自分の力だけでどこまでもいけると思っていた
デビュー以来無傷の3連勝
自分ならG1制覇も出来る、と思っていた
自分ならG1制覇も出来る、と思っていた
初めてのG1は、苦い敗北に終わった
何が悪かったのか
どうすれば良かったのか
次に勝つためには何をすれば良いのか
何が悪かったのか
どうすれば良かったのか
次に勝つためには何をすれば良いのか
そんな事が頭の中でぐるぐると回るが何一つ前向きな結論は出ない
全てはあの黄金の流星のせいだ
どれだけ展開を考えても、走り方を変えても、
あの末脚を凌ぎきれるイメージが湧いてこない
どうする、どうすれば良い
あの末脚を凌ぎきれるイメージが湧いてこない
どうする、どうすれば良い
自問自答を続けるうちに、気が付けば控え室の入り口まで戻ってきていた
気が重い中ドアを開けようとすると、それは独りでに開いた
「帰ってきたか、パストラル」
目の前には今一番顔を合わせたくない人物、トレーナーがいた
『後の祭り/祭りの後』
「酷い顔だな、脚のチェックするからここに座れ」
そう言って壁沿いのベンチに腰を下ろすように促してくるトレーナーを、パストラルは正面から見ることが出来なかった
そう言って壁沿いのベンチに腰を下ろすように促してくるトレーナーを、パストラルは正面から見ることが出来なかった
「そんな所で何をしている
結果は結果、今は体に異常が無いかをチェックして、ゆっくり休め」
「何でだよ」
パストラルは内心、自分はこれだけ卑屈な声が出せるのだな、と他人事のように驚いていた
結果は結果、今は体に異常が無いかをチェックして、ゆっくり休め」
「何でだよ」
パストラルは内心、自分はこれだけ卑屈な声が出せるのだな、と他人事のように驚いていた
「何でだよ、何でアンタはそんな事を言うんだ」
「どうしたパストラル」
「レースのことだよ、オレはトレーナーの作戦を無視して負けた」
「そうだな、で、それがどうした
早く座れ」
トレーナーは何が問題なのか解らない、と言う顔をしてパストラルに再度ベンチに座るよう促した
「どうしたパストラル」
「レースのことだよ、オレはトレーナーの作戦を無視して負けた」
「そうだな、で、それがどうした
早く座れ」
トレーナーは何が問題なのか解らない、と言う顔をしてパストラルに再度ベンチに座るよう促した
「レースレコード更新して帰ってきた担当を、2着だったからと責めるような無能なトレーナーは中央には居ない」
「でもオレは……」
「責めて欲しかったか?普段の態度の割にはナイーヴだな」
「ナイーヴ、か」
その言葉は妙にしっくりきた
「でもオレは……」
「責めて欲しかったか?普段の態度の割にはナイーヴだな」
「ナイーヴ、か」
その言葉は妙にしっくりきた
「今のオレは確かにnaiveだな、飛んだ世間知らずの自惚れ野郎だ」
「フランス語話せたのか」
「知ってて言ってたのかよ、性格悪いんじゃねえか、トレーナー」
「海外経験がないとそっちの意味は知らないだろう、日本で暮らしてればこういう言い方にもなる」
こんな何気ない会話が何故か嬉しかった
「フランス語話せたのか」
「知ってて言ってたのかよ、性格悪いんじゃねえか、トレーナー」
「海外経験がないとそっちの意味は知らないだろう、日本で暮らしてればこういう言い方にもなる」
こんな何気ない会話が何故か嬉しかった
「爪の先が少し割れてるな、まずはケアするぞ
こんな爪の状態であれだけ激走したんだ、そこはお前は誇って良い」
「でも、2着だった」
血を吐くような想いで言った言葉は
こんな爪の状態であれだけ激走したんだ、そこはお前は誇って良い」
「でも、2着だった」
血を吐くような想いで言った言葉は
「で?だから何だ?」
軽々と一蹴された
軽々と一蹴された
思わず呆けるパストラルにトレーナーは再度繰り返した
「で、負けたからなんだ?確かにジュニア級G1を獲る機会は二度と訪れない、でもそれは」
「で、負けたからなんだ?確かにジュニア級G1を獲る機会は二度と訪れない、でもそれは」
その言葉は今のパストラルに最も必要で
「パストラルがこの後のG1を勝てない理由にはならない」
最も聞きたくない言葉だった
「パストラルがこの後のG1を勝てない理由にはならない」
最も聞きたくない言葉だった
「そりゃ何の冗談だ?」
「冗談など言うつもりは無い、パストラル
この世代でお前以上の才能を持つウマ娘は居ない」
反射的に頭に血が上った
「あの末脚を見てもそれを言うのかよ!」
口からこぼれ落ちた本音は自分で思った以上に悲鳴染みていて
「言うさ、私はパストラルのトレーナーだからな」
その返事に心が救われたのを確かにパストラルは感じた
「冗談など言うつもりは無い、パストラル
この世代でお前以上の才能を持つウマ娘は居ない」
反射的に頭に血が上った
「あの末脚を見てもそれを言うのかよ!」
口からこぼれ落ちた本音は自分で思った以上に悲鳴染みていて
「言うさ、私はパストラルのトレーナーだからな」
その返事に心が救われたのを確かにパストラルは感じた
「トレーナー、なら聞くがどうやってあの末脚を封じるんだ?」
「確かにサクラグローリアの末脚は生半可な事では凌げるものではない
だが、末脚に頼らなくてはならないと言うことはレースの展開に勝ち筋を左右されると言うことだ
追込は自分からレースを完全に支配する事は出来ない
どれだけ後ろからプレッシャーを掛けようが、最後尾から思い通りに全ての相手を動かすのは不可能だ
結局追込は最後になるまでは前の相手に着いていくことしかできないし、
最後になる前に動いて脚を浪費するようならそれはもうただの二流の差しウマ娘だ
サクラグローリアが仮に差しウマ娘としても一流であったのならば、
そんな担当に不安定な追込戦法を選択させるような三流トレーナーの指導に私の指導が劣る事は無い」
「確かにサクラグローリアの末脚は生半可な事では凌げるものではない
だが、末脚に頼らなくてはならないと言うことはレースの展開に勝ち筋を左右されると言うことだ
追込は自分からレースを完全に支配する事は出来ない
どれだけ後ろからプレッシャーを掛けようが、最後尾から思い通りに全ての相手を動かすのは不可能だ
結局追込は最後になるまでは前の相手に着いていくことしかできないし、
最後になる前に動いて脚を浪費するようならそれはもうただの二流の差しウマ娘だ
サクラグローリアが仮に差しウマ娘としても一流であったのならば、
そんな担当に不安定な追込戦法を選択させるような三流トレーナーの指導に私の指導が劣る事は無い」
全て理詰めで、納得のいく説明だった
「つまり作戦を練り、末脚を発揮されても届かない状況を作り出せるのならば」
「つまり作戦を練り、末脚を発揮されても届かない状況を作り出せるのならば」
この日、パストラルはその言葉が福音であると
「お前は二度とサクラグローリアに負けることはない」
心から信じた
「お前は二度とサクラグローリアに負けることはない」
心から信じた
「オーケー、ボス」
「何だそれは」
「オレなりの決意表明って奴さ
オレは今日、アンタの作戦を無視して負けた
だがアンタはそんなオレをグローリア嬢に勝たせてくれるという
なら、オレはアンタを信じよう
アンタに従い、効率的に実力を高めて、いつの日にか今日のリベンジを決めてやる
だからそれまでアンタはオレのボスだ
責任重大だぜ?」
「何だそれは」
「オレなりの決意表明って奴さ
オレは今日、アンタの作戦を無視して負けた
だがアンタはそんなオレをグローリア嬢に勝たせてくれるという
なら、オレはアンタを信じよう
アンタに従い、効率的に実力を高めて、いつの日にか今日のリベンジを決めてやる
だからそれまでアンタはオレのボスだ
責任重大だぜ?」
そう言って笑うパストラルに
「何を言っている」
彼女のボスは最も相応しい言葉で返した
「お前をスカウトした瞬間からその程度の覚悟は決めている」
「何を言っている」
彼女のボスは最も相応しい言葉で返した
「お前をスカウトした瞬間からその程度の覚悟は決めている」