俺は佐々木の誘いで梅田の通称ツインタワーにやってきた
「キミの通称と同じで、僕達の間では通称の方が有名だね。くつくつ」
「正式名称は何だっけ?」
「えーと・・・」
記憶力の良い佐々木でもそういうことがあるんだな。しかし、そうなると一つ気になることがある。
「もしかして、俺の本名も忘れたとか?」
「それは無いよ○○君。それとも下の名前の方が良いかな?」
さすがに忘れ去られてはいなかったみたいだ。良かった。
だが、高校からの友人は俺の本名忘れている危険がありそう。
ちょっと気分の良い俺は、ちょっとした軽口を叩いた。
軽口の冗談には違い無いが、内容がちょっとだけ問題だっったかな?
「本名でも上の名前でも下の名前でもどうでも良いけど、どうせならマイダーリンという枕詞をつけて欲しい」
「・・・」
「・・・」
俺のベタな冗談のおかげで、気まずい沈黙が流れる。
全然本気じゃないから、軽く流してくれませんか?佐々木さん。
「・・・」
「・・・」
何でもないほんの軽い冗談のつもりで、佐々木もそれがわかっていたが
佐々木の返した冗談のおかげで、その後俺は酷く誤解されることになる。
「マイダーリンキョン。今日は久しぶりにホテルに行こうか?どのホテルが良い」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」M・・・T・・・R,fujiko
さすがに赤面した。
100%の冗談がわかっていても女の子にそんな事を言われたら誰だってそうだろう。
「ホテルだなんて、仮にも女の子がそんな・・・」
「何言ってるんだ。マイダーリン。久しぶりにホテルで一緒に食事しようという話じゃないか」
クスリと笑う佐々木は、本当に楽しそうだ。
「そうだな、すまん。そこは佐々木に任せる」
佐々木はベタ惚れの恋人に甘えるような甘い声で言う。そう演技しているだけなんだろうけど
「マイダーリン。僕を呼ぶ時はマイハニーと言って欲しいなー」
「いや、その」
「どうしたのマイハニー?さっきから顔が真っ赤じゃないか」
佐々木は本当に生き生きしている。
「いや、それは恥ずかしいかや止めてくれ。お願いだから」
「嫌だと言ったら?」
ずっとそう呼ばれたら、俺は恥ずかしくて外を歩けない。
「頼むから止めてくれ・・・マイハニー」
何故か、そう言わないと止めてくれないような気がした。
その時は、それで問題は解決したと思っていた。
俺の高校の某モブキャラカップルが目撃していなければ、それで解決していたはずなんだろうけど。
そんなこんなで、冗談を飛ばしているとツインタワーが見えた。
「着いたね」
「思ったよりでかいな」
「一度来てみたかったんだ。高い所に登るのは人間の本能なのかもしれないね。くつくつ」
「これって、ある事件で壊れたアメリカの国際センタービルを」
「それを参考にして作られたらしいね」
この高いビルの屋上が、明日まで開放中だ。
そして屋上でに上がった俺達だが、そこで予想外のことが起きた。
屋上では、佐々木の様子が明らかにおかしかった。
「どうした?佐々木」
「いや、何」
「どうした。顔が真っ青だぞ」
「別に高い所が怖いわけじゃない」
無理しているけど、怖いんだな。
「一旦降りて出直そう」
そう言って、佐々木と2人で降りようとした。
「待ってくれ、動かな無いでくれ」
俺に動くなと言った佐々木は、俺の腕にしがみ付く。
「私は怖くなんかない。せっかくのキョンくんとのデートなのに。ゆっくり見物したいの」
「お願い、キョンくん」
ドキドキドキドキ
佐々木の胸の鼓動を腕に感じる。それとも、鼓動が高まっているのは俺の方なのか。
強がるのは結構だが、大丈夫か佐々木。
「そうだな、しばらく歩くと気分も落ち着くかも」
「そうだわね」
しばらく、円周状の廊下だけの屋上をグルグル回る。
佐々木はよっぽど怖いのか、俺の腕をつかんだまま離さない。
しばらくすると、佐々木の顔色は随分明るくなり、二言三言話せるようになった。
でも、依然俺の腕をしっかりと胸に抱えたまま離そうとしない佐々木。
「しかし、思ってたよりでかいんだな」
これは、朝比奈さんには劣るが、充分あると言える。
「ハア?」
佐々木は俺の言う事が理解できずに、あっけにとられている。
「いや、何。淀川だよ。こんなでかい川だとは思わなかった」
「そうだね。関西一の大河だからね。西は大阪湾。東には生駒山脈、眼下には10階、20階を超えるビルを見下ろして」
「何本も橋がかかっているな。あれが、俺達が来る時使った電車の線路か」
「こうして見ると、大阪も広いんだね」
「そうだな」
世界には、もっといろんな所があるんだろうな。そして、日本の中にも、行ってない所がいくらでもある。
「そういや、アマゾン河やナイル河はもっとでかいんだろうな」
「見てみたい?」
「うん、すごく」
「僕もだよ。僕はキミといつか一緒に見てみたいと思う。キミの方はどうかな?」
まるで、婚前旅行を申し込むような雰囲気だ。
「俺も、佐々木と一緒に見てみたいと思う」
「じゃあ、約束だよ。私とキョンくんの」
そうして、俺は佐々木と指きりをした。
最終更新:2008年12月29日 23:06