69-94『浸食』1

「すまない、キョン。どうしても着いてきたいと聞かなくてね……」
佐々木に、しっかりとしがみついた周防。そ、そうしているとまるで母親だな。
「処女受胎かい?僕はマリアさまじゃないよ。」
「ほう。」
俺の頷きに、顔を赤く染めた佐々木の蹴りが入る。
「こんな時に、リビドーを出してどうする?全く余裕だな、君は!」
す、すまん。やはりどんな状況でも、余裕を持たんと具合が悪い。コチコチに凝り固まっていたら、やはり疲れるからな。
「…………むう。確かに納得はいくが…………。だが、こんな状況なんだ。緊迫感はあって然るべきだろう。」
尤もだ。俺はハルヒの超常現象に慣れすぎているんだろうな。実際にこうなると、なるようにしかならん。……そこが、間違いなのかも知れんが。
「――綺麗――な――瞳――――」
周防が俺に手を伸ばす。何をするつもりだろう。
「――ちょうだ――――い」
俺が慌てて手を払った事は、言うまでもないな?やはり緊迫感は必要だ!

――――――――――――――――――
「でも、キョンが佐々木さんと、ねぇ。」
帰り道。私はみくるちゃんと帰っていた。
「意外、ですよね。私は、キョンくんは涼宮さんが好きだとばかり……」
みくるちゃんは、下を見る。大丈夫よ、みくるちゃん。私は気にしてないから。

キョンは、約束を破らない。誰と結ばれていようが、キョンは私と『どんな形でも』一生付き合うだろう。夕日に約束をした、あの日。キョンは、私に、『私の前からいなくならない』と約束をした。
それは、例え私とキョンが結ばれなくても、変わる事はない。
孤独の辛さ。私は、キョンと出会う前にとことんまで味わっている。だから。キョンがどんな形でも、私の前からいなくならないなら。私はそれでいい。
そう考えていたし、今も変わらない。

ただ、佐々木さんが、キョンを要らないというなら、話は別。私は容赦せずに頂く。
振り向かないなら、力づくで振り向かせ、私のものになるまで愛を囁いてやる。


だって、要らないんなら、あたしがもらっても構わない、って事でしょ?ねぇ?

佐々木さんは、自分を灰被りと言っていた。
なら、私はSleeping Beauty。
王子様は、ガラスの靴を持っているけど、ガラスの靴が毒林檎に化けたところで、何もおかしくはない。
佐々木さんが、自分は灰被りだと伝言してきた時、有希が言っていた。

『灰被りは躍り疲れて、ガラスの靴を砕く。』

あたしは…ただ……

幸せになりたくて。

それだけなのに。

みくるちゃんと別れて、大通りに出て、駅前に出る。
そこにいたのは……佐々木さんと、キョンと、周防さん。

足が前に出ない。代わりにどす黒い感情が噴き出す。

キョン。こっちを見なさい。命令よ。

こっちを見て。聞かないと酷いわよ。

こっちを見て。お願いだから。

私を見て!

――――――――――――――――
「で、だ。俺としては、やはりハルヒと向かい合うのがベストだと思う。」
「いきなり本丸に入るのかい?それよりは、やはり外堀から埋めなくては、涼宮さんも納得しないのではないか?」
――――――――――――――――

当たり前だけど、キョンは私を見ない。
泣き出しそうになり、走り出そうとした時……

「涼宮先輩!」

私は、誰かに呼び止められた。
その声に、三人が振り返る。

「渡橋……」

キョンの声が、やけに遠く響いた。

To Be Continued 『浸食』2

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最終更新:2013年03月03日 03:32
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