが。

(!!)

炎を消してなお、解け切ってない氷の刃が焦凍に殺到する。
咄嗟に後ろに退き、安全地帯まで下がる。
攻撃は避けられた。だが、既に童磨の失った腕は再生していた。

――血鬼術 蔓蓮華

今度は童磨はトガに向かって奥義を振るう。
現れたのは、植物の蔓を連想させる氷。
それでいて、本物のそれより鋭利であり、彼女の服の袖を傷付けた。
彼女は逃げ足は優れているため、致命傷は追わなかったが、それでも腕を少し切り裂かれた。。


「それが救うって行為か。」
「そうだよ。俺は昔から、苦しんでいる人たちを食べてあげていたんだ。強い者が弱い者を救うのは義務でしょ。」

最初は恐ろしい相手だと思っていたが、実際に対面してみると、存在してはいけない相手だと伝わった。
だが、童磨の氷を操る血鬼術は、自分の個性よりも上手だと同時に思い知らされた。


「そんなことで私を救えると?」

腕を傷付けられて猶、トガは相手を刺し殺そうとする。

ムカつくムカつくムカつくムカつく。
勝手な押し付けで他者を救っている気になっている男が、本当にムカつく。
トガもまた、そんな怒りに任せて童磨を何度も突き刺そうとする。
だが、その刺し傷はすぐに再生してしまう。


「君はさ、さっき愛を語っていたよね?」
童磨の虹色の瞳が、トガの黄色い瞳を見据える。


「俺もさ、愛を求めているんだ。だから同じ悩みを抱えている者同士、話に乗ってやることも出来ると思うんだよ。」

悩み相談の相手は針のような刀で、虹色の瞳を何度も刺す。
目玉が、光彩が、網膜が、水晶体が血に混じって飛び散るが、態度を改める様子はない。
自身をザクザク刺してくる相手に語り掛けているとは思えない穏やかさで話しかける。

「そう構えなくても、俺は君が可哀想な人間ってことはよく理解しているよ」
「~~~~~~~!!!」


刀を握るトガの力が、一層強くなった。
彼女が思い出したのは、異能解放軍の幹部のキュリオス。
記者を名乗っていた彼女もまた、この男のように勝手に自分のことを不幸だ何だと言って来た。
だからこいつも、あの女と同じ目に遭わせてやる。
そんな気持ちで、目玉、首筋、心臓、肺と急所と思い当たる場所を次々刺す。

(私はちっとも不幸じゃない。嬉しい時はにっこり笑うの)

攻めているのは彼女の方。だというのに、勝負は全く有利に傾かない。

「離れろ!!」

その状況を鑑みた焦凍が、トガに指示を出す。

「ヒーローなのに、私に命令しないでください!」
そう言いながらも、トガは後方に避難する。
彼女がいた場所に、尖った氷柱が降り注ぐ。

――血鬼術 冬ざれ氷柱
「これでも食らってろ!!」


氷柱が落ちてくる場所に、炎が巻き起こり、その後すぐに大爆発が空気を揺らす。
先ほど焦凍が炎と氷を出して爆発を起こしたが、今度はそれを童磨の氷でやってのけた。
最も、相手の氷に合わせて炎の威力を無理矢理強くしたため、彼の疲労も馬鹿にはならないが。


敵の技を利用して大技を打ってなお、彼の表情は固いままだ。
あの程度の爆発くらいで人の皮を被った怪物を倒せると思うほど、彼は楽天家ではない。

「いやあ、驚いたなあ。そっちの女の子が時間を稼ぎして、俺が攻撃してきたところで爆発させる。実に見事!!
しかし今の爆発……血鬼術とはやっぱり違うみたいだけど……一体何なんだい?」


鉄扇の一振りで、濛々と上がっていた煙が、一瞬で晴れる。
そこにいたのは、衣服や顔が汚れているが、致命傷らしきものは負っていない童磨。


このままでは勝てない。
感情を露わにしながら戦うトガも、冷静を保ちながら戦う焦凍も、共に心臓が高鳴り始めていた。
全身から冷や汗が止め処なく滴る。
ヒーローとヴィランは、両者の敵を相手にまたも同じことを考える。
そして、トガヒミコは奥の手を使った。
彼女の強さは、そして社会の網から掬われずにいられた理由は、素早さだけではない。


ペロリと刀に付いた、童磨の血を舐める。
棒付きキャンディーの甘味でも味わうかのように、チウチウと吸い取る。
映画やドラマで、三下がやりがちな挙動だが、彼女の場合は威嚇や彼らの真似事などではない。
トガヒミコは、他者の血を飲むことで、姿をその血の持ち主に変えることが出来る。
そして、異能解放軍との戦いで個性が覚醒し、相手の個性までも使えるようになった。
目の前の男は強い。だが、強いからこそ変身した時強力な個性を使える。
そう思ったのが、彼女の不幸だった。


お、と珍しい物でも見るような顔つきで童磨は彼女の行為を見続ける。


「あなたのこと、嫌いで嫌いでたまらないけど、この際仕方な………」

突然、バクンと異常な鼓動が彼女を襲った。
同時に、ズキンと異様な痛みが彼女の身体を走る。

「な……なに……? き、気持ち、悪ぃいィィ……………。」

血走った眼を見開き、歯を砕けるほど食いしばり、ガクリと膝をつく。
彼女はかつて血を爆発させる個性の持ち主の血を吸ってしまったがために、手痛いダメージを受けたことがあるが、それとは全く違う。
まるで毒物でも盛られたかのように苦しみ始める。
事実、それは毒のようなもの。童磨が鬼の首魁、鬼舞辻無惨から承った血は、人間にとっての猛毒になる。


「俺の血を吸ったらそんなことにもなるでしょ。」


この殺し合いの会場では、血鬼術の威力が弱められているように、鬼舞辻無惨の血の毒も弱められているのが、不幸中の幸いだった。
もしそうなっていなかったら、皮膚が内側からドロドロに溶けていたり、そのまま死ぬこともあり得たからだ。


(まずい!)


何が起こったのかは分からなかったが、状況がまずくなったのは焦凍にも分かった。
今までの戦いは、敵が両者に向いていたことで、ギリギリ均衡を保っていられた。
ヴィランに頼るのは癪だが、1対1では間違いなく勝てる相手ではない。

(落ち着け……こういう時こそ、相手がどう出るか考えろ……)


ヴィラン連合との戦いで、父エンデヴァーとのヒーロー活動で、自らの個性をどう使うべきか学んでいた。

「辛そうだね、でも大丈夫。俺が救ってあげるよ。」

童磨は瞬間移動でもしたかのような速さで消える。
だが、その先が分かっているかのように、焦凍は地面を凍らせ、スケートの要領で予測地点に走って行く。

目論見通り、敵はトガの首を斬りに、彼女のすぐ近くに現れた。
速さは相手が上。だが、何処に向かうか分かれば、攻撃を当てることも不可能ではない。


(体の熱を限界まで引き上げろ!!)

左半身のエネルギーを上げに上げ、限界まで温度を上げた拳を、童磨の顔面に打ち付けた。
鬼の顔の肉と血が飛び散り、首の上が真っ黒なクレーターになる。

(慣れない技だったが、何とかなったか。)

彼の父が得意としていた赫灼熱拳は、炎の力を一転に集めるのが苦手な彼が撃っても、威力は父の物に比べて数段は落ちる。
それでも、氷によるブーストをかけて撃った渾身の一撃は、上弦の鬼の顔面を打ち抜き、大きく吹き飛ばすことに成功した。


(恐ろしい敵だった……さて、アイツをどうするかだな……)


有害な血を飲んで青息吐息とは、人の血を吸い続けたヴィランらしい末路だが、無視するわけにはいかない。
あのいけすかない異形と同じことを考えたのは癪だったが、もし彼女が死ぬしかないのなら、自分の手で殺してポイントを取っておきたい。
それに、彼が気になったのは同じ高校の友や、殺し合いに巻き込まれた父のこと。
特に父とは長い確執を経てようやく和解の兆しが見え始めた所だ。
こんな所で死ぬとは到底思えないが、それでも早期の再会を望んでいた。

別の方向を見ると、セーラー服の彼女は覚束ない足取りで、それでも必死で走って逃げている。
大分姿が小さくなっているが、追いかけないと面倒なことになるかもしれぬと考え、地面を凍らせて走り出そうとした。



【1日目/未明/D-6・草原】

【轟焦凍@僕のヒーローアカデミア】
[状態]:ダメージ(特大) 疲労(大)
[装備]:轟焦凍のコスチューム@僕のヒーローアカデミア
[道具]:基本支給品、ランダム支給品3
[思考]
基本:殺し合いに乗っている者を倒す。どうしようもない相手だけは殺してポイントにする
1:まずは、逃げたトガヒミコを追いかける
2:父はどうしているか
3:出来るなら緑谷や爆轟とも再会したい
4:元の世界のヴィラン(死柄木、ステイン、マスキュラー)に警戒
[備考]
※参戦時期はエンディング捕縛後~超常解放戦線前
※童磨の斬撃によって、脇腹から首筋にかけて致命的な傷がありますが、気付いていません。







不意に逃げるヴィランを入れた視界がぼやけたと思いきや、走ろうとする足が動かなくなった。
おかしい、と思った瞬間、身体から大量の血が迸る。


焦凍は気づかなかった。
自分の身体に、一筋の深い裂傷が刻まれていたことを。


「ああごめんごめん。さっき君が俺の顔を殴った時、俺も君をこうやって斬りつけていたんだよ。」

まだ顔面の一部が焼け砕けているというのに、倒したはずの鬼が立っていた。

ほんの少し前まで、痛みさえも感じなかった。
そうなるのも無理はない。
童磨は生前、鬼殺隊の中でも最高峰の速さを持つ蟲柱の攻撃を受けながら、斬撃を与える離れ業をやってのけたのだ。


「さっきのは中々いい一撃だったよ。俺の友達ほどではないけどね。
でも俺達はそれじゃ殺せないんだ。」

彼の言う通り、鬼は首を斬り落とすか、はたまた太陽の光を当てねば殺せない。
焦凍の不運は、敵の再生力がいつもより落ちていたことだ。
中々顔面の形が戻らなかったからこそ、倒したと思ってしまった。
勿論、彼は敵が回復に関する個性を持っているという可能性も考えていたが、どうにかせねばならない相手が2人いるということも災いした。


「ほら、こんな風にね。」

焦凍はそれでも敵を焼き、氷漬けにしようと、両手を上げようとする。
だが時すでに遅し。

「ま……まだ俺は……。」
「救うのは俺の方だよ。」

鬼は鉄扇をヒュッと振り、彼の胴と頭は生き別れになる。


(う~ん、この人の力の源、知りたかったんだけどな。まあ、あっちの女の子を食べてから考えるか……)

早速トガが逃げた方向に足を速めようとする。
しかし、一瞬足が動かなかった。
焦凍が、最期に自らの血を凍らせ、鬼の足はそれに捕らわれていた。
このヴィランをのさばらせていては、自分以外にも多くの人間が犠牲になる。
ほんの少しでも、止めねば。1人だけでも、殺されるのを止めねば。
それが、プロヒーローの父を持ち、ヒーローであろうとした彼の、最期の意志だった。

だが、それは上弦の鬼にとって、ほんの数秒の時間稼ぎでしかない。

「そんな意味のないことをして、なのに他の人を救った気になって、やっぱり君も哀れな人間だね。」

扇の一撃で、真っ赤な氷は自分の足ごと砕ける。
壊れた脚はすぐに再生する。

「君も食べてあげたいけど、彼女を救うのが先だから、少しだけ待っててね。」

鬼の災害は終わらない。
今度はヴィランの少女と、彼の鬼ごっこが始まった。


(彼女の分も合わせれば、あと8人で上がりというわけか。待っててね、しのぶちゃん。)


蟲柱の彼女の笑顔を、脳裏に浮かべる。
彼の胸が、高鳴るのを感じた。


【轟焦凍@僕のヒーローアカデミア 死亡確認】


【1日目/未明/D-6・草原】


【童磨@鬼滅の刃】
[状態]:健康、しのぶちゃんへの恋心
[装備]:金の鉄扇@鬼滅の刃
[ポイント]:5
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~1、皮下真の研究資料@夜桜さんちの大作戦
[思考]
基本:生き残って、しのぶちゃんを蘇らせ、結ばれる。
1:無惨様の為になるであろう『夜桜の血』の情報を探る。
2:苦しむ可哀想な少女(トガヒミコ)を追いかけ、殺して食べてあげる
3:鬼殺隊は始末する。特にあの娘(カナヲ)は厄介だから早急になんとかしないと。
4:何時もの如く、可哀相な参加者は救うために喰らう。
5:他参加者へのポイント譲渡のルールを追加させる。
6:黒死牟殿や猗窩座殿、あと黒死牟殿が血をあげた例の新入りは何処にいるのやら?
[備考]
※参戦時期は死亡後





「はあっ………はあ……ゲホッ……!!」


金髪の少女が、草原を走る。
その表現はおかしいのだが、そう描写するしかない。
何しろ彼女は、虹色の目の男に姿を変えたり、少女の姿に戻ったりしているのだから。
息を切らし、何度か血の混じった咳をするが、その足を止めることは無い。
支給品を覗いてみたが、薬になりそうな物は無かった。
とにかく、今の状況から脱しないと、殺し合いに勝つどころか、生き残ることさえ難しい。


(あの嫌な奴から逃げないと……!)


かつてヴィラン連合に入る前のように、今はとにかく逃げる。
心臓は、ずっと高鳴り続けていた。



【トガヒミコ@僕のヒーローアカデミア】
[状態]:ダメージ(中) 全身に鈍痛 脈の狂い
[装備]:胡蝶しのぶの日輪刀(童磨の血入り)@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品2(薬関係は無い)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いに勝利し、自分が普通に生きられる世界の実現をさせてもらう……はずだったけど?
1:とにかく童磨から逃げる
2:どうにかして、解毒方法を探す
3:デク君(緑谷出久)やステ様(ステイン)に会いたい
4:死柄木やマスキュラーは割とどうでもいい。まあ会ったら支援ぐらいはする
[備考]
※参戦時期はアニメ5期終了~超常解放戦線前のいつか
※原作で背中に背負っている背中のボトルにチューブが繋がれた注射器は没収されているため、原作で変身したキャラ(お茶子、ケミィなど)に変身出来ません。
※童磨から鬼の血を吸ってしまったことで、様々な効果が表れています。鬼化するかは次の書き手にお任せします。
※現在、姿は童磨になったり元に戻ったりしています。



【金の鉄扇@鬼滅の刃】
童磨が生前から愛用していた、金色の扇。
軽く振っただけで鬼殺隊を隊服ごと切り裂く鋭さを持つ


【胡蝶しのぶの日輪刀@鬼滅の刃】
トガヒミコに支給された、細長い刀。鍔は水色の地に橙色の縁取りが成された蝶の羽を思わせる鍔は水色の地に橙色の縁取りが成された蝶の羽を思わせるデザインをしている。
敵を斬るのには向いていない形をしているが、毒を射し込むことを目的としている。
また、鞘に納刀することで、刀に入れた毒を調合できる。


前話 次話
蜘蛛糸は垂らされず 投下順 沸血インヘリット
蜘蛛糸は垂らされず 時系列順 沸血インヘリット

前話 登場人物 次話
羽化 童磨 激闘開幕 童磨VSカタクリ
START 轟焦凍 GAME OVER
START トガヒミコ 激闘開幕 童磨VSカタクリ


最終更新:2025年08月11日 22:04