3月某日、中学の卒業式が終わり クラスでの打ち上げが終わると
皆 名残惜しそうにしながらも 各々の帰路につく
おっと、俺は何故こんなにも傍観者を……俺も寂しがっているのか?
まぁいい、今日は運命の日だと考えながら佐々木のもとに足を向ける
「ねぇキョン」
ビクッと体が反応する。
「なんだ、国木田か おどかすなよ」
「キョンが勝手におどろい……」
国木田は俺がどこに行こうとしていたかを悟ったらしく一時停止したのち、言葉を続ける
「成程、これはお邪魔だったようだ。二次会に誘うつもりだったが、仕方がない。
同じ高校に入れたんだ、いつでも会えるしね」
「そいつは有り難い」
「では、皆で退散するとしよう。じゃあね」
そういって、さっそうと皆を連れて退散する国木田
俺もいい友を持ったものだと思いつつ、本来の目標へ歩みよる
「佐々木、」
自分の顔が赤くなるのを感じ、言葉につまる
「なんだい?キョン。柄にもなく難しい顔をして」
佐々木は冷静なもんだ、羨ましいぜまったく
「お前は愛情と本能がどうという話をしたが、それについて話をしたいんだがいいか?」
「これは、マーヴェルとでも」
marvelとは失礼な俺がどれだけ考えたものか
「失敬、でも君から話しがでるとはね。聞かせてくれないか」
いいだろう この人生のかかった話をよく聞け
「愛情と本能は分離できない。いや、同一のものだと俺は考える。人が生きていく以上ノイズは避けられない。何故なら、それが人間ってやつだからだ」
「君の言う事は分からないでもないが……つまり?」
佐々木はゆるやかに微笑んでいる
分かっていて俺に直接的な言葉を要求しているのか?
それがどんなにつらく、苦しく、こわいか分かっているのか?
佐々木は ささっつづきを と言った視線を向ける
仕方がない、言わなければ先に進まん
「つまりだ、俺はお前を本能的にほっしている」
言ったぞ、言い切った。言い切ったんだ。
「キョン、まだ直接的とは言いがたい表現だね」
佐々木め、まだ言わせる気なのか?
「しかし、それはとても勇気のいることだ。いまいち直接的でない言葉であってもだ。現に僕には言うことができなかった。」
こいつ、楽しんでやがったのか?
俺が今まで感じた事のない入試のモノをもしのぐプレッシャーを感じていたのを……
いや、まて 現に僕には言うことができなかった だと?
つ つまり……
ん!?
佐々木の方を見た途端、唇に柔らかい何かが重なる
俺はそれが佐々木の唇であることに気が付くのに、何秒かかっただろう
今日の俺は動揺しっぱなしだな
そして、佐々木の唇が離れ 言葉をつむぐ
「キョン、僕も大好きだ」
そう言った佐々木の瞳がうるみながらも、今まで見たこともない笑顔が
――女の子のそれが
夕日のさしこむなかで自然にそこにあった
その顔はとても綺麗で可愛くて、忘れるなんざ有り得ない、そう思える笑顔だった。
そうして、俺達は自他ともに認めるカップルとなり
抱き合って永遠を感じようとも問題はないハズなのだが、
塾の打ち上げという弊害が存在し
サボタージュをきめこむつもりだった俺に
「キョン、こういう事は大事にしなくては嫌われてしまうぞ?」
などと佐々木が小悪魔じみた顔で言うからであって
俺に抱きつく勇気がなかったわけでは断じてないと自己弁護してしておこう
しかし、塾で皆がニヤニヤしながら此方を見ていたのはどういうことなんだろうな
まぁいい これもひとつの人生だ
これから出会うであろうデンジャラスなヤツには諦めてもらうしかないだろうな
宇宙人に未来人、超能力者の皆さまには頑張っていただく方向で……
「キョン、何を考えているんだい?まさか、他の女の子の事を考えていたんじゃないだろうね。」
人の心を察知するのが得意なヤツだなと思いつつ、棒読みに気を付けながら弁解する
「そんなわけないだろ、それに感謝もしてる。高校に行けたのはお前のおかげだからな」
「やや棒読み気味なのは気のせいということにしておくよ、キョン
しかし、高校に進学が決まっても安心できる成績ではないのだろう?」
それは、そうだが これから春休みだぜ、どうしろと言うんだ?
「高校に向けての勉強をすべきだ ということさ」
なっなにおっしゃるウサギさん
「当たり前じゃないか、高校でもご母堂に心配させる気なのかい。
もしそうなら僕は友人として、いや恋人として君を正さねばなならない
それに大学こそは一緒に行きたいしね」
やや赤面ぎみの佐々木
俺は世界一の幸せものだ と感じるこの瞬間は恋人同士特有のものなんだろうな
「それはそうと今日はパーっとやろうじゃないか、メリハリが大事なのだよ」
そうだな 今日はパーっと行くか
「それじゃあみんな、キョンが音頭をとってくれるみたいだから」
と知らないうちにかつぎ上げられ、仕方なくカンパイと声をあげる
そして皆が盛り上がるなか、俺だけに聞こえるように呟く佐々木
「今晩から両親は旅行なんだ」
えっ?と佐々木をみると
佐々木はあのときの様な笑顔を俺に向けていた
~完~