イニシエーション・ラブ ◆Il3y9e1bmo


僅かに地平から覗く太陽が高層ビル群の屋上を照らす。
そんな鳥のさえずりでも聞こえてきそうな朝の静寂は突如として破られた。

花火が爆ぜるような音とともに、辺り一面にガラスの破片が雨のように降り注ぐ。
爆弾の悪魔と合体した少女――レゼが頭部を起爆し、ビルの表層を半壊させたのだ。

相対するは、人妖・カゲメイ。
空中に衛星のごとく浮かべた多数の黒折紙(クロオリガミ)を操作し、降りかかる破片を全て撃ち落としていく。

――だが、こと異能力者同士の戦闘においてはレゼの方が経験値は上であった。
ガラスを目眩ましに背後に回り込み、肘を爆破することにより加速させた拳を叩き込んだ。

腹部に強烈な一撃をもらったはずのカゲメイは、しかしそれを意に介することもなく宙に浮き上がる。

「にっひっひ。妖(あやかし)に物理攻撃は通じないわよ?」

今度は自分の番だとばかりに黒折紙を飛ばし、それらはレゼの肉体を抉り取っていく。

「嘘だね。本当に効かないんならガラスを避ける理由がないもん」

傷ついたレゼの肉体が悪魔の力で逆再生のように治癒する。
今度は足の裏を爆破。勢いで空を駆け、カゲメイに肉薄した。

「本当よ? ガラスを撃ち落としたのは――意外と気に入ってるの、この制服」

カゲメイは胸元から取り出したファンシーなステッキを構える。
そこから放たれる強力な殺気にも身じろぎせず、レゼはそのままカゲメイに抱きついた。

「ボン」

殺し合いが始まって初めての全身起爆。
その威力は凄まじく、辺りのビルが爆風で大きく揺れた。

レゼは肩で息をしながら起き上がる。
これ以上は再生するための血が足りない。だが、補給するにはこの「カゲメイ」を倒さなければならない。
状況はやや悪いといったところか。

「も~! 気に入ってるって言ったじゃないのーっ!」

だが、衣服のはだけた妖巫女は砂煙の中から一切のダメージを受けてないかのように起き上がる。

「だーっ、あっぶね~~~~! レゼちゃん! もうちょっと加減してくんなきゃ俺死んじゃうよ!?」

鬼殺隊1の臆病者、我妻善逸がレゼに向かって悲壮な声を上げる。

今、彼が戦っているのは鬼ではない。しかし、ある意味鬼よりも恐ろしい存在だ。
ボサボサの髪に幽鬼のような目つき。枯れ枝のような彼の名は、死柄木弔。
AFOとの同化を果たした敵(ヴィラン)の肉体には、多数の"個性"が宿っている。

「俺を見ろよ、パツキンチビ」

死柄木は『空気を押し出す』+『筋骨発条化』の組み合わせで簡易的な空気砲を作り出し、善逸目掛けて撃ち出した。

「え、パツキンチビって……もしかして俺のこと!? はぁ~~~~!? むっかつくんですけど! 男なんか見たくないんですけど!?」

善逸はレゼが爆風で散らしたガラスの破片を足場にして空気弾を避け、日本刀で死柄木の右手を切断した。

「無駄だよ、我妻君。何度も見せた通り、俺(ぼく)の肉体は再生する。君の呼吸法による身体能力強化は興味深いが、既に分析は終わったんだ」

うにゅうにゅと不気味な音を立てて手が再生し、死柄木――いや、AFOは己の見解を得意げに語り始める。

「君の居合技『霹靂一閃』だったかな? それは最大で8回までしか撃てない技だろ。しかも欠点が他にもある――」

善逸が雷の呼吸・壱ノ型『霹靂一閃』を発動し、死柄木の懐に飛び込んだ。
そして、死柄木の首に刃が食い込まんとするその瞬間、体勢を崩して吐血したのは善逸だった。

「まず、カウンターに弱すぎる。こうして、俺が『衝撃反転』を使うだけでダメージを受けてしまうんだからね」

刀を支えにしてなんとか踏みとどまった善逸は、必死の思いで再び構えを取る。

「あとは呼吸を封じられたら何もできなくなるとか、動きが直線的すぎるとか色々あるけど俺は弱い者いじめは嫌いでね、そろそろ止めを刺してあげよう」

「嘘が下手だね。その鼓動は――なんかすっげえ重なって聞こえるから聞き取りづらいけど、嘘ついてる時の音だ。弱い者いじめが嫌い? 冗談も休み休み言え!」

善逸の言葉に、AFOは心底愉快そうに口元を歪める。

「ハッ、魔王はいつだって嘘をつくものさ。さあ、弔。そろそろ我妻君たちを塵にして、この程度の低い戦いを終わらせようか」

ゆらりゆらりとメトロノームのように揺れる死柄木は、その軌道を読ませぬような動きで善逸に近づく。

――だが、彼が善逸に触れることは叶わなかった。
ボン、と両手が爆ぜたからだ。

「ねえ、ゼンイツくん。1対1と1対1で戦うより、2対2の方が楽だと思わない?」

魚雷のような異形の頭をしたレゼは、身体のところどころに穴が空き、血が噴き出している。

「え! レゼちゃん、俺と共闘したいってこと!? そ、それってつまり……つまりそういうこと!?」

この後に及んで軽口を叩く善逸に呆れながら、レゼと善逸は背中合わせに戦闘態勢を取る。

「じゃ、いくよ。あの虚無主義者(ニヒリスト)たちに、絶望しないことの強さを教えてあげましょう」

善逸が力強く頷き、居合を構えた。
次の瞬間。彼は目視できないほどの速度で消え、再び姿を現したときにはカゲメイの黒折紙は全て切断されていた。

「なっ、私の黒折紙を妖気ごと断ち切るだなんて……!」

善逸の日本刀は天使の悪魔から作られた特別製である。それは魔のものさえ斬ることができるようになっているのだ。
驚くカゲメイを尻目に死柄木は懐から豆のようなものを取り出した。

「昔遊んだゲームにもよくあったよな! 爆発する弾で敵を狙ってドーンってさ!」

急速成長するポップグリーンという植物の種、その中でも危険な「ドクロ爆発草」を『空気を押し出す』で善逸に目掛けて放った。
しかし、それをレゼは空中でぱくりと食べてしまう。彼女の腹部で大きな爆発が起きるが、特に何事もないようだ。

「使う前に効果を言っちゃ世話ないよね」

レゼはそのまま死柄木に接近し、注射器を彼に刺した。

「何を……!」

死柄木は慌てて注射器を抜くが、その中には沸騰するように泡を吹く赤黒い液体が入っていた。

「私の血だよ。一度体内に入っちゃったらもう『衝撃反転』はできないよね」

死柄木の全身がコーラのように泡立ち始めた。
レゼの血液は爆薬と同じだ。そんなものを体内に入れられては、普通の人間なら全身が即座に吹き飛んでいる。

(マズい……! 『超再生』も間に合わない! 弔、カゲメイを呼び戻して爆発が収まるまでしばらく身を隠すんだ)

AFOが声を荒げる。
だが、死柄木のダメージは深刻だった。立ち上がることすらできない。

一方のカゲメイといえば、善逸相手に苦戦していた。
放つ黒折紙は全て彼の日本刀の前に切断され、通常であれば効果が薄いはずの斬撃も治りが遅い。

「カゲメイちゃん……だっけ? 俺は君を斬りたくはないんだ。だからもうこんなこと止めてくれ!」

「女の子に刀向けて言うセリフじゃないよねー、それ」

善逸の説得にも応じず、カゲメイはいたずらっぽい笑みを浮かべる。

「見てこれ、さっきあの人に分けてもらったんだ」

それは、先程死柄木が持っていたポップグリーンの種だった。

「私ね、触れたものの命を暴走させることができるの」

その種はドクロ爆発草ではない、もう一つの種だ。
それが今、カゲメイの力で発芽し辺りに大量のある「香り」を発生させる。

「君、特殊な呼吸法でその技を使ってるんだってね。だったら、寝ちゃって息が上手くできなくなったらどうなっちゃうのかな?」

その植物の名は「眠り草」。
名前の通り成長すると相手を眠らせる匂いを出す草だ。

眠り草。それは通常の鬼殺隊士であれば一瞬で勝負がつくほどの効果を発揮しただろう。

――だが、善逸相手では。
あの我妻善逸にはあまりにも相性が悪かった。

妖巫女が生んだもう一つの人格は、次に何の言葉を紡ぐこともできずに斬り伏せられていた。

そして、死柄木弔。
彼の命もまた、終わりを迎えようとしていた。

「おっ、お父さん……! お母さんおばあちゃんおじいちゃん………………」

死柄木は駄々をこねる子供のように必死で地面を這いずる。
それは巣からこぼれ落ちた雛鳥が最期に親の姿を求めているようにも見えた。

「華ちゃん」

死に際まで全てを壊すことを求めた彼の最期の言葉はあっけなかった。

【死柄木弔@僕のヒーローアカデミア 死亡】

そして、善逸も力を使い果たし、本当に意識を手放す。
レゼはその善逸にツカツカと歩み寄り――――。

そのまま動けないカゲメイに近寄って、彼女の頭を爆破した。
カゲメイの頭は砕かれたスイカのように爆散し、辺りに脳漿が飛び散る。即死であった。

【カゲメイ@あやかしトライアングル 死亡】

こうして、二人の敵(ヴィラン)が葬られた。
ルール追加が可能な25点以上を手に入れることになったのはレゼだ。
果たしてどのようなルールが追加されるのか。

全ては悪魔の胸先三寸である。


【H-3/市街地/1日目・早朝】

【我妻善逸@鬼滅の刃】
[状態]:気絶、疲労(中)、複数箇所の打撲(大)
[ポイント]:0
[装備]:アキの刀@チェンソーマン
[道具]:基本支給品一式。ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:死なない。獪岳に事の真相を確かめ、自分のやるべきことをやる。
1:レゼと共にカゲメイ、死柄木との戦闘を切り抜ける。
2:獪岳のことは自分一人で決着をつける。
3:出来れば炭治郎とカナヲとは合流したい。
4:レゼは放っておけない。
5:無惨、上弦には警戒。
6:れ、レゼちゃんが人を……!?
[備考]
※レゼとの情報交換は一先ず表面的なことに留まっています

【レゼ@チェンソーマン】
[状態]:疲労(中)、裂傷(大・回復中)、爆弾の悪魔化
[ポイント]:10
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式。ランダム支給品1~2
[思考・状況]
基本方針:デンジに会う。
1:マキマには警戒。
2:ひとまず善逸と行動する。
3:どんなルールを追加しようかな?
[備考]
※善逸の話を聞いて両者の世界が違う世界だと気づきましたが、詳しい情報交換は行っていません。
※走者 カゲメイを討伐したため、黙示録との接触で20ポイントが追加される予定です。


『支給品紹介』
【ポップグリーン ドクロ爆発草@ONE PIECE】
死柄木弔に支給された。
ポップグリーンという急成長する植物の種。
成長するとドクロの形をした大きな爆発を起こす。

【ポップグリーン 眠り草@ONE PIECE】
死柄木弔に支給された。
ポップグリーンという急成長する植物の種。
相手を眠らせる香りを発する。

【注射器@僕のヒーローアカデミア】
レゼに支給された。
トガヒミコが使っていた特大サイズのもの。
血を吸い取ったり逆に吸い取った血を出したりできる。


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翳る心 投下順 映画館ではお静かに
翳る心 時系列順 映画館ではお静かに

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人でないもの 我妻善逸 THE DEVILS AVATAR
人でないもの レゼ THE DEVILS AVATAR
人でないもの カゲメイ GAME OVER
人でないもの 死柄木弔 GAME OVER


最終更新:2023年06月22日 21:40