G1レース、それもティアラ三冠の初戦、桜花賞
そんな大レースに挑む私の心は不思議と落ち着いていた
そんな大レースに挑む私の心は不思議と落ち着いていた
クラシック三冠を目指していた一年前とはえらい違いだ
あの頃は三冠レースに挑むという想像だけで胸が高鳴っていた
しかし今となってはどうだ
人生で初のG1だと言うのに私の心は波風一つ立たない
冷静な心で周囲のライバル達を観察していられる
その相手がグローリアやパストラルであってさえ、凪いだ心で見つめることが出来ている
あの頃は三冠レースに挑むという想像だけで胸が高鳴っていた
しかし今となってはどうだ
人生で初のG1だと言うのに私の心は波風一つ立たない
冷静な心で周囲のライバル達を観察していられる
その相手がグローリアやパストラルであってさえ、凪いだ心で見つめることが出来ている
我ながら図太い神経を持って生まれたものだ
なにせ私は今からこの桜花賞に
『負けるために参戦する』のだから
なにせ私は今からこの桜花賞に
『負けるために参戦する』のだから
『桜花賞 下』
私の枠は大外の17番
オーヴァチュアが風邪で回避したからここが一番外側の枠になる
好都合だ、大外は内枠に働きかけるのに具合が良い
オーヴァチュアが風邪で回避したからここが一番外側の枠になる
好都合だ、大外は内枠に働きかけるのに具合が良い
グローリアは13番、パストラルは8番
オーヴァチュアがいない以上、このレース間違いなくスタートからパストラルが逃げる相手を押し上げてレースを加速させ、グローリアからセーフティリードを取ろうとするだろう
オーヴァチュアがいない以上、このレース間違いなくスタートからパストラルが逃げる相手を押し上げてレースを加速させ、グローリアからセーフティリードを取ろうとするだろう
そして逃げのウマ娘達もそれは解っている以上、自分たちも勝つためにその流れを利用して後ろに脚を残させないために脚が残せる最速のペースでドンドンと前に行くに違いない
グローリアは全て承知の上でその先行集団をギリギリ指しきれる距離を保とうとするはず
その、出走者全員が目論んでいるレースの流れを
私が叩き壊す
私が叩き壊す
ゲートが開くと同時に私は全力でスパートした
内枠の逃げのウマ娘達がギョッとした顔で私を見る
それはそうだろう
『先行のソコソコ強いウマ娘』
私は戦績からそう思われているし、実際先行抜け出しをメインとして練習してきた
内枠の逃げのウマ娘達がギョッとした顔で私を見る
それはそうだろう
『先行のソコソコ強いウマ娘』
私は戦績からそう思われているし、実際先行抜け出しをメインとして練習してきた
だが、先行として逃げる相手を叩き潰す練習を積んできたと言うことは
すなわち何をされると後続が辛いのかを誰よりも研究していると言うことだ
その知識と鍛え上げたスタミナを武器に一気に先頭に立って大きくリードを取る!
すなわち何をされると後続が辛いのかを誰よりも研究していると言うことだ
その知識と鍛え上げたスタミナを武器に一気に先頭に立って大きくリードを取る!
最初のコーナーに差しかかる辺りで後ろを確認すると、パストラルが必死な顔で私の4バ身後についてきているのが見えた
逃げの二人は早々に沈没したか、諦めて番手のレースをする事に切り替えたらしい
現在の隊列は縦長
先頭の私から最後尾のグローリアまでざっと12,3バ身と言うところだ
現在の隊列は縦長
先頭の私から最後尾のグローリアまでざっと12,3バ身と言うところだ
ここでコーナーの坂に入ったのは好都合だ
オーヴァチュアよろしく、この下り坂を活用してさらにスピードを上げる!
オーヴァチュアよろしく、この下り坂を活用してさらにスピードを上げる!
膨らむのを承知で大きく踏み込んだ私を見てパストラルが顔色を変えた
なんだ、普段の態度の割にポーカーフェイスの出来ないウマ娘だな君は
これ以上ペースを上げると坂で失速してグローリアに捕まると考えているのだろう
しかし、そんな事は先刻承知の上だ
私は『それが見たいから』今走っている!!
これ以上ペースを上げると坂で失速してグローリアに捕まると考えているのだろう
しかし、そんな事は先刻承知の上だ
私は『それが見たいから』今走っている!!
下り坂をスピードにのって勢いよく下る
パストラルは腹を括ったのか、自分のペースで後ろの先行集団を牽制するのに専念している
おそらくパストラルの当初の作戦はこうだ
『自分が内側を取ったまま先行集団を牽制して、最終直線で集団が大きく広がるように仕向けて、
その上で敢えてペースを落とすことによって後方集団と先行集団がごちゃついた状態を広く作り、
グローリアがあの末脚で真っ直ぐ突っ込んで来る事の出来るラインを外ラチ側にまで遠ざける』
その上で敢えてペースを落とすことによって後方集団と先行集団がごちゃついた状態を広く作り、
グローリアがあの末脚で真っ直ぐ突っ込んで来る事の出来るラインを外ラチ側にまで遠ざける』
『その結果グローリアは垂れた相手を斜行を気にしながら交わしてからスパートせねばならなくなり、スパート開始が遅れる
自分はその間にセーフティリードを築き上げて、末脚で突っ込んで来られてもギリギリでゴールまで逃げ切ることが出来る体勢を作り上げる』
自分はその間にセーフティリードを築き上げて、末脚で突っ込んで来られてもギリギリでゴールまで逃げ切ることが出来る体勢を作り上げる』
実際グローリアの末脚は強力無比だが、全力を発揮できる条件がかなり限定される
最高速度を叩き出す為に必要な大きなストライドは方向転換の難易度を大きく引き上げるし、
その大きなストライドに入るための助走段階、8完歩12mの間は完全に直進しなければならない
つまり追い込みの例に漏れず、グローリアは前の壁を抜け出さないと本領を発揮出来ないのだ
そしてグローリア本人が細かい方向転換が苦手な事もそれに拍車をかける
パストラルとそのトレーナーの戦略は完璧だった
私が先行するという青写真の通りならば
最高速度を叩き出す為に必要な大きなストライドは方向転換の難易度を大きく引き上げるし、
その大きなストライドに入るための助走段階、8完歩12mの間は完全に直進しなければならない
つまり追い込みの例に漏れず、グローリアは前の壁を抜け出さないと本領を発揮出来ないのだ
そしてグローリア本人が細かい方向転換が苦手な事もそれに拍車をかける
パストラルとそのトレーナーの戦略は完璧だった
私が先行するという青写真の通りならば
そして戦略の完成に必要なパーツがオーヴァチュア含めた逃げウマ娘達3人だったが、
それはオーヴァチュアの回避と私の暴走で白紙に戻された
それはオーヴァチュアの回避と私の暴走で白紙に戻された
パストラルは今、可能な限り後続を外側に散らばらせる事によってグローリアの足止めをしようと必死になっているが、それはここまで来たら悪手だ
なにせ、私が自慢のスタミナで無理矢理吊り上げた破滅的なペースのせいで先行集団も後方集団も、誰も彼もが脚を磨り減らして垂れはじめているのだから
これだけ垂れた相手ならば、グローリアなら開いた隙間を着いて助走位置に着くのは容易い
さあ、ゴールまで残り2ハロン
君達はどう来る?
パストラル!!
グローリア!!!
パストラル!!
グローリア!!!
このまま無策なら私が勝ってしまうぞ!?
パストラルが鋭い脚で私を追い上げてくるのが見えた
やはり君はそうくるか、パストラル
坂をグローリアと同じスピードで越えるのが不可能な以上、そうするしかないものな!
やはり君はそうくるか、パストラル
坂をグローリアと同じスピードで越えるのが不可能な以上、そうするしかないものな!
残り300m
パストラルが、私に並び掛ける
やはりこの距離でのスピードは私は君には劣る
そんなに睨み付けるなよ、
『マイルの君を侮れる程私は短距離に強くない』と、
以前じゃれ合う中でそう言ったろう?
パストラルが、私に並び掛ける
やはりこの距離でのスピードは私は君には劣る
そんなに睨み付けるなよ、
『マイルの君を侮れる程私は短距離に強くない』と、
以前じゃれ合う中でそう言ったろう?
坂に入る
パストラルの脚が鈍るが私の失速もかなりのものだ
やはり『1600mロングスパートし続ける』のは多少無理があったようだ
ここまでは想定内
さあ、早く来い!
パストラルの脚が鈍るが私の失速もかなりのものだ
やはり『1600mロングスパートし続ける』のは多少無理があったようだ
ここまでは想定内
さあ、早く来い!
グローリア!!!!!
どん
轟音が聞こえた
どんどん
音とともに圧力が近づいてくる
久しぶりの圧力だ
どんどんどんどん
メイクデビューの福島で味わった、巨大な肉食獣に襲われているような身の毛のよだつプレッシャーが一気に押し寄せてくる
どどどどどどどど
最高速度に至った音が聞こえる
そう!それが聞きたかった!
見たかった!!
自分の身で今の君を体験したかった!!!
見たかった!!
自分の身で今の君を体験したかった!!!
会いたかったぞ!!
親友(かいぶつ)よ!!!!!
ど
坂を登り切った直後、私の隣を音と衝撃と薄紅色が渾然となって通り過ぎた
どど
その金色の光は瞬く間にパストラルを追い詰め
どどどど
ほぼ同時にゴールラインを越えていた
痙攣しかかる脚を必死で宥めて私もゴールラインを越える
横を見ると私とほぼ同時にゴールしている娘が見えた
凄いなこの子、あの馬鹿みたいなハイペースの中で私達に食いついてたんだ
それとも私が坂でだらしなく失速しただけなのか
やはり逃げも短距離も性に合わないな
まあ良い
次は、私の適距離だ
これで、『グローリアがハイペースの中でのスパートでどれだけのバ身差を詰められるか』のデータは取れた
後は東京レース場の直線で私がどのようにセーフティリードを取るかを練り直すだけだ
グローリアの桜花賞戴冠に沸く歓声の響き渡る中で、私はオークスの日の歓声と驚愕の声を想像して薄く笑った
桜花賞結果
1着 13サクラグローリア(1人気)
1:32:9
1:32:9
2着 8パストラル(2人気)
1:32:9 ハナ
1:32:9 ハナ
3着 17シンボリレクイエム(6人気)
1:33:2 2バ身
1:33:2 2バ身