話がある、と私を呼び出した相手はティアラ路線のお姫様。クラシック路線の王のような扱いを受ける私にとって、気が置けない友人の一人です。
彼女は相変わらず可憐に佇んで、人がまばらになったターフを見下ろしていました。それで、なんとなくどんな話か分かってしまいました。
彼女は相変わらず可憐に佇んで、人がまばらになったターフを見下ろしていました。それで、なんとなくどんな話か分かってしまいました。
「新しい時代の序曲を聴いたの」
この前のエリザベス女王杯の話だ、とピンときました。
この前のエリザベス女王杯の話だ、とピンときました。
「情けないわ。桜の君が出てこないから、もっと楽に勝てると思ったのに。
先頭に立ってがむしゃらに風を切る姿は、若々しくて希望に満ちていて……自分が勝つと一切疑わない、恐ろしいことなんて何も知らないような走り。もちろん、黙って主演の座を譲ってなんかあげないわよ。最後は差し切って、シニアの面目を保ったけどね。
だけど、次はきっと……」
先頭に立ってがむしゃらに風を切る姿は、若々しくて希望に満ちていて……自分が勝つと一切疑わない、恐ろしいことなんて何も知らないような走り。もちろん、黙って主演の座を譲ってなんかあげないわよ。最後は差し切って、シニアの面目を保ったけどね。
だけど、次はきっと……」
淡々とした口調が、彼女の言葉に嘘がないことを示していました。誇り高い彼女の口からそんなことを聞きたくなかった、と思うのは私の我儘でしょうか。
「私は、すぐに“過去”になってしまう。
あの星の光が、ずっと昔のものであるように」
あの星の光が、ずっと昔のものであるように」
いつの間にか、ぽつりと星が光りはじめていました。
「でも、あなたはずっと走ってね。ネット」
あれから私は、一度もG1を勝てないまま、この場所にしがみついていました。かつて鎬を削ったライバル達には、不甲斐ないと笑われるでしょうか?
天を巡る星々のように輝かしい過去も、誰かからの期待も、長い旅路の終わりが近いことも、今は忘れましょう。ぜーんぶ置いて、何も持たない挑戦者として、ここに立つ。
芝の匂い。空気が透き通っていきます。
一瞬先の未来だけを見据えて、私はゲートを飛び出しました。
一瞬先の未来だけを見据えて、私はゲートを飛び出しました。