悪魔と踊れ ◆Il3y9e1bmo


鬱蒼と茂った森の奥。
太陽が上っても光すら届かないであろうその場所で、氷月と真人は対峙していた。

氷月が手にしているのは悪魔の実。
食べれば誰にも触れられない冷気の身体を得られるという真人の甘言に、司帝国のナンバー2は逡巡する。

「え~、早く食べちゃいなよ~!」

真人は目の前の玩具が手に入らない子供のように駄々をこね始めた。

「そう急がなくても食べますよ、真人クン。食べることは確定してるんですが……」

氷月が糸のように細めた目で真人をちらりと見る。

「あっ、分かった! 食べた後に俺に付きまとわれないか心配なんだ。いやいや、そんなことしないって。さあ! さあさあ!」

正体を現したな、と氷月は思った。
別に食べなくても何もしない、と言いつつ食べる方に仕向けている。
己の欲望がダダ漏れだ。その証拠に目が暗く輝いている。

恐らくこの実を食べなければ、いや食べた後でも、真人は――この化け物は何らかの危害を自身に加えるだろう。
氷月は微かに震える手で、異様な形状の果実を口元まで運び、マスクを外す。
そして、悪魔の実に齧り付こうとした。

――――だが。

それはジェット機が飛ぶ時のような轟音と、突如周囲に広がった熱波で中断された。

「おい! 大丈夫か!!」

熱源は空からだ。
見ると、宙に浮いている男が一人。
暗闇の中からでもよく見えるほど、煌々とした炎を全身に纏っている男だった。

「お前たち、大丈夫か! 安心しろ。お前たちの身柄はこのエンデヴァーが保護する!」

顔に炎のヒゲを蓄え、全身タイツのヒーローコスチュームを着た男だ。

氷月は横目で真人見る。彼もエンデヴァーと名乗る男に気を取られているようだった。

(さようなら、真人クン。ちゃんと悪魔の実だけは頂いていきますよ。食べるかどうかはもう少し吟味してからですが……)

その隙に氷月は森の奥へと身を隠そうと、獣のように俊敏な動きで次々と木から木へと飛び移っていく。

氷月が逃げたのにようやく気づいた真人は歯噛みした。

「クソッ! あーあ、アンタのせいで俺の計画めちゃくちゃだよ……。バカなガキを取り込んで、用済みになったら殺してやろうと思ってたのに……さっ!」

真人は自身の術『無為転変』により、肉体を変形させて腕をエンデヴァーの方へ伸ばした。

「むっ!」

だが、エンデヴァーは即座にそれに対応し、個性『ヘルフレイム』で腕を焼き払ってしまう。

「熱ッ! ハハっ、まるで漏瑚だ! でも要救助者かもしれなかったヤツの腕、いきなり焼いちゃう?」

真人は新しい玩具が見つかったとばかりに急に上機嫌になる。
だが、一方のエンデヴァーは見るからに不機嫌そう――いや、何らかの懸案事項を抱えているようだった。

「フン、もう一人の少年は貴様に対して怯えた目をしていたぞ。殺し合いに乗っているかどうか――敵(ヴィラン)か市民かなど、少し会話すれば分かる」

エンデヴァーが五本の指から炎の糸を飛ばし、真人を拘束しようとする。
だが、真人も無為転変で身体を縮め、抜け出してしまった。

「なるほど。肉体変形と再生の個性か……。なら少々キツめに焼いても問題は無さそうだな」

エンデヴァーは空中に浮いたまま、真人から距離を取り、タメの姿勢に入る。

(……ッ! あれはマズい!)

真人は自身の身体に何十ものぶ厚い皮膚の盾を貼る。
相手の攻撃が炎であれば、真人がいくら肉体を変形させても焼かれて細胞がその機能を発揮できなくなってしまうからだ。
そして、真人の必殺の領域展開『自閉円頓裹』と触れれば即殺の無為転変。
両方とも距離を取り、空中の離れた場所から炎弾を飛ばしてくるエンデヴァーとは相性が悪いと言わざるを得なかった。

「喰らえ。――プロミネンスバーン!」

両腕を十字にクロスしたエンデヴァーの前方に、もはやレーザービームと言っても過言ではないほどの熱量が放たれる。

(やば――――)

真人の貼った皮が外側から徐々に焼け落ちていった。
五枚、七枚、十枚――そして、中にいる真人へと地獄の炎がどんどんと近づいていく。

そして、真人本体へとヘルフレイムが届いた時、その中心で小爆発が起きた。

「……はあッ、はあ」

しばらくして、ヘルフレイムを使い過ぎたせいで『熱がこもった』エンデヴァーが焼け野原となった森の中に降り立つ。
だが、あれほど大規模な戦闘を繰り広げていたにしては、灰になった箇所の被害が少ないようだ。
それはエンデヴァーが巧みな炎の操作で真人とその周辺にだけ火が起きるようにしていたからである。

その焼け野原の中に、全身が焼けて真っ黒になった真人の姿があった。
真人は足を抱え込むようにし、ピクリとも動かない。

「猿真似はよせ。流石にそこまでの大火傷を負うほどは焼いてないぞ」

だが、エンデヴァーは冷静だった。自身の放った熱量から相手の状況を分析し、そこまでの被害はないと判断したのだ。
すると、燃え殻が割れ、中から火傷一つ負っていない真人が現れた。

「ちぇっ、バレたか……」

真人は悪戯がバレて叱られた子供のようにぺろりと舌を出す。

「俺はまだまだやれるけどさ、あんたは見るからに疲れてるじゃん。もう限界なの?」

嘘である。真人は先程のプロミネンスバーンで皮膚の盾を全て破られ、全身に再起不能の重症を負った。
魂の形を整えることで身体だけは綺麗に見せているが、再生のために使用した呪力が底をつき、もはや領域展開どころか再度の無為転変も怪しい状態だ。

(クソっ、遠距離から高密度の攻撃を受けるとここまで対応できないのか……。でも俺の術式はまだまだ進化できる……!
 ……まあ、まずはこの全身タイツの炎オヤジをなんとかしないと、それも夢のまた夢なんだけどね)

「これしきのことで音を上げて何がプロヒーロー。俺は貴様のような敵を全員捕縛し、この殺し合いを終わらせるためにいる!」

「あーあー、熱くなっちゃってさあ。……でも、アンタ、なんか急いでない? もしかしてだけど……大切な人がこの殺し合いに巻き込まれた……とか?」

真人の言葉でエンデヴァーの魂が明らかに動揺したのを見て、人から生まれた特級呪霊はニヤリと笑う。
大切な人を人質に取られた人間の魂の揺らぎは虎杖悠仁と戦った時に学習している。
そういう人間は最初は強がっていても、脆く、弱い。

「このゲームには俺の知り合いが結構いてさ、もしかしたらもうそいつらに殺されてるかも……。
 まあ、その大切な人よりも他の参加者の人命を優先するヒーローとやらには関係ないよね。じゃ、やろっか。つ・づ・き」

エンデヴァーの魂がさらに揺れる。

「あれあれ? やらないの~? 俺みたいなヴィランを全員捕まえるんじゃないの~?」

真人はエンデヴァーをさらに煽りながら、呪力を練る。

「黙れッ!!」

エンデヴァーが叫んだ。それは、大切な息子を案じる彼の腹の底からの――魂からの叫びだった。
その絶叫に併せるように、真人の身体がフグのように大きく膨らんでいく。

「――――くッ!」

エンデヴァーは拳に炎を乗せ、そのまま真人を殴りつけた。

すると、パァン、と風船の破裂するような音がし、真人が小さな複数人に分裂したではないか。

「ま、アンタもその人が心配そうだし、今のところは勝負はお預けにしておいてあげるよ。……でも、忘れるなよ。
 アンタも、アンタの大切な人も、俺らはずっとその命を狙ってるってことをさっ!」

そのまま分裂状態の真人は茂みの奥に消えていった。
このまま茂みを全て焼き払うか? そんな考えよりもエンデヴァーの心を支配していたのは恐怖だった。
すなわち、息子を――轟焦凍を失うかもしれないという恐怖である。

(すまん、焦凍ッ! 俺は敵をみすみす逃してしまった……! だが、今はお前の無事のほうが大切なんだ……! 頼む。生きていてくれ!)

エンデヴァーは足から炎を噴射し、再び宙に浮かび上がった。
そして、ほとんど祈るような気持ちで、息子と、その友人たちの無事を知るため空を翔けるのだった。

だが、彼はまだ知らない。
その息子(きぼう)が既に鬼の手によって摘み取られていることを。
過去から目を背けていた男の前に広がっているのは、いくら炎を焚いても決して照らすことのできない漆黒の闇だった。


【B-6/森/1日目・黎明】

【氷月@Dr.STONE】
[状態]:負傷(小)、疲労(小)、不快感
[装備]:無し
[道具]:ヒエヒエの実
[思考]
基本:ポイントを貯めて願いを叶える
1:ヒエヒエの実を食べるか?
2:脳が溶けている参加者を中心に殺してポイントを稼ぐ
3:真人をどうにかしたい。
4:やっと逃げ切れた……。
[備考]
参戦時期はZ=79前。
緑谷から危険人物について教わりました。(死柄木、オール・フォー・ワン、トガヒミコ、マスキュラー、ステイン)
自分とは違う世界があることを理解しました。
真人から『ヒエヒエの実』を手に入れました。食べるかどうかは慎重に吟味。


【真人@呪術廻戦】
[状態]:ダメージ(中)、呪力枯渇、愉悦
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品2、君に伝えて@アンデッドアンラック
[思考]
基本:狡猾に行こうか。呪いらしく、人間らしく。
1:この殺し合いの中で楽しみ、新たなモノを学ぶ。
2:彼女(風子)はちょっと警戒対象かな?
3:氷月……君は馬鹿にしている相手の次くらいに愚かな存在なんだよ。
4:虎杖悠二、今度こそお前は殺してやるよ。
5:呪力を回復させなきゃ……。
6:エンデヴァーとかいうオヤジとその大切な人も殺す。
[備考]
参戦時期は15巻から。
エンデヴァーにより全身に火傷を負わされ、呪力が枯渇しています。


【エンデヴァー@僕のヒーローアカデミア】
[状態]:疲労(中)、心労(絶大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品3
[思考]
基本:敵を全員捕縛して、この殺し合いを終わらせる。
1:焦凍の無事を確認したい。
2:真人には警戒する。
[備考]
参戦時期は35巻(最終決戦)から。


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霜を履んで堅氷至る 真人
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最終更新:2022年12月14日 21:07