始まりは憧れだった
ー世界最強は!?そう!ー
「「「「エルコンドルパサー!!!」」」」
「「「「エルコンドルパサー!!!」」」」
誰よりも強く、速くターフを駆け抜ける姿に憧れた
史上初の同着となった日本ダービー
世代に囚われない強さを示したジャパンカップ
海外の慣れないレース場でもその走りは衰えることはないと高らかに歌い上げたフォワ賞
史上初の同着となった日本ダービー
世代に囚われない強さを示したジャパンカップ
海外の慣れないレース場でもその走りは衰えることはないと高らかに歌い上げたフォワ賞
そして、夢まで残り100mで打ち砕かれた凱旋門賞
私の夢見た世界最強は夢破れた姿もまた、悲しいまでに輝いていた
『HELLO WORLD~初めの第1歩~』
元々走るのは好きだった
ウマ娘は走るために産まれてくるとはよく言われるが、
実際はウマ娘の中でも走ることにどれだけ執着しているかは濃淡がある
ウマ娘は走るために産まれてくるとはよく言われるが、
実際はウマ娘の中でも走ることにどれだけ執着しているかは濃淡がある
私の母も姉も、走ることに対して執着の強いタイプではなかったので、自分もなんとなく走ってはいても
トゥインクルシリーズの主役を演じたいといった強いモチベーションを持ってはいなかった
だが、その気持ちは自由に空を舞う怪鳥によって一気に燃え上がっていった
トゥインクルシリーズの主役を演じたいといった強いモチベーションを持ってはいなかった
だが、その気持ちは自由に空を舞う怪鳥によって一気に燃え上がっていった
世界最強!
あの人の目指した頂からは何が見えるのだろう!
モンジューが見たその風景!
エルコンドルパサーがあと一歩届かなかったその風景!
そして、私が目指すに相応しいであろうその風景!
あの人の目指した頂からは何が見えるのだろう!
モンジューが見たその風景!
エルコンドルパサーがあと一歩届かなかったその風景!
そして、私が目指すに相応しいであろうその風景!
その甘美な想像は、トレセン学園受験のための努力を私に決意させるに足る劇薬だった
学課試験の勉強と体力テスト対策のトレーニングを必死に続けていく内に、私はおかしな事に気が付いた
『なんで誰も彼もみんな
あんなに早くスタミナが尽きるのだろう?』
あんなに早くスタミナが尽きるのだろう?』
気付いてからは楽だった
どの模擬レースでも誰か一人くらいは先頭を切って逃げたがるウマ娘がいる
どの模擬レースでも誰か一人くらいは先頭を切って逃げたがるウマ娘がいる
私はその娘についていって、ペースを落とそうとした直後にほんの少し後ろから圧力をかけるだけ
そうすると逃げたがる娘は面白いように破滅的にペースを上げて行くのだ
そして差し追い込みのウマ娘達が届かないようなリードをとったら、後は適当なタイミングで逃げを追い越せば一着になれる
ペースをなんとか落とそうとした逃げもいたが、そんな娘も後ろから何度も突き回してやると最後には自滅していった
私のペースに追従して差し切ろうとした差し追い込みもいたが大抵は最後の直線に入る頃には末脚と言えるものは残せていなかった
この戦法を思いついてから、トレセン学園に合格するまでの間、私をゴール前で抜き去っていったウマ娘は誰もいなかった
私は、世界最強を名乗る為の武器を手にする事に成功したのだ
そう思っていた私の鼻っ柱が見事に叩き折られたのは入学後最初の模擬レースの時だった
「アナタがベリザーナさん?凄く強いんだってね!私プラネットセブン!よろしくね!」
「プラネットセブンか、一つ訂正しておこう
我は凄く強いウマ娘ではない、いずれ世界最強になるウマ娘だ!」
「…そ、そっかー、世界最強になるのかー…
何にせよこの後の模擬レース、私もアナタと同じレースに出るんで良いレースにしようね!」
「プラネットセブンか、一つ訂正しておこう
我は凄く強いウマ娘ではない、いずれ世界最強になるウマ娘だ!」
「…そ、そっかー、世界最強になるのかー…
何にせよこの後の模擬レース、私もアナタと同じレースに出るんで良いレースにしようね!」
第一印象は、「変な奴だな?」だった
大抵の相手は私のビッグマウスを聞くと呆れたような顔をするか、
又は馬鹿にしたような表情浮かべる
しかしプラネットセブンは多少引いてはいたものの、私の世界最強宣言を正面から受け止めて良いレースをしようと言ってきた
大抵の相手は私のビッグマウスを聞くと呆れたような顔をするか、
又は馬鹿にしたような表情浮かべる
しかしプラネットセブンは多少引いてはいたものの、私の世界最強宣言を正面から受け止めて良いレースをしようと言ってきた
自分で言うのもなんだがこの言動をする相手に普通に接するというのは
競争ウマ娘としては大分おかしい
ここでどういう反応をしてくるかでレース中の私への対応の方向性に大まかなアタリを付けるためにやっているビッグマウスだが、
こんな反応をされたのははじめてだった
余程のお人好しか、余程の自信家か、さて、コイツはどっちだ?
競争ウマ娘としては大分おかしい
ここでどういう反応をしてくるかでレース中の私への対応の方向性に大まかなアタリを付けるためにやっているビッグマウスだが、
こんな反応をされたのははじめてだった
余程のお人好しか、余程の自信家か、さて、コイツはどっちだ?
私達が出るのは模擬レース1600m、コイツがどっちだろうと最終直線では置き去りにしてやろうとゲートから完璧なタイミングでスタートする
ちらりと後ろを確認すると、先程のプラネットセブンがやや出遅れ気味にスタートするのが見えた
ちらりと後ろを確認すると、先程のプラネットセブンがやや出遅れ気味にスタートするのが見えた
つまらん、その程度か
私はいつも通り逃げ二人の後ろ2バ身、三番手の位置につきレースを支配するために動き始める
私はいつも通り逃げ二人の後ろ2バ身、三番手の位置につきレースを支配するために動き始める
3コーナー入り口、ここまでは特に問題なくレースは流れている
前の二人はまだ脚を残してはいるが私に突かれて大分消耗している
後ろの集団は私から3-4バ身と言ったところ
こちらも脚はまだ残っているようだ
そろそろ前を落とす為にペースを上げるか
前の二人はまだ脚を残してはいるが私に突かれて大分消耗している
後ろの集団は私から3-4バ身と言ったところ
こちらも脚はまだ残っているようだ
そろそろ前を落とす為にペースを上げるか
4コーナー入り口
逃げ二人はそろそろ脚があがって来たようだ
先程からヨレる事が増えている
後ろとの距離は4-5バ身
脚を溜めているようだが、ここからそんな余裕はなくなるぞ?
私は最終直線で良い位置でスパートを掛けるために逃げ二人を追い抜きにかかる
逃げ二人はそろそろ脚があがって来たようだ
先程からヨレる事が増えている
後ろとの距離は4-5バ身
脚を溜めているようだが、ここからそんな余裕はなくなるぞ?
私は最終直線で良い位置でスパートを掛けるために逃げ二人を追い抜きにかかる
4コーナー終盤
後ろから動き始める音がするが仕掛けが遅い
この展開ならばもっと早くに差を詰めるか、最終直線に入るのを待ってから一か八かで仕掛けるのでなければスタミナが持たない
後ろから動き始める音がするが仕掛けが遅い
この展開ならばもっと早くに差を詰めるか、最終直線に入るのを待ってから一か八かで仕掛けるのでなければスタミナが持たない
まあ、そうなるように前の二人を突き回したのは私なのだが
逃げ二人を抜き去って最終直線に入るのは私ただ一人
後ろの集団のラストスパートはまだまだ届かない
届かせるつもりもないが
届かせるつもりもないが
最終直線
残り1ハロンの標識が前に見えてきた
この調子なら楽勝かな?と思ったその時
残り1ハロンの標識が前に見えてきた
この調子なら楽勝かな?と思ったその時
背中に
強烈な
視線を感じた
強烈な
視線を感じた
後ろの集団とはまだ距離がある
そう思ってチラリと後ろを見ると
そう思ってチラリと後ろを見ると
先程のプラネットセブンが、猛烈な勢いで内ラチギリギリをすっ飛んでくるのが見えた
おい
なんだそれは
お前は出遅れて後方集団に巻き込まれていただろう?
脚は十分溜まっていてもごちゃついた集団の中から抜けてくるのはそれなりに時間が掛かるはず
なんだそれは
お前は出遅れて後方集団に巻き込まれていただろう?
脚は十分溜まっていてもごちゃついた集団の中から抜けてくるのはそれなりに時間が掛かるはず
なぜ、お前はそこにいる?
混乱する頭と裏腹に、体は全力でゴールまでの残り200mを最短距離で駆け抜けようとする
何度も繰り返した展開、何度も繰り返した動きだ
この展開なら後ろは私に追いつけない
それが世界の法則と言うものだ
この展開なら後ろは私に追いつけない
それが世界の法則と言うものだ
なのに、
何故、
私の視界には
プラネットセブンの強く強く絞られた耳と後頭部が映っている!?
何故、
私の視界には
プラネットセブンの強く強く絞られた耳と後頭部が映っている!?
ふざけるな
そんなことはあってはならない
先頭は
私の場所だ!!
そんなことはあってはならない
先頭は
私の場所だ!!
全力疾走する体に鞭打って更に強く踏み込む
もっと強く!
もっと速く!
この視界の左隅に映る不快な異物を消し去る為に!!
もっと強く!
もっと速く!
この視界の左隅に映る不快な異物を消し去る為に!!
一瞬だったような、とても長い時間が過ぎたような、
そんな感覚の後、私はプラネットセブンを完璧に追い抜いた
そんな感覚の後、私はプラネットセブンを完璧に追い抜いた
だがその位置は、ゴール板を10m程も過ぎてからだった
全力疾走の余韻でチカチカと白む視界の中
脚を緩めて周りを見回すと
大の字になって倒れ込むプラネットセブンの姿があった
脚を緩めて周りを見回すと
大の字になって倒れ込むプラネットセブンの姿があった
故障
その言葉が脳裏を過る
その言葉が脳裏を過る
「おい!!プラネットセブンとやら!汝どうした!!」
思った以上に切迫した声が出た
「あ、ベリザーナさん?いやー、貴方凄いね、もう届かないかと思っちゃった」
とりあえず故障やトラブルではないようなので、安心したついでに思わず減らず口がでる
「ゴールした途端にはしたなく寝転がるような輩に名前を呼ぶのを許したつもりはないが?」
「あ、ごめんなさいね
ラストスパートに気合入れすぎてゴールした途端に脚から力抜けちゃった」
「何をしておるのだ、模擬レースとは言えトレーナーも見ておるのだぞ
スカウトをためらわせるような姿は晒すべきでないわ」
「わ!そうだよね!トレーナーさん早く見つけないと!」
「あ、ごめんなさいね
ラストスパートに気合入れすぎてゴールした途端に脚から力抜けちゃった」
「何をしておるのだ、模擬レースとは言えトレーナーも見ておるのだぞ
スカウトをためらわせるような姿は晒すべきでないわ」
「わ!そうだよね!トレーナーさん早く見つけないと!」
そう言って慌てて立ち上がろうとする姿には先程の覇気の欠片も無い
「プラネットセブン」
「もう名前覚えてくれたの?ありがとう」
柔やかな表情に毒気を抜かれるのを感じながら聞きたいことを口に出した
「汝どうやってあのバ群の中から抜け出した?
全体を把握していたわけでは無いが、汝は後方集団の真ん中辺りで包まれていたはずだ」
「わ、凄い、あれだけ逃げてる人を牽制しながらそこまで見えてたんだ」
「感想は良いからどうやったのかを話せ」
「やったことは単純だよ?
4コーナー終わりで皆がラストスパート掛けるでしょ?そうするとスピードあがるからどうしてもコーナーの内側が空くよね?
そこを全力で突いてスパートしたの」
「もう名前覚えてくれたの?ありがとう」
柔やかな表情に毒気を抜かれるのを感じながら聞きたいことを口に出した
「汝どうやってあのバ群の中から抜け出した?
全体を把握していたわけでは無いが、汝は後方集団の真ん中辺りで包まれていたはずだ」
「わ、凄い、あれだけ逃げてる人を牽制しながらそこまで見えてたんだ」
「感想は良いからどうやったのかを話せ」
「やったことは単純だよ?
4コーナー終わりで皆がラストスパート掛けるでしょ?そうするとスピードあがるからどうしてもコーナーの内側が空くよね?
そこを全力で突いてスパートしたの」
こやつ、なんと言った?
皆がコーナーを曲がりきれない程のスパートを掛ける最中、
『他のウマ娘のスパート以上の速度で一切膨らまずにコーナーを曲がりきる』だと?
なんだそれは
それではまるで
「モンジューではないか…」
思わず漏れた呟きに
「あ、やっぱり知ってるよね
あの凱旋門賞やジャパンカップのモンジューさんのコーナリングと末脚、
アレを真似できたら私みたいな差しウマ娘にはすっごい武器になる!と思って練習したの」
朗らかに笑いながら返すこの『変な奴』の顔と名前を
私は倒すべき最優先目標として深く深く記憶に刻み込んだ
皆がコーナーを曲がりきれない程のスパートを掛ける最中、
『他のウマ娘のスパート以上の速度で一切膨らまずにコーナーを曲がりきる』だと?
なんだそれは
それではまるで
「モンジューではないか…」
思わず漏れた呟きに
「あ、やっぱり知ってるよね
あの凱旋門賞やジャパンカップのモンジューさんのコーナリングと末脚、
アレを真似できたら私みたいな差しウマ娘にはすっごい武器になる!と思って練習したの」
朗らかに笑いながら返すこの『変な奴』の顔と名前を
私は倒すべき最優先目標として深く深く記憶に刻み込んだ