「一番の問題点はタイミングだ」
トレーナー室の中に声が響く
トレーナー室の中に声が響く
「早すぎると見切られて大外から仕掛けられる
阪神JFの時点であの脚だ
あれから4カ月、末脚は更に強化されていると見て間違いない
坂でこちらが減速しているところを強襲されたら多少のリードなぞすぐに吹っ飛ぶ」
ホワイトボードに書かれた阪神レース場の図の上で、桜色のマグネットが白いマグネットを押しのけてゴールした
阪神JFの時点であの脚だ
あれから4カ月、末脚は更に強化されていると見て間違いない
坂でこちらが減速しているところを強襲されたら多少のリードなぞすぐに吹っ飛ぶ」
ホワイトボードに書かれた阪神レース場の図の上で、桜色のマグネットが白いマグネットを押しのけてゴールした
「逆に遅すぎてもいけない
それこそ前回と同じ展開で、今度は何バ身差をつけられるか解ったものではない」
パストラルの脳裏に自分の横を轟音とともに突き抜けていった黄金の流星がよぎった
それこそ前回と同じ展開で、今度は何バ身差をつけられるか解ったものではない」
パストラルの脳裏に自分の横を轟音とともに突き抜けていった黄金の流星がよぎった
「もう一度言う、全てはタイミングだ
サクラグローリアの驚異的な追い込みが『成立する条件』を成立させないためには、こちらの仕掛けのタイミングが完璧である必要がある」
ホワイトボード上の展開予想図と、マグネットの群れを指差してトレーナーは淡々と告げる
サクラグローリアの驚異的な追い込みが『成立する条件』を成立させないためには、こちらの仕掛けのタイミングが完璧である必要がある」
ホワイトボード上の展開予想図と、マグネットの群れを指差してトレーナーは淡々と告げる
「平坦な阪神レース場の外回りでは分の悪い勝負なのは変わらん
しかし、この作戦が上手く行けばサクラグローリアの末脚の脅威度は大幅に減衰する」
真剣な顔でトレーナーの言葉に頷くパストラル
しかし、この作戦が上手く行けばサクラグローリアの末脚の脅威度は大幅に減衰する」
真剣な顔でトレーナーの言葉に頷くパストラル
「誰もがトリプルティアラの大本命と見ているサクラグローリアの、今だからこそ突くことの出来る弱点がここだ
勿論難易度は高い
だが、お前ならこれを完遂出来る
これは希望的観測でも何でもない
お前の能力と今回の条件が揃ったからこそ可能なただの事実だ」
そのトレーナーの言葉に
勿論難易度は高い
だが、お前ならこれを完遂出来る
これは希望的観測でも何でもない
お前の能力と今回の条件が揃ったからこそ可能なただの事実だ」
そのトレーナーの言葉に
「まどろっこしいぜ、ボス」
パストラルは不敵に笑う
「要はオレがミスれば負ける、ミスらなければ勝つ
これはそう言う勝負だ
任せてくれよ、こう見えてもステージ度胸は人よりあるつもりなんだ」
パストラルは不敵に笑う
「要はオレがミスれば負ける、ミスらなければ勝つ
これはそう言う勝負だ
任せてくれよ、こう見えてもステージ度胸は人よりあるつもりなんだ」
トレーナーは言い返す
「お前の能力の算定にはそのステージ度胸も入れてあるさ
私を誰だと思っている」
「お前の能力の算定にはそのステージ度胸も入れてあるさ
私を誰だと思っている」
「「パストラルの、『ボス』だぞ」」
高揚する戦意の儘に、師弟二人の口にした言葉は一字一句違わなかった
『桜花賞 上』
「参ったな、今回はどうにも運がないらしい」
発表された枠順を見て、シンボリレクイエムのトレーナーは顔をしかめた
発表された枠順を見て、シンボリレクイエムのトレーナーは顔をしかめた
「運で勝てる相手なら良かったんだけどね、グローリアも、パストラルも、そんな簡単な相手じゃないよ」
シンボリレクイエムの弱音にも聞こえる返答に言い返そうとしたトレーナーは
シンボリレクイエムの弱音にも聞こえる返答に言い返そうとしたトレーナーは
「えらく楽しそうだな、レクイエム」
意外そうにそう漏らした
意外そうにそう漏らした
「そりゃあ楽しいにきまってるよ
初めてのG1で、一生に一回きりのクラシックで、私の知る限り現役最強の相手と戦うんだよ?
これが楽しみじゃないならトレセン学園に入った意味がない」
笑みを形作る口角と、それと相反する眼光の鋭さに紡ごうとした言葉は宙に消える
初めてのG1で、一生に一回きりのクラシックで、私の知る限り現役最強の相手と戦うんだよ?
これが楽しみじゃないならトレセン学園に入った意味がない」
笑みを形作る口角と、それと相反する眼光の鋭さに紡ごうとした言葉は宙に消える
そうだ、俺のスカウトしたシンボリレクイエムとはこう言うウマ娘だった
我が儘な態度も、
誰を相手にしても敬語を使わない高い高い鼻っ柱も、
自分の欲求と闘争本能に素直過ぎる言動も、
その全てがレースで勝つために必要な要素だ
自分の夢に、言い換えるならば自分の欲望に何処までも真摯で居られるその姿は俺が惚れ込むのには十分過ぎた
名門シンボリ家の久々の有望株等という触れ込みはただのノイズだ
シンボリレクイエムと言うウマ娘の本質は、どこまでも欲望に忠実な獣だ
己の欲望の為ならば、どんな障害でも薙ぎ払ってみせるその魂の力強さだ
それに俺は惚れたんだ
我が儘な態度も、
誰を相手にしても敬語を使わない高い高い鼻っ柱も、
自分の欲求と闘争本能に素直過ぎる言動も、
その全てがレースで勝つために必要な要素だ
自分の夢に、言い換えるならば自分の欲望に何処までも真摯で居られるその姿は俺が惚れ込むのには十分過ぎた
名門シンボリ家の久々の有望株等という触れ込みはただのノイズだ
シンボリレクイエムと言うウマ娘の本質は、どこまでも欲望に忠実な獣だ
己の欲望の為ならば、どんな障害でも薙ぎ払ってみせるその魂の力強さだ
それに俺は惚れたんだ
トレーナーのそんな思考を知るよしもないシンボリレクイエムは
「さて、それじゃあ作戦の再確認をしようか、トレーナー?」
そう言うと喜悦に染まりきった相貌で己の下僕に笑ってみせた
「さて、それじゃあ作戦の再確認をしようか、トレーナー?」
そう言うと喜悦に染まりきった相貌で己の下僕に笑ってみせた
「グローリア、君がやることはいつもと変わらない」
担当に向かってボクはいつものように話しかける
担当に向かってボクはいつものように話しかける
「最終コーナーまで適切な距離を保って着いていく」
「最終直線でゴールまでのルートを選定する」
「定まったルートを最速で駆け抜ける」
一拍を置く
「最終直線でゴールまでのルートを選定する」
「定まったルートを最速で駆け抜ける」
一拍を置く
「たったこれだけだ
君はこれだけを完遂することが出来ればトリプルティアラを手に入れることが出来る」
真剣な顔でボクの顔を見つめて頷く担当
君はこれだけを完遂することが出来ればトリプルティアラを手に入れることが出来る」
真剣な顔でボクの顔を見つめて頷く担当
「君を阻もうと周りは色々な手を使うだろう
場合によっては君は勝てないかもしれない、と思うような状況に置かれるかも知れない
周りが君という実力者を封じ込める為に結託してくるかもしれない」
少し不安そうな表情になる担当に笑いかける
場合によっては君は勝てないかもしれない、と思うような状況に置かれるかも知れない
周りが君という実力者を封じ込める為に結託してくるかもしれない」
少し不安そうな表情になる担当に笑いかける
「だが、そんな事など気にも止めるな
王者の凱旋とはそう言うものだ
どんな時でも、レースに着順がある以上全員が同じ意思の元に動くような事はあり得ない
必ず綻びはある
君はそこを見つけたらいつものようにルートを選定すれば良いだけだ
後は有象無象を蹴散らしてやれば良い」
力強く、鼓舞するように堂々と
この素直すぎるウマ娘に語り掛ける
王者の凱旋とはそう言うものだ
どんな時でも、レースに着順がある以上全員が同じ意思の元に動くような事はあり得ない
必ず綻びはある
君はそこを見つけたらいつものようにルートを選定すれば良いだけだ
後は有象無象を蹴散らしてやれば良い」
力強く、鼓舞するように堂々と
この素直すぎるウマ娘に語り掛ける
全くのお笑いぐさだ
『最強の戦士』シンザン
『雲耀の末脚』ダンシングブレーヴ
『絶対不可侵』セクレタリアト
各国の伝説となった歴代最強ウマ娘達に勝るとも劣らない逸材が、こんな右も左もわからない小娘だとは
『最強の戦士』シンザン
『雲耀の末脚』ダンシングブレーヴ
『絶対不可侵』セクレタリアト
各国の伝説となった歴代最強ウマ娘達に勝るとも劣らない逸材が、こんな右も左もわからない小娘だとは
「君が、君こそが最強のウマ娘だ
君のその末脚に勝てるものは居ない
君の行く手を遮る事は誰にもできない
君を輝かせるために全てのウマ娘は産まれてきたんだ」
いつものように瞳を潤ませてボクを見つめる担当
君のその末脚に勝てるものは居ない
君の行く手を遮る事は誰にもできない
君を輝かせるために全てのウマ娘は産まれてきたんだ」
いつものように瞳を潤ませてボクを見つめる担当
ああ、反吐が出る
こんな少女を利用して勝利を掴もうとする己の汚さに
右も左もわからない小娘の慕情を利用して名誉を得ようとする己の浅ましさに
ウマ娘を利用して積み上げた名声を維持することに汲々とする己の家名とそれに従うしかない己の卑屈さに
そして、こんな腐れ外道を疑う事も無くひたすらに信じて着いてくる
グローリアを騙している事の罪深さに
こんな少女を利用して勝利を掴もうとする己の汚さに
右も左もわからない小娘の慕情を利用して名誉を得ようとする己の浅ましさに
ウマ娘を利用して積み上げた名声を維持することに汲々とする己の家名とそれに従うしかない己の卑屈さに
そして、こんな腐れ外道を疑う事も無くひたすらに信じて着いてくる
グローリアを騙している事の罪深さに
「さあ、もう少しでパドックだ
今日も君の勝利を世界に見せてやろう」
そうグローリアに精一杯の笑顔で微笑みかけて振り向いて控室のドアを開く
今日も君の勝利を世界に見せてやろう」
そうグローリアに精一杯の笑顔で微笑みかけて振り向いて控室のドアを開く
もし、三女神とやらが本当に居るのなら
願わくば彼女が全ての栄光を掴んだその後に
こんな下衆(ボク)に利用されたと言うことに気付かぬまま
幸福で満たされた人生を歩んでくれますように
願わくば彼女が全ての栄光を掴んだその後に
こんな下衆(ボク)に利用されたと言うことに気付かぬまま
幸福で満たされた人生を歩んでくれますように
そして、この純粋過ぎる天才を食い物にした救い難いクソ野郎(ボク達)に
とびきりの天罰が下りますように
とびきりの天罰が下りますように
そうして、聖女と罪人は阪神レース場のパドックに降り立った