ノゾミ・カナエ・タマエ ◆Il3y9e1bmo
「――――脱落者、轟焦凍」
男の耳に最も聞きたくなかった言葉がこだました。
それは、坑道の中で当て所もなく繰り返し鳴り続ける残響のように彼の鼓膜を蹂躙する。
現No.1ヒーロー、エンデヴァーは絶望に身を震わせ、顔を手で覆った。
溢れる涙は頬を伝う間もなく蒸発し、湯気と消える。
――またしても、俺は家族を失うのか。
もう何も考えたくない。
それが一番の正直な気持ちだった。
"個性"は心身と密接に結びついているものである。
よって、自身の肉体を鍛えれば"個性"の性能は向上し、心の持ちようでどこまでも強くなる。
――しかし、その炎(ちから)を限界まで鍛えていた男が絶望に身を焼かれ、堕ちたなら。
エンデヴァー、いや轟家の家長・轟炎司は、自身にも制御しかねる超高熱を発して、周囲を全て焼きつくそうとしていた。
「焦凍ォ……!」
全身から炎が吹き上がる。
「すまない、燈矢……!」
熱風により、周囲の草木は全て灰と化した。
「冬美……! 夏雄……! 俺は……俺は……!」
エンデヴァーの耐熱ヒーロースーツが、自身を省みぬ高熱に耐えきれずに歪み、溶けていく。
「俺は……俺は家族を! 冷……ッ!」
前代未聞の使用量で"ヘルフレイム"を酷使し、エンデヴァーも苦痛を感じていないはずがない。
しかし、一番痛んでいるのは彼の心だった。
「くそッ……! くそッ!」
エンデヴァーは炎が吹き出す拳で、自身の頭を何度も殴りつける。
これは悪い夢だ、早く覚めろとうわ言のように繰り返し、次第に額の皮膚が破れて血が滲み始めた。
だが、悪夢は覚めない。これは現実の殺し合いなのだ。
ならば次にエンデヴァーがプロヒーローとして取るべき道は一つ。
一般人を保護し、殺戮に堕ちた者たちを捕縛することだ。
頭では分かっていても、体と心が言うことを聞かない。
エンデヴァーは苦悶に身をよじり、叫び声を上げる。
「――ッ! エンデヴァー! 大丈夫ですかッ!?」
彼の耳に微かに声が届く。
以前に何度も聞いたことのある、顔なじみの声だ。
「僕です! デクです!」
そう、緑谷出久の声だ。
彼とはどこで知り合ったか。
初めて出会ったのは、雄英高校体育祭の頃ではなかったか。
そうだ。確かあれは■■の応援をするために雄英に行って――。
「う、ぐああああ、あ、ああああ!!」
何を考えても、別のことに意識を逸らそうとしてもどうしても脳裏に焼き付いたあの言葉がフラッシュバックする。
■■には何も父親らしいことができなかったのではないか。どうしてもっとちゃんと接してやらなかったのか。
男の中に後悔の念が濁流の如くうねり、それは水ではなく炎として全てを焼き尽くし続ける。
「エンデヴァー! 焦凍君のことが辛いのは分かりますが……この炎を止めてください!」
出久はあまりの熱に目を閉じながら必死で叫ぶ。
「辺り一帯が全て焼けてしまいます! もしかしたら逃げ遅れた人がいるかもしれない! エンデヴァー!」
出久の言うことは正しい。ヒーローとして至極真っ当な意見だ。
一瞬の判断が命取りに、失敗すれば零れ落ちるのは人の命である。自分が冬のインターンで出久に教えたことだ。
だが、エンデヴァーは自身の"地獄の炎"を抑えることができない。
彼は今、本当の意味で『プロヒーロー』ではないのだから。
「くッ……! エンデヴァー! 聞こえますか!?」
出久が焼ける喉を枯らして叫ぶ。ジリジリと熱源に近づき、スーツが少しずつ焦げていく。
だが、エンデヴァーはこちらを振り返らない。見ようとすらしない。
あまりの熱波に出久の意識が次第に遠のき始め、倒れる――と思ったその時のことである。
――パァン!
颯爽と登場した、満身創痍の男の柏手が彼らの絶望へ一直線だった運命を変えていく。
「……!?」
出久が何が起こったのか理解できず辺りを見渡す。
明らかに先程の場所から移動していた。――いや、移動させられていた。
見ると、先程まで出久が立っていた場所に筋骨隆々の半裸の男が立っていた。
男は傍から見て分かるほど明らかに瀕死の重体だったが、なぜか自信満々で腕組みをして立っている。
「我思う、故に俺あり……」
男は意味不明な格言のようなものを呟くと、エンデヴァーが発する熱も意に介さずのっしのっしと歩を進めていった。
出久が男を止めるか逡巡してる間に、あっという間に男はエンデヴァーの体に触れる距離まで近づくと彼の肩に手を置き、こう語りかけた。
いや、本当にそう語りかけたのか当時はかなり疑問だったし、後から聞いてもやっぱり疑問でしかないのだが、ともかくも男はこう言ったように出久は聞こえたのだ。
「好みの女のタイプはなんだ?」と――――。
エンデヴァーはそれに驚いたように反応し、熱が一瞬引く。
筋骨隆々の大柄な男はそれを見て涙し、そしてエンデヴァーを思いっきり抱擁した。
そこまで見た出久の脳は現状の理解を拒否し、大人しく意識を失った。
だが、出久がそのまま地面に突っ伏すことは許されなかった。
直後にいつの間にか彼を抱きとめた男が、彼に強烈なビンタを喰らわせたのだ。
「痛ッ!」
頬を張られた出久は思わずうめき声を漏らす。
「フン、これしきのことで痛がるんじゃない。お前も男なら頬の一つや二つ、鍛えておくんだな」
無茶な注文を出した男は、自らを東堂葵と名乗った。
聞けば先程まで鬼やら刀を持った武者やらと連戦続きだったというではないか。
東堂はエンデヴァーと出久に簡単な自己紹介とここに至るまでの経緯と、彼の顔見知りをこの殺し合いで失ったということを語った。
「俺は『今は悲しんでいる場合じゃない』なんてことは言う気はない。精一杯悲しんで、精一杯泣けばいい。だが――」
東堂は二人に背を向ける。
「俺たちは一人ひとりで生きているわけじゃないんだ。俺が、緑谷が、Mr.轟が! 生きている限り、一つが全てのためにあるんだ。
だったら、俺は俺のためじゃなく、誰かのために生きていこうと思う。お前たちはどうだ?」
「だが、俺はもう折れてしまった。誰かのために、なんてもう無理だ」
エンデヴァーが悲痛な声を絞り出した。その顔はどこか幼子のようにも見えた。
「ではこう考えるんだな、Mr.轟。『自分自身の心の中に生きている大切な人のために生きる』んだと――」
東堂はウィンクしながら指を立てる。
「だが、俺は……俺は……」
「ああ、いい。今はまだ分からなくてもいい。だが、そろそろ始まるぞ……?」
東堂は空を見上げた。夜は完全に終わり、太陽が上っている。
「何が……始まるんですか?」
出久は不審そうな目を東堂に向ける。
「決まってるだろ。これだけの大きな炎をブチ上げたんだ。あの名簿の中に紛れ込んでいた戦闘狂(バトルマニア)の猛者たちが、強敵を求めてやってくるのさ!」
エンデヴァーの爆炎により、既にスターターピストルは鳴らされた。
バトルロワイヤル生き残りの分水嶺、強者同士の潰し合いがついに始まろうとしている。
波乱の時は近い。
【B-4/1日目・早朝】
【緑谷出久@僕のヒーローアカデミア】
[状態]:火傷(小)、焦燥(大)、疲労(小)、目の周りにくま
[装備]:傷、血、泥のコスチューム@僕のヒーローアカデミア、ミッドガンドレット@僕のヒーローアカデミア
[道具]:基本支給品一式×2(氷月の含む)。ランダム支給品3(氷月の2つ含む) 大戦槍@ONE PIECE
[思考]
基本:袈裟の男による殺し合いの打破と死柄木並びにいるであろうオール・フォー・ワンを止める
1:逃げた氷月を探して、再度捕まえる。
2:一刻も早く死柄木を探し出して止める。
3:トガヒミコ/マスキュラー/ステインも同様に探し出して止める。
4:かっちゃんに轟君とはできたら顔を合わせたくないな……。
5:エンデヴァー、大丈夫かな……。
6:目的を達成したら、西側の病院に行き、皮下たちと合流する。
[備考]
※参戦時期はNo.316話後~No.317前。
※個性が日常ではない世界があることを知りました。
※名簿には載っていませんが、オール・フォー・ワンがいるのではと推測しています。
※皮下から夜桜家の者は安全、風子からはアンディ、シェン、リップ、真人は安全だという情報を得ました。
【エンデヴァー@僕のヒーローアカデミア】
[状態]:疲労(絶大)、心労(絶大)、精神崩壊(回復中)、頭部に自傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品3
[思考]
基本:敵を全員捕縛して、この殺し合いを終わらせる。
1:焦凍……。
2:精神を持ち直したい。
3:真人には警戒する。
[備考]
※参戦時期は35巻(最終決戦)から。
【東堂葵@呪術廻戦】
[状態]:ダメージ(特大)、疲労(大)、火傷(中)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:一刻も早くこの殺し合いを潰して高田ちゃんに会いたい
1:今は休む。
2:ブラザー達(虎杖、伏黒)を探す。
3:あぁ……高田ちゃん……。
4:戦いが始まるぞ……!
[備考]
※参戦時期は渋谷事変の真人戦前です。
※名簿は確認しましたが支給品は確認していません。
最終更新:2022年12月20日 21:14