35-610「朝起きて台所に行くと佐々木がスイカを切っていた」

 まだ早朝だというのに既に暑い。寝苦しさに耐えかね、たまには妹より早起きしてやろうと
ベッドを抜け出すと、台所で意外な人物に出会った。
 
「佐々木!?」
「おはようキョン。といっても、まだ寝ぼけているみたいだね、昔の呼び方で呼ぶなんて。
僕が佐々木だったのはもう10年も前の話だよ。なんて、私も人のことは言えないか。
未だにキミと二人きりの時は、つい『僕』という一人称を使ってしまうから」
「いや、いいさ。久方ぶりの二人きりの時間なんだから、新婚気分を満喫しようぜ」
 
 ああそうだ、やっと頭がはっきりしてきた。
 
「残念だったね、一緒に帰省出来なくて。お義祖母さまもキミに会えなくて寂しそうだったよ」
「愛する嫁とかわいい子供達を食わせていくためだ、仕方が無いさ。
それよりお前こそ悪かったな、子供達を送り届けてすぐとんぼ返りさせちまって。
あいつら母親居なくて泣いてないか心配だ」
「その心配は無用だと思うよ。キミの妹さんも保護者役を買って出てくれてるし、なにせ僕等の子供達だ、
口煩い親がいないのを良いことに、思い切り祖父母に甘えているかもしれない」
 
 我が子ながら生意気そうな顔が目に浮かぶ。俺が小さい頃はもっと素直だったと思うんだがなあ。
 
「どうだかね。そうそう、こっちに帰る時に、お義祖母さまから二人で食べてってスイカを戴いたんだ。
今切るから待っていてくれ」
「解った」
 
 田舎の子供達のことは妹に任せておくか。下手したら未だに十代に見られかねないが、あいつだってもう立派な大人なんだ、
何日か子供二人の面倒を見るくらい出来てもらわねば。
だけど、やっぱり来年は家族揃って帰ってやりたいな。ついでにそん時はもう一人くらい家族が増えていてもおごっ!?
 
「おはよーキョンくん、朝だよっ♪どんな夢見てたの?すっごく幸せそうな顔してたよ」
「お前ももう6年生なんだしボディプレスは止めろと言ってるだろ。それと夢なんか見てない」
「ぶー、キョンくんの嘘つき。いいもん、キョンくんの分のスイカ食べちゃうんだから」
「な、こら待て!」
 
やっぱりコイツに子供達は任せられん、俺がしっかり見守ってやらねば。
…………って、子供どころか彼女さえいない俺が何でこんな心配してるんだろうな。佐々木にでも聞いてみよう。
と、思ったのも併せて。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年08月31日 17:07
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。