眠ろうとしても眠れなくて、私は何度目かわからない寝返りをうった。
今日はいっぺんにいろんなことがありすぎた。
先生のことがばれたのもびっくりだし、真奈から優樹くんが私のことを好きかもしれないということを聞かされたのもびっくりだ。
ため息をつく。
優樹くんとは三年間同じクラスで、男の人が少し苦手な私でもわりと話せる人だ。一年のときの担任がすごくアバウトなひとで、男子の出席番号一番だった優樹くんと女子の一番だった私を、一学期の委員長と副委員長に決めたのがきっかけで仲良くなったんだっけ。でも、二年生の頃は好きな人がいて、私も相談にのったことがある。振られちゃったみたいだけど。
そういえば一度だけ、優樹くんにデートらしきものに誘われたことがあったっけ。たしか、半年くらい前、六月のことだった。
「透子さん、映画とか好き?」
梅雨がはじまって、毎日のように雨が降り続いていた日のことだ。優樹くんが唐突にそんなことを聞いてきた。
「映画?うーん……嫌いじゃないけど」
「ショートフィルムって言ってさ、十分から十五分くらいの映画があるんだ。友達の中沢が突然行けなくなってさ……来週の土曜日空いてないかな?」
「ふうん、面白そうだね。いいよ、一緒に行こうか」
そういうわけで、二人でそのフィルムを見に行ったのだ。
それはなかなかに面白かった。
ドイツのヒットラーを風刺したものや、侍の乱闘シーンを所々スローモーションを入れて描いたものとか。
「短いのに、よくあんないろんなもの撮れるなー」
見終わった後、二人で喫茶店に入って話をした。いつもは物静かな優樹くんが、すごく興奮していたことを覚えている。映画とか舞台が好きで、将来は脚本家になりたい、というようなことを話していたっけ。
好きな事を一生懸命語る優樹くんに、少しだけどきどきした。でも、恋にはならなかった。そのときはもう、私は三沢先生が好きだったから。
私はもう一回ため息をついた。
叶わない片思いをするよりかは、両思いになれるかもしれない相手に目をむけるほうが、楽かもしれない。
でも、今の私には先生しか見えない。
たとえ叶わなくても。
最終更新:2006年07月23日 18:24