70-165『The time of the oath』2

夕闇の中を渡橋は歩いていた。公園に差し掛かり、ベンチに座る。
「…………いるんでしょ?あんた。」
背後を振り向かず、告げる。その口調は普段と違いがらっぱちなものである。
「ああ。気付いていたのか?」
背後から声がする。
「何年一緒にいたと思ってるのよ。」
「まぁな。」
渡橋は溜め息をつき、首を振る。
「子どもってこんなもんかしらね。あたし、もう少し自分が大人だと思ってたわ。」
「そりゃそうだろ。俺だって同じさ。」
影が笑う。
「あんたは、いつもあたしの側にいてくれる。」
渡橋は、決して後ろを振り返らない。
「お前の贈り物、受け取ったぜ。回りくどいんだよ、バカが。」
「ふふっ。」
影から手が伸びる。手は渡橋の肩を抱いた。渡橋は愛しそうに手を頬に持って行く。
「俺はこの時を全く覚えちゃいねぇ。でも……お前の心に染みが一つ残っていることだけは分かっている。」
「ええ。……あんたも、みくるちゃんも、有希も……あたしの自己満足に巻き込んで本当に悪いと思っているわ。」
「お前が勝手なのは、今に始まった事じゃねぇよ。」
影の手が、優しく渡橋の髪を撫でた。
「お前は、ヤツらの側にいてやれ。俺は俺で、少しやる事がある。」
「何をやるの?」
「み……朝比奈さんを説得すんのさ。あの人は優し過ぎる人だからな。お前が泣く姿なんて、どの世界線でも見たくないんだと。
その為に、被らなくていい泥までかぶっちまう。
ま、その前に会わなきゃいけないヤツがいるが、会いたくねぇなぁ……。多分ブン殴られるだろうし。」
影の心底嫌そうな声に、渡橋は吹き出した。
「多分、こうしてあたし達が話すの、これが最初で最期よね。」
「……そうだな。」
渡橋は、頬の手を離す。

「ありがとう。そしてごめんなさい。愛しているわ、あたしの――――」


「どのツラさげて来やがりましたか?親友。」
グーで二、三発影を殴ったあと、悪意120%の視線を投げかけながら藤原が影を見る。
「悪い悪い。お茶をTPDDにこぼしちまってな。」
「嘘つけ!……ったく。」
藤原は影にお茶を出す。何だかんだといって来訪が嬉しいようだ。
「一応の確認だが、お前は佐々木を覚えてはいないんだよな?」
「写真も見たが、さっぱりだ。」
お茶を啜る。みくるの入れたお茶のほうが美味しいなどと宣い、影は再度殴られたが。
「つまりは、お前は記憶を封じられた後のお前か。」
「どうだろうな。もしかすると、その佐々木とやらが存在しない世界線かも知れんし。そこは神のみぞ知るってヤツだな。」
「とんだ我が儘女神に愛されたもんだな、親友。」
影が肩をすくめる。
「お前の行動は、あの女神の願いか?」
「……どうなんだろうな。多分違うと思うぜ。お前もあいつの性格は知ってるだろ。
あいつが本気で願ったんなら、俺は佐々木とやらを思い出しているはずだ。
それをせずに、こうした回りくどいメッセージを残すという事は、あいつは願いを叶えて欲しいよりは、助けて欲しいという事だろ。」
「むう……。流石は長年連れ添っただけはある、か。」
影はお茶を飲む。藤原は急須からお茶を注いだ。
「問題は姉さんか。」
「だよな。……何故こんなに怒るのか、意味がわからん。」
……みくるがこの場にいない事は、二人にとって幸運だった。

女神の願いにより時を越えた存在と、女神の願いにより生き長らえた存在。そのふたつの恩義。
みくるが何故佐々木に辛く当たるか。理由はそれだ。
どんな理由があるにせよ、影達の行動は『裏切り行為』以外何物でもない。

そして。影達が思い付かない、もうひとつの理由。
それは――――

To Be Continued 『The time of the oath』3

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最終更新:2013年04月29日 13:33
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