戴冠-銀の風-
ツヤツヤのフルーツタルト、ちっちゃなショートケーキ、キラキラしたジュレやアーモンドのムース、カラフルなマカロン、プリンアラモード、さまざまなフィンガーフード…
宝石箱をひっくり返したような色とりどりのお菓子のを「今回はオレの奢り」と言って目の前に広げて見せる。
……美味しそうだ。栄養バランスが少々偏っててもいい!甘いものを食べたいと思うのも、そもそもお腹が空くのも、久しぶりな気がする。
宝石箱をひっくり返したような色とりどりのお菓子のを「今回はオレの奢り」と言って目の前に広げて見せる。
……美味しそうだ。栄養バランスが少々偏っててもいい!甘いものを食べたいと思うのも、そもそもお腹が空くのも、久しぶりな気がする。
あの有馬記念以降、絶対に負けられないと思っていた。
グローリアにも、他の子にも、負けたことは何度もあったのに。
いつか戻ってくるあの子と胸を張って戦うためには、誰にも負けずに待っていたかった。
グローリアにも、他の子にも、負けたことは何度もあったのに。
いつか戻ってくるあの子と胸を張って戦うためには、誰にも負けずに待っていたかった。
連絡は取らなかった。……取れなかった。
サクラグローリア。黄金の桜、燦然と輝く無敗のティアラの女王。その栄光の礎となる脚を奪われたときに、相変わらず健康な自分が声をかけて何になる?私は彼女の医者でもトレーナーでもない。心配だし、泣きたいくらい寂しいけれど、そんな自分勝手な感情を押し付けるわけにはいかない。だって1番辛いのはグローリアだ。
サクラグローリア。黄金の桜、燦然と輝く無敗のティアラの女王。その栄光の礎となる脚を奪われたときに、相変わらず健康な自分が声をかけて何になる?私は彼女の医者でもトレーナーでもない。心配だし、泣きたいくらい寂しいけれど、そんな自分勝手な感情を押し付けるわけにはいかない。だって1番辛いのはグローリアだ。
ただ、あの子はいつも誰かの理想になろうとしていた。その美しい、圧倒的な走りで。
だったら、自分がそれを受け継ごう。
勝ち続ければきっと、どこかで見ているあの子にも届くと信じて。
だったら、自分がそれを受け継ごう。
勝ち続ければきっと、どこかで見ているあの子にも届くと信じて。
ほんとは、ちょっとほっとしたんだ。
パストラル。君が負かしてくれて。
パストラル。君が負かしてくれて。
繰り返し見る悪夢
黒くてもやもやした何かが脚にまとわりついて
どこを走っているかもわからなかった
グローリアが居ないのに、何のために走っているのか
ただ前へ、誰よりも前へ
この身体がちぎれても、喉が破れそうでも、一着になる
それだけがグローリアと繋がっている気がして…
黒くてもやもやした何かが脚にまとわりついて
どこを走っているかもわからなかった
グローリアが居ないのに、何のために走っているのか
ただ前へ、誰よりも前へ
この身体がちぎれても、喉が破れそうでも、一着になる
それだけがグローリアと繋がっている気がして…
宝塚記念では珍しくつまづいて出遅れたけれど、それもスタートが下手だったグローリアみたいだと思ったんだ
あの子みたいに最終コーナー大外から全員撫できって、もう誰も邪魔する奴はいない、これで勝てるって思った、それなのに
あの子みたいに最終コーナー大外から全員撫できって、もう誰も邪魔する奴はいない、これで勝てるって思った、それなのに
銀色の風が、全てを吹き飛ばした。
「蛹が蝶になったみたいに思えたよ。
スカートの裾を翻して、他のウマ娘たちの間を割って前へ出たときは。
これまでだって君は強かったけれど、あのとき鮮やかに世界は塗り替えられた。
あんなに熱い走りは初めてだ」
スカートの裾を翻して、他のウマ娘たちの間を割って前へ出たときは。
これまでだって君は強かったけれど、あのとき鮮やかに世界は塗り替えられた。
あんなに熱い走りは初めてだ」
ボスが珍しく饒舌だ。愛バがグランプリに輝いて嬉しい?そりゃあ良かった。こっちとしても一世一代の勝負だったわけで。
虚な目をして勝つことしか考えられなくなったシンボリの奴を、殴ってでも止めなきゃいけなかった。
本当に殴るわけにはいかねーよ?ただ、勝たなきゃ、オレの声なんか届かない。
大体なんだよグローリアグローリアって妬けるわーこの世代グローリアしかいないってか?オレ様もいるだろうがこのパストラル様が!!一人でなんもかんも背負おうとすんじゃねぇ潰れっぞ!!!
そんなことも、勝たなきゃ伝わらない。
潰れたって理想を叶えようとするお前に勝つには。
そのためなら、熱苦しいとか得意な距離じゃないとか言ってる場合じゃねーんだよ。
本当に殴るわけにはいかねーよ?ただ、勝たなきゃ、オレの声なんか届かない。
大体なんだよグローリアグローリアって妬けるわーこの世代グローリアしかいないってか?オレ様もいるだろうがこのパストラル様が!!一人でなんもかんも背負おうとすんじゃねぇ潰れっぞ!!!
そんなことも、勝たなきゃ伝わらない。
潰れたって理想を叶えようとするお前に勝つには。
そのためなら、熱苦しいとか得意な距離じゃないとか言ってる場合じゃねーんだよ。
あっという間に追い抜かれて、君の背中が目に入って
眩しさに目が滲んだ
さっきまでと何も変わらないはずなのに
空が青くて遠くて、世界が果てしなく広がって見えたんだ
それでももちろん、私は勝負を諦めていなかった
差されて差し返して、また差された
あぁ。楽しい。ずっと走っていたい。
こんな気持ちは、久しぶりだ グローリアが居なくなってから、感じたことはなかった
本気の勝負に負ける気はなかったよ、全然
だからあの時の勝負は純粋に君が強かった
眩しさに目が滲んだ
さっきまでと何も変わらないはずなのに
空が青くて遠くて、世界が果てしなく広がって見えたんだ
それでももちろん、私は勝負を諦めていなかった
差されて差し返して、また差された
あぁ。楽しい。ずっと走っていたい。
こんな気持ちは、久しぶりだ グローリアが居なくなってから、感じたことはなかった
本気の勝負に負ける気はなかったよ、全然
だからあの時の勝負は純粋に君が強かった
一バ身先でゴールする君をみて、悔しいけれど、それと同じくらい、なんだか嬉しかったんだ。
「その……すまなかった」
「……いーってことよ」
ソーダジュレをつついている友人に詫びる。
「……いーってことよ」
ソーダジュレをつついている友人に詫びる。
無理をして心配をかけたことも、あんな態度をとったのに真っ向から勝負してくれたことも。
レースの楽しさを思い出させてくれたことも。
ゴールした後、なぜか子供みたいにぼろぼろ泣けてきてしまって、折角の彼女の勝負服の胸元をべしゃべしゃに濡らしてしまったことも。
レースの楽しさを思い出させてくれたことも。
ゴールした後、なぜか子供みたいにぼろぼろ泣けてきてしまって、折角の彼女の勝負服の胸元をべしゃべしゃに濡らしてしまったことも。
グローリアは今何をしているのだろう?
最初の病院を退院して以降のことをルドルフさんは教えてくれない。とはいえ引退宣言も出ていないし、部屋割りもそのまま、よって退学もしていない。それならまた走れるようにどこかでリハビリをしているはずだ。
最初の病院を退院して以降のことをルドルフさんは教えてくれない。とはいえ引退宣言も出ていないし、部屋割りもそのまま、よって退学もしていない。それならまた走れるようにどこかでリハビリをしているはずだ。
「そのうち良くなって戻ってくるさ。それまでは女王の座を温めておいてやるよ。ま、そう簡単には譲らねーけどな」
「……そのことだけれど、パストラル。私も女王の座が恋しくなってしまった。そのうちまた君と走りたいんだ」
「お?……やるか?
そういえば、グローリア嬢が戴冠していないティアラがあとひとつ」
「……そのことだけれど、パストラル。私も女王の座が恋しくなってしまった。そのうちまた君と走りたいんだ」
「お?……やるか?
そういえば、グローリア嬢が戴冠していないティアラがあとひとつ」
「「秋のエリザベス女王杯」」
「そこで勝負だ」
ニヤリ、とお互いに笑った。秋が楽しみだ。
ニヤリ、とお互いに笑った。秋が楽しみだ。
グローリア、私たちは待ってるから。
簡単に追いつけないくらい強くなって待ってるから。
早く元気になって、またレース場で会おう。
簡単に追いつけないくらい強くなって待ってるから。
早く元気になって、またレース場で会おう。
そんな気持ちとともに、溶け始めたジェラート慌てて掬った。