5-897「親友」

久しぶりにキョンに会って、こんなに心が揺れるなんて思ってなかった。
昔みたいに他愛のない話ができると思っていた。
こんな気持ちはもうとっくに過去になったと思っていた。
僕が自分の気持ちを抑えていられる間に……でないともうあの頃には
戻れないから……



「キョン、急に呼び出して悪かったね。コーヒーでよかったかな?」
「あぁ、それよりも大事な話って?」
あぁ、キョン…そんなに急がないでくれないか。
僕にだって迷いが無い訳じゃないんだよ。

「キョン……キミはどうしてSOS団にいるんだい?」
「どうしても何も、ハルヒが無理矢理俺を巻き込んでだな…」
キョン、涼宮さんの話をする時はいつもそんな顔なのかい?
ひょっとして気付いていないのかな?少し困ったような、でも目がキラキラしてるよ。
キミの表情を見るだけで、SOS団と涼宮ハルヒがキミにとって
どれだけ重要で、大切かがわかるよ。
だから……こんな事を言う僕を許して欲しい……
自分の気持ちの為だけにキミに決断をせまる僕を……

「くっくっ、じゃぁ、キョンはこの一年涼宮さんに振り回されっぱなしだった訳だ」
「まったくだ。アイツのせいで俺がどれだけ苦労したか……やれやれ」
「…………」
「佐々木?」
「キョン……」
「どうした?」
キミはずるいな。そんなに優しい目で促されたら僕の決心が鈍ってしまうじゃないか。
いや、こういうキョンだからこそなのか、僕があれほど敬遠していた精神病にかかって
しまったのは……
「……キョン……橘さん達に会って……全てではないけれど、キミの話を聞いたよ。
そして、キミと出会って涼宮さんがどんな風に変わっていったのか……。涼宮さんに
嫉妬したよ。あぁ、そんな顔をしないでくれ。僕が常々恋愛感情なんて精神病だと言って
いたのを思い出しているんだろう?あの頃の僕は確かにそう思っていたよ。でも、それは
間違っていたんだ。会えなくなって初めてわかった……僕は精神病にかかっていたんだって事を。
……気付くのが少し遅かったけど」
「佐々木……お前……」
「そこでだ、キョン……キミは涼宮さんの事をどう思っているんだい?」
「どうって……ハルヒと俺はただの団長と団員その1であってだな」
「あぁ、僕の質問の仕方が悪かったようだね。
キミはこの手の事は苦手だったという事を失念していたよ。
つまりこういう事だよ……キミは涼宮ハルヒの事が好きかい?」
「むぅ…………わからん……」
「キョン……僕はキミと親友だと思っているし、これからもそうありたいと思っているよ。
だから、キョンには僕のようになって後悔はして欲しくない。それに……涼宮さんが
キミに好意を抱いているのも気付いているんだろう?そして自分自身が涼宮さんの事をどう
思っているかも気付いているんだろう?気付いていているのに気付かないフリをして
いるんじゃないのかい?」
「…………」
「前に涼宮さんは世界を造り変えようとしたらしいね。その時キミもその場にいた。
そして、改変を止めた。その時キミは何を思っていた?」
「なんでそれを……」
「くっくっ、こちらも色々と個性的なメンバーが揃っているからね。質問をはぐらかさないで
くれよ。そして、長門さんだっけ?彼女が世界を改変した時もキミが一役買ったそうじゃないか。
その時キミは誰を思っていた?」
「……それは……」

「キョン……キミが自分を誤魔化す、という事は同時に涼宮さんを傷つけてしまう事なんだよ。
キミがそんな事を望んでいなくてもね。キミは涼宮さんの気持ちに向き合わなくてはいけない
んだよ。ひょっとして、本当にキミは涼宮さんの気持ちに気付いていないのかい?
だとしたら、それは涼宮さんにとって……残酷過ぎると思わないかい?」
「……佐々木、そうかもしれない。俺は気付かないフリをして逃げていたのかもしれない。
ハルヒの気持ちから。そして自分に言い訳をしていた。これはハルヒの為なんだって、
SOS団の存続をハルヒも望んでいるんだから、いいんだって……思っていた……」
「中途半端な優しさは時に人を傷つけるものさ。特に男女の関係ではね。くっくっ」
「佐々木……」
「ちゃんと涼宮さんに伝えるんだよ。自分の気持ちを……好きだって事を」
「う…わ、わかったよ」
「キョンにはここまで言わないとね、くっくっ」
キョン、感謝される事じゃないんだよ……僕が言わなくてもいずれキミは自分の気持ちに
気付いただろう。ただ、僕は自分の気持ちがこれ以上揺れてしまわないために……背中を押した
だけにすぎないんだ……そうしないともう自分を押さえられないんだよ……そうなったらもう
友達には戻れないんだ……僕はせめてキミの親友でありたいんだよ……僕のほうこそ傷つくのが
怖い臆病者なんだよ……キョン……

「……そろそろ出ようか」
「ん、そうだな」
「送っていくよ」
キョンは優しいね。でも、こういう時は一人にしてあげるものだよ。
さっき、中途半端な優しさは人を傷つけるって言ったばかりじゃないか。
まだまだ、修行が足りないね。
「くっくっ、遠慮しておくよ。少し寄る所もあるしね」
「そうなのか?」
「そういう事にしておいてくれないか」
「?…まぁ、それならいいんだが。気をつけてな」
「バイバイ……キョン……」

終わった……こうなる事は判ってた。いや、こうなる為にキョンを呼び出したんじゃないか。
だから、全然辛くない……哀しくない……。最初から予想していれば、自分の気持ちを
コントロールするのは簡単なんだ……今までだってそうして来たじゃないか。
っと、こんな時にメールとは無粋な奴だな……キョン……から?

―――

送れなくてすまん。
そして今日はありがとう。
やっぱり、佐々木は俺の
大事な親友だよ。
じゃあ、またな

―――

ずるいよ……キョン……せっかく、家に着くまでは涙を出さずにすみそうだったのに……
こんなに簡単に決意を崩してしまうなんて……キョン……キョン……キョン!
キミに親友だと言われる事……僕の恋が終わるという事……それがこんなにも哀しいなんて……
キミの親友だというたった一言がこんなにも僕を救ってくれるなんて……
言葉にすればたったこれだけの事に僕はどれだけ遠回りをしたんだろう?
……涙で画面が見えないよ……ホントはもっと伝えたいけど、手が震えちゃって……
今日はこれだけ……ごめんね……キョン

―――

ありがとう
またね

―――



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最終更新:2008年01月29日 20:49
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