65-459 ディナーへようこそ!「2-遊びタイムはごいっしょに」


 また別の日。
「キョンくん今日も遊べない~?」
「……だから扉を開ける前にノックをしなさい。マナーを身に付けないと大人になってから困るぞ」
「はぁい」
 そして、コン、コン、とドアを叩く。
「……これでいい?」
「開けたドアにノックしても意味がないんだがな」
 やれやれと溜息ひとつ。
「まぁいい。それで何だ、遊ぶだと?」
「うん、ミヨちゃんもいっしょだよ?」
「……あの、お邪魔してます。お兄さん」
 髪を一つに結い上げたミヨキチがそこにいた。
 赤いスウェットのパーカーに、デニムのスカート。胸元にはレースの刺繍が覗いている。
 そしてさらに、ミヨキチはポニーテールであった。

「……なるほど。今日は塾もないし、たまにはいいか。よし遊ぶぞ!」
「わぁい!」
「あは、うれしいです」
 歓声を上げる二人の小学生。
 こんなに喜んでくれると俺まで嬉しくなってくるじゃないか。
「よし、じゃあ『ムジュラの仮面』の続きをやるからお前たちは攻略本を解読してくれ。
 俺が詰まったら質問するから速やかに答えるんだぞ」
「わかりました、お兄さん」
 笑顔で頷くミヨキチ。
 なのに妹ときたら仏頂面になりやがった。
「えーー!!キョンくんまだそのゲームやってたのー?」
※(『涼宮ハルヒの憂鬱』初版が2003年発行なので、中三時、2002年を想定してます)

「うむ独りだと中々やる気が出なくてな。こういう機会に少しでも進めておきたいと――」
 俺の懇切丁寧な説明を、妹が遮った。
「見てるだけなんてやだー! スマブラやろスマブラっ!」
「だがこの描写の芸術的美しさを鑑賞する事で感受性がだな」
「やだ! スマブラっ!」
「……く、仕方ない。次は手伝えよ?」
「うんっ!」
「返事はいいんだよな全く」
「クスクス」


「――なるほど。それで宿題を忘れたという訳かい?」
 笑顔のまま嘆息するという器用な真似をして、佐々木は俺を見た。
「まぁ、なんだ。途中まではやったんだぞ」
「で、足りない分は写させてほしい。……そう言うんだね?」
 円弧を描く眼差しのまま、俺を覗き込んでくる。
「……うむ。まぁ概ねその通りだ」
 なんとか頷く俺。
「構わないよ」
 あっさりと応えて席へ向き直り、
「ただしココとココの証明文は表現を変えてくれよ」
 佐々木はノートを取り出して、俺の机に広げた。
「わかってるって! サンキュー佐々木っ!」
 早速自分のノートを取り出し、俺は模写に取り掛かった。

「それでだ、キョン」
「お、なんだ?」
 残された時間は少ない。
 眼と手はノートへ走らせたまま、口と耳だけで会話に応じる。
「その、吉村さんは、そんなに遅くまで君の家にいたのかい? 宿題に手がつかなくなるほど?」
 変なこと訊くんだな?

「いいや、すぐ帰ったぞ。実はそん時『ムジュラの仮面』をやれなかったのが引っ掛かってな。晩飯の後ちょっとやり始めて――」
「ああ、そう」
「――気付いたら11時でな。それほど夢中になったのはやはり――」
「ノートを写さなくていいのかい? 放課の時間は有限だよ」
 心持ち、声の温度が低下したようだ。やれやれ佐々木、お前もか。あの面白さをどうして理解できないのだ?
「……お前も妹と一緒で冷たいな。俺の味方はミヨキチだけだ」
「そうか。僕がキミの敵になっていたとは知らなかった。幸い数学は4時間目だし塩を送るほどの窮状でもなさそうだね。ノートは返してもらうとしよう」
「待って佐々木大明神!」
 遠ざかるノートを押さえ込む。

「僕を横浜所属のフォークボールピッチャーみたいに呼ばないでくれ」
 佐々木が眉根を寄せる。
「なに言ってんだ。俺にとってはそんな面識もない大魔神より目の前の美しい女神さまの方がずっとありがたい存在だぞ。もう何度でも拝伏したいくらいだ。だからノート見せて」
「……全く、キミというやつは。ほら」
 嘆願の成果が俺の目の前に戻ってきた。
「ありがとう、ありがとう」
 さてさて、また何の拍子で怒るか解らん。早めに終わらせなければな。
 俺の目も手も複写を終わらせる事を焦眉と見定め加速する。

「……キミが、そんなにゲーム好きとは知らなかったな」
 ポツリと零れた言葉が聞こえた。
「いや中毒ってほどじゃないぞ。でもほら、たまにやると止まらなくなるんだ。それが面白いゲームなら尚更な」
 その素晴らしさへの共感が得られないのが、かなりもどかしい。
「なるほどね」
「ちなみに面白いといってもやはり“至高の名作”ともいえる『時のオカリナ』には及ばないがな。なんといっても自由を感じる広がりというか――」
「キョン、手が止まってる」
「おっと。じゃあ詳しい話はまた後でな」
「……やれやれ、だよ」


 ~帰り道、小学校から~
「キョンくんミヨちゃんには優しいよね」
「そっ……かな」
「だからさ、きっとおねだりすればイヤっていわないと思うんだ」
「な、なにをおねだりするの?」
「それはほら、一日デートとかさ」
「えぇえええっ?」


 ~帰り道、中学校から~
「……というわけでゲーデルの不完全性定理は数多く誤用されているというわけさ」
「いやはや。お前そんな難しい本まで読んでるのか」
「内容の難しさと、それを理解し活用できた時の喜びは得てして比例するものだからね。つい手を出してしまう。だけどキミは、どうやら違う見解のようだね」
「まぁな。必要なものは手の届く範囲、まぁ少しくらいは手を伸ばして届く範囲にあるくらいでいい。脂汗流してまで高い所にある物に手は伸ばさんよ」
「だけどソレは、踏み台を活用するだけで届く物かもしれないし、一年後には背が伸びて、容易に取れる物かもしれないよ?」
「なるほど。ゼルダでも届かない場所に見えるハートの欠片が、フックを手に入れた後では難なく辿り着けるってのがよくあるからな。まあフックを手に入れた時に、その場所を思い出せるかどうかが鍵になるが」

「キミは本当に、そのゲームが好きなんだねぇ」
 そう嘆息する佐々木に、だけど非難の色は感じられない。今度は自分が聞き役と思っているのかもな。
 じゃあと意気込みかけて、ふと思いつく。
「佐々木、お前ゲームってやった事あるのか?」
「TVゲームに限定するなら、うん、ないね」
「なるほど、それで名作たるゼルダを知らんのか。しかし今どき珍しいやつだな」
「そうかい?」
 俺は心底驚いたというのに、佐々木は平然としたものだ。
「まぁ環境の違いというやつだろうさ。『TVゲーム』なんて、普通は男子が熱中するものだろう?」
 いやでも、うちの妹は結構はまってるぞ。
「僕にも男兄弟がいたならそうなっていたかもね。だからさっきも言った通り、『環境の違い』という訳さ」
 なるほどな。

「で、興味はあるのか?」
「キミがそれほど熱中するものに、無関心でいるのは難しいね」
「そうだろーそうだろう」
「嬉しそうだね。別に僕を無理に誘わなくても、一緒にゲームをやる友達くらい他にいるだろう?」
「ゼルダは一人用のゲームだからな。対戦格闘とかと違って不評なんだ」
「“タイセン格闘”?」
「ああ。今を去ること1991年に出回ったストⅡに始まるゲームの流れでな……」
 ニコニコ笑って、佐々木が俺の話しを聞いている。

 そうして、週末に勉強がてら『お勧めゲームをプレイ』するという約束をして、俺たちは二人乗りで塾へと向かった。
 でも何でこんなに必死だったんだろうね? 我ながらよう解らん心境だ。


 ~一方その頃~
「……あーやって火曜と木曜は『二人乗り』で塾へいくんだよ。学校が休みの土曜日はぁ、違うみたいだけど」
「そ、そうなんだ……」
「でも時間の問題かも」
「え、ど、どうゆうこと?」
「仲良くなったら土曜日でも待ち合わせ。それどころか『塾へ』なんて理由も必要なくなって――」
「な、なくなっちゃうの? なくなっちゃったらどうなっちゃうの?」

「デートするんだよミヨちゃん! デートして、キスとかして遊ぶんだよ!」
「で、デート? き、き、キス? あ、あああ、遊ぶ?」
「そうなったらキョンくんの空いた時間全部、ササにゃんにとられちゃう! ミヨちゃんそれでもいいの?」
「よくない!」
「なら作戦決行だよ、ミヨちゃん……!」
「わ、わかった……」


 んでもって土曜日。
 学校が休みのために塾も午前から始まり、そして午後には終わっていた。
 つまり時間が出来たわけで、そして俺は約束を覚えていた。佐々木はどうかな?
「さて、行こうか」
 隣に立つ佐々木が俺に笑顔を向けてくる。俺は小さく「ああ」なんて答えてから、どうして土曜日は連れ立って帰らないのかを思い出していた。つまるところ塾の終わる時間は同じなのだから火曜や木曜みたいに自転車を押しながら、お喋りをして帰っても構わないはずなのだ。なのに何故それをしないのか?
 答えが知りたければ、周囲を見渡してみればいい。

 佐々木の肩を叩き「じゃね!」なんて去っていった女子は俺にも見覚えがある、すなわち同じ学校の女生徒だった。
 その声、態度、表情、佐々木の返事を総合して鑑みるに、おそらく友達なのだろう。そして俺は振り向かなかったけど、彼女から送られる視線を頬だったり首筋だったりに感じていた。俺になんか笑みを向けなかったか? 何かを含めて寄越すような目つきで。
 そして恐ろしい事に、この塾で同じ学校の生徒は他にもいる。
 そして尚さらに恐ろしい事に、あちこちそちこちからの視線を感じるのだ。気のせいか? 気のせいだと良いのだが。

「どうしたんだい? キョン」
 並んで歩き出してから、佐々木が俺を見上げた。
「別にどうもしないさ」
 とりあえず強がってみる。
 平日の夕闇の中なら『ただ帰る方向が同じだけ』と装えるが、この時間のこれはまさに『今から一緒に遊びます』といった体で、そしてそんな2人を俺たち自身は『友達』と思っていても周りの目や言葉が明らかに違う何かを指すのなら俺は何か反論すべきなのか?
 ただモヤモヤとそんな思考が渦巻く俺に、
「……キミはキミだし、僕は僕だ。そうだろう?」
 佐々木が囁いた。
「自分たちの事は自分たちが一番よく解ってるのだから、周りが誤解する可能性を気に病む必要はないんじゃないかな。疑心が暗鬼を生むだけだよ」
 俺の煩悶は、どうやら顔に出ていたようだ。頬を撫でて佐々木の言を考える。

「そうだな」
 佐々木の言う事は正しい。周りがどう思おうと、俺たちは俺たちじゃないか。
 だけどまだ沸騰しきらないヤカンから漏れるような、吐息が一つ空に零れた。
「受験が近い。誰もが神経過敏になる時期さ。だからこそ、今日の気分転換じゃないか」
 肩の辺りをポンと叩かれる。
「キミが教えてくれるゲーム、名作だって言ってただろう? ジャンル種別を問わず、名作という存在は心を打ち震わせてくれるものだ」
 いつか見た夏の星空みたいな眼差しで、
「僕はすごく楽しみにしてるよ、キョン」
 佐々木は笑った。


「きたよきたよ帰ってきたよ! ミヨちゃん準備はいい?」
「ほ、ほんとにやるの?」
「作戦はかんぺき! 迷うことないよ、ミヨちゃん!」
「う、う~……ん」

「ただいまぁ」
「おじゃまします」

「おかえりキョンくん!」
「お、おかえりなさいお兄さん、その、お、おじゃましてます」
「あれ、ミヨキチ来てたのか」
 おお、しかもポニーテールじゃないか。人形みたいに白い顔立ちのミヨキチにとても良く似合うなぁ。
「は、はい。お兄さんお久しぶりです」
 なんて眺めていたら、みるみるミヨキチの顔が赤らんでいく。
 恐縮したように頭を下げるミヨキチ。テールがぴょこんと垂れ下がり、起き上がった。

「お久しぶりね吉村さん。――と、私もキョンに倣ってミヨキチちゃんと呼んでいいかしら?」
 ニッコリ微笑んだ佐々木が、剣道家のような静けさで進み出る。
「あ、え」
 小さく単語をもらすミヨキチ。
 そんなの勢いで言っちまえばいいのに。変に礼儀正しいのも場合によりけりだぞ佐々木。ミヨキチが戸惑ってるじゃないか。
 まぁいい。フォローしとこう。
「構わないだろ。なぁミヨキチ」
「あ、はい。どうぞお好きなように……」
 そう答えるミヨキチの目は、俺を見たり佐々木を見たり俯いたりと忙しない。何だ?
「良かった。じゃあこれからもよろしくね、ミヨキチちゃん」
「は、はい。よろしくお願いします」
 佐々木が差し出した手を握り、二人が握手をする。

「で」
 俺はジロリと妹を見て、頭を掴む。
「こんな所でお出迎えなんて、用でもあるのか?」
「んふふ~」
 ふにゃふにゃと笑った後ビシっと俺を指差し、
「キョンくん勝負!」
 と叫んだ。

「は?」
 なに言ってんだバカ顔洗って眼ぇ覚ませというニュアンスを込めた単音節の返事を投げ返す。が、妹は全く動じない。
「キョンくんが負けたら明日は一緒に遊ぶからね! というか勝った人と2人きりで!」
 妹よ、お前が何を言ってるのかお兄ちゃん解らないよ。
「でキョンくんが勝ったらぁ、あたし、キョンくんのこと『お兄ちゃん』って呼んでー、毎朝やさしく起こしてあげる」
「それは等価の条件になっているのかい?」
 くつくつと笑いながら、佐々木が俺を見る。
 む、確かに寸毫心が動いたが甘く見るなよ佐々木。こんな安い挑発に、俺が乗ると思うのか?

「お、お兄さん。私からもお願いします」
 ミヨキチが頭を下げてポニーテールがピョコンと垂れた。そして垂れ下がった髪に隠れていた項がキラリと白い輝きを放ち、俺の目に鮮烈な感動を焼き付ける。瞬きしてる間に姿勢を正したミヨキチの項は隠れてしまったけれど、俺が受けた衝撃は余韻を残すに充分なわけで――
「キョン」
 脇腹に佐々木が指を刺してきた。驚きと痛みが脳天へと駆け上る。
 何をすると振り向いた俺の視線は、2ミリに細まった佐々木の眼光に打ち返されて戻ってきた。
 若干後退って動悸息切れを抑え込み、今一度左右首振りで状況を確認。

「……悪いな、二人とも。今日は、いや今日も佐々木と約束してるんだ。うん。だからその勝負を受けることは出来ないのさ」
 非常に心苦しいが、佐々木とは事前の約束であり、妹やミヨキチとはそれがない。だから論理的に考えて妥当な結論を、謝罪会見を開く社長のような面持ちで二人に告げる。
「そうなんだ」
 妹は満面の笑みでそれを受け止める。何故だ?
「じゃあ今日もお勉強なんだね」
 嘘をつくべきか、刹那思考する。
 その俺の顔を妹はジッと覗きこんでいた。
「実はね、今日はキョンと2人で遊ぶ約束をしていたのよ。何をするのかは、まだ聞いてないのだけれど」
 思わぬところからフォローが入った。佐々木だ。でもあれ? 『何をするか』は言ったよな?
「受験の合間にも息抜きが必要だと、誘われるままにここへ来てしまったの。キョン、そこで提案なんだけど」
 ニコリと微笑み、佐々木が言った。

「どうせだから、その勝負とやらを受けようじゃないか」
「え?」
 意外すぎる申し出に、俺はビックリして硬直する。
「せっかくの申し出だしね。これまでなんだかんだとキミの妹と顔を合わせることはあっても、一緒に遊んだことはなかった。それにミヨキチちゃんまでいるしね。きっと皆で遊んでも楽しくなると思う。それに」
 弦月型に唇を曲げて、
「“勝負”という響きには抗いがたい魅力を感じるんだよ、キョン」
 佐々木はそんなことを言った。細めた瞳からは真意を読み取ることが出来ない。
「……まぁ、お前がいいって言うんなら……」
「お、キョンくんノリ気になったね!? じゃあさっそく部屋にイドウだよ!!」
 俺が断言する前に妹はミヨキチの手を取って走り出した。
「あ」とか「わ」などの単音節を残しつつ、ポニーテールの美少女が階上へと駆けてゆく。うむ、何かこう微笑ましいというか是非うちの妹になって欲しい――

「キョンっ」
 耳元の声に驚き仰け反ると、満面の笑みなのに目が笑っていないという不可思議な表情で佐々木が俺を見ていた。
「上がらないのかい? もう彼女達はやる気満々のようだよ」
「あ、ああ。もちろん上がるさ」
 おっかなびっくりで俺は靴を脱ぎ、廊下に上る。
 佐々木も後に続き、振り向きしゃがんで靴をたたきに揃えていた。何となく座りが悪いので俺も同じようにしゃがんで靴を並べる。隣で佐々木が笑みを浮かべたようだったが、俺は気付かない振りをした。
 ……さて。
 何を思いつきやがったんだ? あいつは。

 俺たちが部屋に入った途端、
「では第一回、キョンくん杯スマブラ大会を始めます!!」
 妹がそんな宣言をした。
 俺はその頭を掴み、
「なぁ、何をおっぱじめる気だ?」
 と優しく語り掛けて左右に揺さぶる。
「うぁー、うぁー」
 意味のない声を上げて笑顔で揺さぶられる妹。

「あのねあのね、キョンくん最近遊んでくれないからね? 色々考えたのあたし」
「下手な考え休むに似たりって言葉を知ってるか? 知らなかったら――」
「そんなに切って捨てることないじゃないかキョン」
 軽く背中を叩かれる。
「それで? どんなルールで決着を付けるの?」
「スマブラはねぇ~~なんと! 4人対戦ができるんだよっ!? だからいっせーのでゲームして、勝った人が明日キョンくんとデートするの!」
「ちょ、ちょっとデートなんて……」
 あっけらかんと言い放つ妹。そして慌ててその肩を引くミヨキチ。

「あっそうか。ゴメンね言い間違い! 『2人でお出かけ』なんだよキョンくん!」
「その言い直しに意味はあるのかオイ」
 無粋を承知でツッコミを入れる俺。そして動揺著しいミヨキチに焦点を合わせる。
 ……ビックリするほど赤面していた。
「モテモテだね? キョン」
「うるせ」
 肩口から掛かる笑い含みの声に、俺は短く言い返す。
 そりゃまぁ確かに? ミヨキチは大人の香り漂わせる美少女だし並んで出歩いたら注目の的となり妬視の矢が集まることだろう。だけど彼女は妹の同級生であり、まだ小学生なのだ。

「……まぁ、お出かけ、ね」
「可愛らしい思い付きじゃないか、キョン」
 そう言ってまた満面の笑みを浮かべる佐々木。
「だけど私はそのゲームをやったことがないの。勝負の前に少しだけ、練習させてもらえないかな?」
「うん、いいよ!」
 そのまま妹に話しかけ、幼い発案者が大きく首肯する。
「十回くらい練習したら勝負はじめよ? そだなー、本番は五回くらいで!」
 なんともアバウトな大会規定だなオイ。
 とかなんとか呆れつつも、購入者である俺がこのゲームを嫌いなはずもない訳で。やれやれと肩を竦めると佐々木の横に腰を下ろした。

「お兄さんは見学です」
「え? なんで?」
「持ち主だから、『練習なしでいきなり本番』というハンデです」
「え、……まぁ、いいけど」
「それでもし宜しければ、私のプレイを見て改善点などをアドバイスしてください」
「おお? ミヨちゃん積極的~!」
「それはそれでハンデのような気がするわミヨキチちゃん。キョン、僕にもアドバイスをくれよ? なにせ正真正銘の初心者なんだからね」
「解ってるよ。平等になるようにすればいいんだろ?」
「おお! 『ビョウドウにマンゾクさせれば3人いっしょに相手できる』ということですなキョンくん?」
「……お前は何を言ってるんだ」
 そんなことを言いながら、練習が始まった。
 意外だったのは佐々木のゲーム適性が高かったことだ。緒戦はむろん惨敗だったが表情一つ変えず、にこやかな笑顔のまま説明書を速読し、一戦ごとに飛躍的な上達を見せていた。いや、ほんと驚くほどに。

『勝った人が明日キョンくんとデートするの!』
 妹の宣言がふと脳裏を過る。

 もし、相手が佐々木になったら?
 それでもし今日の塾の帰りみたいに、知り合いの誰かにそれを見られたら?
 土日連続で『2人で遊ぶ』俺たちをどう見て、どんな噂が立つことだろう。
 気が付けばミヨキチもみるみる腕を上げている。俺のアドバイスを瞬時に咀嚼し、反映させる理解―実行力は相当なものだった。
 それでも、佐々木の上達の方が速い。どんどん2人の実力は拮抗してゆく。

 もしミヨキチが勝ったら?
 いや別に出かけるのは嫌ではない。男どもが発する羨望の眼差しも心地よく感じられるかもしれん。
 でもなんだろう、友人の誰かにもし出会った時、それがひどく厄介な何かを誘発する危い予感がするのは? 紹介してくれ? 別に構わんさ。
 馴れ馴れしく触ろうとしたら? そこは颯爽と庇ってやるだけの事。でもなぁ、なんか指摘されたくない何かを笑いながら言われそうな……。
 あ、妹? 笑いながら負けてるようじゃ話にならんね。

 そうしてアドバイスを飛ばしながらも色々考えを巡らせて、しかし結論は降りても湧き出しても来てくれないままに。
 俺も参加しての、本番勝負が始まった。

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最終更新:2012年03月11日 22:40
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