喉の奥を響かせるような音。
「なんだよ急に笑ったりして」
「思い出し笑いさ。キョン、妹さんは元気かい?」
「ああ、ウンザリするくらいにな。時々耳栓がほしくなる」
「甘えたい盛りなのさ。どんと構えて、受け入れて上げなよ。それが兄たる者の矜持ってものじゃないのかい?」
「言うは易く、行うは難しさ。実際まともに付き合ってたら次の日寝込んじまうに決まってる。
精根尽き果てたミイラになっちまうわ」
「それは大げさというものだろう? キョン。
以前一緒に水族館へ行ったときは、帰り道に彼女を背負って帰るくらい余力があったじゃないか」
「あん時よりはでかくなってるよチンチクリンなりにな。今なら引っ叩いてでも起こして、自分で歩かせるね。
帰り道ずっと背負い続けるなんてとてもとても……なんだよ佐々木」
「くっくっく、出来もしない冗談では誰も騙せやしないよ?」
「そうか?」
「そうさ。キミの順法精神は先刻、自転車置き場で充分に拝見させてもらったからね」
「やれやれ。とっとと声を掛けてくれればいいものを」
「少し見とれてしまってね」
「……は?」
「キミがあまりに変わっていないから」
「……少しは身長が伸びたんだがな」
「そうかい? でもそれは僕も同じだから、きっと身長差は変わっていないんじゃないかな。
……くっく、あの時は手を繋いでいたから、歩幅を合わせるのも大変だったけどね」
「ん? ……ああ、まぁ手繋ぎってのはなぁ」
「キミも僕も妹さんも、それに……吉村さんだっけ? みんな見事にコンパスがバラバラだったからね」
「そうだな。あー、ミヨキチといえば、あの子ますます背が伸びてな。今や高校生でも通じそうなくらいだ。
きっと見たら佐々木もビックリするぞ」
「そうかな」
「そうさ。もう雑誌に掲載されても違和感ないくらいの美少女に成長してるからな。
きっと同じクラスの男子連中は全員ヤキモキさせられてるに違いないぜ」
「……今でも、会ったりするのかい?」
「ん? ああ、まぁたまにな。遊びに来て、帰りに送ってやったり」
「夕飯を食べたりも?」
「する時もあるが……。それがどうかしたのか?」
「いや、なんだか懐かしくてね。水族館の後お邪魔したとき、賑やかに食べる夕食は格別の味だったから」
「なんか誤解がある気もするが、いつもがいつもあんなんじゃねーぞ?
あん時はゲストが2人も居たからお袋が張り切っちまっただけだ」
「そうかい?」
「そうさ」
「なら今晩にでも僕がお邪魔すれば、またあの格別な晩餐を味わえるというわけだね?」
「……まぁ、そうなる、かな?」
「くっくっく、冗談だよキョン。いくらなんでも再会したその日の夜に押しかけるほど僕は厚かましくない」
「ならいいんだが」
「それよりショックだね」
「なにが?」
「キミが一瞬にしろ、僕が『再会してすぐ家まで押しかける厚かましい人間』だと疑わなかったことさ。そんな風に思われていたとは、ね」
「やー、すまんな。最近その手の厚かましい人間ばかり相手にしてるから、疑問の余地なく信じちまった。
佐々木は良識と常識を兼ね備えた人間だというのにな」
そう言葉を伝えると。
喉を鳴らす、独特の音がする。
「……でも、そうだな」
「ん?」
「厚かましくなるつもりはないけれど、それでも、あんなに楽しい時間を期待するのに否やはない。
もしキミが構わなければ……そんな機会を、もう一度設けてはもらえないかな」
「晩飯を食いに来たいってことか? 別に構わんが。
……そうだな、妹やミヨキチの予定も訊いて、時間が合いそうな時にまた集まるか。きっとミヨキチも喜びそうだ」
「……そうだね」
「なら早速。佐々木の電話番号、教えてもらってもいいか?」
「え? あ、……うん」
チョコレートと間違えて碁石を口に入れたような、素っ頓狂な声がした。
オシマイ)
※作者注『驚愕』発売前にプロットを考えたため、キョン妹が佐々木を呼ぶとき『佐々木お姉さん』
ではありません。パロディという事で大目に見てやってください。
というか『お姉さん』って、ちょっと他人行儀すぎますよね?
作者さん:ken ◆AEiPDPXrnI
pixiv掲載作品 ttp://www.pixiv.net/novel/show.php?id=272953
最終更新:2012年03月11日 22:46