勝ち目を拾う ◆RTn9vPakQY


 賽の鬼、五大院宗繁は、己の出目に感謝した。

 地図にある「刀鍛冶の里」へと向かう最中に聞こえてきた大音。
 これは地震か、はたまた雷かと、戦々恐々とした心中で現場へ向かうと。
 そこにあったのは、砕けた地面と折れた樹木、そして樹木にもたれかかる男。
 傷ついた衣服と力無く首を垂れた様子から、既に事切れた者かと落胆しかけたものの。
 わずかにだが確実に、ゆっくりと上下する肩をみとめて、それが己の早合点だと気付く。
 眼前の男の生存、その事実に笑みがこぼれる。手負いの獲物ほど狩りやすいものはない。

「……」

 しかし、殴殺する道を即座には選ばない。それは短慮である。
 状況判断からの即応を己の長所と捉えているからこそ、餌に飛びつく真似はしない。
 木陰から周囲を見渡す。男のもたれる樹木からほど近い場所に、荷物袋が二つ落ちていた。
 はたして予想通りと、音を立てぬようにそうっと荷物袋に近づいて、二つとも拾いあげる。

「ようし、よし」

 にんまりとしながら荷物袋を漁る。
 これまた幸運なことに、最初に手にしたのは待望の刃物。
 刀よりも鎌や鉈に似ている湾曲した刀身。試しに何度か中空を薙ぐ。
 重量もあり、樹木に振るえば枝は叩き折れた。首を斬り落とすには充分だ。

「さあ、ではマスを進めようかぁ!」

 慣れぬ武器を手に意気揚々と、男のもとへ歩み寄る。
 獲物はうなだれている。その首を己に差し出すかのように。
 あらためて男の全身を見やると、かなりの筋肉質だ。とくに腕周りは丸木の如し。
 これでは首を斬り落とすのも骨が折れそうで、脳天をかち割るほうが確実だろうかと悩む。

「……まあ構わぬ。首実検といこう」

 ひとつ呟き、首級(しるし)を上げるつもりで、両手で武器を振り上げる。
 首の付け根に振り下ろそうとする直前に、男はとても緩慢な動作で掌を合わせた。

「御仏に祈るのが、ちっと遅かったみたいだなあッ!」

 そう嘲りながら、木を斬り倒す膂力で、武器を振り下ろす。

「んなっ!?」

 しかし、武器は大きく空振りし、勢い余りたたらを踏む。

「なん……だと……?」

 眼前にいたはずの男は、忽然と姿を消していた。
 その事実に、困惑した声が思わず漏れてしまう。

「俺の貴重な睡眠時間を奪うとは、いい度胸だ」

 きょろきょろ左右を見回していると、背後から低い声がした。
 明らかな敵意を帯びた声に、びくりと背筋が震えるのを感じる。

「ばっ、馬鹿な!?」

 振り向くとそこには、佇立する男。
 その姿は、己の背丈をゆうに超えており、六尺(一九〇糎)はある。
 見下ろしてくる眼光は刺すようで、蛇に睨まれた蛙を身に染みて理解する。

「手負いなら楽に殺せると思ったか?」

 鎌倉時代の男性の平均身長は現代よりも低く、五尺(一六〇糎)前後というのが定説だ。
 日本に伝来した仏教の、殺生禁断の教えによる食糧事情の差異との連関が指摘されている。
 つまり、当時は六尺を超えるような人物と対面する機会などそうそうない、ということだ。

「手に入れたばかりの得物で隙だらけの大振り。
 俺からの反撃をほとんど考慮していない。浅はかなんだよ」
「ぐっ……」

 手負いの獲物だったはずの男は、いまや己を脅かす存在となった。
 ぎらつく眼光と体格差で威圧されてしまい、言い返せずに黙り込む。

「己の実力を理解できたなら、いますぐ消えろ」

 語気を強める男。対応を間違えば拳が飛んでくる、そんな錯覚さえする。
 じりじりと身体を後ろへと引いていく。いまさら敗走を武士の恥とは思わない。
 それでも、マスを進める機会をむざむざ逃すのは惜しいという、感情の欠片が邪魔をする。

「う……うおおおおッ!」
「……ハァ」

 結果、選んだのは再び武器を振り下ろすことだった。
 しかし、結果は変わらない。男は嘆息と同時に、間合いの外へと移動していた。

「愚者は経験に学ぶという。……オマエは愚者以下か?」

 そう投げかける男の、眼光の鋭さは猛獣の如く。
 その視線を受けて、いよいよ脱兎の勢いで、背を向けて駆け出す。
 背後の男に対して意識を配る余裕もないままに、ひたすらに逃げる。

「ありえん!あのような……鬼か天狗に違いない!」

 男の瞬間移動は、時行の逃げの上手さとも異なる。
 単純な挙動の素早さでは、とても説明がつけられない。
 それを理解しようとすれば、妖術の類と考えるほかなかった。

「くっ、くく……」

 それでも賽の鬼、五大院宗繁は、己の出目に感謝した。
 その笑みの出どころは異様な力を目にした恐怖か、はたまた奇妙な高揚感か。
 勝ち目はあると信じている。手に握られた二つの荷物袋の中身は、まだ分からないのだから。


【A-4/森/1日目・黎明】

【五大院宗繁@逃げ上手の若君】
[状態]:顔面に打撲・鼻血(ダメージ小)左手薬指・小指の欠損(ダメージ小・止血)
[装備]:ククリ刀@ONE PIECE、捕縛布@僕のヒーローアカデミア
[道具]:基本支給品一式、海楼石の錠と鍵@ONE PIECE、ランダム支給品0~1(刃物ではない)、東堂のデイパック(基本支給品一式、ランダム支給品0~2)、猗窩座のデイパック(基本支給品一式、ランダム支給品1~3)
[思考・状況]
基本方針:ポイントを獲得してのし上がる
1:北条時行の首を獲る
2:刃物は手に入れたので、他の支給品も確認を行う



 東堂葵は緊張を解くと、再び樹木にもたれかかった。
 彼のしたことは単純明快。先ほど猗窩座との戦闘でしたのと同じことだ。
 もたれた姿勢のまま、小石に呪力を込めて男の背後に放り、術式を用いて移動。
 そこから相手を威圧し続けることにより、相手を委縮させて逃走を促すことができた。
 猗窩座との決闘によりかなり消耗した状態で、新たな戦闘へと移行しなかったのは僥倖。
 対峙した相手が簡単に威圧される小物で助かった、というのが正直なところである。
 とにかく、今は休むべき時間だ。そう決めて、東堂はまぶたを閉じた。


【東堂葵@呪術廻戦】
[状態]:ダメージ(特大)、疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:一刻も早くこの殺し合いを潰して高田ちゃんに会いたい
1:今は休む
2:ブラザー達(虎杖、伏黒、七海)を探す
3:あぁ…高田ちゃん…
[備考]
※参戦時期は渋谷事変の真人戦前です
※名簿は確認しましたが支給品は確認していません


【支給品紹介】
【ククリ刀@ONE PIECE】
東堂葵に支給。
成長したヘルメッポの使用する、刀身が“く”の字に湾曲している刀剣。刀身と鞘のセット。
現実においても、ネパールやインドの諸部族で農作業や家事、狩猟等で用いられる。
現実との差異はないものの、見た目やサイズ感のわかりやすさのために、ヘルメッポのものとする。


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ここでは慈しくいられない 五大院宗繁 剥がれかけた鬼の面
上弦の力・一級呪術師の力 東堂葵 ノゾミ・カナエ・タマエ


最終更新:2022年12月14日 21:07